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第四十八話  東部地域の胎動

 ひと段落したら、次の話を描くのが大変になった。

 インシエント大陸から北西へ向かうと、神聖ジェイスティス教皇国の存在するセイキュリー大陸がある。

 南西へ向かうと、アルーシ連邦の存在するイウリシア大陸がある。

 そして、この三大陸の間に存在するのがセイルモン諸島である。

 大陸の間にあると言う地理的特性によって、貿易の中継地点として長く栄えて来た。

 この諸島は、北寄りの北セイルモン諸島と西寄りの西セイルモン諸島に分かれており、先住民の風習や生活様式に若干の違いが見られる。

 両諸島は、列強国による本格的な介入が始まると完全に引き裂かれる事となった。

 最初に動いたのは、神聖ジェイスティス教皇国である。

 目的は、布教である。

 セイルモン諸島には、古くから続く自然崇拝の伝統が存在していた。

 しかし、布教にやって来た宣教師はその自然崇拝を全否定し、ハレル教への改宗を強く求めたのである。

 これまで信じて来た物を全否定されて、怒らない者はいない。

 先住民達は、宣教師を追い返した。

 しかし、これを切っ掛けとして自分達が今まで信じて来た事が本当に正しいか疑問に持つ者が現れ始めた。

 連日、盛んに議論が交わされる日々が続き、そうこうしていると二度目の訪問があった。

 今度は、軍艦を含む大規模な訪問であった。

 先住民達は恐慌状態となったが、いきなり軍事的恫喝をして来る事は無く、ハレル教へ改宗したらどの様な恩恵があるかを説いた。

 その一環として彼等は、セイキュリー大陸の様々な商品を持ち込んだ。

 この一連のやり取りにより、改宗に賛成する北側と反対する西側に分かれてしまう。

 両諸島の意思統一に時間が掛かると判断した宣教師は、ひとまず改宗に賛成している北諸島から改宗を始める事とした。

 だが、その行いは文化的侵略と呼べるものであった。

 自然崇拝を根拠とした神殿は全て破壊され、先住民の家さえも自然崇拝の影響を受けているとして破壊の対象となったのである。

 その後に、セイキュリー大陸の方式に則った家屋の建設が無償で行われ、教会も建設された。

 無償で家屋を建設すると言う気前の良さに、先住民達は大いに心を動かされた。

 その一方で、旧来の生活を良しとする一部の守旧派達は、この行為を強く非難した。

 しかし、守旧派達は大多数の改宗派に糾弾され、北諸島から追放されてしまう。

 追放された守旧派達は、西諸島へ向かった。

 そこで、改宗を受け入れた事で起きた事を語ると、西諸島の先住民達は激怒した。

 しかし、軍艦まで動員している彼等を正面から敵に回す事は出来ない。

 そこで、東部地域のもう一つの列強国であるアルーシ連邦へ助けを求めた。

 アルーシ連邦は、この要請に直ちに答えた。

 セイルモン諸島を介した貿易は、イウリシア大陸にも多大な恩恵を齎しており、此処を特定の勢力の影響下に置かれる事は、多大な損失になると判断したのである。

 西諸島に続々とアルーシ連邦の軍艦が来訪し、北諸島を威圧した。

 セイキュリー大陸も対抗して軍艦を増員し、一触即発の事態となった。

 この緊張状態は世界会議によって一応沈静化したが、対立自体が終わった訳では無く、緩い冷戦状態が続いている。

 互いに諸島の一部に基地を建設し、牽制し合う日々が未だに続いているのである。

 その一方で、各大陸も一枚岩と言う訳では無く、それぞれ問題を抱えていた。

 イウリシア大陸には、ピルシー帝国と言う準列強国が存在する。

 アルーシ連邦は、このピルシー帝国と長年対立しており、何度も領土争いを起こして来た。

 その戦いは非常に激しいものであり、世界一の物量を誇るアルーシ連邦と言えども無視出来ない被害を出していたのである。

 現在は和解して共同歩調を取っているが、その足並みは揃っているとは言い難い。

 一方のセイキュリー大陸は、ハレル教によって準列強国であるシーペン帝国を筆頭に纏まっていたが、国力差による扱いの差が大きく、被征服国に至っては非常に厳しいの一言である。

 この様な事情から、常に内紛の火種を抱えている状態にある。

 更に、僅かながら敵対国も存在し、これも決して無視出来る問題では無い。

 これ等の一連の動きに対し、クローネル帝国は何も出来なかった。

 他の二大陸と比較して敵対勢力が大きい上に、国力的にも余裕が無かった。

 ただし、どちらの陣営にも加担していなかった事から、貿易の恩恵を最も受けていた事もあり、ある意味一番美味しいポジションにいるとも言えた。

 この様にして、不安定ながらも東部地域は一応の均衡を保って来ていたのである。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在


「どうすればいいんだ!?クローネル帝国は、ウチのお得意先だったのに!」

「ピルシー帝国が軍を動かしてるらしいぞ!その対応で、我が国も大わらわだ!」

「セイルモン諸島でまた武力衝突が起こった!このままじゃあ、まともに貿易出来ねぇ!」

 混乱しているのは、列強国だけでは無かった。

 クローネル帝国は、他大陸との貿易を積極的に推進していた事もあり、経済的な打撃が大きかったのである。

 更に、地理的に三竦みとなっていたセイルモン諸島を中心とする情勢が変わった事で海の治安が急速に悪化しており、経済事情の悪化に拍車を掛けていた。

 中小国は、急激な情勢の変化にただ翻弄されるばかりであり、困窮して行く国民を余所に、激しく動く列強国の動静を見守る事しか出来なかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 とある小国



「財務大臣、来年の国庫は大丈夫か?」

「良いとは言えませぬな。来年はまだどうにかなりますが、それ以降はどうなるか分かりませぬ。」

「そうか・・・それにしても、クローネル帝国が敗北するとはな・・・」

「未だに信じられませぬな。暁帝国とは、どの様な国なのでしょう?」

「分からんな。だが我等に出来るのは、その暁帝国と通商の約束を取り付ける事位だろう。」

「・・・」

「我等の様な小国は、列強国の気紛れ一つで吹き飛ぶ程度の存在でしか無いのだ・・・」

 大半の中小国は、この様な姿勢で臨むしか無かった。

 だが、例外も存在した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 セイキュリー大陸北部



「狂信者共は、暁帝国との対決姿勢を明確にしたわ。」

「短絡的な奴等だ。そのやり方が、俺達の様な存在を生み出したと言うのにな。」

「そんな事はどうでもいい。それで、俺達はどの様に対応する?」

「勿論、暁帝国と接触するのよ。」

「まあ、知ってた。」

「敵の敵は味方と言う訳か。だが、暁帝国が此方の味方になってくれる保証は無いぞ?」

「やってみないと分からないじゃない!何回言わせる気!?」

「すまんな。お前のその台詞を聞かんと、どうもやる気が出ない。」

「いい加減、自分でやる気出せよ。」

「とにかく、準備を進めて頂戴。かなり遠くにある国みたいだから、念入りにね。」

 世界を動かす力が無くとも、自らに出来る範囲で力の限り抗おうとする者達も存在した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 パルンド共和国  ピルスカ



 インシエント大陸中央を領有する形となったこの国は、地理的関係から大陸連合の本部が設置された。

 そして現在は、大陸戦争に関する最後の決済が行われていた。

「此度の戦争に於ける貴君等の行いは、大陸の平和を大いに搔き乱すものであり、非常に身勝手であると言わざるを得ない。」

 そこにいたのは、イサーク キメイダ トライヌス である。

 彼等は、大陸戦争の戦犯として大陸連合本部内に設置された大法廷で、判決を受けていた。

「犠牲となった民は数知れず、その罪は命を以って償うより他は無い。よって、貴君等を絞首刑とする。」

 イサークは目を閉じて静かに受け入れ、キメイダは顔を真っ赤にして怒り、トライヌスは大きく動揺した。

「最後に、何か言い残したい事があれば聞きましょう。順番に発言しなさい。」

 イサークは、言う。

「俺は、現実が全く見えていなかった。身勝手な願望の為に、多くの犠牲を出してしまった。死を以って償うのが一番だと思う。俺は、大人しく刑を受け入れる。」

 キメイダは、言う。

「この私に、こんなマネが許されると思っているのか!この世で最も優れているのは、我がクダラ王国だ!貴様等蛮族に、奴隷以上の価値は無い!奴隷なら奴隷らしく、私の命令に従え!主人の命令に逆らうなど、絶対に許さん!」

 トライヌスは、言う

「お前達が、優れた技術を持つと言う事はよく分かった。だが分からんのは、皇帝であるこの私に対してこの様な不当な扱いをしていると言う事だ。一国の主を、犯罪者として扱うなど聞いた事が無い。一国の主とは、それ即ちその国の法そのものだ。その法である私に対して、判決などを言い渡すとは不当であり不敬である。」

「・・・他に言い残す事はありませんね?ではこれにて、大陸戦争裁判を閉廷と致します。」

 イサークは何も言わずに法廷を後にし、キメイダは暴れ始めた為に押さえ付けられ、トライヌスは抗議が受け入れられず落胆したまま法廷を後にした。


 この三人の死刑判決は、瞬く間に暁勢力圏全体に伝わった。

「ざまあ見やがれ!」

「邪魔者がいなくなってせいせいしたわ!」

「今日程清々しい日は無い!」

 インシエント大陸は、一部を除いてお祭り騒ぎとなっていた。

 その一方、直接戦禍に晒されなかったスマレースト大陸では、そこそこ冷静な評価がされていた。

「イサークってヤツは中々殊勝だな。大人しく受け入れたらしいぞ。」

「現実を知って、その現実を受け入れたんだ。誰にでも出来る事じゃあ無い。」

「それに比べて後の二人は・・・」

「ああ、アレは酷過ぎるな・・・」

「あんなのが国のトップにいたら、そりゃあ負けるわ。だけど、ウチにもそんなのがいたんだよなぁ・・・」

 イサークに対しては、その態度を評価する声が方々から上がっていた。

 その一方でキメイダとトライヌスに関しては、かつての強硬派達を連想させる態度からボロクソに貶されていた。

 この一件によって、現実を如何にして受け入れるかが暁勢力圏に住む者達の共通のテーマとなる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



「これで後始末は終わったな。後は、捕虜を返還して大陸の開発を進めてくだけだな。」

 大きな峠を越えて肩の荷を降ろした様な笑みを浮かべながら、東郷は吉田に語る。

「そうですな。これで暁勢力圏は、安定期に入ったと考えても良いでしょう。」

 内部の問題が片付いたと言う事は、今度は外部の問題を片付けに行かなければならない。

 その為に吉田を呼んだのである。

「じゃあ今度は、アルーシ連邦だな。」

「そうですな。」

「軍は、外交で何とか終わらせてくれと言ってる。」

 度重なる戦乱と各国への駐留により、軍の物資は不足気味であった。

 今から列強国との全面戦争にでもなったら、物資不足で負けかねない。

 国内で増産を行っているが、この問題が解決するのは当分先となる。

「お任せ下さい。今度こそ成功させます。」

 吉田は、大きく気合を入れる。

 散々であったこれまでの外交の失敗を挽回しなければならない。

 今回のアルーシ連邦との接触は、外務省の存在意義にも関わっていた。


 吉田との話を終えると、今度は佐藤を呼び出した。

「態々悪いな。」

「ホントですよ!研究したい事が山程あるのに、そこから引き離す様な真似をするなんて!」

 佐藤の言動と勢いに、頭痛を覚える。

「悪かったから!・・・それで、例の遺跡について何か分かったか?」

 クローネル帝国が勢力を伸ばす元凶となった古代遺跡の事である。

 既に、佐藤を筆頭とする調査班が調査を開始している。

 佐藤にとっては宝の山らしく、寝食を忘れて研究に没頭していた。

 以前に真剣に遺跡に関する嘆願をしたのは、絶好の研究対象を存分に研究したいからである。

「凄いもんですよ。あの遺跡の中身は、近代レベルですね。」

「き、近代だと!?」

 ‘自称‘神の発言から、この世界の全てが中世から近世レベルと考えていた東郷には信じられない報告であった。

「そんなに驚く事でもないでしょう。センテル帝国だって、近代レベルの可能性があるんですから。」

 衛星写真による調査で、センテル帝国は他国よりも人工的な光が多い事が判明していた。

 明らかに近世で収まる量では無く、近代文明を保有している可能性が囁かれていた。

 より詳細に観測をしたかったが、安全保障上の問題から他に優先的にやるべき対象が多過ぎる事もあり、放置されているのが現状である。

「それはそうだが、何で昔の文明が近代レベルにまでなったんだ?」

「それは、現状では何とも・・・ただ、遺跡には文字資料もありました。これを解読すれば、何か分かるかも知れません。」

「分かった、なるべく早く解読してくれ。」

「それなら、予算と人員をもう少しこっちに下さいよ。」

「お前が三人分位働けばいいだろ。」

 佐藤の交渉は失敗し、これまで通りの規模で遺跡の調査は続けて行く事となった。

 解読には、まだ暫くの時間を必要としていた。


 後日、使節団を乗せた船団が、アルーシ連邦へ向けて出港した。

「大丈夫かね?」

「クローネル共和国を通じて、事前に通達してあるから大丈夫だろ。」

 何しろ、初の列強国との接触である。

 担当の外交官達の不安は、大きなものであった。

 そんな彼等の心境など無視して、船団は西へ進む。



 分断国家って、イデオロギー以外の理由で成立した事ってあるのかな?

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[気になる点] キメイダは、最後まで本気で信じていたのでしょうか? 自分は、絶対的な優越者なのだと。絶対的な命令者なのだと。この世の誰よりも、上に立つ存在なのだと。 他の者はすべて、自分に従うのが当…
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