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第二十七話  クローネル帝国

 一国の歴史をまとめるのって結構難しい。

 かつてのインシエント大陸は、多くの中小国がひしめき合い、互いに争っていた。

 クローネル帝国も、西の果てにある中小国の一つに過ぎず、国名も支配者も現在とは異なっていた。

 しかし、ある発見がその流れを大きく変えた。

 所謂、古代遺跡である。

 いつの時代の誰の物かは判らないが、非常に高度な文明であった事は確かであり、遺跡の解析を精力的に進めて行った。

 遺跡を発見した領主は、解析した技術を利用する事で強大な戦力を整え、国の乗っ取りを行った。

 その領主は、国名をクローネル帝国へと改名し、自身を初代皇帝とした。

 初代皇帝は、早速大陸統一を掲げて動き出し、大陸の全ての国家に対して隷属を要求した。

 当然ながらどの国家も応じる事は無く、大陸の最果ての国の戯言として無視を決め込んだ。

 一方、クローネル帝国の隣国は脅威に感じ、連合を組んで先制攻撃を仕掛けた。

 しかし、結果は惨敗であった。

 兵力では圧倒していたにも関わらず、全ての戦闘で敗北してしまったのである。

 隣国を吸収したクローネル帝国は大国へと昇格し、大陸中から注目を浴びる存在となった。

 同時に此処に至り、各国は隷属要求が戯言では無い事を理解した。

 真っ先に動き出したのは、クローネル帝国の南東の大国であるデオーチ王国である。

 属国を二ヶ国従えており、大陸でも有数の大国であったこの国は、自信満々にクローネル帝国へ挑んだ。

 だが、一年余りの戦いの後にクローネル帝国の勝利で幕を閉じる事となった。

 宗主国を失った属国は、戦うまでも無く帝国領として併合された。

 大陸有数の大国の滅亡は大きな衝撃となって大陸中を駆け巡り、誰もがクローネル帝国を最大の脅威と捉える様になった。

 各国は、対クローネル帝国でこぞって手を組む様になり、大陸を覆っていた戦乱は鳴りを潜めて行った。

 しかし、昨日まで血を流し合っていた者同士がいきなり仲良くなれる訳も無く、各種の調整に長い時間を掛ける事となってしまう。

 そうして大なり小なりいがみ合いが頻発したが、何処もクローネル帝国と迎合する事は無かった。

 その理由こそが、クローネル帝国の出自である。

 クーデターを経て既存の元首を排除した末に成立した事実が、武力だけは長けている蛮国と言う認識を生み出していたのである。

 インシエント大陸に限らず、世界の大多数の国家は王か皇帝の権威によって統治を正当化している側面がある。

 そうした視点で見ればクローネル皇帝は僣王としか評せず、所詮はポッと出の首領に過ぎなかったのである。

 そして、そうした要素が国も皇帝も信用が皆無と言う致命的な事態を引き起こした。

 外交交渉を行えばあからさまに下に見られ、併合すれば平民さえも反抗的な視線を隠そうともしない。

 大陸外との貿易に於いても頻繁に足元を見られる始末であり、事態の解決は急務であった。

 その結果、国としての箔を付ける為に内政に全力を挙げる事となり、デオーチ王国戦後は一部の国が早まって攻撃を仕掛けた場合を除き、軍事行動を起こす事は無かった。

 その過程で新たな古代遺跡が複数発見され、クローネル帝国の技術力は更なる向上を見せた。

 この頃に初代皇帝が崩御し、世代交代が発生した。

 諸外国の反応は僣王の子が即位したと言うものであり、クローネル帝国の国家としての正統性を無効化せしめようと胎動していた。

 そうした動きの中、二代目皇帝は各地で国を持たずに集落を形成している<長命種>と呼ばれるエルフ族 ドワーフ族 妖人族 を要職に就ける事を決定した。

 彼等は、魔術や鍛冶等で高度な技術を有しており、遺跡の解析を初めとしたあらゆる分野でクローネル帝国の発展を助ける事が期待されたのである。

 同時に、帰順した者は寛大に扱うと言う外部に対するアピールとしての意味合いもある。

 交渉役が彼等の集落へ赴き、帝国への帰属を要求すると様々な反応が返って来た。

 受け入れた者達は、想定通りクローネル帝国の発展を大いに助け、相応の役職に就いた。

 ところがこの功績が、反対者に対する災いとなった。

 拒んだ者達は、他国へ降って敵対者の力を上げる脅威と捉えられ、排除されたのである。

 だが、彼等にも生存者が多数おり、北へ逃れてフロンド共和国の基礎を作った。

 こうして、新たな反クローネルの材料が形成され、正統性と言う意味では益々苦しい立場に立たされる事となった。

 一方、長命種の受け入れはある問題を表面化させてしまった。

 皇帝の権威の問題は、一般のクローネル人にとっても他人事では無かった。

 僣王を何の抵抗も無く受け入れた愚かな民衆

 それが、クローネル人に貼られたレッテルである。

 あらゆるレベルで見られるクローネル蔑視の風潮は、それに抵抗する形で一つの現象を生み出した。

 それこそが、マウント取りとしか言えない態度の大きさである。

 当然ながら、馬鹿にされる状況をそのまま良しとする者はいない。

 だが、今回は相手の主張に利がある。

 だからこそ、理屈では無く態度で黙らせる方向へ傾いた。

 端的に言えば「弱い癖に粋がるな!」と言う躾けのなっていない子供の様な主張である。

 弱肉強食の中で大国として十分過ぎる力を示しているにも関わらず、認められるどころか馬鹿にされ続ける状況に耐えかねた故の自己防衛。

 見栄と言う名の仮面を被った。

 そして、長命種達は生粋のクローネル人よりも優秀な結果を次々と叩き出し、この事が彼等のプライドを更に刺激した。

 一部では、長命種を狙ったテロが画策される程であったが、未然に防止された上に要職に就いている彼等への攻撃には重い罰が下された。

 かと言って、不満が溜まり続ける現状を放置しておく訳にも行かず、国民の捌け口を戦争へ求めるに至った。

 尤も、そこに至るまでには長い時間が掛かっており、新たな戦争を仕掛ける頃には皇帝も三代目に交代していた。

 三代目皇帝は軍人として非常に優れた資質を持っており、帝国の力を以ってしても周辺国には勝利出来ない事を見抜いていた。

 各国も、帝国が世代交代をしている間に連携等の各種問題を解決していたのである。

 皇帝は、開戦の準備をしつつどうやって現状を打破するかに頭を悩ませた。

 そのまま膠着するかと思われたが、ハンカン王国がその均衡を大きく崩した。

 遂に、初めてクローネル帝国へ隷属を誓う国家が現れたのである。

 大陸の東に存在する島国である為、対クローネル帝国で動いていた各国は東西両方を守らなければならない状況へ陥る事となった。

 それは、不利な二正面作戦を強いられる為に戦力が分散してしまう事を意味し、クローネル帝国からの攻撃を防げるだけの戦力集中が出来なくなってしまう事へと繋がった。

 これを好機と捉えたクローネル帝国は、直ちに動き出した。

 長命種の協力によって更に強化されたクローネル帝国軍は、向かう所敵無しであった。

 だが、その版図が広がれば広がる程、統治には大きな力が必要となる。

 地球世界でも、ローマ帝国やモンゴル帝国がその版図の維持に四苦八苦していたのである。

 その事を理解していた初代と二代目皇帝は、版図を広げる毎に内政に勤しみ、国力の増強に注力すると同時に国威発揚に利用して来た。

 しかし、その流れは三代目以降完全に消え失せ、版図が広がる毎に負担ばかりが増加して行った。

 財務の人間を除き、誰もがその状況に見て見ぬフリを続けた。

 彼等は、見栄の仮面を脱ぎ去る事を忘れ、自身のプライドを慰める為に戦争を求め続けたのである。

 無論、無策のままでいた訳では無い。

 利用価値の低い土地に存在する国は属国として負担を減らし、残り少ない富を吸い上げた。

 保護国は、厚遇しなければならない為に負担は大きいが、積極的な貿易である程度の収入を得た上、戦時には戦費と兵力の供出を要求し、ある程度だが自身の負担を減らした。

 それでも足りず、今度は他大陸との貿易を積極的に推進し始めた。

 この頃になると、クローネル帝国は準列強国として世界に認知される存在となった。

 だが、外部からの評価とは裏腹に、財政は火の車であった。

 流石に、問題の深刻化に伴ってこの現状を憂う者が増えた為、ある程度は内政に力を入れる方針となったが、広がり過ぎた領土の開発は困難を極めており、結果的に小競り合いは頻発してはいるものの、大規模な戦争は殆ど起こらなくなっていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 そして、現在


 クローネル帝国は、大混乱の渦中にあった。

 保護国中最大の国家であったハンカン王国が、極東の新興国によって滅亡したからである。

 最初の海戦で大敗北した時点でハンカン王国が敗北する可能性を想定し、二個軍団の派遣すら考えた。

 だが、編成が終わらない内に戦いが終わってしまい、介入する暇さえ無かった。

 保護国中最大の国家と言う事もあり、その影響は非常に大きなものである。

 最大の貿易相手国であった為に経済的損失も計り知れず、軍事的にも大きな戦力を持っていた為、クローネル帝国の戦力は大幅にダウンした。

 そして、極め付けがハンカン王国の地理である。

 東から敵対国へ睨みを利かせて敵戦力を分散させていたが、その睨みが無くなってしまったのである。

 その影響はあまりにも大きく、クローネル帝国の大陸統一戦略は大幅な下方修正を余儀無くされていた。


「何故だ!何故、辺境の蛮族如きにこうもあっさりと敗北したのだ!?」

 皇帝 トライヌス は、今は亡きハンカン王国へ向けて怒鳴り続けてる。

 歴代皇帝の中でもクローネル人の見栄を体現していると外部から評されるトライヌスは、帝国の威信に傷が付けられる事を決して許さない。

 スマレースト紛争で輸出した自国製の魔導砲が役に立たなかった事を知り、プライドが刺激された彼は戦列艦と黒竜を派遣した。

 にも関わらず、この有様である。

 それは、輸出用のモンキーモデルでは無く、正真正銘の高性能な自国製兵器でさえ蹴散らされてしまった事を意味していた。

「帝国の総力を挙げて蛮族共を滅ぼせ!」

 そう怒鳴った皇帝を、臣下の者達は必死に押し留めた。

 ハンカン王国の滅亡に伴う混乱で、軍を派遣する余裕など無かったからである。

 その結果、ハンカン王国に対して怨嗟の声を上げ続ける事しか出来る事が無くなっていた。

 更に、暁帝国が反クローネル帝国国家に対して支援を開始した事で、余計に手を出せなくなってしまっていた。

 そのお陰もあり、国境線での小競り合いすら起こらなくなっている。

 かと言って、いつまでもこの様な状態にある皇帝を抑え込む事は出来ない。

 現状を打破する為の策を、臣下の者達は必死に考える。

「まずは、外交交渉で接触するべきだろう。」

「何を言う!辺境の未開国に対して、下手に出ると言うのか!?」

「この期に及んで何を言っている!?奴等は、未開国では無い!」

「落ち着かれよ!どちらにしても、準列強国である我が国が外交などと言う弱者の手段を取る事は出来んだろう。それよりも、旧ハンカン王国領に工作員を潜入させ、内乱工作を画策する方が良い。」

「それこそ、弱者のやる事だろう!」

「奴等は強い。強者対強者だったら弱者の戦法とはならん。」

「蛮族共が強いだと!?貴殿は何を言っておられるのだ!?」

「この期に及んでまだそんな事を言うのか!?」

 侃々諤々の議論が繰り広げられるが、堂々巡りを繰り返すばかりで一向に進まない。

 その様子を、冷めた目で眺める者がいた。

 フロンド方面軍の指揮官を務めている カエルム である。

 彼は、各地を転戦して多くの武勲に輝いて来た闘将である。

 クローネル帝国でありがちな技術差を利用した力押しを嫌っており、十分な情報収集と裏工作を駆使して戦う頭脳派である。

 それだけに、矢鱈と大きな態度でマウントを取る風潮に疑問を抱いており、暁帝国との戦争も避けたいと考えている。

(国内がガタガタだと言うのに、対外戦争などやってる場合か!?)

 そう思っても、口には出せない。

 皇帝が暁帝国討伐に御執心だからである。

「カエルム殿、貴方の意見を聞きたい。」

 堂々巡りに疲れたのか、議論をしていた者達がカエルムへ意見を求める。

「まずは、情報収集をすべきでしょう。敵の兵力や武器が分からなければ、作戦の立てようがありません。そして、出来ればその過程で我が方に寝返る者がいないかを確かめます。」

 情報と裏工作を重視するカエルムらしい意見である。

「カエルム殿、貴方程の方がその様な弱気な事を言われるとは・・・」

「自信と過信は全く違うものですよ。このまま押して勝てると思うのは過信です。」

 過信していた者達はこの意見を聞いて青筋を立てたが、歴戦のカエルムに言われては反論出来なかった。

 そして、まずは情報収集を始める事が決定された。

 情報が集まるのは当分先の事であり、戦端が開かれるまでにはまだ時間を必要としていた。

 しかし、その様な思惑とは関係無く、ある事件が事態を急激に動かした。




 ・・・ ・・・ ・・・




 とある大陸



 多くの人間が集まる港町で、新たな商機を見出そうとする商人達が東を目指して次々と旅立っていた。

 彼等は、ハンカン王国戦の時にメイハレンにいた旅人や商人から暁帝国の話を聞き、興味を掻き立てられて次々と船を出した。

「此処最近、東を目指す連中が多いな。」

 街の住人が、酒場で友人に話を振る。

「知り合いに聞いた話じゃあ、スマレースト大陸よりも東に新興国家が現れたらしい。」

「新興国家?そんな国の為に皆必死になってるのか?」

「何でも、その国は凄く進んだ技術を持ってるらしいぞ。知り合いもその国の商品を直接見た事があるらしい。」

 周りの者達も、興味を持ったのか話に混ざり出す。

「そんなの有り得ないだろ。最果ての未開人が、進んだ技術を持ってるワケが無い。」

「そうだよ、我が国よりも優れた技術を持ってる国なんて、センテル帝国以外あるワケ無いじゃないか。」

「全くだ。とても信じられん。」


 「そこまでにしろ!」


 声を上げたのは、近隣で有名な荒くれ者である。

 気が短く腕っ節が強い事もあり、好き好んで近付く者は少ない。

 しかし、船乗りとしての腕は確かであり、よく商人を乗せて船旅をしている。

「俺は、その新興国らしき船をインシエント大陸の向こう側で見た。」

 酒場にいる全員が注目する。

「その船は、鉄で出来ていた。外側は白く塗られていて、全く揺れずに滑る様に海の上を走っていた。」

 一瞬、静まり返る。

「・・・そ、そんなの信じられるワケ無いだろう。」

「飲み過ぎだぞ。」

「そうだそうだ」

 笑い声が響き渡る。

 しかし、この荒唐無稽な話はインシエント大陸まで向かった商人により、少しずつ広まって行く。



 どんどん描くのが難しくなっていく・・・

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