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第四十二話  準列強国の転落3

 今回は、戦闘回ではありません。

 クローネル帝国  ライマ



 皇帝の間でトライヌスは、フロンド方面の報告をスぺキアから聞いていた。

「現在、多少の抵抗は見られますが、予想よりも順調に進軍しております。」

「ほう、順調なのか。」

「はい。先の攻勢で、敵は大きく消耗したのでしょう。抵抗は度々しておりますが、明らかにこれまでよりも弱く、我が方の損害は軽微に留まっており、作戦の遅れも許容の範囲内に収まっております。」

 スぺキアの報告に、トライヌスは機嫌を良くする。

「クックックッ、今まで散々手こずらせてくれたフロンド共和国もいよいよ終わりか。スぺキア、フロンド方面へ艦隊を向かわせている。連携して確実に潰せ!」

「ハハッ!」

(何隻向かわせても同じだ。全て沈められて終わる。)

 自信満々な返事とは裏腹に、スぺキアの内心は冷め切っていた。

(怪しいな・・・あのフロンド共和国が弱体化したからと言って、こうも簡単に我が軍の進撃を許すモノだろうか?)

 その内心を察したのか、周囲に控えている家臣にスぺキアを疑う者がいた。

 その空気を察知したスぺキアは、言い訳を考え始める。


 「し、失礼致します!緊急事態です!!」


 官僚が、大慌てで皇帝の間へ駆け込んで来た。

「パルンド方面の主力部隊が、多大な損害を出して敗走したとの情報が入りました!」

「「「「「!?!?!?」」」」」

 あまりにも衝撃的な報告に、全員が驚愕の表情で固まる。

「更に敵は追撃を開始し、国境線を突破して我が国領内へ雪崩れ込んでいるとの報告です!」

 誰も言葉が出ない。

 国境が突破された事自体は、これまで何度もあった。

 特に内政に勤しんでいた時期は、不意討ちで国境を突破される事はよくある事であった。

 だが、今回は事情が違う。

 過去に例が無い大部隊を編成し攻勢を掛けたにも関わらず、正面からその戦力を粉砕された上で突破されてしまったのである。


 「何だ、これは・・・何なんだこれは!!」


 トライヌスは、これまでに無い怒鳴り声を上げる。

(よし、これで時間が稼げる。)

 トライヌスの怒鳴り声に全員が竦み上がる中、スぺキアは内心ほくそ笑んだ。

 パルンド方面の敗北により、フロンド方面へは当分の間意識が向かなくなる事は間違い無い。

 その隙にクーデターの準備が整えば、言う事無しである。

「何故だ!何故こうも蛮族共に連敗する!?我等より劣った蛮族共に!?」

(奴等が、我等よりも優れているからだ。)

 声に出さず、スぺキアは答えた。


 その後のトライヌスは、ヒトラーの様に無意味な死守命令を連発する事となる。

 家臣と兵士達が必死に命令を遂行しようとする傍らで、スぺキアはフロンド方面軍と連絡を取りつつ、クーデターを起こす機を待ち続けた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国東部



 国境線を越えた暁帝国陸軍三個軍団は、敵の抵抗を殆ど受けないままこの世界の常識を遥かに超える速度で進撃していた。

「だ、駄目だ、追い付かれる!」

「クソ、蛮族如きが調子に乗りやがって・・・やるぞ!」

「勝手にやってろ!俺はまだ死にたく無ぇ!」

「あああ・・・もう無理だ、囲まれた・・・」

 所々で逃げ遅れた敵兵を包囲しつつ、西へ急ぐ。


「先頭部隊、国境線から100キロ地点に到達しました。」

「第二軍団より、捕虜の人数が1万人を超過したとの事。」

「第一軍団の正面に、急造の防御陣地を確認。敵兵力、約2万。」

 後方の司令部で、田中大将は戦局の推移を見守る。

「流石は大陸国家だな・・・」

 国境線からライマまでは、直線距離で約2500キロも離れている。

 いくら現代水準の軍でも、これ程の距離の進軍は途轍も無く大きな負担である。

 田中は、加速度的に増えて行く物資の消費量を見て頭痛を覚えた。

「海兵隊には頑張って貰わんとな。」

 西海岸へ向けて出撃しているであろう、海兵隊のいる方向を睨む。




 ・・・ ・・・ ・・・




 パルンド王国  ピルスカ



 国王は、武官からの報告を聞いていた。

「国境砦の戦いは、暁帝国の圧勝で幕を閉じて御座います。」

「そうか、勝ったか!して、被害は?」

 勝利と聞いて喜ぶも、それ以上に被害を気にする。

「被害は御座いません。一人の戦死者も、負傷者すら出ておりません。」

「何と、そんな事が有り得るのか!?」

 想像以上の大戦果に、国王は疑念が浮かぶ。

「陛下、陛下と近衛隊長の仰る通りでした。」

「どうした、何があった?」

 武官は、戦いの詳細を語る。

「これ程とは・・・」

 国王は、暁帝国が他を圧倒する力を持っている事を知っていた。

 だが、国王が知る力でさえほんの一部に過ぎない事を思い知らされ、眩暈を覚える。

「私は、自分が恥ずかしい。近衛隊長からの再三に渡るの忠告にも耳を傾けず、自分の信じるものこそが現実だと思い込んでおりました。我が第一軍団が、恥晒しであった事を思い知らされました。」

 涙ながらの武官の独白を、国王は黙って聞く。

「私の様な思い上がりは、一国の代表者たる資格はありません。陛下、どうか私を罷免して頂きたい。」

「!!」

 想像以上の覚悟の重さに、国王は驚愕した。

(これが、あのプライドの高かった武官と同じ人間なのか!?)

「陛下、どうか私の進言をお聞き入れ下さい!」

「・・・では、答えよう。このまま第一軍団に残れ。」

 今度は、武官が驚愕に包まれる。

「な、何故・・・?」

「良いか、お前の様な者こそが必要なのだ。自身の間違いに気付き、反省し、そして次に生かす者がな。」

 今度は、武官が黙って聞く。

「残念な事だが、それを出来る者は多くない。特に、お前の様な立場の者は保身が先立つ。だが、お前は違った。だからこそ必要なのだ。我が軍は、徐々に腐敗しつつあるのが現状だ。早急に建て直さねばならんが、それには自らの間違いを認める者でなければならん。お前の様な者で無ければな。」

 武官は、大粒の涙を流す。

「分かったら職務に戻れ。これからやらなければならん事は多いぞ?」

「ハッ!」

 パルンド王国は、静かに新たなスタートを切る。




 ・・・ ・・・ ・・・




 フロンド共和国北方海域



 元孤立派の軍人達は、目の前の巨大艦を呆然と見つめていた。

「あれが、兵を上陸させる為の艦だと?あれ程の艦が、戦闘艦では無いと言うのか?」

 彼等が見ているのは、揚陸艦 輸送艦 機動揚陸プラットフォーム である。

 海洋国家ならば垂涎の装備であるそれらを見て、戦闘艦以外に大きな力を入れている暁帝国の姿勢に疑問を持つ。

「確かに、輸送用の艦は他国への進出を考えているのなら必要だが、此処まで巨大なモノを作る必要があるのか?」

「聞いた話だと、一部を除いた戦闘艦よりも遥かに巨大らしい。」

「正面戦力以外に此処まで力を入れるとはな・・・聞いた話では、センテル帝国も同じ方針らしい。」

「不可解な事だな。いくら後方の戦力を充実させても、正面戦力がやられたら何にもならんだろうに。」

 近世以前で、補給を含む後方支援に力を入れていた例は多くない。

 鉄道が出来る以前の輸送能力では、盤石な後方支援体制の構築は不可能だからである。

 その様な疑問を余所に、艦隊は出港した。


 出港した艦隊は、以下の通りである。


 第三艦隊

  第三戦隊

   CVN 蒼龍  CG 霧島  DDH 涼月  DD 親潮  DD 早潮  DD 磯潮

  第一一戦隊

   CG 高雄  CG 愛宕  DDH 花月  DD 白雲  DD 朝雲  DD 山雲

 第四艦隊

  第四戦隊

   CVN 飛龍  CG 榛名  DDH 初月  DD 渦潮  DD 高潮  DD 磯波

  第一二戦隊

   CG 鳥海  CG 摩耶  DDH 夏月  DD 夏雲  DD 峯雲  DD 夕雲

 第一〇一艦隊

  BB 大和  BB 武蔵

 第一揚陸艦隊

  LHD 沖縄  LPD 天龍  LPD 龍田

 第二揚陸艦隊

  LHD 淡路  LPD 球磨  LPD 多摩

 海上補給総隊

  AOE 摩周  AOE 浜名

 この他に輸送艦が後続し、潜水艦が先行している。


「また、俺か・・・」

 角田は、溜息を漏らす。

 今回も、戦死者や捕虜を出す事は許されていない。

 海戦だけならば、前回の経験からして難しくは無いだろう。

 だが、今回は上陸戦である。

 上陸戦は、第二次世界大戦が物語っている通り、圧倒的な火力と物量を投入しても上陸側へ多大な出血を強要する。

 相手は近代戦を知らないが、上陸戦に於いてそれがどの程度のアドバンテージとなるのか分からない。

「帰ったら、山口元帥の愚痴を聞かなきゃいけないし・・・」

 いつかの様に、山口は角田に対して猛烈な嫉妬を飛ばしているのである。

『潜水艦隊より入電!敵の大艦隊を確認!数・・・400!』

 驚き交じりの報告が入る。

「楽はさせてくれないか・・・総員、戦闘配置。」

 艦隊の動きが慌ただしくなる。

 角田は、前回同様砲撃戦でカタを付ける為に、二個戦隊を先行させた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国艦隊



 彼等は、東を目指していた。

 風送りの魔道具で、7ノットの巡航速度を安定して発揮する。

「この調子で行けば、残り二日もあれば到着するだろう。」

 艦隊司令官 ペイルス は、そう呟いた。

 彼等は、フロンド共和国に対して海からの攻撃を加えると同時に、迎撃に出て来るであろう暁帝国艦隊を撃滅する事を目的としている。

 彼等は、勝利を疑っていなかった。

 暁帝国は、確かに強いのだろう。

 だがそれは、並の大国に比べればである。

 陸戦では後れを取ったが、それは敵が強力な陸軍国家だからだろう。

 その反面、艦隊は弱小である可能性が高い。

 並の国よりは強いだろうが、海戦の勝敗は質で決まる。

 我が艦隊は、質が高い上に数も多い。

 負ける理由が無い。

 そう考えていた。

「司令官、先頭の艦より前方から艦影らしきものが接近中との事です。」

「何、敵艦隊か!?」

 連絡員の報告に、ペイルスは目を白黒させる。

「そんなまさか、いくら何でも早過ぎます。」

 部下の一人がそんな事を言うが、すぐに反論が返って来る。

「いや、分からんぞ。もしかしたら、敵も我々と同じ事を考えているのかも知れん。」

「我々と同じ?まさか、敵が我が国の沿岸へ攻撃に向かっていると言う事か!?」

「その通りだ。十分考えられると思うが?」

 一瞬の静寂の後に、笑い声が辺りを包む。

「馬鹿な、そんな大それた事を辺境の未開人が考えるとは思えん。」

「いや、仮に本当だったとしても、我が国との力の差を理解出来ん愚か者と言うだけの事だ。」

「我が国の沿岸には、多数の砲台がある。近付く前に全滅するのがオチだな。」

 次々に罵倒の声が上がる。

 少しして、ペイルスが手を挙げる。

「まあ、敵が何を考えていようとも、此処で我が艦隊と遭遇したのが運の尽きだ。敵艦隊には、我が国の勢力圏へ侵入する前に御退場戴こう。」

 それだけ言うと、戦闘配置を下令した。

 船員達が慌ただしく動き始め、艦隊も陣形を取り始める。

「我が国の総力を挙げた艦隊だ。受け切れるとは思わん事だな。」

 ペイルスは、そう呟いて前方を睨む。



 次回は、久しぶりの海戦になります。

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