表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/159

第三十五話  大陸動乱7

 動乱編、最終回です。

 今回は、暁帝国軍視点をメインに描いてみました。

 フロンド共和国  ハルセインキ



 マインヘイムは焦っていた。

 敵軍が、当初想定していたよりも多かったからである。

(今の所は、予想以上の戦果を挙げているが・・・)

 同時に、被害も増え続けていた。

「首相、暁帝国軍がパルンド王国でクローネル帝国軍と戦闘状態に入りました。」

 レティが報告する。

「戦況は?」

「今の所は優勢の様です。これから攻勢に出るそうです。」

「そうか・・・それまでは、何としても持ち堪えねばな。」

 街の医療施設へ運ばれて来る兵員は、日々増加の一途を辿っている。

 そして、その医療施設を建設したのは暁帝国である。

 此処へ運び込まれた兵士達は次々と戦線復帰を果たし、多くの勝利を齎していた。

「暁帝国に感謝だな。」

 マインヘイムは、暁帝国の影響力が日々大きくなる現状を複雑に思いつつも、そう口にした。




 ・・・ ・・・ ・・・




 パルンド王国  クローネル帝国軍



「此処はどうだ?」

「ハッ!後一両日中に準備が完了致します!」

 マキシマスは、後退後の防御陣地の構築の進捗について、視察を行っていた。

 付近の部隊も急遽呼び集めての一大防御網の構築である。

 かつて経験した事の無い事態に、あらゆる部署がてんてこ舞いとなっていた。

 だがその甲斐あり、兵力15万、魔導砲170門から成る強力な防衛線が構築されつつあった。

「これ程の防衛網でしたら、どの様な敵が相手でも突破など出来ますまい。」

「その通り。此処は、我等にお任せあれ。」

 口々に景気の良い事を言う士官達を見て、マキシマスは若干不安になる。

「頼もしいな。任せたぞ。」

 しかし、その様な所を見せる訳にも行かない。


 「「お任せ下さい!!」」


 士官達は、大いに士気を上げた。



 クローネル帝国軍北部方面軍



 クローネル帝国軍は、マキシマス率いる本隊の他に、北部、南部方面軍と後続部隊に分かれている。

 この部隊は、当初から大した抵抗を受けずに進軍を続けていた。

 それだけに損害も最も少なく、緊急時には南にいるマキシマス率いる本隊の救援に入る事が決まっている。

「本隊が大きな損害を受けたそうだ。防御体制に移行して敵を迎え撃つと連絡が入った。」

 司令官が話し出す。

「では、我等も増援に?」

「いや、引き続き進軍を続行せよとの事だ。増援は、南部から集めているそうだ。その戦力で敵の攻勢を受け止め、我等は進む事で敵に圧力を加えよとの事だ。」

「そんな無茶な・・・我が軍の兵力では、如何に蛮国が相手と言えども孤立します!」

 北部方面軍の兵力は、歩兵2万、魔導砲30門、黒竜40騎である。

 パルンド王国北部は人口が少ない事が分かっていた為、割り充てられた兵力も少ない。

 それ故に本隊への増援兵力と言う副次的な任務を負っていたのだが、此処に来てその前提が崩れてしまったのである。

「我が軍の増員は断られた。現有戦力で何とかするしか無いと言う事だ。」

 司令官は続ける。

「しかも、首都よりも東の地点まで進めとの事だ。それ以上進むかどうかは、此方の裁量に任せるそうだが・・・」

 全員に、大きな動揺が走る。

「無茶苦茶です!将軍は、何を血迷ってこの様な決定をされたのですか!?」

 左遷されてもおかしくない暴言だが、あまりにも無茶な命令に気にする者はいない。

「気持ちは分かるが落ち着け。将軍程の方がこれ程の無茶を言われると言う事は、向こうはそれ以上に無茶な事になっていると言う事だ。」

「何を言われるのですか!?いくら被害が大きくても、将軍が蛮国如きにそこまで後れを取る事など有り得ません!単に、慎重になり過ぎているだけです!」

「将軍指揮下の竜騎兵軍団が全滅してもか?」

 大きな衝撃が走る。

「な・・・そ、そんな馬鹿な!」

「有り得ない・・・!」

「何をどうすれば、そんな事に・・・」

 司令官は、部下達の反応の大きさに苦慮する。

 マキシマスの竜騎兵軍団は、クローネル帝国一の精強さで知られていた。

 厳し過ぎる訓練で事故死は後を絶たないが、戦闘で戦死者を出した事は無い。

「何度も確認したが、間違い無い様だ。何にやられたのかは、要領を得なくてな・・・」

 司令官は、苦々い表情で答える。

「だが、これ以上泣き言を言っても仕方が無い。此方は此方で対応策を考えね」



 ドドドドドドドドォォォォォーーーン



 突如、爆音が響き渡った。

「な、何だ!?何が起きたァ!?」

 司令官達が天幕から飛び出すと、

「こ・・・これは・・・!」

 目の前には、指揮下の兵士達がいる筈であった。

 だが彼等の目の前には、かつて人だった残骸が散乱していた。

「何が・・・一体何が起こった!?」

 司令官の問いに答える者はいない。



 ゴォォォォォーーーーー・・・



 その代わりに、上空から轟音が響き渡った。

 音につられて上を見る。

「あれは・・・流星?」

 彼等の上空を、謎の飛行物体が通過しようとしていた。

 槍の様に細長い形状をした飛行物体。



 ボンッ



 呆然としていると、突然分解した。

「!・・・何か降って来るぞ!」

(マズい!)

 司令官は、直感的に危険を感じ取った。

 だが、危険と分かっても対応出来る時間は無い。



 ドドドドドドドドドドォォォォォーーーーン



 この瞬間、北部方面軍は全滅した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国軍  第二軍団



『鷹の目より司令部、敵軍の全滅を確認。第二次攻撃の必要無し。』

 戦果確認をしているOH-1から報告が入る。

「後は、突出している一部の斥候を片付けるだけか。密集していたお陰で楽に片付いたな。」

 これが現代軍であれば、戦闘は長期に渡る。

 圧倒的な技術差により圧倒的な戦力を保有した結果、敵の想像の及ばない兵器の数々により、僅かな労力で敵の撃破を達成した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 第一軍団



 第二軍団が斥候の掃討を始めた頃、

「藍原中将、準備完了しました。」

「分かった・・・攻撃開始!」

 本隊への攻撃が始まった。



 第七機甲師団



『第一戦車大隊、前進せよ。』

 先鋒を務める第一戦車大隊が、前進を開始する。


第一戦車大隊

 第一~第三戦車中隊

  一個戦車中隊 四個戦車小隊

  一個戦車小隊 一〇式戦車4輌

 他、補助車両


 ハンカン王国のシーエン攻略戦でも先鋒を務めたこの大隊は、進軍中のトラブルに最も良く対応していた。

 前回と違い万全の態勢で待ち構えている敵に対し、どの様な不測の事態が待ち構えているのか分からず、対応力のある第一大隊が再び先鋒を任された。

『大隊本部より各隊へ、前進命令!』



 ブオォォォォォォォォォ・・・・



 多数の一〇式戦車が、一斉にエンジンを鳴動させる。

『中隊長車より第一中隊各車へ、予定通り我が隊が正面を担当する。今回は、突破後に追撃も行う。残弾に注意しろ。』

 大隊は、第一中隊を中心としたパンツァーカイルを形成して前進を開始した。

『此方第七航空隊、敵の手前に小規模な堀と思われる構造物を確認。注意されたい。』

『此方第一戦車大隊、了解した、感謝する。』

 敵陣まで3キロに迫ったが、堀らしき物は見えない。

(上手く偽装してるな・・・)

『第二、第三中隊へ、此方からは堀を確認出来ない。そちらはどうだ?』

『此方第二中隊、確認出来ない。』

『此方第三中隊、同じく確認出来ない。』

『了解した。これより速度を落とす。合わせてくれ。』

『『了解』』

 大隊の速度が落ちる。

 見ると、敵が陣形を整えて待ち構えていた。

(隙が無いな・・・)

 敵は、全方位に対して蟻一匹通さない鉄壁の布陣を敷いている。

『中隊全車、砲撃用意。弾種、榴弾。』



 ガシャン



 榴弾が装填され、目標が割り充てられる。

『撃て』



 ドドドドドォォォォン



 寸分違わず目標へ命中し、敵陣に穴を開ける。

『次弾装填』



 ガラン

 ガシャン



 排莢音と装填音が車内に響く。

『撃て』



 ドドドドドォォォォン



 再度の砲撃に、固まっていた敵兵が右往左往し始めた。

『敵が混乱し始めました。』

『このまま砲撃しつつ、敵陣に食い込む。』

 敵陣まで1キロに迫り、左右に展開している第二、第三中隊も砲撃に加わる。

『敵の先頭集団は、壊滅したと思われます。』

『よし、突入する。堀に注意し』



 ガクン



『・・・遅かったか。』

 敵陣まで、約350メートルの地点であった。

『騎兵が接近!』

 正面から、多数の騎兵が突撃して来る。

『近いな・・・機銃で対応しろ。』



 ダダダダダダダダダダダダダダ



 1000騎を超える騎兵が同軸機銃の餌食となり、あっという間に数を減らして行た。

 程無くして、騎兵は撤退した。

『よし。操縦手、越えられそうか?』

『問題ありません。すぐに越えられます。』

 そう言うと、難無く堀を越える。

 他の車両も後に続く。

『前方300メートル、敵歩兵多数。』

 モニターを見ると、堀を越えた事が信じられないのか、驚いた表情の敵兵が映っていた。

『撃て』

 砲撃をしながら前進を続ける。



 カンカンカンカンカン



 そのまま敵へ接近していると、車外から装甲を叩く様な音が聞こえて来た。

『三号車より隊長車へ、敵兵が至近距離から発砲している。車体へよじ登ろうとしている敵もいる。』

『三号車、背中を掻いてくれ。』

 背中を掻くとは、味方車両への機銃掃射である。



 ダダダダダダダダダダダ



 隊長車へ群がる敵兵が排除される。

『三号車へ、感謝する。』

『此方第二中隊、左翼より多数の敵兵が接近。抑え切れない。』

『第七航空隊へ、左翼への航空支援を要請する。』

『此方第七航空隊、目標をマークしてくれ。』

『了解した。その位置にスモークを撃ち込む。』



 ボンボンボン



 左翼の敵軍へ向けて、煙幕弾が発射された。

『確認した。これより、航空支援を開始する。』



 ドォン ドォン ドォン ドォン

 ドガガガガガガガガ



 ロケット弾と機関砲が乱射され、左翼の敵軍は瞬く間に潰走した。

『前方に魔導砲!数、20!』

 報告が入った瞬間、魔導砲が発砲炎に包まれた。



 ガァン



 一発が命中し、轟音が響き渡る。

『くうっ・・・』

 あまりにも大きな音に、思わず唸る。

『被害報告!』

『駆動系 異常無し』

『主砲 異常無し』

『オールグリーン』

 密かに胸を撫で下ろす。

 現代兵器は、精密機器の塊である。

 ちょっとした衝撃で不具合を起こしかねない。

『お返しをしてやれ。』



 ドドドドドドォォォォォン



 砲撃の百倍返しが始まった。

『此方第七航空隊、君達の周囲の敵はほぼ一掃された。残弾を大事にし給え。』

 遂に、見ていられなくなった航空隊からドクターストップが掛かる。

『第七航空隊より師団司令部へ、敵軍の敗走を確認。これより、追撃に移る。』



 クローネル帝国軍 本隊



「うわ、うわああああああ・・・!」

「何なんだ、あの化け物は!?」

「魔導砲が効かないなんて、嘘だろおおおおお!?」

 マキシマスは、目の前の光景が信じられなかった。

 準列強国たるクローネル帝国の誇る精鋭が、蹂躙されていた。

「私は、夢でも見ているのか?」

 そう口にするのが精一杯であった。


 その後、航空隊を中心とする追撃により、クローネル帝国軍の本隊は全滅に近い損害を受けた。

 本隊が敗走した場合に備えていた後続部隊は、その役割を全う出来ずに一方的に狩られてしまった。

 一方、南部方面軍は本隊が敗走した事を知り、直ちに撤退を開始した。

 南部を担当する第三軍団が追撃に移ったが、焦土戦術をやられてしまった為に思う様に追撃出来ず、半数以上を取り逃がしてしまう。

 マキシマスは、捕虜として後送された。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国  ライマ



「パルンド方面軍がやられた。生還者は、5万人もいない・・・」

『そんな・・・』

 惨憺たる結果に、スぺキアとカエルムは放心状態となっていた。

「・・・カエルム殿、直ちに撤退し給え。その後は、私が匿おう。」

『・・・分かりました。』

 独断で兵を退いたとなれば、死刑は免れない。

 だが彼等の目的の為には、此処でカエルムを見殺しにする訳には行かない。

「今回の敗北で、漸く私の言葉に耳を貸す者が出始めた。」

『ですが、絶対に我々に協力しそうに無い連中もおります。』

「近衛軍団か・・・」

 近衛軍団とは皇帝直属の部隊であり、通常の軍とは命令系統を異にする。

 皇帝を守護するのが役割であり、その役割から忠誠心と実力が抜きん出ている者が選ばれる。

 武器も充実しており、新兵器が開発されれば最優先で支給される。

 皇帝が継戦を望んでいる以上、近衛軍団も継戦を支持するのは容易に想像が付いた。

「近衛軍団には消えて貰うとしよう。」

『!・・・し、しかし、それでは貴方が!』

「心配無い。何も直接消そうと言う訳では無い。暁帝国にぶつける様に仕向けるだけだ。その過程で領内が荒らされるだろうが、滅亡するよりはマシだろう。」

 相も変わらず、感情の無い判断である。




 ・・・ ・・・ ・・・




 フロンド共和国  ハルセインキ



「敵の撤退を確認しました!」

 レティが興奮した様に報告する。

「ま、間違い無いのか!?」

 今回ばかりはもうだめだと思い始めた時にやって来た朗報である。

 流石のマインヘイムも信じられなかった。

「何度も確認しました。パルンド王国で暁帝国が大勝し、それに呼応した動きと思われます。」

「大勝だと!?確か、パルンド王国に侵攻した敵軍は、20万を超えていたと思うが・・・」

「はい。集めた情報によりますと、敵の竜騎兵軍団に全滅に近い損害を与え、地上部隊の生存者は5万人を割り込んでいるそうです。対して、暁帝国軍の損害はゼロだそうです。」

「・・・・・・」

 マインヘイムは、絶句した。

(そんな事があり得るのか?いや、しかし・・・)

 自身の軍人としての経験と暁帝国軍の戦闘力のあまりの差に、暫くの間呆然とした。


 フロンド方面軍の撤退により、インシエント大陸の戦乱はひとまず収まりを見せた。



 すごく淡々としてるなぁ。

 戦況が一方的だから、やられる側よりも描くのが難しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ