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第四十九話  アルーシ連邦

 イウリシア大陸の面積は、北米と南米を足した位です。

 世界最大の物量と人口を持つ列強国。

 それが、アルーシ連邦に対する諸外国の評価である。

 その一方で、技術的には他の列強国に劣っているとも言われている。

 それ等の評価自体は間違ってはいない。

 アルーシ連邦の人口は1億9000万にもなる。

 軍は、陸軍400万 海軍2200隻 飛竜(黒竜含む)1万騎 と、他の追随を許さない。

 しかし、その一方で数だけが取り柄と言う訳では無い。

 これ程の物量を支えるには、相応の国力が必要となる。

 そこでまず、工業部品の規格化を行った。

 国内の何処でも通用する部品を国を上げて制定する事で、生産効率の大幅な向上に成功すると共に、末端部品自体の品質の向上にも寄与した。

 しかし、生産効率自体が上がると、今度は急速に供給される部品に組み立てが追い付かなくなってしまった。

 材料があるのに製品の生産が追い付かない現状に頭を悩ませた責任者は、生産工程の大幅な見直しを行う事を考え付く。

 結果、分業体制を編み出すに至った。

 効率的な組み立てが可能となり、単位時間当たりの生産量が飛躍的な向上を見せた。

 だが、近代的な工作機械等は存在しない。

 全てが手作業で行われる為、より多くの従業員が必要となったが、世界一の人的資源を保有するアルーシ連邦に人手は有り余っている。

 人手と言う一番の問題をあっさりと解決し、単純作業の繰り返しによって品質と生産効率は上がり続けた。

 その結果、アルーシ連邦の工業製品は、主力の輸出商品とまでなったのである。

 しかし、それだけで満足する事は無かった。

 この時点でアルーシ連邦が他の列強国よりも技術的に劣っている事は理解しており、国のトップ達はこの現状を打破する事に腐心した。

 魔導砲 魔導銃 戦列艦… 

 他の列強国が作り出した大多数の国々を大きく引き離すこれ等の発明を、自力で作ろうとしたのである。

 しかし、全く上手く行かずに時間ばかりが過ぎて行った。

 そんな中、意外な発見が突破口を作った。

 古代遺跡である。

 遺跡の調査を進めると、求めていた先端技術に関する情報が見付かった。

 これ等の発見を元に、アルーシ連邦の技術レベルは一気に高まりを見せた。

 とは言え、いくら高い生産力を有していても、あまりにも大き過ぎる物量が原因で、装備の更新は順調に進んでいるとは言い難かった。

 その結果、未だに中世レベルの旧式装備のままの部隊が多数あり、技術が劣っていると評価される一番の原因ともなっている。

 では、対外的にはどの様に動いていたのか?

 アルーシ連邦を含むイウリシア大陸は、痩せた土地が大半を占める。

 その為、農業生産はあまり良くない。

 この事情が、各国を膨張主義へ傾かせていた。

 極僅かな豊かな土地や、豊かな土地に劣っても農業に適した広い土地を求めて争いが繰り返されたのである。

 当時から人口が突出して多かったアルーシ連邦は、特にその傾向が顕著であった。

 物量を前面に押し出した人海戦術の前に、中小国が次々と餌食となって行った。

 気が付くと、イウリシア大陸最大の領土を有する国家となり、準列強国の地位を手に入れるに至る。

 満足の行く土地を充分に手に入れたアルーシ連邦は、政策を大幅に転換して国内の整備を精力的に進めた。

 工業力の強化と共に灌漑にも力を入れ、農業生産の強化を推進した。

 その甲斐もあり、周辺国へ食料の輸出が出来る程の余裕が生まれたが、その状況を良しとしない国も存在した。

 アルーシ連邦の南東に位置する準列強国、<ピルシー帝国>である。

 ピルシー帝国は、アルーシ連邦に劣るとは言え、広大な領土を有していた。

 だが、その領土の過半は砂漠地帯が占めており、より豊かな土地を欲していたのである。

 その一方で、不毛な土地には豊かな資源が多く眠っており、強力な軍備を保有する。

 その軍備を前面に押し出して、アルーシ連邦へ戦いを挑んだ。

 ピルシー帝国軍30万に対し、アルーシ連邦軍100万。

 誰もが、アルーシ連邦の勝利で終わると考えた。

 ところが、アルーシ連邦軍は大苦戦を強いられた。

 過酷な土地で鍛え上げられた優秀な兵士、豊富な資源によって準備された充分な装備、そして数的不利を覆す事の出来る優秀な指揮官の存在。

 これ等の要素が合わさる事で、70万もの兵力差の補完を可能としたのである。

 アルーシ連邦軍が30万の損害を出したのに対し、ピルシー帝国軍の損害は8万に留まった。

 この戦いによって領土に変化は起こらなかったが、大陸中が大きな衝撃を受けた。

 イウリシア大陸最大の国家としての面子を潰されたアルーシ連邦は、最初の激突が終わった後、今度はピルシー帝国に対して逆侵攻を行った。

 十分な事前準備を行った結果、侵攻兵力は190万にも及んだ。

 誰もが、成功を確信した。

 先の戦いは、突然の侵攻による奇襲効果と準備不足が大きな損害を出した一番の原因と考えられていたからである。

 だが、防衛線に於いてもピルシー帝国は巧みであった。

 フィンランドのモッティ戦術の様に、地の利を生かして次々と敵軍を各個撃破して行き、アルーシ連邦の出鼻を挫いた。

 更に、国境線近辺一帯にはベトナムの様な地下通路が構築されており、ゲリラ戦によって後方部隊が多大な被害を受けた。

 またしても、アルーシ連邦は敗北してしまったのである。

 しかし、その一方でピルシー帝国軍も大きな損害を受けていた。

 物量戦の恐ろしい所は、それを受ける側が確実に消耗してしまう点にある。

 ローマ軍と戦ったピュロスや、ソ連軍と戦ったドイツが好例であると言える。

 更に、予備兵力が豊富である事も意味している為、消耗戦に強いと言う特徴も持つ。

 ピルシー帝国は、これ等の要素からアルーシ連邦を打ち負かす事は不可能と考える様になって行き、再度の侵攻を受ける事を恐れた。

 だが、その予想に反して小規模な小競り合いは頻発したが、大規模な侵攻は一向に起こる気配は無かった。

 アルーシ連邦は、即座の再侵攻は自殺行為であると考えていたのである。

 二度の戦争によって前例の無い被害を出した原因を考察した結果、指揮官の能力と兵士の質の低さが主な原因であると結論付けていた。

 その結論の元、戦術研究と教育の見直しが行われていた。

 前者に関しては、基本戦術の根本的な見直しと、小競り合いによるピルシー帝国軍の情報収集を行った。

 後者に関しては、全国民へ門戸を開いた士官学校の設立と、一般兵に対する訓練内容の全面的な見直しを行った。

 こうした努力により、物量と精強さを兼ね備えた軍が誕生した。

 更に、この頃に古代遺跡を発見した。

 これによって大幅な技術発達を成し遂げ、遂に列強国の地位を手に入れた。

 ところが、更なる軍の強化が出来ると喜んでいた所で、ピルシー帝国軍が攻撃を仕掛けて来た。

 軍の再生には相応の時間を要しており、ピルシー帝国軍もその間に強化されていたのである。

 80万の侵攻兵力を用意した上に、十分な予備兵力も用意されていた。

 対するアルーシ連邦軍は、250万の兵力で迎え撃った。

 戦いは一進一退を繰り返し、互いの軍が格段の進歩を遂げていた事を内外へ知らしめる結果となった。

 互いの健闘に互いが敬意を持ち始めた頃、セイルモン諸島から衝撃的な知らせが入る。

 セイキュリー大陸による、セイルモン諸島への本格介入の知らせであった。

 事態を重く見たアルーシ連邦は、この件を理由にピルシー帝国へ和平を申し出た。

 セイルモン諸島の貿易はピルシー帝国にとっても重大な問題であると同時に、泥沼化していた戦争を一刻も早く終わらせたかった帝国首脳部も了承した。

 和平が実現し、アルーシ連邦とピルシー帝国は共同でセイルモン諸島の問題へ当たり始めた。

 その一環として、アルーシ連邦は最新技術の一部をピルシー帝国へ供与を行った。

 この技術供与により、ピルシー帝国の技術レベルも近世となったが、ついこの間まで敵であった国からの施しに、プライドを刺激された者が多数出現してしまう。

 首脳部はその様な声を抑えにかかったが、全てを抑えきる事は出来ずに両国間に不和が巻き起こり始めた。

 幸い、一部の現場レベルに抑え込まれている事もあり、共同歩調には殆ど影響は無かったが、相変わらず不満の声は方々から上がっていた。

 セイルモン諸島へ派遣された艦隊は、最新鋭の三等級戦列艦を含む艦隊であった。

 西セイルモン諸島を拠点とし、北セイルモン諸島周辺を遊弋する艦隊に対して威嚇を繰り返す日々が続いた。

 この状況に焦ったのは、センテル帝国である。

 列強国同士がぶつかり合う事態は、世界大戦の引き鉄となりかねない。

 その年が世界会議の年であった事もあり、早速懸念を表明した。

 しかし、両陣営とも一歩も退かず、会議の場でさえ一触即発となってしまう。

 この状況に業を煮やしたセンテル帝国は、武力介入をチラつかせるに至った。

 最強の列強国の予想外の反応に青ざめた両陣営は、それぞれの諸島をそれぞれの勢力圏とする事で合意し、緊張は大幅に緩和された。

 相変わらず両陣営の軍艦が遊弋しているが、双方共に自身の勢力圏内での活動に留めている。

 ところが、危ういながらも保たれていたバランスが一気に崩れる事件が発生した。

 それが、クローネル帝国の敗北である。

 クローネル帝国は、表向きはセイルモン諸島に対する影響力は皆無であったが、どちらにも加担していないと言う事実を活かし、セイルモン諸島を中心とする情勢のバランスを保つ支柱の役割を果たしていたのである。

 クローネル帝国によって辛うじて支えられていたバランスは、急速に失われつつあった。

 セイキュリー大陸は、インシエント大陸を自国の勢力圏として現状を打破する為に活発に動き、それを察知したアルーシ連邦とピルシー帝国も、軍事行動を開始している。

 その動きに触発されたセンテル帝国も、徐々に動き始めていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在



 アルーシ連邦  首都 サクルトブルク



 フレンチェフは、閣僚を集めて暁帝国対策を議論していた。

「先日、クローネル共和国から連絡が入った。暁帝国が、我が国に国交の樹立を前提とした特使を派遣するとの事だ。」

 驚きの声が上がる。

「驚くのも無理は無いが、ひとまず驚くのは後にしよう。今は、とにかく対応の決定を急がねばならん。」

 対応と言っても、事前情報でとんでもない力を持っている事が分かっている以上、相手の言う事に素直に従う位しか思い浮かばない。

 つまり、お手上げと言う事である。

「とにかく、相手を刺激しない様に言動に気を付け、出来る限りの歓待をするより他はありませんな。」

「そこまで下手に出る必要が?」

 相手の実力が正確に分かっていたとしても、列強国としてのプライドはそう簡単に捨て去る事が出来ない者は、思わず口を挟む。

「あるだろう。諜報員から送られてきた報告はどれも信じ難いものだったが、現にクローネル帝国は惨敗している。」

「そうですな。下手に出なければならないのは気になる所ですが、プライドの為に国を存亡の危機に陥れる訳には行きません。」

 ピルシー帝国の存在は、彼等を傲慢にするのを抑え込む作用を齎していた。

 格下と思っていても惨敗する可能性もあると身を以て経験した事は、そう言う意味に於いても利益を齎していた。

「では、歓待の準備を進めよう。万が一にも失礼な態度が無い様に周知徹底させてくれ。」

 フレンチェフの指示が下り、慌ただしく動き始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国の使節団達は、船上で確認作業を行っていた。

「相手は列強国だ。失礼な言動があるかも知れないが、決して挑発に乗る様な真似はするな。」

 そう言うのは、使節団代表の 白洲 二郎 だ。

 彼は吉田の腹心であり、素早さに定評がある。

 とは言っても、物理的な素早さでは無く、各方面の根回し等の仕事を非常に手早く終わらせると言う意味である。

「今回は、何としても外交で終わらせなければならない。気を引き締めて行くぞ!」

 むしろ、相手の方が此方を恐れているのだが、その事を知らない使節団の緊張は否応無しに高まっていた。



 また全話を見直したいので、少し間が空きます。

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