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第四十三話  準列強国の転落4

 帆船が相手だと、ワンパターンになってしまいますね。


 インシエント大陸北方海域



 此処では、暁帝国前衛艦隊とクローネル帝国艦隊が、戦闘態勢を整えつつ接近していた。

 彼我の距離は、既に15キロを切っている。

「敵艦隊、単横陣を形成しつつ接近中!数、12!」

「じゅ、12隻だと!?120隻の間違いでは無いのか!?」

 べイルスは、慌てて開発されたばかりの望遠鏡を取り出す。

「間違いありません。更に、艦同士の間隔が異常に大きく取られています。」

「奴等、やる気があるのか?」

「全く、正気とは思えませんな。」

「蛮族の考える事は分からんな。」

 見張りの報告に、幕僚達は呆れ返る。

 だが、べイルスは望遠鏡を覗いたまま固まっていた。

「司令官殿、どうされましたか?」

「な、何だ、アレは・・・」

 気になった幕僚達も、望遠鏡を取り出して覗き見る。

「!・・・あ、アレは・・・」

「で、デカ過ぎるぞ・・・!」

「帆を張っていないぞ。一体どうやって進んでるんだ・・・」

 見えて来た暁帝国艦隊の艦影に、呆然と立ち尽くす。

 部下達が大きく動揺する様を見たペイルスは、慌てて声を上げる。

「狼狽えるな。たかが蛮族共の船だ。見てくれの大きさに惑わされるな。」

 この言葉に、落ち着きを取り戻す。

「そ、そうですな。ただ大きければ良いと言うものでもありません。」

「あれ程のサイズでは、無駄に被弾率が上がってしまうでしょうな。」

「!・・・ま、まさか!?」

 幕僚の一人が、突如声を上げた。

 全員が、その幕僚を見る。

「どうした?」

 べイルスは、不安気に尋ねる。

「司令官殿、あの船ですが、センテル帝国で建造されている魔導船の可能性があります。」

「ま、魔導船だと!?どう言う事だ!?」

「ハッ!自分は以前、世界会議に武官としてセンテル帝国を訪れた事があります。その時に目にした船と、あの蛮族の船が酷似しております。見た目以上の戦闘力があると見るべきでは無いかと・・・」

 幕僚のこの言葉に、再度不安が募る。

「そう言う事か。センテル帝国が背後にいるとしたら、これまでの敗北にも納得が行く。だが、何故最果ての未開国などに加担する?」

「全く以って理解出来ません。ですが、奴等は魔導船の使い方を分かっていない様ですな。いくら先進的な魔導船でも、これ程の物量で攻め込まれてはタダでは済みません。」

「何故、そう言い切れる?」

「魔導船には、多数の魔導砲が装備されております。ですが、戦列艦と同じく舷側に最も多くの魔導砲を集中させております。最大限火力を発揮させるには、縦列を組んで舷側を敵へ向けなければなりません。しかし、奴等は単横陣を組んで正面から押し切る構えを見せています。いくら強力な装備を持っていようとも、使い方が分からなければ意味がありません。」

 この説明に、再度安堵した空気が漂う。

「ふむ、良く分かった。では、愚かな未開人共に海戦のやり方を教育してやろう。」

 クローネル帝国艦隊は、左右へ展開して舷側を見せ始める。



 暁帝国艦隊



「格好良いな・・・」

 前衛艦隊を任された 阿部 裕樹 中将 が呟く。

 彼は帆船の大ファンであり、直接お目に掛かれる機会を得て内心大歓喜していた。

(これから沈めなきゃいけないんだよなぁ・・・)

 阿部は、心底残念そうに溜息を吐く。

「司令官、敵艦の割り振りが終了しました。」

「分かった、攻撃開始。」

 この上無くテンションの低い攻撃命令が下った。



 ドン… ドン… ドン… ドン… ドン… ドン…



 砲撃が開始され、一発当たり一隻の敵艦が沈んで行く。

「ああ、勿体無い・・・」

 阿部の呟きを、全員が無視した。



 クローネル帝国艦隊



「敵艦隊、発砲!」

 見張りの報告に、全員が首を傾げる。

「何を考えている?まだ13キロも離れているのだぞ?」

「やはり蛮族ですな。自らの力を過信し過ぎた様です。」

「本当に使い方が分かっていなかったとは・・・」

 べイルスは、この海戦の勝利を確信した。



 ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!



 直後、先頭を航行していた艦が、次々と爆炎と水飛沫を上げて爆沈し始めた。

「な、何が起きたァ!」

 吹き飛んだ艦の木片が、べイルス達の頭上にも降り注ぐ。

「ま、まさか、敵の砲撃で・・・?」

 幕僚の一人が、敵艦の発砲音と味方艦の爆沈が連動している事に気付く。

「そんな馬鹿な!まだ13キロも離れているんだぞ!砲撃など、届くワケが無いだろう!」

「じゃあ、この状況をどう説明するんだ!?砲撃を受けたとしか思えんだろう!」

「何故だ・・・何故、辺境の蛮族如きがこんなモノを!?」

 受け入れ難い現実を前に、誰もが発狂寸前に陥っていた。

 質では完全に負け、数で押そうにも百発百中の命中率と一撃で爆沈する威力の前では、屍を積み上げるだけとなっていた。

「クッ、全員聞けーぃ!」

 意を決したべイルスが声を上げる。

「諸君、残念だがどうやっても奴等を始末する事は出来んようだ。だが、誇り高きクローネル帝国軍人として、奴等に一矢報いてやろうではないか!我等の後方には、守るべき祖国がある事を忘れるな!」

 べイルスの号令により、無謀な突撃が続いた。

 だが、魔導砲の射程圏内へ敵を捉える事は遂に出来なかった。

 クローネル帝国艦隊は、一矢も報いる事無く400隻全てを失い敗北した。

「こ、こんな事が・・・」

 べイルスは、漂流しながら唖然とする。

 準列強国たるクローネル帝国の誇る艦隊が、敵に一撃も加える事無く殲滅されたのである。

 敵艦隊は、自分達を無視して西を目指している。

(終わりか・・・)

 べイルスは、自分達の身と祖国の終焉を予感した。



 ザザァァァァァーーーー・・・



「うわあ!」

「何だぁ!?」

 突如、漂流している部下達を押し退けて、海面が盛り上がった。

「こ、これは・・・!」

 気が付くと、黒い塗装をした艦が目の前にいた。

「まさか、海中を潜っていたのか!?」

 有り得ない予測が浮かぶが、そうでなければこの不可解な状況を説明出来ない。

「暁帝国とは、一体・・・」

 想像を大きく越えた事象の数々に、恐怖が支配する。



 暁帝国艦隊



『敵艦隊の殲滅を確認。』

 事務的な報告が入る。

 阿部は、泣きそうな表情でかつて船であった残骸を見る。

「くぅ・・・うっ、うっ・・・」

「司令、潜水艦隊が到着しました。」

 いい加減鬱陶しくなった副官が割り込む。

「そ、そうか。じゃあ、漂流者の救助を要請してくれ。我が隊は、このまま先行する。」

「分かりました。」

 一刻も早く作戦を終わらせる為に、このまま露払いとして先行を続ける事が決定された。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国北部



 暁帝国陸軍は、既に300キロ前進していた。

 だが、北部を担当する第二軍団は、一部が進撃を停止していた。

 その理由は、フロンド方面軍の本拠地となっている北方都市メリノである。

 フロンド方面軍は再開した大陸戦争に於いて、艦隊と連携してフロンド共和国へ侵攻せよとの命令が下っている。

 だが、暁帝国との戦力差を理解していたカエルムは、スぺキアと通じて命令を密かに反故にしていた。

 更に、各地の停戦派の軍人と結託してクーデターの準備を進めていた。

 ところが、予想を遥かに上回る暁帝国軍の侵攻速度により、準備が出来ない内に暁帝国軍と衝突すると言う最悪の状況に陥ってしまったのである。

 だが、カエルムはこれを好機と捉え、暁帝国軍との接触を図った。


「まさか、本当に来るとは・・・」

 田中大将は呟く。

 メリノの敵から交渉の打診をされたとの報告を聞き、慌てて飛んで(文字通り)来たのである。

 ただの降伏なら此処まで慌てなかっただろうが、暁帝国との協力関係の構築となれば話は変わる。

 当然ながら信用出来ない為、「司令官自ら此方に来て交渉するなら話を聞く。」と言った所、本当に来た事で尚更田中を慌てさせた。


 暫く後、


「失礼します。お連れしました。」

 田中を含む幕僚が揃った天幕の中に、連絡員がクローネル帝国軍の関係者を連れて来る。

「ご苦労。・・・さて、私は暁帝国軍大陸派遣軍司令官の田中と申します。本日は、我が軍に協力したいとのお話であると伺っておりますが?」

「態々、この様な場を用意して頂き感謝します。私は、クローネル帝国フロンド方面軍司令官のカエルムです。本日お伺いしたのは先にお話しした通り、戦後を見据えての協力関係の構築です。」

 挨拶もそこそこに、早速本題に入る。

「戦後とは?」

「私は、以前から貴国に高い関心を持っておりました。その過程で、貴国が信じられない程に高い技術力や国力を持っている事を知りました。現在の貴軍の快進撃も、実態を知っていれば驚くに値しません。」

 実際には、実態を知って尚想像の上を行く事態に大きく驚いていたのだが、バレなければ大した問題では無い。

「話が見えませんなぁ・・・結局何が言いたいのでしょう?」

「結論を申しますと、我がフロンド方面軍はクーデターの準備をしております。」


 「「「「「!!?」」」」」


 田中以下、幕僚達は度肝を抜かれた。

「自分は、貴国と敵対すべきでは無いと考えております。ですが、皇帝以下の主戦派達はこの期に及んでも「何が何でも蛮族共を滅ぼす。」と言って憚りません。このままでは、我が国は滅亡してしまう。クダラ王国の様に・・・祖国を守る軍人として、それは止めねばなりません。」

 カエルムの言葉に、誰もが驚いた。

 プライドばかりが高いと思っていたクローネル人に、この様な人物がいるとは思っていなかったからである。

 しかし、それとカエルムの主張を受け入れるかは別問題である。

「貴方の主張は良く分かりました。ですが、それを受け入れたとして、我が方にどの様なメリットがあるのでしょう?それに、客観的に見てクーデターが成功するとも思えません。」

「クーデターに関しましては、軍副総司令官であるスぺキア殿が協力しております。現在、ライマでは我がフロンド方面軍は、フロンド共和国へ進撃している事になっております。」

 付け入る隙が大きいと言える状況が既に出来上がっていると言う事である。

「そして、貴国に対するメリットですが、我が国発祥の地である西岸地帯とその周辺地域を安堵して頂ければ、それ以外は全て貴国に譲渡致します。」

 破格とも言える条件だが、協力するメリットとしては不足していた。

「相当な覚悟とお見受けしますが、それだけでしたらこのまま全土を占領してしまえば良いだけです。」

(手強いな・・・だが、)

「勿論、それだけではありません。然る後に、此処より西の大陸に存在する各国との仲介をお約束致します。」

「我が国には、優秀な外交官が大勢おります。現在は本大陸の情勢に忙殺されておりますが、自力でどうにか出来る程度の問題です。」

「確かに、貴国は我が国を降す事で準列強国の地位を手に入れるでしょう。ですが、本大陸より西の勢力は、果たして受け入れるでしょうか?」

 幕僚達はハッキリと動揺した。

 何しろ、これまでが酷過ぎたのである。

 実戦で力を見せても、直接体感しなければ「辺境の蛮族の戯言」で片付けられており、此方を下に見る風潮が抜けるのにかなりの時間を要した。

 増して、これからの相手は準列強国や列強国の影響下へ入った地域ばかりである。

 クローネル帝国を降しても新参者である事は変わらない為、尚も下に見られる恐れがあった。

 それに加えて、国内では経済的な問題が存在している。

 何処よりも高い国力を有するが故に、その国力を発揮する場が限られているせいで、深刻な不況へ陥りかねない状況が続いているのである。

 今の所は、大陸でのインフラ整備を中心とする開発が続いている事もあって大きな需要が生み出されているが、それが終われば産業革命以前の小さな需要しか残らなくなる。

 大陸二つを勢力下に置いても、尚不足しているのである。

 そうなれば、更に別の勢力と接触するしか無い。

 だが現状では、まともな関係を構築するのにどれ程掛かるか分からない。

 更に、国内問題が表面化する前に解決出来る保証も無い。

 しかし、此処で敗北しようとも準列強国としての影響力を持ったクローネル帝国が間に立てば、問題解決までの時間を一気に短縮出来るかも知れない。

「・・・本国に連絡を取りましょう。」

 田中はそれだけ言うと、事のあらましを本土へ伝えた。


 その後、メリノは無血開城され、秘密裏に暁帝国による支援を受ける事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 第一軍団



 一方此方は、第二軍団と違い激しい抵抗を受けていた。

 この一帯で、最も整備された地域を進んでいるのだから当然とも言える。

 だが、度々立ち塞がる敵軍を容赦無く返り討ちにしつつ進撃を止める事は無かった。

「クソが、とんでも無ぇ威力だ!」

「何であの距離から届くんだ!?魔導砲が役に立たないぞ!」

「何とかして一矢報いるんだ!」

 圧倒的な戦力差によってクローネル帝国軍は壊乱状態に陥っていたが、祖国が蹂躙されていると言う事実が彼等に抵抗を諦めさせなかった。

 至る所で黒煙が上がる中、統率の取れた騎兵部隊が果敢に突撃を始めた。

「後は、我々に任せろ!」

「おお、近衛騎兵だ!」

「頼む、奴等を駆逐してくれ!」

 互いに確執があっても、共に前線へ立てば戦友同士である。

 兵士達は、近衛に惜し気も無く声援を送った。

「敵は強力な鉄馬車だ!魔導砲でも効果は薄い!だが、数では我等が勝っている!迅速に距離を詰め、奴等に肉薄せよ!己を犠牲にしてでも此処を守り通せ!これ以上、我等が領地で好きにさせるな!第一近衛騎兵大隊の名に懸けて!」

 大隊長の訓示を受け、皆が雄叫びを上げて突っ込む。


『三キロ先、騎兵が急速接近中。』

『攻撃目標変更、接近中の騎兵を優先して撃破せよ。』

『了解』

 中隊規模の一〇式戦車から、近衛騎兵へ向けて一斉に主砲弾が吐き出された。



 ドオォォォーーーーーン



 一瞬にして、半数が吹き飛ばされる。

『敵騎兵、尚も接近。』

『第二射用意・・・撃て』

 第二射が放たれ、近衛騎兵はほぼ全滅した。

『これより、残存戦力の掃討に移る。降伏をして来る敵兵に注意せよ。』

 僅かに残った近衛も掃討され、その様子を後方で見ていた兵士達は、絶望の内に大半が掃討された。

 トライヌスの死守命令も意味を成さず、クローネル帝国は亡国となりつつあった。



 ようやく出て来た近衛が出オチになってしまいました。

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