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第二十八話  連合結成

 新しい登場人物が少ないような気がする。

 パルンド王国  対クローネル帝国国境砦



 クローネル帝国と国境を接しているこの国は、現在暁帝国の支援を受けている。

 国境を接している国の中では最も有力な大国であり、最優先の支援対象と認識されている。

「それにしても、暇ですねぇ・・・」

「そうだなぁ・・・こんなに平穏が続くのはいつぶりだろうなぁ・・・」

 見張りは、呑気に喋る。

 小競り合いが頻発していた頃は、この砦も緊張の連続であった。

 しかし、ハンカン王国が制圧されて以降は敵を見る事が無くなり、平穏な日々が続いている。

「いやー、それにしても暁帝国の奴等は気のいい連中が多いなぁ。」

「ホントですね。クダラ王国の連中は、いつも上から目線で腹立たしいったらありませんでしたからねぇ。」

 宗主国面をしていたクダラ王国の評判は、何処へ行っても最悪の一言である。


 現在、暁帝国はクダラ王国を除く各国へ積極的に支援を行っている。

 だが、それだけに留まらずに事が起きた場合には、即座に戦力の派遣を行える体制を整えていた。

 その過程で、国境線近くの視察や綿密な測量等が行われ、現地の駐屯兵との交流も行われていた。

 評判は概ね良かったが、元々<辺境の蛮族>と侮っていた事もあり、各国の上層部には微妙な空気が流れた。

 だが、クダラ王国に拉致された一部の国民を送り届けると対暁帝国感情は大幅に改善し、未だに燻っていた警戒心が緩和され、より積極的な協力関係の構築に成功した。

 暁帝国と敵対的な行動を起こす様な国は無く、今の所は穏やかな関係が続いている。


「暁帝国と関わる様になってから、色々変わって来たなぁ・・・」

「そうですね。でも、いい方向に変わってると思いますよ。」

「俺もそう思う。どうせなら、暁帝国とクダラ王国を交換して欲しいよ。」

「あ、それ言えてますね。」

 暁帝国が友好的な態度を示せば示す程、元々良くなかったクダラ王国のこれまでの所業が一層悪く映る様になっていた。

 そして、クダラ王国に対する憎悪が募って行き、民衆の間でもクダラ王国民を排斥する動きが強くなって行った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 フロンド共和国



「クダラ王国が?」

 マインヘイムは、部下の報告に首を傾げていた。

 その報告は、クダラ王国が大規模な軍拡を開始していると言うものであった。

「はい。放置しておきますと、軍事行動を起こしかねません。」

「それは考え過ぎだろう。暁帝国が警告を行ってから大して経っていないんだぞ?」

「私はそうは思いません。彼の国を長く観察しておりますと、その異常性が常軌を逸している事が分かります。奴等はプライドばかりが高く、自分に都合の悪い事は頭の中で改変し、その改変した事こそが真実であると本気で思い込みます。」

 マインヘイムは、驚きを通り越して呆れ果てる。

「だとすると、あの警告も効果は無かったと言う事か?」

「恐らくそうでしょう。奴等の事ですから、「反クローネル帝国国家の宗主国である我が国を攻撃するとは不届き千万!」等と考えていてもおかしくありません。」

 この予測は当たっていた。

 実際には、宗主国などと言う立場が存在しないのは言うまでも無い。

 しかし、プライドだけは列強国よりも高いクダラ王国は、「自分は宗主国であり、逆らう事など有り得ない。」と思い込んでいるのである。

「何処までも厄介な国だな・・・この事は暁帝国に伝えた方が良いな。」

「それでは早速。」


 その後、大使館を通じてクダラ王国の動きが本土へ伝えられた。

 この情報はあまり重視されなかったが、クダラ王国に対する監視を強化する事が決定され、万が一に備えての支援も開始された。

 更に、クダラ王国の動きが派手であった事もあり、クローネル帝国も事態の推移を注視し始めた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クダラ王国



 現在、この国は絶賛軍拡中である。

 目的は、「打倒、暁帝国!」であった。

 喉元過ぎて熱さを忘れたクダラ王国民に対し、かつての警告は既に効力を失っていた。

「軍は何をやってるんだ!?今すぐにでも、あの忌々しい辺境に攻め込むべきじゃないのか!?」

「あの蛮族共のせいで、商売上がったりだ!周辺の小国共は、我が国の商品に見向きもしなくなった!」

「クソがッ!大人しく俺達に殴り倒されていればいいものを・・・!」

 その様な声が、そこかしこで聞こえていた。

 更に、周辺国で自国民の排斥運動が活発化している事を知り、益々ヒートアップしていた。

「何故、我が国が除け者にされねばならんのだ!?」

「奴等は、最悪な恩知らず共だ!辺境へ行く前に小国共を滅ぼすべきだ!」

 長い間疎まれつつも、何故クダラ王国が頼られていたかを理解していない者はあまりにも多かった。

 まるで、自身が宗主国であるかの様な態度を取り、理不尽な怒り声を上げている者は国民だけでは無かった。



 首都  ザイル



 キメイダが口を開く

「現状を報告せよ。」

 王城の大会議室で、会議が開かれた。

「現在の我が軍は、徴兵により50万に達しております。」

 ヤショウが報告を始める

「ホゥ、もうそんなに集まったのか?」

「はい。後一ヶ月程で80万の兵力が揃います。武器の製造と訓練にもう暫くの時間が必要となりますが、これが成ればクローネル帝国にも劣る事はありません。」

 意外にも、この軍拡には志願者が多く集まっていた。

 暁帝国への怒りからその捌け口を求めている者が多く、これ幸いとばかりに次々と志願しに来たのである。

「フッフッフッフッフッ・・・長かったが、これで漸く蛮族共を根絶やしに出来るぞ。」

「陛下、一つ宜しいでしょうか?」

「何だ?」

「周辺の小国共が我が国民を痛め付け、追い出す動きが活発になっていると言う報告が各所より上がっております。」

 報告を聞き、キメイダは顔を真っ赤にする。

「どう言う事だ!?何故、我が国が追い出されねばならんのだ!?」

 ヤショウは、キメイダの剣幕に慄きつつも答える。

「奴等は、辺境からの支援を受けて調子に乗っているのでしょう。我が国が後方に控えているからこそ、無事に国が存続出来ていると言うのに。」

 話を聞き、キメイダは悲し気な表情をする。

「嘆かわしい事だ・・・」

 暫く悲嘆に暮れると、憤怒の表情をして声を上げた。

「我が国に背を向ける不届き者は、この世に存在してはならぬ!辺境へ出征する前に、小国共を亡き者にするのだ!」

 クダラ王国は、それ自体が巨大な火種となりつつあった。


 周辺国は、クダラ王国の軍拡に気付きつつもそれ以外の作業で忙しく、あまり注意を払う事が出来なかった。

 それでも、「警告の効果は続いており、あくまでも警戒の為に軍備を強化している。」と楽観視しており、そこまで心配してはいなかった。

 暁帝国も同様の認識であった為、クダラ王国へは殆ど意識を向けなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 パルンド王国



「クソッ!何で俺がこんな事を・・・」

 人目に付かない場所で、悪態を吐く男がいた。 

 元クローネル帝国軍人のイサークである。

 海戦に敗北して漂流していたイサークは、大陸の方向へ流された。

 その結果、偶々近くを通ったクダラ王国の船に拾われたのである。

 九死に一生を得たイサークは、暁帝国とハンカン王国に対して復讐を誓い、クダラ王国の手先として日々スパイ活動に勤しんでいるのである。

 一軍の長であったイサークにとって、この扱いは屈辱的であった。

 だが、やらなければその辺で野垂れ死ぬだけである。

「辺境の蛮族共のせいでこのザマだ!絶対に復讐してやる!」

 そして、その恨みの全てを暁帝国とハンカン王国へ向けていた。

 惨敗した事で祖国へ帰る事も出来ないイサークは、復讐の鬼と化していた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 フロンド共和国  ハルセインキ



「今日此処に、インシエント大陸連合の結成を宣言する!」

 マインヘイム首相が、高らかに宣言した。

 この街には、反クローネル帝国国家の代表達が集まっていた。

 更に、東郷を筆頭とする暁帝国の代表も集まっている。

 

 これまでは、反クローネル帝国国家と総称されつつも纏まった国際組織等は存在しておらず、連携が上手く行っていなかった事が判明した。

 そこで暁帝国は、フロンド共和国を含む<インシエント大陸連合>を組織する事を提言した。

 連合組織が存在しなかった事で不便を感じていた国は多く、各国は暁帝国の申し出に飛び付いた。

 そして、遂に連合結成が実現したのである。


(うおー、エルフだ!ドワーフだ!獣人だ!)

 会場の荘厳な雰囲気とは裏腹に、東郷の内心はファンタジーな存在にテンション爆上がりであった。

「何とか此処まで漕ぎ着けましたな。」

 東郷に話し掛けたのは 山形 有明 元帥 である。

 彼は、暁帝国陸軍の最高司令官であり、最初に召喚された連隊のメンバーの一人である。

 高いカリスマ性と絶妙な配分が売りの彼だが、直接的な指揮では他の指揮官達に劣り、藍原を相手にした対抗演習では、司令部を奇襲攻撃されて隠し持っていた酒瓶だけを持って慌てて逃げ出したと言う伝説を持つ。

 普通ならば殴り飛ばされるだけでは済まない大失態だが、持ち前のカリスマ性と部下を立てる態度から人の上に立つに相応しいと判断され、酒瓶の下りも雲の上の存在と言える上層部の人間に現場の人間が親近感を持つエピソードとして語り種となっている。

 山形に話し掛けられた東郷は、ファンタジーな存在に気を取られて全く聞いていなかった。

「総帥?」

「・・・ハッ!な、何だ?」

「・・・・・・いえ。」

 此処で話を進めようとしても碌に聞いて貰えないと判断した山形は、大人しく引き下がる。


「未だに夢でも見ているかの様な気分だ。」

「そうですな・・・」

 そんな事を呟いているのは、クダラ王国と国境を接している小国であるエラニア公国とラビア王国の代表である。

 両国は、クダラ王国と国境を接している国の中でも特に国民の拉致の被害が酷かった国であり、先の拉致被害者奪還の際に一緒に救出した者達も、両国から拉致された者達であった。

 この件を契機に「いつ襲われるか」と恐れていた各国の不安は杞憂であった事が証明された。

 これにより両国は暁帝国を信用に値すると判断、他の反クローネル帝国国家と暁帝国とフロンド共和国との仲介も買って出た。

 そのお陰もあり、比較的スムーズにフロンド共和国を含んだインシエント大陸連合の結成を実現したのである。

「彼等は何者なのでしょうな?我々の様な小国に、此処まで手厚くしてくれるなど考えた事もありませんでしたよ。」

「確かに。我が国も、彼の国によって豊かになりつつあります。まぁ、クダラ王国を我々で抑え込む事が条件ですが、受けている恩恵に比べればその様な条件などあって無い様なモノです。」

 徐々にではあるが、大陸でのインフラ整備を初めとした開発が始まっている。

 特に、クローネル帝国とクダラ王国と国境を接している国が優先され、両国は大陸で真っ先に恩恵を受た国となっている。

「我々は、これから何処へ向かうのだろうな・・・」

 誰にも聞こえない小さな呟きは、式典の喧騒に掻き消された。


「ハァ、何で私が敗残者共の国に赴かねばならんのだ・・・」

「そう仰らないで下さい。メリットの方が大きいのは明白なんですから。」

「分かっている。だが、言わずにはいられないのだ。」

 大陸連合の結成は、確かに大きな恩恵を齎す事となるが、不満が無い訳ではない。

 長い時間を掛けて固まってしまった価値観はそう簡単に変える事は出来ず、少なくない反発も抱え込んでしまっている。

 とは言え、国の存亡と己のプライドを天秤にかける愚か者は殆どおらず、あらゆる国の必死の努力もあり、不満分子もこの流れに逆らう事はしていない。

 だが、少数の<愚か者>が不穏な動きを見せており、不満分子はその不穏な動きの追跡を任されていた。

「全く、奴等には話が通じん。帰った後も奴等の戯言に付き合わされる事を考えると、今から頭が痛い。誰か代わってくれんかな・・・」

「しかし、この件には暁帝国が協力してくれています。我々の直接的な負担はかなり減っていますよ。」

「まあなぁ・・・」

 あらゆる方面で協力を惜しまなかった結果、暁帝国の影響力は大きなものとなっている。

 その事に密かに危機感を持つ者はいたが、メリットだらけの行動のお陰で非常に安定したスタートとなった。

 暁帝国 スマレースト大陸同盟 インシエント大陸連合は、後に<暁勢力圏>と呼ばれる様になる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クダラ王国



「裏切り者共が!」

 キメイダは、いつも通り荒れ狂っていた。

 例の警告以降、凶報続きで荒れる事が増えた。

 今回は、インシエント大陸連合の結成についてである。

「何故だ!?何故、我が国が放置されているのだ!?」

 実は、連合組織の結成が提言されたのは、今回が初めてではない。

 各国は互いに大小の些いがありつつも、クローネル帝国へ対抗する為にはより強固な協力関係を構築する必要がある事を認識していた。

 しかし、その動きは全てクダラ王国の妨害に遭って来た為に、途半ばでその悉くが立ち消えとなってしまったのである。

 何故、そこまで執拗に妨害行為に及んだかと言えば、単なる保身が目的に過ぎない。

 本格的な連合組織が結成された場合、宗主国(と思い込んでいる)としての立場が弱まると危惧した事で断固反対の立場を取り続けているのである。

 今回も、クダラ王国は結成準備中にあらゆる妨害行為を行っていた。

 しかし、今回はこれまでとは違い、強力な後押しによって事が進んでいる。

 クダラ王国の動きは、暁帝国とフロンド共和国に情報をリークされた各国によって悉く阻止されてしまい、反クローネル帝国国家筆頭としての面子は丸潰れとなってしまったのである。

 痺れを切らしたキメイダは公式に大陸連合結成を非難し、これまでのクダラ王国を中心とした体制への帰属を命じた(要請ではない)。

 だが、その様な戯言を真に受ける国は無く、意思疎通もせずに全ての国が無視と言う共通の対応を取るに至った。

 その結果がこれである。

「陛下、今日は良い知らせもあります。」

 ヤショウが話し出す。

「遂に、兵力が予定の数に達しました。」

「何!?とうとうか!」

 一転して機嫌が良くなる。

「はい。これで後は、訓練と武器生産の完了を待つだけとなります。それももうじき完了致します。」

「フハハハハハハハハ!これで復讐出来る!私に逆らった裏切り者共に死を!」

 このやり取りはイサークの耳にも入り、彼を破壊活動へ走らせる事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クローネル帝国



「近頃、クダラ王国周辺で騒ぎが起きている様だな。」

「はい。詳しく調べた所、クダラ王国の軍事行動による可能性が高いとの事です。今の所は小競り合いに留まっておりますが、いつまでもこのままと言う事は無いでしょう。」

「ハンカン王国が滅んでも、結局二正面作戦を強いられるか・・・哀れだな。」

「我が国にとっては都合が良いですがね。」

「そうだな。生意気にも連合なんぞを組織してくれたせいで、余計に手を出し辛くなってしまったからな。この事は上に伝えておく。御苦労だったな。」

「はっ!」

 クローネル帝国は、連合の結成によって急速に変化する大陸情勢に翻弄されながらも、あらん限りの力を振り絞ってこの難局を乗り切ろうとしていた。



 これまでの話の大幅な手直しをしたいので、しばらく投稿ができなくなります

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