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第三十九話  再燃

 またまた戦乱が始まりそう。

 クローネル帝国  ライマ



 此処では、近衛軍団が開戦の準備を着々と進めていた。

「新型魔導銃の配備状況は?」

「九割が更新を終えています。ただ、弾薬の供給が間に合っていません。」

「仕方無いだろう。更新に伴う訓練でかなり使ってるからな。暫くすれば落ち着く筈だ。」

 ハデリウス指揮の下、多少の問題を抱えながらも近衛の強化は順調に進んでいた。

 しかし、その一方で解決出来そうも無い問題もあった。

「団長、また直談判です。」

「またか・・・」

 近衛の指揮下に置かれた軍では、不満が爆発していた。

 元々、仲の良くない両組織を無理矢理一つに纏めているのだから当然の流れである。

 特に、軍の中堅将校達はこの状況を撤回させる為、連日ハデリウスへ直談判を行っていたのである。

 上級指揮官達はこの状況を抑えようとしているが、血気盛んな若手が相手では上手く行かず、更には継戦派と停戦派に分かれて内輪揉めを始めてしまう始末であり、近衛から指揮権を奪い返すなど夢のまた夢となってしまっていた。

「烏合の衆であると言う事が証明された形となったが、物量の恐ろしさも証明されたな・・・」

 懲りずに押し寄せる中堅将校達の人海戦術に、流石のハデリウスも閉口していた。


 暫く後、


「全く、皇帝陛下の御決断を理解出来ない者がこれ程多いとは、嘆かわしいものですな。」

「・・・そうだな・・・」

 副官の言葉に、ぐったりと椅子に身を預けたハデリウスが答える。

 若い世代の有り余るエネルギーの前には、歴戦の努力家と言えども苦戦を強いらていた。

 増して、一度に複数人で来られては、いくらハデリウスでも体力と神経を一気に削られてしまう。

「いっその事、此方から奴等に直談判してみては?」

 矢面に立っていない副官が提案する。

「・・・そうだな。貴様が陣頭指揮を執るなら考えてもいいぞ。」

「あ、いえ、私は軍政が専門ですので・・・」

 副官の逃げ腰なセリフに、ハデリウスは軽蔑の視線を向ける。

 それでも、予算や後方支援、更には外部のお偉いさんとの折衝等で縦横無尽の働きをしている事もあり、此処で責める訳にも行かない。

 近衛による直談判は数秒で拒否され、ハデリウスの苦労は続く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  昭南島 シーエン



 この街の総督府には、マキシマスと副官が訪れていた。

 自発的な訪問では無く、連行と言う形でだが。

 この街でも、二人は驚愕していた。

 他と比較して優先度が低かったこの街では、再開発が今も続いている。

 彼等の理解の範疇を越えた重機の数々により、彼等の常識を遥かに超える速度で開発が進んでいた。

「暁帝国とは、どれ程の国力と技術力を持っているのだ・・・」

 サンカイを超える規模で開発が行われるシーエン。

 しかも、クローネル帝国と戦いながら。

 更に、旧ハンカン王国人を厚遇しながら。

 根本的に次元の違う力の差を立て続けに見せ付けられて恐怖に支配されていると、総督府の応接間に到着した。

「此方で暫くお待ち下さい。」

 職員は、それだけ言うと応接間を後にした。


「総督、ゲストが到着したそうです。」

「そうか。えーと・・・マケマシタだっけ?」

「マキシマスです。本人の前でその言い間違いは絶対にやめて下さいよ。」

 伊藤と秘書は、いつものコントを繰り広げた後、応接間へ移動した。



 ガチャッ



「お待たせしたね。」

 応接間へ入った伊藤は、フレンドリーな口調で語り掛ける。

 マキシマスと副官は、意外そうな表情をする。

「どうしたのかな?取って食ったりしないよ?さあ、座ってゆっくり話そうじゃないか。」

 促されて、全員が座る。

「昭南島総督の伊藤だ。こっちは僕の秘書だよ。」

「・・・クローネル帝国軍パルンド方面軍指揮官のマキシマスです。此方は、私の副官です。」

 何処までも軽い伊藤に、困惑しながら自己紹介を済ます。

「急に呼び出して悪いね。ただ、いくつか確認したい事があったからね。まずは、クダラ王国についてだな。」

 イサークを拘束した事により、大陸戦争の発端は明らかとなった。

 だが、本人がそう言ったからと言って全てが事実とは限らない。

 東郷を含む暁帝国上層部は、裏でクローネル帝国がクダラ王国と繋がっていたのでは無いかと疑っていた。

 その事を聞いたマキシマスは、明確に否定する。

「それは有り得ない事です。こう言っては何ですが、クダラ王国は我が国と敵対する国家の中では、最弱と評価されておりました。それこそ、鉄砲玉としても使えない程に貧弱であると考えていたのです。」

 これには、伊藤達が驚いた。

 曲がりなりにも、反クローネル帝国国家一の大国であった国である。

「てっきり、一番警戒していると思ってたのに。」

「確かに、国土や国力はそれなりです。ですが、一言で表現すれば、御山の大将に過ぎないと結論付けておりました。敵対国の内輪揉めでも誘発してくれればとは考えておりましたが、それも小規模なものに留まるだろうと判断されておりました。」

 感情の機微に敏い妖人族による、諜報活動の賜物である。

 その後を副官が引き継ぐ。

「しかし、今回は事情が違いました。クダラ人は、強い怒りや嫉妬心が日頃の自己中心的な感性を上回っていたのです。」

 想像以上に敵対国の実態を把握していた事に、流石の伊藤も絶句する。

「今回に限り、隙を突けると判断したのです。そして、攻撃は成功した。あなた方が現れるまでは・・・」

「現地住民に対する略取も含めてかな?」

 伊藤は本題に入る。

「それは、どう言う事でしょう?」

 マキシマスは、問われている意味が分からなかった。

 敵国へ侵攻しての略奪等は、かつての地球でも常識的な行いであった。

 ハーベストでも同様であるが、現代の地球と同じ価値観を持つ暁帝国では、その様な事を許さない。

「貴軍によって、数万のパルンド王国民が殺され、数十万が生活の術を失っている。我が軍の支援で何とか持ち直しつつあるけど、特に南部は焦土作戦をやられたせいで未だに野晒しで眠ってる住民がいる。」

 マキシマス達は、応接間の空気が冷え込んで行くのを感じた。

 事此処に至り、暁帝国が何を問題にしているのかを漸く理解した。

 しかし、彼等は彼等の常識で反論を始める。

「なるほど、確かに酷い状態ですね。しかし、私は軍指揮官です。兵士達の命を預かる身です。ならば、兵士達の安全と健康を最優先で考えねばなりません。弱肉強食のこの世界で、民衆の気を遣っていては何処かで逆襲される事も有り得ます。更に、数十万もの大軍を維持するには、本国からの補給だけではとても間に合いません。」

「だから、弱者を食い物にして生き延びたと・・・」

「有り体に言えばそうなります。生き延びる為には、強者となるしか無いのです。」

 伊藤は目を閉じて頷き、秘書は頭を抱えて首を振る。

「フムフム・・・何とも野蛮な事で。」

 伊藤の言葉に、マキシマス達は凍り付く。

「マキシマス君、君は軍人としては優秀と言えるだろうね。戦術的視点に限定すればだけど。」

「な・・・あ・・・え・・・?」

 言葉にならない言葉を吐くマキシマスを放置し、伊藤は続ける。

「君達の行いで、クローネル帝国は滅亡に一歩近付いたんだよ。パルンド王国では、クローネル帝国に対する恨みが物凄い事になってる。それ以外の国も危機感を募らせてる。仮に貴国がこの先の戦いに勝ったとしても、憎きクローネル帝国の支配を素直に受け入れる人は少ないだろうね。」

 副官は、伊藤の言わんとする事を理解した。

「そうなれば、反乱が頻発してまた多くの血が流れる。力ずくで抑えようとすれば、また恨みが溜まる。そんな事を繰り返してれば、疲弊してクローネル帝国そのものが崩壊するだろうね。そして、戦乱の時代が訪れて弱者から死んで行く。真っ先に死ぬのは、君達の家族かも知れないね。」

 クローネル帝国の人間と同じく、殺された者達にも家族や友人がいる。

 マキシマスは、此処まで言われて漸くその事実に気付く。

「君達だって、家族が殺されたら死ぬ程怒るでしょ?今、君達と敵対してる国は、皆そんな状態なんだよ。だけどさ、君達を助けてくれる国っているのかな?」

 マキシマス達は青ざめる。

 クローネル帝国には貿易相手国はいても、友好国や同盟国と呼べる国は存在しない。

 これまではそれで問題無かったが、暁帝国の出現によって問題しか無くなってしまった。

「貴国は弱者になったんだよ。マキシマス君、君がさっき言った通りだとすると、クローネル帝国は滅びるしか無いね?」

 第七師団の猛攻を身を以て受けた二人は、暁帝国が弱いなどとは口が裂けても言えなかった。

 このままでは、弱者となったクローネル帝国は強者である暁帝国に食い物にされる事となる。

 そして、パルンド王国へした様に、クローネル帝国の住民達が犠牲となる。

 暁帝国の庇護下にいる反クローネル帝国国家も加わるだろう。

 その事実を突き付けられ、更に顔色が悪くなる。

「弱肉強食ってのは、ある意味正しい。だけど、僕達は獣じゃあ無い。貴国は僕達を蛮族呼ばわりしてるそうだけど、君達こそ蛮族だよ。だって、獣とおんなじ行動原理で弱者を食い荒らして来たんだから。」

 それだけ言うと、伊藤と秘書は応接間を後にした。

 残されたマキシマスと副官は、呆然として暫くの間動けなかった。


「総督、少し脅し過ぎでは?」

「そう?だって、頑固なんだもん。」

 ああは言ったが、当然民間人へ危害を加えるつもりは無い。

「いやー、それにしてもあの副官の娘は可愛かったなぁー。僕の秘書にしたい位だよ。」

 先程までの真剣な空気は何処へやら、早速いつもの調子に戻った伊藤。

 しかし、早速地雷を踏み抜いてしまう。

「総督、私では不満と言う事ですか?」

「ウェ!?」

 秘書は、いつかの絶対零度の視線を伊藤に向けていた。

「ち、ちちち、違う違う!最近仕事が増えて手が回らなくなって来たから、もう一人いたら助かるなーって思って・・・」

「総督が書類を紛失してばかりいるからでしょう。」

 静かだが、腹の底から出てくる声は何とも言えない恐ろしさがある。

「いや、だからさ、失くした書類を探す係として」


 「失くすんじゃなーい!!」


 遂に、秘書の怒りが爆発した。

 後に、総督府の職員達はこの日を<勤労の日>と定め、真面目に職務を遂行する事を再確認する日となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国  ライマ



「全てか?」

「はい、全ての準備が完了しております。後は、陛下の御裁可のみであります。」

 山の様に押し寄せる問題を乗り越えて、近衛軍団を頂点とした新生クローネル帝国軍は再侵攻に必要な全ての準備を終えた。

 軍内部の継戦派と停戦派の争いは続いていたが、圧倒的多数の継戦派を引き込む事で、見掛け上の争いは収まっていた。

「よし、では命ずる。今度こそ、我が帝国に逆らう愚か者共を完膚無きまでに叩き潰すのだ!」


 「「「「ハハッ!」」」」


 この決定を受け、クローネル帝国軍は国境への集結を始めた。

「今度こそ、失敗は許されん。」

 ハデリウスは、そう言って己を奮い立たせる。

「心配はありません。フロンド方面軍9万を除く我が軍の主力をほぼ全て集結させているのです。」

 副官が自信たっぷりに言う。

 黒竜350騎 魔導砲700門 兵力65万人 を搔き集めたのである。

 更に、新型魔導銃を装備した近衛軍団1万人が加わる。

 これ以上無い陣容である。

「貴様は、もっと現場に出た方がいいな。これ程の大軍となると、進軍や補給の方が大変だぞ。」

 努力家であるハデリウスは、マキシマス方式を習得している。

 だが、マキシマスが指揮した軍勢とは比較にならない規模である。

「万が一、進軍が上手く行かずに頓挫しましたなんて事にでもなってみろ。私と共に、貴様の名前も悪い意味で残る事になるぞ。」

 事の重大さを認識した副官は、気を引き締め直す。

 とは言え、マキシマスも副官と同じく戦いで敗北する事は有り得ないと考えていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東京



 クローネル帝国の動きを察知した東郷達は、会議を開いていた。

「あいつ等、学習能力が無いのか?」

 東郷は、呆れるしか無い。

「まあ、馬鹿なら此方もやり易いですし、助かりますけどね。」

 佐藤が答える。

「何か、気になる事でもあるのか?」

「ええ。潜入した特殊作戦連隊から、魔導銃の新型が配備されているとの報告がありました。」

「新型?」

 マスケット銃を使っていた国が、新型を配備したからと言ってそこまでの脅威になるとは思えない。

「何でも、薬莢らしき物を使用しているらしいとか・・・」

「「「!!」」」

 全員が驚く。

 薬莢の製造には、非常に高い冶金技術が必要となる。

 金属薬莢が開発される以前は、長らく紙性の薬莢が使用されていた。

 それ程に困難で、革新的な発明なのである。

「十中八九魔術起源でしょうけど、気にはなります。まあ、戦局を左右する程とは思えません。旧型よりも連射力が上がる程度と見るべきでしょう。」

 連射力が上がっても、一発で倒せる敵は最大一人までである事に変わりは無い。

「他に何か、新型兵器が出来たなんて話は無いよな?」

 歩兵火器の一つだけならどうとでもなるが、他の兵器と連携される様な事があれば厄介な事になりかねない。

「ありません。また、その様な動きも確認出来ないとの事です。」

「分かった。じゃあ確認だ。準備は出来てるか?」

 東郷は、山形 山口 太田 を順繰りに見る。

「陸軍は問題ありません。海兵隊もです。」

「海軍も準備は万全です。」

「空軍も同じく。」

 問題は特に無い様である。

「よし。では、驕り高ぶった奴等を叩き潰すぞ。」

 自然休戦状態となっていたインシエント大陸戦争が再開した。



 情けは人の為ならず。

 孤立したらいい事無いね。

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