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第三十話  大陸動乱2

 戦火が拡大し続けています。

 暁帝国  東京



「油断した・・・」

 そう呟いたのは、東郷である。

 彼は、クダラ王国が大規模な軍事行動を起こした事を報告された。

 これまでの暁帝国の対応は、東郷の一言に集約されていた。

 まさか、総兵力80万にもなる大軍を用意しているとはまるで予想していなかったのである。

 暁帝国は、クローネル帝国にばかり注意が向いており、クダラ王国に対しては隣国に支援を行う事でどうにかなると判断していた。

 しかし、これは軍拡前を基準にした判断であり、80万もの大軍で攻め入られては対抗出来る筈も無かった。

 とは言え、支援が全くの無意味であった訳では無く、クダラ王国側が想定していたよりも大きな損害を与え、態勢を整えられるだけの時間稼ぎに成功していた。

 だが、あまりにも多すぎる物量差を理由としてどの国も正攻法を避けており、根本的な事態の解決には程遠い状況となっている。

 結果、敵軍によって蹂躙された集落は増え続けていた。

 暁帝国の技術者は、持ち込んだ車両へ乗せられるだけの近隣住民を乗せて逸早く避難した事もあり、被害は出ていない。

(フロンド共和国の忠告を、ちゃんと聞いてれば・・・)

 フロンド共和国は、クダラ王国の動きを素早く察知していた。

 その為、各国へ忠告を行っていたのだが、結果としてその努力は無駄に終わってしまったのである。

(イヤ、後悔は後だ。早くこの事態を終わらせないと、大変な事になる!)

 そう考えて立ち上がると、会議室へと向かう。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ラビア王国



 国境からそれ程遠くないとある集落に、クダラ王国軍の一隊がいた。

 あまりにも唐突な侵攻であった為、逃げ遅れた住民は多数に上り、蹂躙を許している。

 暁帝国の作業員が近くにいた集落は、トラックへ同乗して事無きを得たが、それ以外の集落では地獄絵図が繰り広げられていた。

 男は皆殺しにされ、女は慰み者にされ、年端も行かない子供は、奴隷として奴隷市場へ連れ去られて行った。

「隊長、司令部から命令が届きました。直ちに進軍を再開せよとの事です。」

「フン、そうかよ。」

 命令を聞いた隊長は、それがどうしたと言わんばかりにお楽しみに勤しみ続ける。

「隊長、命令無視ですよ?」

「知るか!どうせ俺達が何処で何をやってるかなんて、司令部の連中は分からねぇんだ。満足するまで此処にいるぞ。お前も楽しんどけ。」

 それを聞いた部下は、下種な表情をする。



 バヒュッ バヒュッ バヒュッ



 そうして各々が好き放題に動き回っていると、突然付近の茂みから矢が飛んで来た。

「ウガッ!何なんだ畜生!」

「痛ェ、どっから飛んで来やがった!?」

「ゴボッ・・・ゴボォォォォ!」

 不意を突かれた兵士達は、次々と矢に当たって喚き出す。

 喉元に当たった兵士は、まともに喚く事も出来ない。


 「「「「「ウオォーーーーーー!!」」」」」


 茂みから、ラビア王国軍が飛び出して来た。

 クダラ兵は、略奪や暴行に精を出していた為に戦闘態勢が全く整っておらず、近くにいた兵士達があっという間に蹴散らされた。

「クソッ、こんなのやってられるか!」

「ま、待ってくれー!」

「何でこんな目に遭うんだ!?」

 残ったクダラ兵は、武器も持たずに一目散に逃げ出した。


 この様な光景は、あらゆる方面で繰り返された。

 これは、クダラ人の気質と言っても良いものである。

 目先の損得にしか目が行かず、お偉いさんへ必死に色目を使い、自分が良い思いをする為だけに他人を蹴落とし続ける。

 更に、フロンド共和国で分析された通り、自分の都合の悪い事を脳内で改変すると言う悪癖まで持っている。

 その結果、国境砦での戦いでは司令部の人間が目に見える範囲にいた事で真面目に戦っていたが、司令部の目が届かなくなった事で好き勝手に略奪に勤しむ様になったのである。

 加えて、国境砦の戦いで想定以上の苦戦を強いられた事から、「いい思いをする為に軍に入って戦っているのに、こんな苦労を背負わなければならないのはおかしい。こんな事になるなら、それなりの見返りを今すぐに貰う権利がある。」と考え、司令部から入った新たな命令を無視する者が相次いでいた。

 そんな者達がまともに戦える筈も無く、敵を目撃した途端に逃亡すると言う醜態を晒してしまい、直接相対した者達は敵のあまりの不甲斐無さに怒りすら感じる程であった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 明らかに場違いな車列が、ラビア王国の街道を走っていた。

「着いたぞー!」

 先頭のトラックから声が上がる。

 彼等は、この国へ派遣された暁帝国の技術者達である。

 更に、近くの集落の住民も同乗している。

 彼等は、先頭車両から聞こえた声に喜びの声を上げた。

 その車列の先には、ラビア王国の首都ライガが見えていた。

「ん?何か様子がおかしいな・・・」

「お、オイ、城壁の兵士が弓を構えてるぞ!」

「何を考えてるんだ!?俺達は味方だぞ!」

 まさかの対応に騷付いていると、城壁から怒鳴り声が聞こえて来た。

「そこで止まれェ!これ以上は通さんぞォ、鬼畜なクダラ人め!」

「・・・・・・え?」


 ライガは城塞都市であり、城壁に囲まれている。

 クダラ王国軍侵攻の報を受けて以降厳戒態勢が敷かれており、常時多数の兵員が城壁上で待機している。

 とは言え、開戦から大して日が経っておらず国境線からそれなりに遠い為、配置されている兵士の気には若干の緩みが見られた。

 そんな開戦による緊張感に包まれつつも、いつもと大して変わらない穏やかな昼下がりに事件は起きた。

「うわ、うわ、何だアレは!?」

 城壁の見張りが、見た事の無い車列を発見して声を上げる。

「何だ、何が起こった!?」

「敵襲ゥーーー!」

 やって来た上官の問いにも答えず、あらん限りの声量で叫ぶ。

 街が、にわかに慌ただしくなる。

「敵は何処だ!?」

 暫く睨み合っていると、報告を受けた近衛隊の隊長が城壁へやって来た。

「向こうであります!」

 見張りが指を差した方向を見ると、多数の兵士が弓を構えていた。

「ん?・・・お、オイ待て!お前達、弓を納めろ!」

 見覚えのある車列が目に入った隊長は、慌てて兵士達に待ったを掛ける。

「何故止めるんですか!?国境線近くの村々が奴等によってどんな目に遭わされているか、知らない訳では無いでしょう!?」

「馬鹿者!あの車列は暁帝国のモノだ!」

「・・・・・・え?」


 暫く後、


 無事に街へ入れた作業員達は、真っ青な顔をした近衛隊長から平謝りされていた。

 尚、クダラ王国軍と勘違いした見張りは、近衛隊長直々の<指導>によって顔が大きく腫れ上がる羽目となっていた。

「大変失礼致しました!」

 あまりの必死さに、謝罪を受ける側が恐縮してしまう程となっていた。

「もういいですから、頭を上げて下さい。他にもやることが一杯あるでしょ?ね?」

「あ、有難いお言葉・・・グス・・・有難う・・・御座いま・・・グス・・・」

 近衛隊長の過剰な反応に少し面倒臭くなって来た現場監督は、構わずに話を進める。

「ところで、一つ相談があります。」

「は、はい!何なりとお申し付け下さい!一命を賭して遂行致します!」

「そ、そうですか・・・」

 普段、物怖じした事の無い監督でさえ、隊長のこの反応には引いてしまった。

「それでですね、我々はクダラ王国の侵攻を察知して此処まで避難して来た訳ですが、その途中で乗せられるだけの近隣住民を乗せて来たんです。彼等の避難先の用意をお願いしたいんですが。」

 これには、その場にいた全員が驚いた。

「そ、それは本当ですか!?」

「はい、確認しますか?」

 すぐに、トラックの荷台にいた同乗者の確認作業が始まった。

(こ、こんな事が・・・何の得も無いだろうに・・・)

 それが、この場にいる者達の総意であった。

 背後から自分達を殺そうと向かって来る敵の恐怖に怯える中で、自分以外の者達の安否にまで気を回す事の出来る者が、果たして何人いるだろうか。

 この件は直ちに国王にまで報告され、国王も大きく驚いた。

 尚、近衛隊長が城壁へ到着する前のひと騒動を聞いて卒倒し掛かったのは別の話である。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国  ライマ



 皇帝トライヌスは歓喜の中にあった。

「クククククク・・・馬鹿な奴等だ。内輪揉めで力を削ぐとは、やはり所詮は蛮族だな。」

 周辺にいる臣下の者達も、同じ考えであった。

 そして、次のトライヌスの言葉に歓喜した。

「今こそが絶好の好機!インシエント大陸連合などと言う生意気な組織を粉砕し、我が帝国の偉大さを大陸中へ轟かせよ!」


 「「「「ハハッ!」」」」



「皇帝陛下が決断されたぞォー!」

 ライマにある軍司令部が、そんな声に鳴動した。

 直後、司令部中から歓声が上がる。

「ヨッシャー!」

「遂に来たか!」

 クローネル帝国民の間では、ハンカン王国の陥落、インシエント大陸連合の結成と悪い事ばかりが続いてフラストレーションが溜まっていた。

 それは民衆だけに留まらず、軍部も同様であった。

 そこへ、クダラ王国が周辺国に対して侵攻を開始したとの情報が入る。

 今こそ進軍すべきとの声がそこかしこで上がり、軍司令部でも同じ論調が目立っていた。

 そして、今回の皇帝の開戦命令である。

 司令部の面々は、既に纏めていた侵攻作戦に沿って直ちに編成作業を進める。

「やはり、フロンド共和国が問題ですな。」

 そう言ったのは、クローネル帝国軍副総司令官の スぺキア である。

 彼は、合理的判断を非常に重視しており、自国が繁栄する為ならば部下も平気で見捨てる冷血漢である。

 ハンカン王国派遣部隊の司令官にイサークを推したのも彼である。

「うむ、我が軍が全力で東進している隙を突いて来る位はするだろうな・・・」

「でしたら、むしろフロンド共和国を先に仕留めると言うのは如何でしょう?」

 流石に全員が動揺する。

 散々煮え湯を飲まされて来たフロンド共和国は、彼等にとってはトラウマにまでなっているのである。

「何故だ?」

 総司令官は、動揺せずに尋ねる。

「現在、大陸連合の連中はクダラ王国にばかり目を向けております。真偽は不明ですが、フロンド共和国も援軍の派遣を検討していると言う情報もあります。フロンド共和国が手強い相手なのは間違いありませんが、二正面作戦を強要出来る今ならば勝機は十分あるでしょう。更に、他国との連携を防ぐ為にパルンド王国に対して攻勢を掛けるのが宜しいかと思われます。」

「他の国はどうする?」

「今は放置すべきです。フロンド共和国を牽制しつつ、一つずつ制圧して行きます。此方へ目を向けるまでは決して無理をせず、余力を残しておくべきです。」

 要するに、各国がクダラ王国へ気を取られている隙に火事場泥棒をしようと言う事である。

 そして、後にクローネル帝国へ対応しても、その頃には疲弊した各国を余力を以て返り討ちにしようと言う事である。

「言いたい事は分かる。だが、奴等は手強い。生半可な攻撃ではいくら二正面作戦を強要しても勝てんぞ?」

 準列強国の総司令官に此処まで言わせる程に、フロンド共和国に対するトラウマは強いものであった。

 しかし、スぺキアはトラウマなど何処吹く風で言い切る。

「必要以上に敵を過大評価する事はありません。確実に勝利出来る様にフロンド方面軍の規模を今の二倍に増強します。司令官は、カエルム殿のままでいいでしょう。フロンド共和国が相手でしたら、彼以上の適任者はおりません。」

「・・・分かった。その方針で行こう。」

 こうして、フロンド共和国とパルンド王国へ攻勢を行う事が決定された。



 北方都市  メリノ



 この街には、フロンド方面軍の司令部が置かれている。

 司令官であるカエルムは、憂鬱な気分で外を眺める。

(結局はこうなるか・・・今度こそ我が国は、本気で滅ぶかも知れんな。)

 いつまでも黄昏れている訳にも行かず、今後の方針を話し合う為に会議室へ向かう。



 次回、フロンド共和国死す(大嘘)

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