第四十六話 準列強国の転落7
今回で、大陸戦争が終結します。
クローネル帝国 ライマ近郊
そこには、暁帝国軍の車列がいた。
暁帝国兵に交じって、カエルム率いるクーデター軍の姿も見える。
カエルムは、目に見えて落ち込んでいた。
「スぺキア殿・・・」
通信魔道具によってスぺキアと近衛兵のやり取りを聞いていたカエルムは、スぺキアの死を確信していた。
何人もの部下を使い捨てて来たスぺキアは、ハッキリ言えば恐ろしい人であった。
にも関わらず、彼を慕う者は後を絶たない。
直接顔を合わせる様になり、その理由を理解した。
彼は、誰よりも祖国を愛しているからである。
祖国を守る事を目的としている軍の人間にとって、スぺキア以上に尊敬できる者はいないと言っても良かった。
スぺキアに使い捨てられた者達も、「これ以上無い形で祖国の為に散れる。」と喜んで命を差し出した。
そして、意外にもスぺキアは、犠牲となった部下に対する弔いを欠かさなかった。
自身と同じく、祖国の繁栄の為に尽くした者に対する敬意も持ち合わせていたのである。
彼以上に立派な軍人はいない。
彼以上に深い愛国者はいない。
しかし、彼はもういない。
「カエルム殿、間も無く攻撃開始時刻となります。」
「・・・そうですか。」
(私がしっかりしなくては!)
いつまでも悲嘆に暮れている訳にも行かず、カエルムは決意を新たにする。
・・・ ・・・ ・・・
ライマ上空
黒竜も上がって来れない程の高空。
そこには、彼等がいた。
『間も無く、攻撃開始地点に到達する。』
『了解、くれぐれも目標を外さない様に。』
『オイオイ、俺達にケンカを売ってるのか?』
E-767の管制官に対し、黒竜の排除を担当するF-22の搭乗員が挑発的な言葉を口にする。
『ちなみに、ケンカを売ってるのはお前だぞ。主に、俺に対して。』
『た、隊長・・・(ガクブル』
『無線を私物化するなと何度言わせる気だ、お前は。』
『い、いえ・・・』
『帰ったら、オ・シ・オ・キ・な?』
『え・・・あ、いえ、光栄であります!』
搭乗員の動揺を表す様に、機体の挙動が大きくなる。
『ちょっと、無意味に編隊を乱さないでくれない?』
通信に割り込んで来たのは、空爆を担当するF-3Aの搭乗員である。
『あぁ、何処が無意味だよ!?こっちは大変な事に』
『オシオキ、2クールに増やすか。』
『ヒィ・・・!あ、いえ、光栄であります!(泣』
そうこうしている内に、攻撃開始時間となった。
F-22の編隊が、レーダーで目標を確認する。
『総数、16を確認。丁度割り切れるな。』
今回出動しているのは、一個小隊(4機)である。
『よし、目標を補足しろ。武器はAMRAAMを選択。』
『此方二号機、補足した。』
『此方三号機、準備完了。』
『此方四号機、同じく・・・』
『撃て』
シュパアァァァァァーーーーー・・・
一機当たり四発のミサイルが、一斉に発射された。
『着弾まで、後10秒。8・・・4 3 2 1 弾着。』
レーダー上の輝点が、一斉に消える。
『敵騎の殲滅を確認した。制空隊、任務完了。これより帰投する。』
4機のF-22が一斉に引き返す。
『後は任せて。』
今度は、4機のF-3Aが前へ出る。
『此方爆撃隊。特殊作戦連隊へ、聞こえる?』
『聞こえてる。これより、誘導を開始する。』
見ると、レーザーによって目標が照射されている事が確認された。
『確認した。これより攻撃を行う。』
そう言うと、投下コースに入る。
『投下用意・・・・・・投下!』
ヒュウゥゥゥゥーーーー・・・・・・
『・・・弾着、今!』
正確に誘導されたJDAMは、滑走路を含む飛竜基地を粉砕した。
『敵航空施設の破壊を確認。特殊作戦連隊へ、誘導感謝する。』
『此方でも完全破壊を確認した。お手柄だ。』
『あんまりおだてないで。これより帰投する。』
作戦の滑り出しは、この上無く順調に進んだ。
・・・ ・・・ ・・・
ライマ
街中が、混乱の渦に包まれていた。
始まりは突然であった。
上空から聞き慣れない轟音が聞こえたかと思うと、警戒飛行をしていた黒竜が突然爆発した。
無残な姿となった黒竜と竜騎兵が墜ちて来る様を見て、市民は恐慌状態に陥った。
かと思うと、今度は甲高い音が聞こえて来た。
本能的に恐怖を掻き立てる音が止むと同時に、飛竜基地が丸ごと吹き飛んだ。
此処に至り、市民達は街が攻撃されている事を理解した。
クローネル帝国史上、首都であるこの街が攻撃を受けた事は無い。
その事実が、市民達の戦時下であるにも関わらず、戦時の心構えが出来ていない原因となっていた。
「何でだよ!?何で、この街が攻撃されてる!?」
「今現在、我が国が交戦しているのは東の小国共と暁帝国とか言う不届き者だ。」
「じゃあ、そいつ等に攻撃されたってのか!?」
「そんなワケあるか!優勢だって話だったじゃ無いか!第一、奴等にこんなマネが出来るワケが無いだろ!」
「じゃあ、今のは何なんだ!?」
そこかしこで怒号が響き渡り、気の早い者は逃げ出す準備を始める始末であった。
バタタタタタタタタタタタ
「こ、今度は何だ!?」
再度聞こえて来た聞き慣れない音に、誰もが恐れを抱く。
次は何処が破壊されるのかと思っていると、声が聞こえて来た。
『私は、クローネル帝国軍フロンド方面軍のカエルムだ!どうか、私の話を聞いて欲しい!』
市民達は驚愕する。
「か、カエルムってあの!?」
「将軍のカエルムか!?」
「馬鹿な!何で此処にいる!?」
市民の反応を余所に、カエルムは語り出す。
暁帝国の実態、本当の戦況、クーデターの事、皇帝の乱心・・・
余す事無く、全てを話した。
『この話を聞いても信じられない者が殆どだろう。当然だと思う。だが、残念ながら事実だ。先程の攻撃は、暁帝国軍によるものだ。見ての通り、黒竜ですら易々と撃墜してしまう力を持っている。このまま徹底抗戦を掲げても、勝利するどころか滅亡してしまう事を知り、私は行動を起こした。私は、暁帝国に独立を守る事を保証する約束を取り付けた。信じられないだろうが、信じて欲しい。私は、諸君の安全を保障する事を約束する。無謀な抵抗は、死期を早めるだけだ。どうか、受け入れて欲しい。』
話が終わり、市民達は困惑と怒りが入り混じった反応をする。
「そんな、馬鹿な・・・我が帝国が・・・無敵の我が帝国が、たかが蛮族如きに負けただと!?信じられるか!徹底抗戦だ!どれ程の犠牲を払おうとも、我が帝国に泥を塗った報いを受けさせてやる!」
「落ち着け、さっきの攻撃を見ただろう!カエルム将軍の言ってる事は、事実だと見るべきだ!衝動に任せて行動を起こしても、いい結果にはならないぞ!」
「どうすれば、どうすればいいんだ・・・」
当分の間、市民達の結論は出そうに無かった。
その頃、
皇城
「案外あっさり入り込めたな。」
「空爆の混乱に乗じたとは言え、此処まで簡単に行くとは思わなかったな・・・」
官僚に変装した特殊作戦連隊の隊員達が、皇帝を探してうろついていた。
「スぺキアが生きてれば・・・」
本来の予定では、スぺキアの案内に従って皇帝の元まで行く予定であった。
だが、そのスぺキアが粛清されてしまい、案内を欠いた隊員達は無駄に皇城をうろつく羽目となっていた。
「早くしないと・・・」
外ではカエルムの演説が始まっており、タイムリミットが近付く現状に焦りを見せ始める。
「おい、待て貴様等!」
後ろから呼び止められる。
(チッ、近衛じゃねェか・・・)
近衛兵は全員排除せよとの事だが、皇帝の所在が分からない現状で強硬策に及ぶ訳には行かない。
「貴様等、見掛けない顔だな。何処の所属だ?」
(クソッ、腐ってもエリートだな。)
近衛兵は、自身の担当するエリアの官僚の顔を全員覚えている。
そうで無ければ、あっさりと敵の侵入を許しかねない。
「わ、私達はですねぇ、先程飛竜基地の近くにいたので、被害をお知らせしようかと」
「そんな事は貴様等のやる事では無い!」
(クソッタレ!)
元々苦しい言い訳だが、こうも全く通用しないと心にクるものがある。
「怪しいな・・・貴様等の名前は?」
(仕方無いな)
「強行突破!」
その一言で、全員が瞬時に戦闘体制へ移行した。
「な・・・」
バスッ
サイレンサー付きの拳銃で瞬時に無力化する。
「敵だー!クソッ、こんな所にまでェ・・・!」
少し離れた所にいた近衛兵が声を上げたが、すぐに無力化される。
だが、今の騒ぎで皇城全体が騒がしくなり始めた。
「急げ、皇帝を見付け出すぞ!」
隊員達は走り出す。
「階段です!」
「よし、登るぞ!」
階段を登ると、敵兵と鉢合わせた。
ダンダンダンダンダン
既にバレてしまっている為、遠慮無くMP5を使用する。
「あそこだー!」
「囲め囲めー!」
方々から近衛兵が押し寄せて来るが、圧倒的な銃の性能差を前に屍を築いて行った。
バンッ
目に付いた大き目の扉を開く。
「キャァッ!」
そこにいたのは、メイドであった。
「食堂かよ・・・」
「言ってる場合か、早く行くぞ!」
近衛兵を蹴散らしながら、更に上へと登って行く。
途中、いくつかの扉を開けたが、全てハズレであった。
そして、一際大きな扉が目に入る。
「頼むぜ、今度こそ・・・」
バンッ
ダダダダダダダダダダダ
直後、猛烈な銃撃を受けた。
「グアッ、いってェなァ!」
咄嗟に隠れたが、間に合わなかった隊員の一人が被弾する。
そこは、大会議室であった。
銃撃に注意しつつ中を見ると、机等を使った即席のバリケードの向こうに、近衛兵に守られたトライヌスの姿があった。
「いたぞ、目標発見♪」
「言ってる場合か!どうするんだよコレ!?」
敵の銃は単発式の前装式だが、時間差を設けて弾幕が途切れない様にしている。
人数は大して多くは無いが、魔力ケースを使った新型銃の連射力でカバーしていた。
攻めあぐねている所に、反対側から駆け付けて来た近衛兵の攻撃が加わる。
鬱陶し気に始末するが、このままでは目標を確保出来ない。
「どうする・・・」
そう呟いた時。
『此方、第一師団第一航空隊。特殊作戦連隊へ、外のゴタゴタはほぼ終わった。支援が必要ならそっちへ行くぞ。』
(地獄に仏とはこの事か)
そう思いつつ、支援要請をする。
『了解した。敵兵とバリケードを破壊する。皇帝に密着してる連中はそっちで何とかしてくれ。』
ドガガガガガガガガガガガ
外から機関砲を乱射する音が聞こえ、同時にバリケードと生々しいモノが吹き飛ぶ音が聞こえた。
『よーし、終わったぞ。皇帝の周りに三人残ってる。気を付けてな。』
通信が終わるや否や、隊員達は大会議室へ飛び込んだ。
ダンダンダン
近衛兵は各一発で無力化され、トライヌスのみが残った。
隊員は、トライヌスへ近付く。
「貴様等、私を誰だと思っている!?こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」
恐怖で顔を歪めながら、ありがちなセリフを吐く様は滑稽の一言であった。
『皇帝の確保を確認した。 ヒュウ♪ 大手柄だな。』
窓の外から聞こえて来る声を無視し、淡々と連れ出して行く。
「や、やめろ!許さんぞ!皆殺しにしてやる!全員処刑してやる!」
トライヌスは喚き続けるが、そのまま引き摺られて行った。
その頃、皇城の外ではクーデター軍が街へ入っていた。
侃々諤々の議論を繰り広げていた市民達であったが、そこへ近衛兵がやって来てカエルムへ同調しようとする者の粛正を始めた。
カエルムに反対する者達も、流石にこの問答無用の凶行には疑問を呈したが、抗議した者も容赦無く粛清した。
この行為に激怒した市民達は、クーデター軍受け入れへ一気に傾いた。
犠牲者は更に増えたが、航空隊の支援の下で市民を守る為に近衛と戦ったクーデター軍は、確固たる支持を得た。
やがて、特殊作戦連隊に連れ出されたトライヌスが姿を現すと、市民達は罵声を浴びせた。
狂気に陥っていたトライヌスは、自身へ向けられた現実を知り、同時にその現実を作った(と思っている)暁帝国を憎悪した。
彼の中では、暁帝国は相変わらず辺境の蛮族のままであった。
だが、如何に蛮族と罵ろうとも敗北の現実を変える事は叶わず、インシエント大陸は新たな時代を迎えた。
・・・ ・・・ ・・・
「・・・見たか?」
「ああ、これが暁帝国か・・・」
「大統領の判断は正しかったと言う事だな。」
「大統領も、まさかこれ程だとは思って無いだろう。」
「いずれにしても、暁帝国とは敵対してはならない事がハッキリした。この国はヤバい」
「そうだな。早く帰って、報告しないとだな・・・」
戦闘機隊のオシオキの内容については、御想像にお任せします。




