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第五十八話  センテル帝国御一行様2

 久しぶりに、東郷にまともな出番がやって来た。

 暁帝国  東京



 佐世保から始まった使節団の暁帝国巡りは、終盤へ差し掛かっていた。

「此処が・・・」

 スマウグは、東郷の自宅兼政府中枢を見て呟く。

「此方へ」

 吉田を先頭に、使節団は内部へ入る。

 入ると、何重もの防御網が張り巡らされていた。

「シモン殿、我が軍でこの施設を制圧出来るか?」

 スマウグは、シモンに問う。

「未知の装備がいくつもあるので、ハッキリとは言えません。しかし、少なくとも苦戦は免れないでしょう。此処を制圧するだけで、師団規模の兵員を要すると考えた方が良いかと。」

 栄えあるセンテル帝国が、たかだか一施設を制圧する為だけに師団規模の兵力が必要となる程の設備を保有する暁帝国。

(クッ・・・何故、我が国がこうも後れを取っているのだ!?)

 スマウグは、屈辱に塗れた。


 その後、食事会が開かれた。

「美味いな・・・」

 自国を大きく引き離す味の良さに、悔しがりつつも舌鼓を打つ。

 そうこうしていると、一人の少年が吉田と共にやって来た。

「失礼。貴方が、スマウグ殿ですね?」

「そうだが、貴殿は?」

「暁帝国総帥 東郷 武尊 です。」

「総帥と言うと、元首の事でしたか。」

「その通りです。」

(こんな若造が一国の元首とは、どうなっているのだ!?)

 当然の反応である。

「これはこれは、元首殿自らお出迎え戴けるとは光栄ですな。」

 若造が相手とは言え、国益を第一に考えるスマウグは丁寧な対応をする。

「此方も、世界一の大国とお付き合い出来て光栄です。」

 大国と言う単語に眉をひそめたが、卒無い会話を続けた。


 その後、会談が始まった。

 会談内容は、

 一  同盟について

 二  世界会議について

 三  東部地域について

 である。


 スマウグが、話し出す。

「我が国は、貴国との同盟関係の構築を希求します。」

「それは、願っても無い事です。」

(それにしても、<希求>とはな・・・)

 東郷は、センテル帝国の意気込みの強さを感じた。

 と言うよりは、大帝の意気込みの強さである。

 スマウグとしては、この様に自分から強く求める様な真似はしたくないと言うのが本音であった。

「しかし、それで貴国は纏まるのですか?」

 吉田は、疑問を呈する。

 センテル帝国にも、多数の同盟国が存在する。

 しかし、それ等は全て相手国から申し出て来た結果である。

 飛び抜けた力を持つが故に、貿易相手国は必要としているが、同盟国を必要とした事が無かったのである。

 それだけに、自ら同盟を求めに行くと言う姿勢に不満の声が後を絶たなかった。

 吉田は、その事を正確に予測していた。

「貴国との同盟は、大帝が強く求めております。大帝の御意向ともなれば、不満を持っていようとも、それを表に出す事は有り得ませぬ。」

「なるほど。」

 吉田は、引き下がる。

「しかし、同時に貴国の力が如何程の物なのかを知りたがっております。貴国が優れた技術を持っている事はよく分かりましたが、我々にはよく理解出来ない物も多数存在します。」

 ある程度情報を集めているとは言え、特に軍事力に関しては不明な部分が多かった。

 不満を溜め込んでいる一派を黙らせる為にも、暁帝国の正確な力を知っておきたかったのである。

「分かりました。それでは、見て戴きたい物があります。」

 東郷は、スクリーンの準備を始めさせる。

 軍事力について詳しい説明を求められた時の為に準備しておいた軍に関する動画が、漸く役に立つ時が来たのである。

 使節団には、情報部への出向と言う形で武官も同行している。

「こ、これは・・・!?」

 陸軍の映像が流され、陸軍武官が絶句する。

「な・・・に・・・!?」

 海軍の映像が流され、海軍武官も絶句する。

「く、空軍だと!?」

 第三の軍の存在に、全員が大きな衝撃を受ける。

 何もかもが桁違いであり、改めて優位性の無さを思い知らされる。

 そして、何よりも魔術を一切使っていない事に驚愕した。

「魔術無しで、これ程の物が・・・」

「何と言う事だ・・・」

 この瞬間、センテル帝国が実質的に世界第二位へと転落した事が明らかとなった。

(この国は、危険だ。絶対に敵に回してはならない。)

 誰もがそう思った。

 だが、それだけでは終わらない。

「い、異世界!?」

 最後に出て来た情報は、暁帝国が異世界から転移して来たと言う衝撃的どころでは無い情報であった。

「以上になります。」

「う、ううむ・・・貴国とは、早急に同盟を組む必要があるでしょう。」

 スマウグは、動揺したまま答える。

 しかし、主導権を取られたままにしておく事も無い。

「そこで、一つ提案・・・と言うより相談なのですが。」

「何ですか?」

「貴国の技術を供与しては頂けませぬか?」

「・・・はい?」

 今度は、暁帝国側が度肝を抜かれた。

 世界最強としての自負を持つセンテル帝国の人間(竜人)が、自ら頭を下げる様な真似をするとは思っていなかったのである。

 しかし、だからと言って受け入れるかどうかは別問題である。

「スマウグ殿、御説明した通り我が国の技術は、魔術由来ではありません。失礼ながら、貴国には荷が重いのでは無いかと思われます。更に、安易な技術供与は危険な行為でもあります。供与によって、我が国にどの様なメリットがあるのでしょう?」

 吉田が問う。

「尤もな意見ですな。いきなり技術を寄越せと言われて応じられる筈はありませぬ。」

 スマウグも、いきなり要求して応じて貰えるとは思っていない。

 狙いは、別にあった。

「対価として、貿易に於ける貴国製品の優先権、西部地域諸国への仲介、セイキュリー大陸への牽制を行います。勿論、技術供与を受ける時に相応の代金を支払う用意もあります。」

「自分で言うのも何ですが、我が国の技術は比類無き物です。此処で前例を作ってしまっては、我が国の技術を巡っての紛争が発生しかねません。」

 優れた技術を独占的に入手しようとする勢力は、非常に多い筈である。

 それは、センテル帝国が最も恐れる事態を引き起こしかねない。

「ううむ、それもそうですな・・・では、貴国の装備を輸出しては頂けませぬか?最新とは言わずとも、余った旧式の装備でも構いませぬ。」

 技術供与よりも圧倒的にリスクが低く、センテル帝国に対して確実に影響力を持てる方法である。

(総帥、どうしますか?)

 吉田は、東郷へ耳打ちする。

「・・・分かりました。同意しましょう。」

 スマウグは、内心ほくそ笑んだ。

 相手が受け入れられない過大な要求を突き付け、その後に譲歩した様に見せ掛けて本来の要求を提示する。

 よくある手法である。

 その後、細部を突き詰めた結果、輸出以外にも兵器開発に関するアドバイスを行う事が決定した。

「では、次に世界会議についてですね。」

「次回の世界会議は、一年半後となります。現在、貴国は世界から準列強国として認識されつつあると思われます。ですが、我が国は世界会議の場で貴国を列強国として認定したいと思います。」

 それは、現在の五大列強国から六大列強国への転換を図ると言う事である。

 世界の有り様を大きく変えかねない決断であり大帝でさえも大きな不安を抱いているが、これまで目にして来た暁帝国の実情から準列強国で留めてはならないとの判断が下された。

 世界会議については、いくつかの質問をしただけで終わり、次へ移る。

「東部地域は、以前から非常に不安定でしてな。いつ、世界大戦へ発展するかも分からぬ程で手を焼いているのです。」

「我が国は、既に貴国との取り決めに従い、セイルモン諸島へ不干渉の姿勢でいます。」

 暁帝国は不干渉だが、セイキュリー大陸が暁勢力圏への圧力を加えている現状がある以上、安定化には程遠くなっている。

 センテル帝国は、この新たな構図を憂慮していた。

「貴国が不干渉でいる事は、我が国も把握しております。しかし、それで全てが解決している訳では無い。」

「では、どうしろと?交渉で解決出来るならば、それに越した事はありません。しかし、現状では不可能でしょう。」

 セイキュリー大陸の強硬な姿勢から、交渉以前に人員の派遣自体が危険極まりないと判断されている。

 最悪の場合、外交官が惨殺されかねないと考えているのである。

「世界会議で、共同で牽制をすべきと考えております。これまでは抑え切れずにおりましたが、東西から挟まれては大人しくせざるを得んでしょう。」

 列強国に名を連ねている以上、そこで暴走する程馬鹿では無いだろうと考えての事である。

 実際、これまでもセンテル帝国の本格介入を招く事態だけは回避して来ている。

「そうですね、分かりました。世界会議で共同で牽制する事にしましょう。可能なら、アルーシ連邦も巻き込みたいと思います。」

 既に、暁勢力圏の影響下に入っている国である。

 暁帝国としては、此処で巻き込んでおきたかった。

「アルーシ連邦ですか・・・」

 センテル帝国としては、これまでの東部地域不安定化の一因の参入を、諸手を挙げて歓迎出来なかった。

「現状では、何とも言えませぬ。今後も、協議の必要がありそうですな。」

 此処で、全ての議題が終了した。

「非常に有意義な時間でした。貴国との関係構築は、我が国の発展にも、平和維持の為にも重要でしょう。」

「それは、此方にとっても同じですな。今後ともよろしく頼みますぞ。」

 和やかな雰囲気の中、会談は終了した。


「あー、緊張したー・・・」

 東郷が外交の場に出たのは、ビンルギー公国以来である。

「これで、我が国が甘く見られる事は少なくなるでしょうな。」

 吉田は、淡々とこの後の展開を予想する。

「何にしても、次は世界会議だ。」

「後、一年半しかありませんからな。急がなければ・・・」




 ・・・ ・・・ ・・・




 佐世保沖



 出港した使節団は、お通夜の様な雰囲気であった。

 センテル帝国は、世界最強では無かった。

 今後、世界の主導権を握るのは、暁帝国となるであろう。

 誰もがそう思っていた。

「シモン殿、これからが大変ですぞ。」

「そうですな、スマウグ殿。差し当たっては、どの様にしてお偉方に報告するかが問題ですな。」

「今から気が重いな・・・」

 ある意味、暁帝国と直接相対するよりも厄介な仕事である。

「これから、世界は何処へ向かうのでしょうな・・・」

 シモンは、先の展開に漠然とした不安を感じる。

(暁帝国が齎すのは、繁栄か戦乱か・・・)



 また、少し間が空きます。

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