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第五十四話  ハーベストの近代国家

 今回は、顔合わせ的な話です。

 センテル帝国  港町 ベス



 センテル帝国の東側の玄関口の一つであるこの町は、大騒ぎとなっていた。

 この街の港を母港とする第一地方艦隊が、見慣れない魔導船を大量に引き連れて帰って来たのである。

 主要都市と比較すれば小さな町だが、それでも人口は1万を超える。

 それだけの町民達が一斉に騒ぎ出せば、手の付けられない事態にまで発展するのは想像に難くない。

 あちらこちらから怒号が聞こえ、使節団は上陸を翌日に延期する事となった。


 翌日、


「大変失礼を致しました!」

 上陸を果たした使節団に対するシモンの第一声がそれであった。

 ちなみに、使節団代表は吉田である。

「いえ、お構い無く。」

 時間を一日無駄にしてしまった事で、吉田としては謝罪よりも迅速な案内に努めて欲しいのが本音である。

 その間にも、方々から奇異の目で見られていた。

「あれが、通告されてた暁帝国か。」

「辺境の未開国じゃぁ無かったのか。」

「おい、どうだ?」

「本当に魔力を感じないぞ!あの噂は本当だったのか・・・」

 一方、武官達は質問攻めにあっていた。

「落ち着いて下さい!機密事項に抵触する質問にはお答え出来ません!」

 ひと悶着ありつつも、何とか町を出発した。


(クッ、腰に響く・・・)

 センテル帝国は、車を実用化している。

 ただし、普及し始めてから間も無い事もあり、数は多くない。

 更に、性能も暁帝国の物より悪く、酷い揺れのせいで吉田の体に大きな負担を掛けていた。

(うーむ、特に驚く様子も無く自動車に乗ったな・・・明らかに慣れている。)

 情報収集が目的のシモンは、使節団の一挙手一投足を見逃すまいと必死であった。

 それは、吉田も同じである。

「シモン殿、貴国は立派な戦艦をお持ちの様ですな?」

「はい?・・・え、ええ。あれは、我が海軍の二等戦艦 サファイア です。30.5センチ連装砲を装備しており、近代的な装甲艦の基本形を確立した記念すべき艦です。」

「二等戦艦?」

「はい。戦艦の中でも二線級の艦は、二等戦艦に分類されます。サファイア級は8000トン級ですが、一線級は1万5000トン級が大半を占めます。」

「そうですか。ちなみに、保有数は何隻程になりますか?」

「二等戦艦は、サファイア級6隻のみです。少し前までは15隻ありましたが、一等戦艦の増勢とサファイア級以前の艦が旧式過ぎた事もあり、全て退役させました。」


 センテル帝国の軍艦は、戦列艦へ装甲を施す所から独自の発展を始めた。

 推進方式も帆からスクリューへ変わり、魔導砲も陸軍の流用から独自の物を開発、搭載を推し進めた。

 更に優位に立つ為に装甲を厚くして行く事となったが、戦列艦と同じ配置では重心が上がり過ぎる為、砲塔と大口径砲が開発された。

 また、砲塔の開発は一隻当たりの搭載数の大幅な減少へ繋がった事から、射撃精度の向上にも血道を挙げる事となった。

 順調に戦力強化されて行った訳だが、これまでに無い方式を採用した事もあり、技術的にも戦術的にも試行錯誤を繰り返した。

 かつて有力であったのは、前攻艦思想である。

 常に艦首を敵へ向ける方式であり、主砲を前部へ集中させている事が外見的な特徴となる。

 最終的には、衝角による体当たりを行い、切り込みを行うとされていた。

 地球では、日清戦争で北洋水師が実行しようとした事で有名である。

 センテル艦も、定遠級に類似した艦が建造されていた。

 しかし、その流れを一気に覆したのがサファイア級である。

 設計者は、「長射程のアドバンテージを自ら捨てて、被害を増すリスクを負うのは馬鹿げている。」と考え、前後に主砲、舷側に副砲と速射砲を配置する方式を編み出した。

 この方式は、あらゆる軍関係者に大きな衝撃を与え、戦艦としては多い6隻の同型艦が建造される程であった。

 以降の艦も、基本はサファイア級と同一である。

 更に、巡洋艦も同様の方式を採用するに至る。

 サファイア級以前の艦は、暫くの間は二等戦艦として現役に留まったものの、後継艦の数が揃い出すと同時に順次退役して行き、サファイア級も1万2千トン級以上の艦が充分に揃った事で二等戦艦へ類別変更された。


「一等戦艦は18隻が就役しており、現在も建造中の艦が複数あります。最終的には、30隻にもなるのでは無いかと噂されております。」

 シモンは、自慢気に語る。

(戦艦だけでこれだけの数とはな。総数はどれ程なのやら・・・)

 敗けるとは思えないが、予想される物量を考えると弾薬消費量が恐ろしい事となる。

 しかも、これまでの様な砲撃戦でのワンサイドゲームは間違い無く通用しない。

「いやぁ、流石は世界一の列強国ですな。それ程の戦力を揃えているとは、恐ろしくて手が出せませんな。」

 取って付けた様な世辞だが、情報部総監の座にあるシモンには全く通用しなかった。

(明らかに上辺だけの言葉だ。我が国の実態を知った連中は、どれ程傲慢だろうと最終的には恐怖して此方にすり寄って来る。だが、どう見ても此方よりも自分の方が上だと考えている様にしか見えない。)

「ハハハ、我が海軍よりも巨大な艦を建造している貴国程ではありませんよ。宜しければ、貴軍についてもお教え願いませんか?」

 表向きは友好的に接しつつも、吉田の余裕ある様子から暁帝国の実態を聞き出そうと必死になる。

「そうですなぁ・・・では、まずは戦艦について。」

「!!」

(暁帝国にも戦艦があるのか!?なら、何故あの様な豆鉄砲の艦ばかりを派遣した!?)

 地球では、航空機が主力となる以前は、戦艦は国力の象徴であった。

 核兵器にも等しい影響力を持っており、その主砲はその国の軍事力の指標と言って良かった。

 センテル帝国も同様の感覚を持っており、小口径の単装砲しか装備しない艦を寄越すなど、馬鹿にされているとしか思えなかった。

「我が国には、戦艦は4隻しかありません。国防上、容易には動かせません。」

 実際には大した影響は無いのだが、シモンの憤りを察した吉田はそう言って誤魔化した。

 戦艦を動かさなかったのは、単に燃費の問題である。

(4隻だけだと?戦艦を多数建造する余裕が無いだけか?それとも、他に何か決定打を持ってるのか?)

「我が国の戦艦は、大和級です。排水量は6万2000トンにもなり、主砲は46センチ三連装砲が三基になります。」

「え・・・」

 驚きのあまり、シモンはまともにリアクションすら取れなかった。

(タダの欺瞞・・・だよな?いや、だが・・・欺瞞にしても荒唐無稽過ぎる。まさか、本当に・・・?)

 現実離れし過ぎた内容に翻弄され、その後は沈黙が続いた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



 吉田達が車の揺れに悩まされている頃、東郷は佐藤からの報告を聞いていた。

「インシエント大陸の遺跡ですが、文献の一部の解読が出来ました。」

「何が書いてあった?」

「[メイジャーは、ハーベストの管理者]と。更に、家畜の飼育に全力を挙げていたらしい記録も散見されました。」

「家畜?」

 東郷は、全く意味が分からなかった。

「近代文明を持ちながら、牧畜に力を入れてたのか?」

「不明ですが、あの遺跡がメイジャーに関連した物である事は間違い無さそうです。」

(やっと、尻尾を掴んだ感じだな。)

 ‘自称‘神に提供された情報が、漸く役に立った。

 メイジャーに関する情報は、何としてでも手に入れたい物である。

「引き続き調査を進めてくれ。」

「出来れば、予算と人員を」

「OK」

「此方にもう少し・・・え?」

「予算と人員を回す。」

 あまりにもあっさりと承認されてしまい、流石の佐藤も呆然とした。

 東郷は、この世界へ転移した目的を忘れてはいない。

 メイジャーは、依頼内容と関係している事が間違い無い以上、最優先でやるべき事と判断したに過ぎない。

「なるべく早く調査を済ませてくれ。」

「・・・分かりました。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  セントレル



 使節団一行は、首都へ入った。

 流石に、準列強国を打ち倒した国家の使節を相手にするだけあり、相応の出迎えをされていた。

 道の左右には衛兵が等間隔で並び、周囲を騎兵が行進して警護を務める。

「ほう・・」

 吉田は、思わず声を上げる。

 使節団の車列の周囲には、高さ数十メートルのビルが軒を連ねていた。

 そのまま進むと、一際巨大な建造物が目に入る。

「あの建物が、皇城となります。」

 シモンが補足する。

 皇城前に到着して車を降りると、何人かの老人が並んで出迎えた。

「ようこそお越し下された。此処からは、我々が御案内しましょう。」

 外交部の面々である。

 幹部達が一斉に首になった事もあり、既に引退した元幹部達を臨時に招集していたのである。

「それでは、私はこれで。」

 シモンは、此処で使節団と別れた。



 情報部



 大役を果たしたシモンは、自分の席に着くなり大きく息を吐く。

「あーーー死ぬかと思った・・・」

 多大なストレスで本当に死にかねなかった者の言葉は、周囲にいる者を戦慄させた。

「総監、滅多な事を言わないで下さい。」

 近付いて来たた秘書は、そう言ってお茶を入れる。

 その後暫く雑談していたが、落ち着いた頃に本題へ入った。

「あの国は危険だな。絶対に敵対してはならん。」

「一体、何が?」

 シモンは、直接見聞きした事を伝えた。

「本当に魔力を持たないなんて・・・それで、どうやってそんなに高度な物を作り出せるのですか?」

「全く分からん。何にしても、我々は情報を集めるだけだ。出来る事なら、此方から使節を派遣して直接国力を見定めたいものだな。」

 幸運にも、後にその方針がロズウェルドの元で決定される事となる。



外交部



「フゥ・・・」

 使節団との会談と言う大役を終えた外交官達は、椅子に深く腰掛けた。

「何とも手強い相手でしたなぁ。」

「いや、全く。しかし、本当に魔術が扱えんとは、驚きましたね。」

「もし私等が招集されなかったら、どうなっていた事やら・・・」

 老人達は、外交部の未来を憂慮する。

 その後、老骨に鞭打って外交部の叩き直しに奔走する事となる。


 使節団は、セントレルの高級ホテルにいた。

「世界最強の称号に胡坐をかいてると思いきや、かなり手強かったな・・・」

 吉田は、そう言って相手を称賛した。


 会談の結果、以下の様に纏まった。

 一  暁帝国とセンテル帝国は、対等な国交を結ぶ。

 二  次回の世界会議に於いて、暁帝国の出席を認める。

 三  センテル帝国は、暁勢力圏を承認する。

 四  暁帝国は、セイルモン諸島に関する緊張状態に対し、自国籍の船舶、或いは自国勢力圏及び自国勢力圏の船舶への攻撃を受けない限り、不干渉を宣言する。


 一と二は、スムーズに同意に至った。

 三は、一連の戦争に関する正当性を突かれたが、全て相手国から攻撃を仕掛けて来た防衛戦であり、その事はセンテル側も把握していた為、何とか承認の流れとなった。

 四は、激しい攻防戦が展開された。

 暁帝国は、自身の影響下での安定化を望んでいる。

 センテル帝国は、暁帝国の干渉によって一時的にでも情勢が不安定化する恐れがあるとして、現状維持を望んでいた。

 両国は、平和主義を是としている点で共通の認識を持っている。

 暁帝国は、セイルモン諸島の分断された現状は平和的とは言えないと主張し、センテル帝国は、不用意な干渉は東部地域に限らず世界を巻き込む事となりかねないと主張した。

 諸島が分断された結果として緊張が助長された背景がある一方、有数の強国同士のぶつかり合いが世界大戦を招いた前例もある。

 どちらの主張も正しく、折り合いを付ける必要性が生じた。

 その結果、四の様に纏まったのである。


「センテル帝国は、世界大戦の再燃を極度に恐れている事がよく分かった。それだけでも収穫と言えるだろうな。」

「まぁ、直接戦っていない国すら経済的に追い詰められて崩壊したそうですからね。恐れるのも分かります。」

 圧勝したセンテル帝国ですら、経済的打撃からは逃れられなかった。

 地球の世界恐慌よりはマシではあったが、どちらにしても無視出来る規模では無かったのである。

 そして、戦後も尾を引いた。

 ズタズタになったシーレーンの復興にはそれなりに時間を要し、戦争による災禍は直接的な犠牲や略奪だけでは無い事を身を以て思い知らされた。

 その結果、「戦争は、割に合わない。」と言う認識を国民レベルで共有した唯一の国家となったのである。

「何にしろ、この国と関係を持てば相当な利益になるな。それに、近代文明を持っている以上、我が国の技術を見れば我が国が主導権を握り易くなる。」

 吉田は、既に次のステップを見据えていた。


 暁帝国とセンテル帝国が会談を行った事は、すぐに世界中を駆け巡った。

 新進気鋭の新興国と世界最強の列強国が接触した事は、大きな衝撃を与えるに十分であった。

 これまでは警戒して情報収集に明け暮ればかりであったが、野心溢れる国家は早速暁帝国に対して接触を始める。



 ちょっと省略し過ぎた気がする。

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