第三十三話 大陸動乱5
ちょっと補足です。
飛竜ですが、攻撃手段は槍を持っての突撃と、火属性の魔力を使った遠距離攻撃になります(名前は決まってません)。
一部では、弓か銃を使っての攻撃方法もあります。
暁帝国 東京
今日も今日とて、インシエント大陸に関する対策会議が開かれていた。
「間違い無いのか?」
新しく入った情報の内容に、東郷は動揺を隠せない。
「間違いありません。確かな筋から入った情報です。更に、フロンド共和国からも同様の情報が入っております。」
新しく入った情報は、クダラ王国についてであった。
その内容は、国中で根こそぎ動員を行っているとの事である。
「クダラ王国の人口はおよそ2300万人ですが、動員が完了すれば1000万の兵力が揃うと推測されます。」
第二次世界大戦末期の日本軍でも約700万人であった事を考えると、如何に破滅的な動員を行っているかが分かる。
「だが、そんなに動員したとしても、武器はあるのか?」
「情報によりますと、5~7人に一人しか持っていないそうです。更に、その武器も農具をそのまま民家から持って来た物が半分以上を占めているそうです。動員されていない国民を武器の製造に充てているそうですが、粗製乱造になるでしょうね。」
まだ兵力的には十分余裕があり、自国への侵入を許している訳でも無いと言うのに、早くも末期的な様相を呈していた。
キメイダは、度重なる凶報の連続からスターリン顔負けの疑心暗鬼に陥っていたのである。
頼もしく感じていた自軍の兵士達が敗走ならまだしも、勝手に持ち場を離れて好き勝手しているとあっては無理も無いが、これ等の事実と周辺国のこれまでの動向が、過剰に身の危険を感じさせる事となっていた。
そして、その危険を払拭する事を最優先したいキメイダは、遂に信用出来なくなった自国民を強制徴用し、自身の元から一刻も早く遠ざけようとしてこの様な凶行に及んでしうに至ったのである。
「この動員によって、クダラ王国の食糧生産が極端に落ち込む事は確実です。遠からず、国としての体を成さなくなるでしょう。」
部下の断言に頭を抱える東郷。
対クダラ王国政策は生かさず殺さずの方針で行く筈が、キメイダの自爆によって出来なくなってしまったのである。
かと言って、あの国と深く関わる事などあり得ず、完全放置したら今度はどんな災厄を振り撒くか分かったモノでは無い。
「誰か、いい対応策は無いか?」
あまりにもどうしようも無い事態に、東郷はお手上げとなって部下に代案を求める。
「宜しいでしょうか?」
声を上げたのは、太田であった。
「クダラ王国全土を、無差別爆撃しては如何でしょう?」
「!?」
あまりにも予想外の案に、東郷は言葉を失う。
だが、東郷以外は納得した表情をしていた。
「総帥、クダラ王国とは深く関わってはいけない事は既に御存知かと思います。」
厄介事の塊と言えるクダラ王国と関われば、百害あって一利無しの状況へ追い込まれてしまう。
かつては、対クローネル帝国に於いて一利だけは存在してはいたが、それも暁帝国によってお株を奪われており、完全に存在価値を失っているのである。
「ハッキリ言ってしまえば、存在そのものが邪魔と言っても良いでしょう。」
あまりにも容赦の無い言葉だが、誰も否定はしない。
「それは分かるがなぁ・・・」
大虐殺と言える決断に逡巡する。
「そして、此処に来て根こそぎ動員です。クダラ王国人は、全員戦闘員と見做さなければなりません。」
民間人への攻撃は、当然ながら大問題となる。
しかし、戦時下の戦闘員への攻撃は正当防衛となる。
キメイダは、無自覚に暁帝国の縛りを解いてしまっていた。
「だが、爆撃後の後始末が大変になるぞ。」
それでも尚、あまりにも大きな犠牲を出す決断を恐れる。
「直接的な後始末は、大陸連合に任せます。」
太田は、説明を始める。
一 暁帝国軍による大規模空爆を行う。
ニ クダラ王国全土を完全破壊した後に、インシエント大陸連合による侵攻を始める。
三 各国は、クダラ王国領を占領し、然る後に自国領として編入する(要協議)。
四 暁帝国は、クダラ王国解体後の復興支援を行う。
「か、解体するのか?」
「はい、それが最善かと思います。そして、今がその絶好の機会です。」
「・・・・・・」
(確かに、最善だろうな。だが・・・)
あまりの内容に動揺していると、ある言葉が浮かんで来た。
『平和な国で生まれ育ったお前に耐えられるのか?』
今更ながら、‘自称‘神が不安を隠さなかった理由を理解した。
(これが、国を動かす立場か・・・!)
奇麗事だけでは済まないと言う事を、嫌でも思い知らされる。
「総帥?」
太田が心配そうに声を掛ける。
「・・・いや、大丈夫だ。太田、その作戦で行こう。徹底的に叩き潰せ!」
「「「「ハッ!!」」」」
今日此処に、クダラ王国の滅亡が決まった。
硫黄島
48機のTU-160が基地から離陸した。
その姿は圧巻の一言であり、その場にいる全員が空を仰いだ。
・・・ ・・・ ・・・
クダラ王国
「さっさと進めー!」
「何をしてる!?殺されたいのか!?」
各地では、徴兵を行う兵士達の怒鳴り声が響き渡っていた。
「クソッ、何で俺達がこんな事をしなきゃなんないんだ!?」
「やってられっか!」
民衆の不満は高まり続けており、そこかしこで怨差の声が上がっていた。
「オイ貴様等、何文句垂れてんだ!?」
「い、いえ、決してその様な事は」
「黙れ!気付かないとでも思ったか!?」
バキッ
不満を口にしても、碌な結末にならない。
大多数の者達は、大人しく従うしか無かった。
だが、従ったからと言って無事に済むとは限らない。
ドドドドドドオォォォーーーーーーン・・・・
突如、巨大な爆発が一帯を襲った。
遠方から爆炎を確認した者達が慌てて確認に来たが、そこにあった集落も、住民達も、徴兵に来た兵士達も跡形も無く消滅していた。
ザイル
各地から次々と上がってくる報告に、キメイダを含めた全員が大混乱に陥っていた。
数日前より、各地で「凄まじい火柱が連続して上がり、その場にいた住民や部隊が全滅した。」との報告が次々と上がって来ているのである。
「何が起こっている!?」
叫ぶキメイダの胸中には、かつて無い程の恐怖が渦巻いていた。
かつて無い何かが、この国へ牙を向いている。
(何故こうも上手く行かん!?何処で間違えた!?イヤ、間違えてなどいない。私の行いは常に正しいのだ!私に逆らう者が間違っているのだ!何処の誰だか知らんが、必ず復讐してやる!この国の全てを代償にしてでも!)
恐怖が怒りに変わったその時、
ゴォォォォォォォ・・・・
聞き覚えのある轟音が響き渡った。
瞬く間に、怒りは恐怖に逆戻りした。
ドドドドドドオォォォォォーーン・・・・
直後、巨大な爆発音と大きな揺れが襲った。
「な、何が・・・」
突然の揺れによって転倒したキメイダは、ゆっくりと起き上がって周囲を見回す。
「こ、これは・・・!」
外を見たキメイダは、絶句した。
ザイルの街並みは消え失せ、黒煙と廃墟が何処までも広がっていた。
グラッ
あまりの光景に立ち尽くしていると、キメイダの足元が突然揺らいだ。
目を向けると、床が傾き出していた。
手抜き工事による耐久性の低さが、先程の揺れによって表に出てしまったのである。
死ぬ
此処までハッキリと死を意識した事など、キメイダにはかつて無かった。
「だ、誰か・・・」
まともに助けを求める事すら出来ない。
その間にも、足元は崩れて行く。
「陛下!」
そうこうしていると、キメイダに声を掛ける者がいた。
見ると、四人の官僚が駆け付けて来た。
「陛下、此方です。一刻も早く脱出を!」
キメイダは、官僚の促されるままに安全なルートを通って脱出を図る。
脱出は、時間との勝負である。
階段を駆け降り、出口を目指す間にも、城は鳴動と共に崩落の一途を辿る。
「ハァ… ハァ… ハァ… 」
「もう少しの辛抱です!」
キメイダの体力は限界に近付きつつあったが、彼自身も信じられない程に体が動き続けていた。
「見えました、出口です!」
永遠とも取れる時間が過ぎた後、遂に出口へと辿り着く。
そのまま脱出に成功したキメイダ達は安全な場所まで離れた後、振り返って王城を見上げた。
轟音と共に、王城の半分が崩れ去っている所であった。
あっという間の出来事に声も出ない。
だが、助かった。
安堵感が胸中を支配し、腰が抜ける。
「ハァ…ハァ…ハァ… た、助かった・・・お前達、よくやってくれた。」
キメイダとは思えないセリフが口を衝いて出て来る。
それ程の恐怖体験であったと言う事でもある。
「いえ、それが我々の任務です。貴方に死なれては困りますから。」
「そうか・・・」
上手く頭が回らないが、それでも引っ掛かる一言があった。
(ん?任務だと?)
官僚の服を脱ぎ捨てた四人は、自己紹介を始める。
「初めまして、暁帝国軍特殊作戦連隊の者です。」
「な・・・な・・・なん・・・」
驚き過ぎて、言葉が出ない。
「貴方には、この度の戦乱の責任を取って頂かねばなりません。御同行願います。」
キメイダは、有無を言わさず連行された。
その後も空爆は続き、クダラ王国全土が焦土と化した。
最早、クダラ王国はその領土を有するだけの存在へと成り下がり、国家としての体裁は崩壊したのである。
そして、遂に隣国による侵攻が開始され、抵抗力を完全に削がれたクダラ王国はされるがままとなるしか無かった。
これまでの恨みを晴らすかの様に、老若男女関係無く片っ端から殺めて行った。
中には、身売りする事で助かろうとする者もいたが、慰み物としての価値すら見出される事も無く平等に惨殺された。
この殺戮劇は長期に渡り、空爆による死者が約100万人に対し、大陸連合による死者は1000万人を超えた。
生き残りは、この期に及んでも協力し合おうとはせず、この過酷な環境でどの様にして自分だけが良い思いをするかに精を出していた。
その過程で内紛が頻発し、その様子を目撃した大陸連合は「これ以上奴等の為に時間を割きたくない」と結論を出すに至る。
そして、最後の仕上げに彼等をクダラ王国発祥の地と言われる内陸の山岳地帯へ追い立て、その外側を城壁と堀で囲む事で外界と完全に遮断した。
だが、彼等は内紛ばかりに精を出し、外界の動きには全く関心を示さなかった。
クダラ王国の生き残り達は、この狭い世界で緩慢な滅びを迎えて行く事となったのである。
・・・ ・・・ ・・・
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
イサークは、ひたすら走る。
体力はとっくに限界を超えているが、死の恐怖が彼を突き動かしていた。
「何故だ、どうしてこんな事に・・・」
イサークの言葉には、憎悪の篭もったかつての覇気は無い。
彼が経験したのは、正しく悪夢であった。
山よりも高く吹き上がる爆炎。
まるで噴火の様な大爆発がそこかしこで起こり、虐げていた民衆を跡形も無く吹き飛ばしてしまった。
そして、空から聞こえる轟音に気付いて上を見ると、その惨状を引き起こしたと思われる巨大な飛行物体を見付けた。
恐怖したイサークは、誰よりも早く逃げ出した。
時折聞こえる爆音に慄きながらも、一刻も早くこの国から逃れる為に走り続けた。
ブォンッ
「ヒッ・・・!」
突然聞こえた風切り音に、びくりと体を震わせる。
見ると、上空を飛竜が飛んでいた。
見慣れた飛行物体の存在に、少しだけ安堵する。
「いたぞー!」
近くから、そんな声が聞こえて来た。
「な・・・!」
声の主は、ラビア王国の兵士であった。
(もうこんな所にまで来ているのか・・・)
イサークは、焦った。
忽ち囲まれてしまったが、全員が親の仇を見る目で彼を見ている。
(俺を、クダラの蛮族と勘違いしている様だ。)
このままでは殺されると悟ったイサークは、声を上げた。
「ま、待て!俺はクダラ人じゃない!」
「何!?」
王国兵達の動きが止まる。
(よし、これで助かる!)
「俺は、クローネル帝国のイサークだ。」
「クローネル帝国だと!?」
全員がいきり立つ。
(しまった!)
間違いに気付いた時には、もう遅かった。
後、数秒の命。
「待て!」
そう思った瞬間、彼等の背後から新たな声が聞こえて来た。
「貴様、今、イサークと言ったか?」
隊長と思しき人物がやって来て訪ねる。
「そ、そうだが・・・」
此処で返答を誤れば命は無い。
イサークは、素直に答えた。
「隊長、何を気にしておられるのですか!?こいつは、我々の最大の敵なんですよ!?」
早く殺したくて仕方が無い彼の部下は、騒ぎ始めた。
「貴様、ハンカン王国派遣軍にいなかったか?」
「え・・・?い、いたが、それがどうしたんだ?」
イサークが、クダラ王国で扱き使われる事となった原因である。
その事を思い出して少し不機嫌になるも、此処でその話が出て来る意味が分からず困惑した。
隊長は、驚いた顔をして部下へ指示を出す。
「オイ、上に連絡しろ!こいつは重要人物だ!絶対に殺すな!」
後日、この顛末は暁帝国にも報告され、イサークの身柄はキメイダと共に管理される事となった。
イサークの復讐戦は、此処に幕を閉じた。
・・・ ・・・ ・・・
パルンド王国 首都 ピルスカ
「おお、来て下されたか。」
国王が自ら出迎えたのは、暁帝国軍第一軍団である。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
謝罪を返したのは、藍原である。
現在のパルンド王国の状況は、国土の七割がクローネル帝国に占領されていると言う最悪としか言い様の無い状況である。
「何を言われる!?貴国の多大なる支援があればこそ、此処まで持ち堪える事が出来たのです!更に、派遣して戴いた技術者の方々が多くの我が国民を救って下された。更に、これ程の援軍を送って頂いたと言うのに、謝罪などされては此方の立つ瀬がありません!」
しかし国王は、ひたすらに感謝の言葉を述べた。
「過分なるお言葉、恐縮です。それでは、早速ですが我が軍はこれより敵軍の迎撃に向かいたいと思います。つきましては、現地の案内の為に何名か人員を御貸し頂けますでしょうか?」
「勿論ですとも!私に出来る事があれば、何でも言って下され!可能な限りお答えしますぞ!」
こうして、国王の全面協力を取り付けた第一軍団は、クローネル帝国との本格的な戦闘へと突入して行く。
クダラ王国が消滅してしまいました。
やり過ぎだったかな?




