第五十話 列強との会談
祝、五十話達成!
コロネ公国
この国の東部に、多数の暁帝国の作業員が駐在している。
インフラ整備と農地開拓を行っている最中である。
元々の人口も領土も少ないこの国は、急激に膨れ上がった領土を持て余していた。
バルサの指揮の元で各地への入植が進んでいるが、人口の割に広過ぎる土地は開拓を困難にさせていた。
そこで、暁帝国の出番となったのである。
戦時中の協定のお陰で、再編事業に手間取った他国を差し置いて、真っ先にその恩恵を受けていた。
「いやー、もうこんなに開拓が進んだのかー。」
「凄いもんだな・・・魔術が使えないとか言う話だけど、それでも此処までの事が出来るなんてな。」
「しかも、家も快適と来たもんだ。俺は、毎日帰るのが楽しみで仕方無いよ。」
入植者達は、存分に暁帝国の恩恵に浸っていた。
開拓途中と言う事もあり、農作業か荷物運び程度しか仕事は無いが、支援によって建設された住宅は快適の一言であり、食事もこれまでとは比較にならない程の高い質に舌鼓を打っていた。
だが、光ある所には影が差す。
「見つけたぜェー!野郎ども、魔力無しの雑魚共を片付けるぞ!」
「「「「「ヒャッハーー!!」」」」」
大々的な開発を行った結果、これまで殆ど人が訪れる事の無かった所にまで開発の手が伸びる事となっている。
その様な場所には多くの盗賊が潜んでおり、彼等は暁帝国に関する情報を持っていなかった。
先住民のフリをして情報収集を行った所、暁帝国人は魔術を使えない事が分かり、与し易しと判断して襲い掛かって来たのである。
『此方黒豹、盗賊の襲撃を確認した。各員、迅速に排除せよ。』
未開の地で猛獣等に襲われる事を警戒して随伴していた軍関係者が、交戦を開始する。
ダダダダダダダダダ
「何だぁ、威嚇のつもりか?へッ、そんなのが怖くて盗賊なんぞやって・・・!」
銃声を聞いた盗賊達は鼻で笑おうとしたが、その直後から仲間が血飛沫を上げ始める。
「な、何が起こってるんだァ!?」
そう叫んだ者も、直後に倒れた。
「に、逃げろォ!バケモンだァッ!」
残った盗賊達は、一目散に逃げ出した。
『盗賊の撃退を確認。これより、追撃に移る。』
後の憂いを解決する為に、目に付いた盗賊は殲滅する方針となっている。
UH-60による上空からの捜索を加え、追撃に入る。
「ハァ… ハァ… ハァ… う、嘘だろ・・・空からも追って来る。」
対する盗賊は、あまりにも絶望的な状況に諦めムードが漂う。
かと言って、このまま諦めても死ぬ以外の選択肢は無い為、必死に走り続ける。
ダダダダダダダダダダダ
再度、あの音が聞こえて来た。
「グェッ・・・」
「ク・・・ソ・・・」
次々と倒されて行き、残り一人となった。
「こ、こんな・・・俺達が何をしたってんだアァァァ!!」
絶叫した直後、頭部を撃ち抜かれて絶命した。
『盗賊の殲滅を確認した。通常直に戻る。』
方々で同様の事態が発生したが、全く同じ展開で殲滅が進んだ。
盗賊の脅威は大幅に低減し、インシエント大陸の治安は大幅に回復した。
・・・ ・・・ ・・・
アルーシ連邦 港湾都市 ラングラード
アルーシ連邦一番の港湾都市であるこの街に、暁帝国使節団が訪れていた。
「奇麗な街だな・・・」
上陸した白洲は、正直な感想を漏らす。
高層ビルは存在しないが奇麗に整った街並みであり、路上にはゴミ一つ落ちていない。
「し、失礼」
「ん?」
声を掛けられた方を向くと、品のある服装をした一団が此方に近付いて来た。
しかし、その顔は驚愕と動揺に埋め尽くされていた。
(驚かせ過ぎたか?)
今回の派遣船団は、使節団の乗った客船と一個艦隊プラス補給艦1隻である。
「お出迎え感謝致します。私は、暁帝国使節団代表 白洲 二郎 です。」
「こ、これは御丁寧に。自分は、あなた方の案内を務めさせて頂きます レズノフ と申します。」
(何と言う事だ・・・話を聞いた時は大統領が狂ったかと思ったが、それ所では無いではないか!)
レズノフは、沖合に停泊している艦隊を見て、暁帝国が得ていた情報以上に強大である事を知った。
「それでは御案内致します。此方へ。」
レズノフの案内で、白洲達は用意された馬車へ乗り込む。
数輌の馬車と、その護衛の騎兵が出発する。
「馬車って快適かと思ってたんですが、結構揺れるんですね。腰に来そうです。」
初めて乗る馬車に期待していた外交官の一人が、そう言って残念がる。
「サスペンションを組み込んだ馬車でも作れば売れるかもな。」
「いや、それよりも鉄道だな。この大陸はやたらと広いから、大陸横断鉄道でも作れば相当な収益が見込めそうだぞ。」
使節達がガヤガヤと語り合っている中、レズノフを含む案内役達が乗った馬車は、重苦しい空気に包まれていた。
「あれ程とはな・・・一応聞いておくが、この期に及んでも大統領が狂ったなどと言い出す者はいないな?」
誰も反論しない。
彼等は、フレンチェフから直接暁帝国の使節達を案内せよと指示を受けていた。
大統領直々の指示と言う事もあり、並々ならぬ何かがあると考えたレズノフは、その理由を尋ねた。
その内容は、荒唐無稽などと言う言葉では足りない程の信じられない内容であった。
誰もが、「大統領は正気を失って狂ってしまった!」と考えた。
しかし、直接暁帝国の力を目にした事で、フレンチェフは正気である事を理解した。
(政府のトップが暁帝国の力を正確に把握していたのは救いだな。尤も、大半の者達は自分の様に直接目にしなければ信じないだろうが・・・)
レズノフは、政府関係者の賢明な判断に感謝した。
その後、使節団への対応についての再確認が行われ、万が一にも失礼の無い様に念入りな指示が行われた。
それから使節団は、二週間掛けて連邦各地を案内されつつサクルトブルクを目指した。
「まさか、末端部品の規格化や分業体制を確立しているとはな・・・」
白洲は、途中で案内された工業地帯で驚愕していた。
アルーシ連邦の技術レベルは、近世に相当する。
この段階で近代並みの制度を採っている事は、事実上ハーベスト最強と言える暁帝国を驚愕させるには十分であった。
「しかし、近代的な工作機械は一切存在しません。」
「そうですね。これでは、精度の向上にも限界があります。まぁ、人力で此処までやるだけでも相当に凄い事ですが。」
「ええ。我が国には真似出来ないやり方です。」
彼等は、列強国の底力を見せ付けられた。
その会話を聞き、レズノフ達は少し自慢気になった。
首都 サクルトブルク
ラングラードを出発してから二週間後、
人口百万を数えるこの街に、使節団が到着した。
漸く首都へ到着したが、使節団は大きく揺れる馬車の旅によって心身共に疲れ果てていた。
「首脳会談は明日の予定ですが、大丈夫ですか?」
レズノフは、使節達の疲労の色の濃さを察して体調を気遣う。
「申し訳ありませんが、早速宿泊先へ案内して頂けますでしょうか?」
白洲でさえ、そう口に出してしまう程に疲労が溜まっていた。
「分かりました。すぐに御案内致します。」
(随分と軟弱だな。こんな状態でインシエント大陸を制覇したとはな・・・)
クローネル帝国を降した国と言う事実から、どれ程タフな者達が来るのか期待していたレズノフは、予想外の事態に面食らった。
翌日、
街の中央に存在する大統領官邸に、使節団が訪れた。
「うん、美味いな。」
現在は、会談前の食事会を行っている。
贅を尽くした高級料理の数々に、使節団も舌鼓を打つ。
「白州殿、如何ですか?」
「いやぁ、これ程の歓待をして戴けるとは、有難い事です。」
レズノフは、白洲の様子から案内役を全う出来た事を理解した。
(フゥ・・・これで、肩の荷が下りたな。後は、首脳陣の役目だ。)
そう判断し、自分は食事を存分に楽しんだ。
「「さて、正念場だな。」」
意図せず、白洲とフレンチェフが同時に呟く。
食事会が終わった後、会場を移動した首脳陣と使節団は会談を開始した。
「改めまして暁帝国の皆さん、ようこそいらっしゃいました。」
フレンチェフが話し始める。
「これ程の歓待をして戴き、深く感謝致します。」
白洲が応える。
「さて、早速本題ですが、我が国が貴国を訪問した理由は、通商条約の締結と可能ならば同盟の締結、更にセンテル帝国との仲介のお願いです。」
「我が国は、貴国に高い関心を寄せております。以前から商人達が貴国を訪問しようとしており、通商条約は願ってもいない事です。同盟締結も、優れた技術力を持つ貴国と深い関係を持てるなど、とても魅力的と考えます。」
フレンチェフは、暁帝国の国力を把握しているだけにどの様な無茶な要求をして来るかと身構えていたが、想像と180度違う態度と要求に内心驚いていた。
驚いても、この程度の事で隙を見せる様では列強国のトップは務まらない。
友好的な態度である事を利用して、自国を発展させる事が出来るのではと考え出す。
「ただ、センテル帝国との仲介ですが、困難であると言わざるを得ません。」
「それは何故ですか?貴国とセンテル帝国は、友好国同士と伺いましたが・・・?」
「センテル帝国が最強の列強国である事は既に御存知かと思われますが、それだけにプライドが高いのです。確かに、我が国はセンテル帝国と友好関係を保っておりますが、例えば「連絡体制が劣悪過ぎる。これでは、此方は酷く待たされる事になる。」などと言って、軽い調整にも苦労する有様なのです。真剣に取り組むのは、世界会議に関する事位です。」
通信魔道具も万能では無い。
一個人が持ち運べる物や複数人で無ければ持ち運べないサイズの物もあるが、最も強力な物でさえ通信距離は200キロ程度である。
センテル帝国はその手の連絡手段も洗練されており、他国とは一線を画する通信能力を保有する。
(厄介だな・・・出来れば、直接担当したく無いな。)
白洲は、内心溜息を吐いて話を進める。
「それでしたら、我が国で新たな通信手段を提供出来ます。」
「!!」
フレンチェフは、飛び跳ねて喜びを表現したい気持ちに駆られた。
暁帝国の技術を国内へ大々的に導入出来れば、大きな発展が見込める。
それどころか、センテル帝国を超える事も夢では無い。
とは言え、白洲も無暗に自国技術を提供しようと言う訳では無い。
これを機に、暁帝国の影響力を広げようと画策していたのである。
似た様な機能を持っていても、魔術起源の道具との共用化は出来ない。
インシエント大陸連合とスマレースト大陸同盟との連携も、それが原因で苦労している面があった。
更に、タダで提供するつもりも無い。
世界一の人口と広大な領土を有するアルーシ連邦が顧客となれば、相当な儲けも期待出来ると考えていた。
互いに思惑は有れど、通信手段を含めたインフラ整備を進める事で合意した。
「閣下の御英断に敬意を表します。」
「センテル帝国との仲介をお約束致します。」
そして、此処で白洲は追撃に移る。
「それと、もう一つお願いがあります。」
「・・・何でしょう?」
流石に、フレンチェフも不安になる。
「我が国は、多くの友好国を欲しています。そこで、このイウリシア大陸の各国との仲介もお願いしたいのです。」
「分かりました。その程度でしたら御安い御用です。」
想像と違う簡単な要求に、フレンチェフは安堵する。
「ただ、此処で問題なのが、セイキュリー大陸です。」
連邦側の首脳陣は、体を固くした。
セイルモン諸島の一件でも分かる通り、イウリシア大陸とセイキュリー大陸は激しく対立している。
「実は、我が国は神聖ジェイスティス教皇国とも友好関係を結びたいとも考えております。」
白洲のこの言葉に、連邦側は戦慄した。
もしセイキュリー大陸にも暁帝国の梃入れが入ったら、大変な事である。
「現在は様子見の段階ですが、いずれは使節を派遣する流れになるでしょう。」
此処でフレンチェフは、疑問を口にする。
「何故、その様な事を我が国にお伝えするのですか?我が国を含むイウリシア大陸とセイキュリー大陸が、対立している事を御存知無いので?」
「無論知っております。ただ、両大陸がこのまま対立を深める事は、我が国にとっても不利益となりかねません。」
開戦しなくとも準戦時体制ともなれば、経済活動に多大な影響が発生する。
国内経済をどうにかしたい暁帝国にとっては、死活問題と言える。
「センテル帝国も、この問題に強い関心を持っていると聞き及んでおります。もし、このまま事態が悪化する様でしたら、これまで以上に悪い事態が発生するかも知れません。」
連邦側は沈黙する。
つまり、最悪の場合センテル帝国と暁帝国により、セイキュリー大陸共々東西から挟み撃ちにされると言う事である。
明確な脅し文句を口にされ、どうしようも無くなったかと思われたが、フレンチェフがある事に気付く。
「白州殿、様子見と言われましたな。と言う事は、我が国が先に貴国と交渉に入ったと言う事ですな?」
白洲は、内心ほくそ笑んだ。
「その通りです。神聖ジェイスティス教皇国を筆頭とするハレル教圏は、周辺国に対して好戦的な態度を見せていると言います。使節を送るにしても、十分な安全が確保されてからで無ければ非常に困った事態になりかねません。」
(暁帝国は、セイキュリー大陸を危険視している様だな。これならば・・・!)
フレンチェフは、決断した。
「白州殿、貴国を含めた暁勢力圏の方々の交易の安全は、此方で責任を負いましょう。」
連邦側の首脳達は、度肝を抜かれた。
そんな事をすれば、万が一事故が起こった場合、どんな難癖を付けられるか分かったモノでは無い。
「閣下、我が国には海上保安庁と呼ばれる海の治安維持機関が存在します。これまでも海軍と共に活動を行い、海の治安維持に多大な貢献をしております。」
だが此処でフレンチェフは、我が意を得たりと考えた。
「でしたら、我々にもその手伝いをさせて下され。」
「しかし・・・」
「既に御存知かと思われますが、この東部地域の海は非常に広い。貴方は、先程言われましたな?「海軍と共に」と。それは、現時点でさえ人手不足が深刻な証拠では無いですかな?」
その通りであった。
暁勢力圏の拡大に伴い、ただでさえ別管区から応援を呼び集めていた状況は更に悪化していたのである。
海軍もよく、治安維持活動に駆り出される毎日を送っている。
「幸い、我が国は人手には困りません。如何ですか?」
そこまで言われ、白洲は少し黙る。
「フム・・・確かに、人手不足は問題となっております。しかし、こう言っては失礼ですが、技術的に貴国の艦船は治安維持活動には向きません。」
「分かっております。ですので、旧式でも良いので貴国の船を売却しては頂けませんか?」
「・・・難しいですね。相応の設備と技術者がいなければ、継続した運用は見込めません。」
「では、その技術を提供しては頂けないでしょうか?勿論、必要な経費は此方持ちとします。」
全員が、期待と不安の入り交じった表情をする。
貿易の責任を全て持ち、更に技術供与に必要な経費を全て負担するとなれば、魅力的と言えなくも無い。
暫くの沈黙の後、白洲は頷いた。
「分かりました。最新技術は無理とは思いますが、技術供与に同意しましょう。」
フレンチェフは、目的が果たされた事に安堵した。
「それは有り難い事です。是非ともお願いしたい。」
こうして、双方にとって大成功と言える形で会談は終了した。
その後の細かいやり取りを終えて、使節団は帰路に着いた。
誰もが、また馬車に乗らなければいならない事に憂鬱となる。
「予定通りに行きましたね。」
馬車へ乗った後、使節の一人が白洲に言う。
「そうだな。」
白洲は、一言だけ返した。
実は、アルーシ連邦への技術供与は、元から予定されていた事であった。
もし、アルーシ連邦との友好関係構築が上手く行かず、神聖ジェイスティス教皇国との関係構築が上手く行った場合、この立場を逆転させるつもりでもいた。
要するに、セイルモン諸島を巡って真っ二つとなっている東部地域の情勢をどうにかしたかったのである。
両国とも技術レベルは近世である為、此処でどちらかが近代レベルの技術力を持てば、簡単に片方を黙らせる事が出来ると考えていた。
それでも、開戦を100%阻止出来るとは考えてはいないが、技術差が開けば短期的な戦闘で決着を着ける事が出来る。
それが、暁帝国の友好国であれば言う事無し。
その様な裏事情があった。
更に、技術供与をしても簡単に近代兵器の製造は出来ない。
近代兵器を扱えるだけの技術を持たせた上で、自身は輸出で儲けるつもりでもあった。
加えて、インフラ整備に伴う維持の負担を減らしたい思惑もある。
何事も、製造よりもその後の維持が一番の負担となる。
それを肩代わりさせるつもりでいた。
それ故、整備するインフラは蒸気機関を利用する予定となっている。
しかし、それを自分から前面に出してアピールしてしまっては、余計な警戒心を生み出しかねない。
それを避ける為に、敢えて向こう側から技術供与を求める状況を作る必要があった。
ハンカン王国を降した直後に警戒されてしまった一件は、暁帝国にとってはトラウマとなっていたのである。
「これで、アルーシ連邦は我が国無しでは立ち行かなくなる。まぁ、あれだけの近代的な体制を築いた位だから、いつまでも我が国に頼り切りと言う訳では無いだろうがな。それはそれで、有力な同盟国を確保出来たと言う事でもある。」
「しかし、いつまでも友好関係と言い切れもしないでしょう。」
「分かってる。此処からが外交の本当の見せ所だ。折角得た友好国を、絶対に敵に回さない様にしないとだ。」
彼等の話は続く。
その後、長い馬車の旅で疲れ切ったまま、艦隊と共にイウリシア大陸を後にした。
これまで見て下さった皆様に感謝を。
この先も見て頂ければ幸いです。




