第三十二話 大陸動乱4
今回は、若干の小康状態になっています。
クダラ王国 ザイル
「一体何をしている!?何故、こうも上手く行かんのだ!?」
声の主は、キメイダである。
現時点でのクダラ王国軍の戦況は、最悪の一言であった。
全ての戦線で国境の突破には成功したが、その後は遅々として進まずに逃亡者が相次いでおり、逆に敵の反撃を受け続ける有様であった。
このままでは、逆侵攻されるのも時間の問題との分析も出ており、受け入れたくない現実を前に荒れ狂っているのである。
「ヤショウ、この状況を何とか出来んのか!?」
指名されたヤショウは、慌てず淡々と答える。
「陛下、落ち着いて下され。まだ手はあります。」
ヤショウは、説明を行う。
「ホホーゥ、それは中々良いでは無いか。よし、直ちに準備を始めよ。」
キメイダは、史上稀に見る最悪の決断をした。
・・・ ・・・ ・・・
エラニア公国
現在、この国の南東岸に人だかりが出来ていた。
「そろそろか・・・」
その中に、エラニア公国軍の将軍がいた。
「将軍、様々な噂が流布する暁帝国ですが、如何お思いですかな?」
将軍の脇に控えている士官が尋ねる。
「正直言って、気に入らんな。大陸連合の結成と言い、クダラ王国の牽制と言い、一丁前に理想論を並べ立てる事には長けているのだろう。つまり、刃を交えない口頭の戦いには強いと言える。だが、それはつまりペテンが上手いと言う事でもある。そんな連中と行動を共にせねばならんとは、今から気が重いな・・・」
彼は、対クローネル帝国戦に派遣される暁帝国軍の案内を命じられている。
いくら衛星や航空戦力が豊富とは言え、土地勘のある現地人と比較すれば、どうしても動きが鈍くなってしまう。
そこで、案内を付けて貰う様に願い出たのだが、その案内役である将軍 トール は、暁帝国に関する様々な戦果が暁帝国の情報操作による誇張であると信じて疑わなかった。
その根拠となっているのが、暁帝国人が魔力を持たない事である。
当初はその話を真に受ける事は無かったが、各種支援で直接話す機会が多くなり、魔力無しの噂が事実である事を確認した。
その事実を知ると、今度は不信と嘲笑が出て来た。
「優れた魔術を持つ者が優れている。」と言う旧来の認識を堅持する者からすれば、暁帝国はそう簡単に受け入れられる相手では無いのである。
「将軍、万が一にもその様な態度を表に出されますと・・・」
「分かっている!」
トールは、不機嫌そうに士官の言葉を遮る。
(中央の奴等、そんなに俺が信用出来んのか!?)
この士官は、トールが余計な事をしない様に中央から派遣されたお目付け役である。
その事をすぐに理解したトールは、不機嫌なままこの日を迎えてしまった。
「将軍、見えて来ました。」
「何、何処だ?」
目を凝らすと、東から艦影らしき影が複数近付いて来るのが見えた。
「す、凄い・・・」
「あの金属塊は、何に使うんだ?」
「誰だよ、辺境の蛮族とか言った奴は。」
「え、お前じゃ無かったか?」
野次馬達が、一斉に騒ぎ出す。
反対にトールは、口を開けたまま何も言えずにいた。
唖然としていると、一際大きな船から見た事も無い飛行物体が近付いて来た。
バタタタタタタタタ
聞いた事も無い音に、士官も恐れを抱く。
目の前に着陸した飛行物体から、地味な服装をした男が出て来た。
「お出迎え感謝致します!自分が、当艦隊の司令長官を務めております角田 元治大将です!」
飛行物体の音に負けない大声で挨拶をして来た。
暫く後、
挨拶を済ませ、早速LCACにより各種車両や人員が揚陸されて行く。
「角田殿、申し訳御座いません。将軍は、少々疲れ気味でして・・・」
謝罪の言葉を口にしたのは、トールの脇に控えていた士官である。
挨拶の後我に返ったトールは、自分の名を名乗るとその場からさっさと立ち去ってしまったのである。
「いえ、お気になさらず。揚陸作業完了まではまだ時間が掛かりますから、今の内に十分休まれて下さい。」
とは言ったものの、この先要らないトラブルを抱え込むのでは無いかと不安で一杯になっていた。
(我が国を、辺境の蛮族と侮っていたんだろうな。だが、現実とのギャップで派手に混乱してしまったと言ったところか。)
偏見を持っていなくとも、想像を超えた物を見せ付けられて無用な混乱を生む事は、これまでにもいくらでもあった。
だが、そこから無用な警戒を生む事もあり、一刻を争うこの状況でその様な事が起こらないよう願う。
数日後、
先陣となる第一軍団の揚陸作業が完了した。
そこには、混乱から立ち直り偏見を捨てたトールの姿があった。
「先日は失礼した。我が大陸連合の救援に来て頂き感謝する。」
「いえ、同盟国として当然の事です。」
(大したものだな。)
角田は、トールの様子からこれまでの常識を捨て去り、現状を受け入れた事を悟った。
その後、トールの案内の下でインシエント大陸を西へ進んで行く。
・・・ ・・・ ・・・
クローネル帝国 ライマ
「何、暁帝国が介入して来ただと!?」
トライヌスは、家臣から入った報告に目を丸くする。
「奴等は馬鹿か?我が国との力の差が分からんとは・・・」
プライドが馬鹿高いトライヌスが、呆れ返っていた。
準列強国以上の国は、フロンド共和国の様な例外を除き、敵対する事はイコール死を意味する。
増して、(トライヌス視点で)辺境の弱小国など吹けば飛ぶ様な存在でしか無く、何故この様な無謀な戦いへ身を投じたのか理解などまるで出来ない。
「ハンカン王国に勝って調子に乗り過ぎた様だな。その無様な驕りを矯正してやろう。」
そう呟き、暁帝国への対応を命じた。
・・・ ・・・ ・・・
フロンド方面軍
カエルムは、青ざめていた。
いや、カエルムだけでは無い。
彼の部下の中にも、顔色の悪い者が何人もいる。
「遂に、来てしまった・・・」
漸く絞り出して出た言葉がこれであった。
少し前に、伝令からの報せが来た。
内容は、<暁帝国参戦>である。
暁帝国の実態を知っている彼等は、自軍が蹂躙される未来しか見えない。
「カエルム様、しっかりなさって下さい!高々未開人の軍勢などをそこまで恐れるとは、貴方らしくありませんぞ!」
そう言ったのは、副官である。
元々優秀な軍人であったのだが今回は浮かれまくっており、いつもの優秀さは鳴りを潜めていた。
「いい加減冷静になれ。奴等は、途轍も無く強い。」
「何を言われますか!?その様な事があるわ」
「いい加減にしろ!!」
カエルムの一喝に、全員が慄いた。
「貴様は、それでも軍人か!?軍人なら、偏見を捨てて正確な情報の精査に努めろ!これ以上言うなら、貴様を解任する!」
想像もしていなかった言葉に、副官は放心状態となった。
「カエルム様、このまま進軍しては危険です。何らかの対策を立てねばなりません。」
副官を放置して、暁帝国の実態を知っている部下の一人が進言する。
「それは分かるが、進軍を停止する訳には行かん。何らかの根回しが必要になるだろうが・・・」
「カエルム様、それでしたらスぺキア様に連絡を取るのは如何でしょうか?」
別の部下が進言する。
「副総司令官のスぺキア殿か。だが、何故だ?」
「スぺキア様は、合理的判断を非常に重視しております。我が国が滅亡の瀬戸際に立たされている事を理解されれば、必ずや停戦に動き出すでしょう。」
「ふむぅ・・・試してみる価値はあるか。よし、やるとしよう。」
副官を無視し、一大方針が決定した。
「失礼致します!」
焦った様子で新たな伝令がやって来る。
「何事だ!?」
「先日の大規模奇襲攻撃で、敵軍に大量の魔導銃が鹵獲されていた事が判明致しました!」
全員が動揺する。
「いや、鹵獲された所で使い方が分からなければ意味が無い。狼狽えるな。」
カエルムの言葉に、全員が冷静さを取り戻す。
「それが、先程前衛部隊が敵軍の奇襲攻撃を連続して受けたのですが、魔導銃を大規模に運用していたそうであります。」
再度、全員が動揺する。
「これにより、前衛部隊は全滅に近い損害を受け、進軍は不可能との事であります。」
あまりの内容に、全員が絶句した。
(魔導銃の情報が漏れていたとは・・・!)
ある意味、部隊の全滅よりも深刻な事態である。
「すぐに総司令部へ連絡しろ!」
カエルムは、祖国を破滅から守る為に動き出した。
・・・ ・・・ ・・・
パルンド方面軍
此方は、フロンド方面軍とは打って変わって順調に進撃を続けていた。
方々から悲鳴が上がるが、それを気にする者はいない。
それよりも気になる情報がやって来ていた。
「暁帝国軍が来るだと?」
マキシマスは、その報告に首を傾げる。
彼は、暁帝国の事を名前でしか知らない。
ハンカン王国を降した事は伝え聞いている為、単なる弱小国では無いと認識してはいるが、準列強国であるクローネル帝国程精強では無いだろうと考えていた。
「強かろうと弱かろうと、やる事は変わらん。エラニア公国に上陸したと言う事は、我が軍が真っ先に遭遇する可能性が高いな。今の内に、物資の補給と増援を要請しなければ・・・」
敵の実力がどの程度であろうとも、敵が増える事に変わりは無い。
敵が増えれば、その対応の為に多くの物資と兵力が必要となる。
そんな単純だが複雑な作業を淡々とこなし、来るべき戦いへ備え始めた。
・・・ ・・・ ・・・
クダラ王国
「やめてくれ!俺には戦う力は無い!」
「黙れ!貴様等は従う以外に選択肢は無いんだ!」
クダラ王国では、あちこちで同じ様な光景が繰り広げられていた。
ヤショウの進言により、16歳から55歳までの全ての国民を兵士とし、それ以外を武器生産へ駆り出しているのである。
これにより、ソ連並みの物量を揃えつつあるが、その実態は武器も防具も5人に一人に行き渡っていれば上出来と言う有様であり、訓練もまるで行き届いていない。
食料も全く足りず、末端は戦う前から飢えに苦しんだ。
その様な状況下で、嬉々として徴兵作業を行う男がいた。
「サッサとせんかー!この場で殺すぞ!」
イサークである。
これまで見下していた蛮国にいい様に使われて来た鬱憤を、此処ぞとばかりに晴らしていた。
(蛮族共め、いい気味だ。争え、もっと争え・・・)
イサークは、戦火が拡大している現状に喜びを大きくする。
ヤバい、どうやって終わらそうかな・・・




