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第三十八話  動きを止めない世界

 個人的に、しきしまの船長と副長が一番好きです。

 描くのも楽しい。

 暁帝国  昭南島 サンカイ



「見誤っていた・・・」

 力無く呟いたのは、クローネル帝国軍パルンド方面軍指揮官のマキシマスである。

 傍らには副官もいる。

 第七機甲師団の突進から辛うじて生き残った彼等は、捕虜としてこの街へ連行されたのである。

 マキシマスは、かつてこの街を訪れた事があった。

 しかし、今のこの街はかつてのよくある港街では無く、コンクリートの桟橋と多数のクレーンが設置された現代的な港湾都市へと変貌していた。

 出入港する船も、彼等の常識を超えた巨大な物ばかりである。

「そこにおられるのは、マキシマス殿では無いか?」

 声のした方を振り向くと、そこにはモウテンがいた。

 彼は現在、この街で警察機構を束ねている。

「貴方は・・・モウテン殿か?」

「その通りです。いやぁ、久しいですなぁ・・・」

 マキシマスは疑問を抱く。

 元ハンカン王国の将軍であるモウテンが、何故五体満足で生きているのかが理解出来なかったのである。

「モウテン殿、ハンカン王国が滅亡したと聞き、貴方も処刑されていると思っておりましたが・・・」

「ハハハ、私も死を覚悟しました。何しろ、一度は暁帝国の捕虜になりましたからな。それが今では、この街の治安維持に勤しむ毎日ですよ。」

「そ、そんな事があり得るのですか!?」

 声を上げたのは、副官である。

 敵国の将軍をこの様な要職に就けるなど、常識外れにも程がある行為と考えているからである。

 副官に限らず、ハーベストの大半では当たり前の価値観である。

 マキシマスも驚愕していた。

「私も驚きましたよ。当初は辞退しようと思ったんですが、そしたらこう言われました。「貴方を含むハンカン王国民は、これより暁帝国民となる。我が国民となったからには、我が国の義務を全うして貰いたい。」と。しかも、私がこの様な要職に就けたのは、上からの指示があったからだと言うのです。」

 二人は、揃って絶句した。

 被征服民の処遇など、良くて奴隷が常識である。

 現場レベルでは、稀に優秀な者を自身の部下とする例もあるが、国のトップがそれを認める様な事は有り得ない。

「ど、どうなっているんだ・・・」

「暁帝国とは、一体・・・」

 彼等は、これまでとは違った意味で暁帝国を不気味に思い始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 現在、大陸の北部と東部が大陸連合の勢力圏となっている。

 その周辺海域も大陸連合の勢力圏内だが、大陸戦争の影響で各国は海にまで気を配る余裕が無かった。

 その結果、要請を受けた暁帝国が海上保安庁と海軍を動員し、共同で治安維持に当たっていた。



 インシエント大陸北部沖  巡視船しきしま



「何か、仕事場がどんどん本土から離れてる気がする・・・」

 副長がぼやく。

「いい事じゃ無いか。本土から脅威が離れてる証拠だ。」

 船長は、軽い口調で副長に返す。

「本土が安全になっても、危険な海域に向かってたらこっちは危険なままじゃないですかぁ!」

「それが我々の仕事だろう。」

 少し前までの壊れた副長に比べれば大分マシにはなったが、相変わらず止まらない愚痴に面倒臭そうにいつもの返答をする。

「せんちょー、偶には気の利いたセリフの一つでも言って下さいよ。」

「私にそんなモノを期待するな。」

『レーダーに感あり!此処より東30海里地点に、帆船と思われる船あり!』

「ホラ、早速来たぞ。」

「ウヘェ・・・」

 副長は、舌を出して呻く。


 恐るべき頻度で姿を現していた商船を中心とする他国船は、インシエント大陸の情勢悪化を受けてその数を急速に減らしていた。 

 現場の人間からすれば有難い事ではあるが、この隙を突いて良からぬ事を企む輩が現れる事を危惧した上層部は、一層の警戒強化を行う方針を固めた。

 その甲斐もあり、火事場泥棒を企む輩が大勢いる現状を抑え込む事には成功していた。

 とは言え、暁帝国へ商機を見出した者達が諦めた訳では無く、相変わらず商船が訪れている。

 ただの商売ならば断る理由は無いが、巡視船が近付いただけで逃げ出す現状ではそれも出来なかった。


「あれは、また商船ですかね?」

「だろうな。甲板で乗員達がパニックを起こしてる。」

 船長と副長は、双眼鏡を覗きながら呟く。

「あ、引き返した。ハァー、もう何度目なんだか・・・」

 副長は、軽口を叩く余裕も無くなっている様である。

(後で爆発しないだろうな・・・)

 その様子を見た船長は、戦々恐々とする。



 商船視点



「で、デカ過ぎるぞ!」

「しかも、とんでも無ぇスピードだ!」

「面舵一杯!商売どころじゃ無ぇ、逃げるぞ!」

 期待に胸を膨らませていた商人と船乗り達は、巡視船の接近にパニックを起こしていた。

 しかし、その中に全く別な反応をする者達がいた。

「ま、まさか、こんな最果てに魔導船を持つ国があるとは・・・」

「だが、おかしいじゃ無いか。確か、魔術を一切扱えない集団と言う話だろう?」

「それ自体がデマだと言う事だろう。上層部でもそう分析していた。」

 彼等は口々に驚きの声を上げながらも、冷静に分析を行う。

「そのデマの原因は、あの船体にありそうだな。魔石由来の素材では無い。あれは鉄だ。」

「鉄だと!?鉄であれ程の船を造れるのか!?」

 この世界の製鉄技術は、中世以前で止まっている。

「恐ろしく高度な製鉄技術を持っている様だ。しかも、アレは軍艦だな。甲板に魔導砲らしき物がある。」

「まさか、砲塔まで実用化してるとは・・・だが妙だな。船体は我が国の防護巡洋艦並みのサイズなのに、武装が貧弱過ぎる。」

「主砲は、前甲板に一門のみ。しかも8センチ級だ。砲身はかなり長いから我が国の同クラスの砲よりも強力そうだが、巡洋艦級なら15センチ級以上の主砲を搭載する筈だがな・・・」

「前後に付いてるあの武装のせいじゃないか?」

 35ミリ機関砲を指差す。

「あれは、我が国のガトリング砲に酷似している。恐らく、主砲の火力不足をあれで補っているのだろう。」

「ガトリング砲だと!?あんな巨大なモノは見た事が無いぞ!?」

「我が国では、火力を発揮し易い様に小型軽量化を目指した。だが、彼の国は逆の道を選んだ様だ。口径は、目測で20ミリ以上だろう。・・・興味深いな。」

「に、20ミリ以上・・・銃身が持たんだろうに・・・いや、それ以前に反動の制御をどうしてるんだ?」

 彼等は、これまでの常識が崩れて行く感覚に襲われた。

「速度も、我が国の最新鋭艦に匹敵するな。さっきの接近して来た時の加速を見ただろう。20ノットは出ていたぞ。」

「この国はマズい。我が国の脅威になり得る。」

「ああ、早く帰って報告しなければ・・・おい、撮影しておけ。」

「もう済んでる。この揺れで何処まで撮れてるか不安だがな。」

 彼等は、祖国が愚かな選択をしない様に祈りながら帰途に着く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 旧クダラ王国



「やめてくれ!金なら払う、命だけは!」

「貴様等の垢が付いた金なんぞ要るかぁ!」



 ザクッ



 大陸連合による、旧クダラ王国人の殺処分は続いていた。

 これまでのクダラ王国の所業により、散々煮え湯を飲まされて来た彼等には、容赦と言う言葉は存在しなかった。

「おい、いたぞ!攫われた子供達だ!」

 そんな声が響き渡ると、一斉に兵士達が殺到した。

 そこは、奴隷市場であった。

 大陸戦争のどさくさで連れ去られた子供達が収容されていたのである。

「ああ、良かった・・・」

「もう大丈夫だぞ。さあ、皆で帰ろう。」

 子供達は、怯えながらも素直に従った。

 涙を流しながらその様子を見ていた兵士の一人に、年長と思われる子供が話し掛ける。

「僕の弟が、遠くに連れて行かれた。助けてくれますか?」

「・・・どっちに連れて行かれたか分かるか?」

 子供は、東を指差した。

「分かった。必ず連れ帰ってやるから、待っててくれ。」

 子供の頭を撫でると、東へ進軍する為に隊長の元へ走る。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国  メリノ



「最悪だ、最悪だ!皇帝の様子から何かあるとは思っていたが、こんな事が!」

 スぺキアは、いつかの様に荒れていた。

「スぺキア殿、冷静になって下さい!。今度は何が起こったのですか!?」

 カエルムが慌ててスぺキアを諫めに掛かる。

 スぺキアは、新型魔導銃の事を話す。

「そ、そんな・・・此処で近衛が強化されたら・・・」

「クーデターの成功が遠退く・・・祖国の滅亡が、一歩現実味を帯びてしまった。」

 彼等の顔色は、どんどん悪くなっていく。

「それにしても、噂に聞いていた魔力ケースが完成していたとは・・・」

「私も驚いた。やはり魔力に関しては、エルフには敵わんな。」

 二人の話題は、魔力ケースへ移る。

「いずれは、魔力ケースと弾丸を一体化した新しい弾薬が開発されるだろう。それまで祖国があればの話だが・・・」

「そうなれば、連射力が格段に上がります。暁帝国にもそれなりの損害を与えられる可能性もありますが、間に合いそうにありませんな。」

 何処までも暗い展望しか見えて来ず、揃って溜息を吐く。

「だが、この新型の配備にはそれなりに時間を要する。今の内に暁帝国との接触を図って、生存の確約を得るしか無い。」

「正直に言いますと、上手く行っていません。密偵に国境を越えさせた所、あっという間に排除されてしまいました。正面からの接触も全て拒否されています。」

 あまりにも救いの無い状況に、再度溜息を吐く。

「いや、まだ何か手はある筈だ。国境を越えられないなら、全く別な接触をすれば良い。」

「別な接触?」

「例えば、そうだな・・・彼等も斥候等を放っている筈だ。そこから接触すると言うのはどうだ?」

 祖国を憂う勇士達の議論は続く。



 近代的な会話が出て来ました。

 今回は、これをやりたかった。

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