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第四十一話  準列強国の転落2

 最近、東郷を出しづらくなっているのが悩みです。

 パルンド王国  国境砦付近



 夜明け前の薄明るい空を背に、150騎の黒竜から成る竜騎兵軍団が編隊を組んで飛行していた。

「間も無く国境砦上空だ!警戒を怠るな!」

 猛烈な風の音に負けない大声で、編隊の先頭にいる男が叫ぶ。

 その時、前方から複数の光が接近している事に気付く。

「第一大隊より軍団長へ、前方より何かが接近!」

『正確に報告しろ!何が近付いている!?』

 通信魔道具から、怒鳴り声が返って来る。

「炎の様な光を放つ何かが接近中!詳細は不明!」

『全く分からん、接近して確認しろ!』

「了か」



 ドドドドドドドォォォォォーーーーーン



 立て続けに多数の黒竜が爆散した。

 周囲にいた者達は、あまりの衝撃に声も出せない。

『オイ、何が起きた!?応答しろ、オイ!』

 通信魔道具から怒鳴り声が聞こえて来るが、彼等の耳には入らなかった。



 国境砦後方



「第一射、全弾命中を確認。」

 竜騎兵軍団に攻撃を仕掛けているのは、第一師団隷下の高射連隊である。

 一一式短距離地対空誘導弾による一斉射撃を行っている。

 同連隊には、三式中距離地対空誘導弾もあるが、黒竜が相手では使うのが勿体無いとの判断から、レーダーだけを起動している状態にある。

「第二射、準備完了。」

「発射」



 シュパパパパパパパパパァァァァァァーーーーーー・・・・・



 多数のミサイルが、薄明るい空の闇へ消えて行く。

 数拍置いて、発射したミサイルと同じ数の閃光が遠方で確認された。

「第二射、全弾命中を確認。続いて、第三射の準備に入ります」

 程無くして、竜騎兵軍団は全滅した。


 夜明け後、


 明るくなった国境砦付近には、大量の黒竜の残骸が散乱していた。

 パルンド側の武官達は、呆然とその惨状を眺める。

 そこへ、藍原がやって来る。

「偵察の結果、付近の黒竜は殲滅したと思われます。」

 大きな衝撃が走る。

「これで全てと言う訳では無いとは思いますが、当分の間は空からの攻撃に怯える事は無いでしょう。」

 それだけ言うと、さっさと立ち去った。



 クローネル帝国軍陣地



「竜騎兵軍団との連絡は、未だに回復しません。」

「そうか・・・」

 ハデリウスは、通信魔道具を通して竜騎兵達の断末魔の叫びを聞いていた。

 そして、遠くから断続的に響く爆発音も聞こえていた。

 竜騎兵軍団との連絡が完全に途絶えたのは、それからすぐの事である。

(どうなってるんだ!?状況からすれば、竜騎兵軍団は全滅したとしか考えられん。だが・・・)

 想像を超えた事態の数々に、大きく混乱する。

「団長、斥候が帰還しました。」

「どうだ?」

「・・・国境砦付近に、多数の黒竜の死骸を確認したとの事です。」

「・・・・・・」

 考えたくも無い最悪の事態が、現実となってハデリウスに襲い掛かった。

「皆を集めてくれ。」

 それだけ言うと、天幕の奥で座り込んだ。


 一言で言うと、その日の軍議は荒れに荒れた。

「駄目だ、どうやっても負ける未来しか浮かばない・・・」

「何を弱気になってる!?相手は、弱小国の集団と最果ての未開人だぞ!」

「この期に及んで何を言ってる!?歩兵を吹き飛ばしたあの魔術に加え、今度は竜騎兵軍団が全滅したんだぞ!」

「未明に出撃したから事故を起こしただけだ!奴等に、竜騎兵を殲滅する程の力など無い!」

「全騎が事故を起こす方が有り得んわ!リスクの高い方法だったとは言え、精鋭である竜騎兵が事故で全滅など起こり得ん!」

「なら、奴等は一体何をしたんだ!?」

 近衛軍団だけで無く、軍の主立った指揮官も交えて議論しているが、想像を超え過ぎた事態に誰も彼もが混乱していた。

 結論の出ないまま、時間だけが浪費されて行く。


 翌日、



 国境砦



 早朝にも関わらず、全員が配置に付いていた。

「間も無く、砲撃開始時刻です。」

 藍原の脇に控える連絡員が言う。

 隣にいる武官達は、緊張した顔で敵陣の方向を見つめていた。



 キュアァァァァァァーーーー・・・・

 ドォン ドォン ドォン ドドドォン・・・



 甲高い音が上空から聞こえたかと思うと、敵陣で連続して爆炎が吹き上がり、遅れて腹に響く爆音が響き渡る。

(あ、あんな遠くまで攻撃が届くのか・・・)

 魔導砲とは比較にならない攻撃に、武官達は冷や汗を流す。


 自分達は、パルンド王国有数のエリートの筈だった。

 噂で伝え聞く程度の暁帝国など、役に立たないと思っていた。

 そもそも、その噂自体が荒唐無稽過ぎて信じられない。

 かつて、皆が言っていた様に妄想と現実の区別が付かないのと言う話は、本当だった様だ。

 しかも、噂通り魔力を持たず魔術を使えないと来た。

 魔術を使えない蛮族如きが、まるで列強国が上げたかの様な戦果など挙げられる筈が無い。

 だが、時間が経つ毎にその妄想話を信じる者が増えて行き、近衛でさえ信じてしまった。

 一体、どんな卑怯な手段を使って信じさせたのか・・・

 彼等を妄想から解き放つのは、我等しかいない。

 そう思っていた。

 だが目にしたモノは、妄想の産物だと思い込んでいた光景が現実に行われている光景だった。

 そこで、漸く気付いた。

 妄想と現実の区別が付いていないのは、我等だと言う事を。

 第一軍団と言う狭い殻に閉じ籠り、エリートと言う実体の無い称号で造成された、安いプライドを守ろうとしていただけだと言う事を。

 安いプライドを守る為に、奴等を不当に貶めていただけだと言う事を。

 クローネル帝国は、その事に気付かずに暁帝国と敵対する道を選んでしまった。

 心の底では理解していながらも、プライドを慰める為に自分の方が上だと思い込み、致命的な間違いを犯してしまった。

 一歩間違えれば、自分達もああなっていた。

 守るべき民を巻き添えにして・・・

 二度と間違えてはならない。

 近衛の言う通り、民の言う通り、暁帝国と行動を共にしよう。

 そして、彼等から学んで行こう。


 パルンド王国のエリート達は、新たな決意を胸に新たな選択をした。

 一方、旧来の選択に固執し、死に行く者達も存在する。



 クローネル帝国軍陣地



 それは、突然起きた。

 聞き覚えのある音が空から聞こえて来たかと思うと、国境砦前で兵士達を吹き飛ばしたあの光景が再現された。

 近衛も 軍も 士官も 兵も 老いも 若いも 関係無く、平等に爆炎に捲かれて逝った。

「な、何故、あの攻撃が・・・国境砦から10キロも離れてるのに・・・」

 ハデリウスの問いに答える者はいない。

 その様な些細な問いは、凄まじい爆発音と逃げ惑う兵士達の喧騒に掻き消されていた。

 最早、軍としての統制は全く取れず、それぞれが勝手に逃亡を始めていた。

 だが、いくら逃げてもあの攻撃は収まらない。

「畜生、何なんだよコレは!?」

 救いようの無い状況に喚き始める者も出るが、誰も意に介さない。

 誰もが、自身の命を守るのに精一杯であった。

 ところが、不意に爆発音が収まる。

 恐る恐る辺りを見回すと、あの恐ろしい爆発はもう収まっていた。

「魔力が切れたか、ざまあ見ろ!」

「言ってる場合か!さっさと逃げるぞ!」

 余裕の出来た彼等は、怪我人を気遣いながら逃避を続ける。



 バタタタタタタタタタタタタ



 後方から、突然聞き慣れない音が近付いて来た。

「こ、今度は何をする気だ!?」

「勘弁してくれ!此処までやっておいてまだ足りないのか!?」

「もう何でもいい!殺るならさっさと殺れ!」

 国境砦の方向から聞こえて来た音に、誰も彼もパニックを起こし始める。

「ん?お、オイ、何だアレは!?」

 一人の兵士が、空を指さす。

「何!?・・・な、に?」

「化け物・・・」

「勝てる訳が無かったんだ・・・俺達は、神か悪魔を敵に回してたんだ!」

 近付いて来る飛行物体を目にした者達は、抵抗どころか逃げる意思も失いその場に立ち尽くす。



 暁帝国軍航空隊



 クローネル帝国軍は、砲撃に恐れを為して逃亡を始めた。

「追撃する。」

 藍原の指示により、航空隊による追撃戦が開始された。

 直ちに、AH-64とUH-60が離陸する。

『第一航空隊より第一砲兵連隊へ。間も無く、砲撃圏内へ到達する。砲撃を中止されたし。』

『此方第一砲兵連隊、了解した。次の砲撃を最終弾とし、待機する。』

 砲兵隊の真上を多数のヘリが通過する。

 同時に、遥か先で爆炎が上がるのが確認出来た。

『最終弾の着弾を確認した。これより突入する。』

『了解、幸運を。』

 砲兵隊との交信が終わり、今度は自身の部隊への交信を開始する。

『隊長機より全機へ。我々は、これより逃走を開始した敵軍の追撃を行う。追撃に際しては、明確に抵抗の意思を見せる者以外には降伏勧告を行え。降伏を確認したら、直ちにブラックホークに乗せて後送しろ。騙し討ちに注意しつつ、迅速に任務を遂行せよ。』

 隊長機の指示が終わり、小隊毎にバラけ始める。

『此方第二小隊、敵の発砲を確認。これより掃討する。』

『此方第一小隊、敵の一団を発見。抵抗の素振りは見えない。これより降伏勧告を行う。』

『此方第三小隊、敵の降伏勧告受領を確認。これより回収に移る。援護求む。』

 作業は順調に進んだが、あまりの敵の数に全く手が回らず、多くを取り逃がしてしまう。

 クローネル帝国のパルンド王国侵攻は、完全に失敗した。



 国境砦



 その日の夜、司令部で指示を飛ばしている藍原の元へ、パルンド王国の武官達が訪れた。

「急な訪問ですね。」

「連絡も無しに訪れてしまって申し訳ない。」

 藍原は、武官の言葉に眉をひそめる。

 同時に、これまでとは明らかに異なる武官達の態度を警戒する。

 武官達は、そうなる事を分かっていたのか肩を竦めるだけであった。

「・・・大変失礼した!」

「!?」

「此度の戦いで、我等が貴国に対して如何に偏見を持っていたかを思い知らされた。我等は、貴軍と行動を共に出来る事を誇りに思う。どうか、これまでの無礼な態度を許して欲しい。」

 暁帝国側は、度肝を抜かれた。

 彼等のプライドが高い事は当初から分かっており、相互理解を進めるのは困難だろうと思っていた。

 自ら謝罪に訪れるなど、想像もしていなかったのである。

 対応に困った彼等は、藍原を見る。

「頭を上げて下さい。我々は、困難を共にする盟友です。あなた方の偏見がどの様なものかは分かりませんが、これから解決して行けば良いのです。」

「いや、しかし」

「それと無礼と言われましたが、その様な事はありましたか?」

「え?」

 武官は、藍原の言葉に呆然とする。

「師団長、どうだったかな?」

「ウェッ!?」

(あー・・・ご愁傷様。)

 助けを求める師団長の目線を、全員が避けた。

「え、えーとー・・・記憶に御座いません。(キリッ」

「・・・分かった。あなた方がそれで良いならそう言う事にしましょう。今後、何か不便があれば遠慮無く言って欲しい。出来る限り便宜を図ります。」

 それだけ言うと、司令部を後にした。

 後に残された者達は、暫くの間動けなかった。

「司令官・・・」

 真っ先に声を上げたのは、師団長である。

「酷過ぎます!どうしてあそこで私に振るんですか!?」

「貴様等が私に丸投げしようとするからだろう。」

「なら、何で私だけに!?」

「部下の不始末は上司の責任だろう。責任を取る場を用意してやったんだから、感謝の言葉があっても良い位だ。」


 「理不尽だー!」


 夜の砦に、師団長の声が響き渡った。



 現実も、行動すれば理解される世の中だったらいいんですけどねぇ・・・

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