第五十二話 注目される暁帝国
間話的な話が一番苦手です。
イウリシア大陸
暁帝国はアルーシ連邦の仲介により、この大陸の全ての国家と同盟関係を結ぶ事に成功した。
元々、アルーシ連邦はピルシー帝国以外とは友好関係を保っており、大した苦労は無かった。
しかし、肥沃な土地が少ないこの大陸では、小国は自国の維持すら困難と言う有様であり、アルーシ連邦とセイルモン諸島を介した貿易が無ければ、忽ち息の根が止まってしまう程に不安定な状態となっている。
クローネル帝国を相手にした貿易がストップした事で、各国はかなり危険な状態に陥っていたのである。
この様な事情もあり、暁帝国に対して支援を要請する国が殺到した。
暁帝国は、インシエント大陸連合と共に大量の食糧を安値で輸出する事を約束した。
しかし、大量の物資を迅速に輸送出来る手段が存在しない事が問題となった。
そこで暁帝国は、イウリシア大陸に大量に埋蔵されている各種資源に目を付けた。
資源を格安で輸入する代償として、インフラを輸出しようと言う訳である。
更に、アルーシ連邦と同じく技術供与も開始した。
これは、貿易での事故に対して責任を負う立場となったアルーシ連邦が、その責任を分散させる為に提案した事である。
暁帝国としても、技術供与による周辺国との摩擦を避けたい事もあり、同意した。
各国は、直ちに応じた。
間も無く、暁帝国から多数の技術者が訪れる様になり、新たな鉱山も多数発見された。
元々の人口が多い事もあり、イウリシア大陸は暁勢力圏最大の貿易相手としての体裁を整えて行った。
アルーシ連邦 暁帝国大使館
此処では、大使となった白洲が部下からの報告を受けていた。
「ピルシー帝国で、ウランが発見されたとの事です。更に、アラン王国ではプルトニウムが産出する事が分かりました。」
「凄いな・・・この大陸は、資源の宝庫だ。」
白洲は、本土でも埋蔵量が非常に少ない核物質まで豊富に埋蔵されている事に驚きの声を上げた。
未だに見付かっていないのは、天然ガス位のものである。
コンコン
「失礼します。ピルシー帝国の使者がお見えです。」
そんな事を考えていると、連絡員がやって来た。
「ピルシー帝国!?白洲さん、まさか・・・!?」
「先手を打つにはこれ位しなければだよ。まぁ、ウランまであるとは思わなかったけどね。」
スピードに定評のある、白洲の面目躍如と言えた。
その後、ウランを含む新たに発見された鉱物資源の採掘権をピルシー帝国から掠め取・・・得る事に成功した。
ピルシー帝国の使者は、涙目で帰って行った。
「白州さん、流石に使者に同情しましたよ。」
「人聞きの悪い・・・まるで私が酷い事をしたみたいじゃ無いか。」
「いや、酷いでしょ。インフラ整備と技術支援を盾にして・・・」
白洲は、使者との会談で早速見付かったウランを含む新たに見つかった鉱石類の採掘権を求めた。
ピルシー帝国にとっては価値の無い鉱石が大半を占めていたとは言え、態々国内にある物を他国へ渡す気にはならない。
しかし、白洲は「合意しなければ、インフラ整備と技術供与を停止する。」と脅しを掛けた。
更に、「技術供与が無くなれば、貴国には貿易に関する責任が無くなりますな。まぁ、ある意味賢い判断でしょう。」と挑発した。
アルーシ連邦と長年渡り合って来ただけに、この様な挑発を無視出来ない程度にはプライドが高かった事もあり、あっさりと合意してしまった。
気付いた時には全てが遅く、使者は暫く枕を濡らす日々を送った。
ともあれ、イウリシア大陸は暁帝国の影響下で日々発展して行く。
・・・ ・・・ ・・・
センテル帝国 首都 セントレル
この国の中枢である皇城の大会議室では、ある重要な会議が行われていた。
「クローネル帝国はクローネル共和国となり、準列強国たる資格を失ったと判断すべきでしょう。」
「その通りですな。国土の大半を失い、国力も大幅に減退した。」
「クローネル共和国を、準列強国の枠組みから外す事に賛成の者は挙手を。」
全員が手を挙げる。
「では、全会一致でクローネル共和国から世界会議の出席権を剥奪する事に決定致しました。」
まばらに拍手が起こる。
彼等は、この国の最高幹部である。
「陛下、御承認をお願い致します。」
大会議室の最奥に座る男に、近くの者が声を掛ける。
「うむ。朕は、今回の決定を承認するものである。」
彼は、センテル帝国大帝 ロズウェルド である。
事実上、世界のトップと言っても良いだろう。
現在行っているのは、最高幹部を集めた定例会議である。
「それでは、次の議題に移ります。宜しいですか?」
「うむ、次の議題こそ本題だ。早速始めてくれ。」
「畏まりました。それでは、参考人をお呼びし致します。」
少しして、情報部総監であるシモンがやって来た。
彼もかなり権限の強い立場ではあるが、この様な重要な場に出る程では無い。
それだけに、緊張で冷や汗が止まらずにいた。
シモンが席に着くと、進行役の男が進める。
「それでは、続きまして暁帝国に関する議題を始めます。」
早速、ロズウェルドが話し始める。
「朕は、この暁帝国に高い関心を寄せておる。」
席に着いている者の多くが、驚きの表情を露わにする。
彼等も、暁帝国の存在は知っている。
会議が始まる前に事前に配布される資料もある為、知らずに出席する事は無い。
しかし、大半の者は「最果ての国など、たかが知れている。」と考え、真面目に確認はしていなかった。
大陸戦争についても「反クローネル帝国国家と協力した結果であり、暁帝国が突出して強い訳では無い。」と考えていた。
「彼の国に関しては、荒唐無稽な流言飛語が飛び交っていると言う。だが、シモンから伝え聞く話によれば、その多くがただの流言飛語とは言い切れぬ事も分かった。」
全員の目が、シモンに集中する。
「それでは、シモン総監に御説明頂きましょう。」
進行役が言う。
当のシモンからすれば堪ったモノでは無いが、何とか平静を保って話し始める。
「えー、まずは、皆様に目を通して戴きたい資料があります。」
全員に資料が配られる。
その資料は、しきしまの写真である。
「これは、暁帝国の軍艦と思われる写真となります。暁帝国を目指すアルーシ連邦の商船に乗り込んだ諜報員が、直接撮影した物となります。」
驚きの声が上がる。
「シモン君、この船は本当に暁帝国の船なのかね?最果ての新興国が、魔導船を保有しているなどとても信じられんが・・・?」
「間違いではありません。写真には、国旗と思われる旗も映っております。」
よく見ると、確かに映っている。
「そして、後の調査で判明した暁帝国の国旗が此方になります。」
再度、資料が配布される。
写真に写っている旗と同じであった。
「更に、この魔導船の船体は鋼鉄製である事が判明致しました。」
再度、驚きの声が上がる。
「て、鉄で魔導船を造ったと言うのか!?」
「そんな馬鹿な・・・その様な技術は聞いた事が無い。」
「最果ての小国に、そんな技術が・・・」
全員が騒めくが、シモンは続ける。
「インシエント大陸戦争に関する情報は全て集まっている訳ではありいませんが、現時点で集まっている情報だけでも相当に高い技術水準にある事が分かります。その辺りにつきましては、事前にお配りした資料にも載せてありますので、皆さんも既に御存知かと思われます。今回の写真で、その荒唐無稽な資料内容の信憑性が高まったかと思われます。」
ほぼ全員が、一斉に明後日の方向を向く。
(い、言えない。今更、殆ど流し見ただけだなんて言えない。)
大半の者達が、冷や汗を掻き始める。
「・・・・・・」
シモンは、舌打ちしそうになるのを必死に堪えなければならなかった。
「諸君、暁帝国は最果てにありながらも、高い技術を保有している事は間違い無いと見て良いだろう。」
見かねたロズウェルドが口を開いた。
「そ、そうですな。うん。シモン君、よく情報を集めてくれた。」
「そ、その通り。よくやってくれた。」
「あ、後で、勲章を授与しようか。」
大帝に取り成しまでさせてしまった罪悪感は半端では無く、微妙な空気のままシモンを褒め称え始めた。
「と、とにかく、暁帝国の国力は不明ですが、少なくとも技術力には目を見張るものがあり、準列強国と認定するに相応しい国家と考えます。」
微妙な空気に耐えられなくなったシモンは、強引に締め括った。
「ふむ・・・確かに一考の余地はあるな。」
「では、使節を派遣しますか?」
「その方向で調整を進めよう。」
真面目な空気に戻った事で、進行役が声を上げる。
「暁帝国の処遇に関して、提案のある者は挙手を。」
一人が手を挙げる。
「暁帝国の実情はまだハッキリとはしておりません。ただ、注目に値する国家である事は間違い無いと思われます。そこで、向こうから接触して来た場合は快く受け入れ、そうで無い場合も此方から使節を派遣して彼の国の実情を調べる必要があると考えます。」
この意見を聞き、進行役が更に進める。
「暁帝国と積極的に接触して行く方針に、賛成の者は挙手を。」
全員が手を挙げた。
「全会一致で、暁帝国と接触する方針に決定致しました!」
「陛下、承認をお願い致します。」
「うむ。朕は、今回の決定を承認するものである。」
大きな拍手が巻き起こった。
その頃、外交部にアルーシ連邦の使者が訪れていた。
「急な御訪問ですな。」
対応している官僚は、面倒臭そうな態度を隠そうともしない。
「突然申し訳無い。」
対する使者は、官僚の態度に青筋を立てながらも丁寧に切り出す。
「実は、貴国と関係を持ちたいと言う国家がありまして。」
「ホゥ・・・態々貴国が仲介されるとは、どれ程の国家なのですかな?」
センテル帝国に劣るとは言え、列強国が自ら仲介するなど余程の事である。
流石に興味が沸いた様で、若干身を乗り出す。
「暁帝国と言います。」
「・・・暁帝国ですか?」
官僚は、暁帝国を知っていた。
とは言え、噂話しか知らない事もあり、強力な国家であると言う認識は無い。
「・・・まぁ、上には伝えておきます。」
期待が裏切られた事で、明らかに落胆した様子で答えた。
「お願いします。」
居心地の悪くなった使者は、さっさと帰って行った。
宣言通り、この話は上層部へ伝えられた。
だが、「アルーシ連邦も焼きが回った様だ。」と幹部達は語り、この件はその幹部達の元でストップしてしまった。
後日、暁帝国と積極的に接触する方針が伝えられると、幹部達は大慌てでアルーシ連邦が仲介して来た事をトップへ伝えた。
彼等が、キツイお叱りを受けた事は言うまでも無い。
「全く、我が国が世界最強である事は疑いようも無いが、それに胡坐を掻く者がこうも多いとは・・・!」
この一件はロズウェルドの耳にも入り、大いに憤慨する事となった。
大帝の機嫌を不用意に損ねて何も無い筈が無く、結局外交部の幹部達の首が飛んだ。
そして、その不機嫌な大帝の目の前に座る事となってしまったのが、シモンである。
(どうしてこんな事に・・・)
彼は、情報部総監の座に就いた事を心底後悔していた。
「すまんな。今日は、君に頼みがあるのだ。」
シモンの様子を見たロズウェルドは、謝罪から始める。
「い、いえ。それで、頼みとは何でしょうか?」
「うむ。君に、後日我が国を訪れる暁帝国の使節を案内して欲しいのだ。」
「わ、私が!?」
常識的に考えて、情報部の人間に頼む事では無い。
「そうだ。君に、暁帝国の実情を探って貰いたい。既に、外交部には話を通してある。」
当然、外交部は不満しか無かった。
しかし、大帝に言われた上に、重要事項を無視する怠慢を犯してしまったばかりである。
承諾する以外の選択肢は無かった。
「特に、軍事力と政治体制について探ってくれ。我が国に匹敵し得る力を持っているのか、世界の脅威となる思想を持っているのかをな。」
「か、畏まりました。この身に代えてでも、御望みの情報を獲得して参ります!」
情報収集が目的ならば、情報部が担当するのが一番である。
とは言ったものの、シモンの内心はプレッシャーで荒れ狂っていた。
その後、使節が到着するまでストレスで何度も倒れる事となる。
この先、ちょっと投稿ペースが落ちるかも知れません。




