第二十五話 警告
これで、ひと段落です。
クダラ王国 首都 ザイル
特殊作戦連隊が拉致被害者を救助している頃、
キメイダは、王城の寝室でお楽しみの真っ最中であった。
動く度に、寝室は軋みを上げる。
誰も気付いていないが、王城を含む多くの建造物は欠陥だらけである。
クダラ王国で重要施設の建設を任される様な影響力を持った建築家は自身が儲ける事しか考えておらず、バレなければいくらでも手を抜く様な者ばかりであった。
建築家に限らずその施設に勤務する者も同じ穴の狢であり、現在は宰相であるヤショウが留守にしているのを良い事に、多くの官僚が政務を放置していた。
「いやー、宰相がいないと気が楽ですなー。」
「いや、全くその通り。」
二人の官僚が、窓際で暢気に談笑していた。
無論、彼等も本来果たすべき政務を放置している。
彼等を含む大半の官僚は、「一国の運営に関わる選ばれたエリートなのに、何故こんなに馬車馬の様に働かされなければならない!?」と不満を持っているのである。
むしろ、一国の運営に関わるからこそクソ忙しいのだが、エリートなら好き勝手出来るものだと思い込んでいるのが彼等であった。
一通りの愚痴を言うと、外の景色へ意識を向ける。
「しかし、素晴らしい景色だな。これ程の大都市を持つ我が国が、何故大国などと言う低い地位にいるのか理解出来ん。」
「全くですな。列強国に数えられてもいいでしょうに・・・」
世界の事を何も知らない無能の会話は続く。
「そう言えば、東に現れた新興国家の事は知っていますかな?」
「東と言うと、暁帝国の事か?」
「ええ。何でも、ハンカン王国の領有を宣言したそうですよ。」
「何だと!?我々を差し置いて何たる暴挙だ!彼の国の正当な領有権は、我が国にあると言うのに!」
誰も認めてなどいない主張を平然と振りかざし出す。
この主張は、主にクダラ王国内で言われているだけであり、外部へ向けて声明を出した事すら無い。
にも関わらず、何故か既に認められているものだと思い込む者が多かった。
「聞いた話では、宰相が留守にしているのもその事に関してだと言います。暁帝国に対して抗議をする為に使節を派遣し、その隙に何人かの平民共を我が国に<招待>しているとか。」
「ほほぉ。つまり、宰相は我々を差し置いてそい等の品定めをしていると言う事か。」
「恐らくそう言う事でしょうな。羨ましい限りです。」
「全くだ。だが、近い内に我々も楽しめるだろう。」
「フフフフ、楽しみですなぁ・・・」
そんな下種な会話をしていると、
ゴオオオオオオオオオオ
外から聞いた事も無い轟音が聞こえて来た。
「な、何だ!?」
他の官僚達もやって来る。
「あそこだ!あそこに何かいるぞ!」
官僚の一人が叫び、全員が空を見る。
「何だアレは!?」
「飛竜か!?」
「あんな飛竜などいるかァ!」
「じゃあ、何なんだ!?」
「知るワケ無いだろう!」
未知の飛行物体の出現に、完全にパニック状態となっていた。
それは市民達も同様であり、手の付けられない騒ぎに発展していた。
「何の騒ぎだ!」
遂に、キメイダが顔を出す。
「へ、陛下、アレを!」
官僚が指差す方向を見る。
「あれは・・・何だ?・・・ん?」
キメイダは、飛行物体が何かを落とした事に気付く。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・
本能的に恐怖を掻き立てる音が響き渡った。
ドォォォォォォォォォォン
爆発音が鳴り響き、町はずれに火柱が立った。
「ヒィッ・・・!」
あまりの光景に、誰もが恐怖した。
直後、
ゴオオオオオオオオオオ
「あ・・・あ・・・あ」
先程よりも更に巨大な飛行物体が、恐るべき速度で近付いて来た。
「「「うわあああああああ」」」
官僚達は、キメイダを置いて逃げ出した。
キメイダは、その事にも気付かずに立ち尽くしていた。
(何故、何故こんな目に遭わねばならんのだ!?どこで間違えた?いや、間違えてなどおらん。私の行いは、常に正しいのだ。何処の誰かは知らんが、私に逆らった奴は皆殺しにしてやる!)
キメイダは、心中でどす黒い憎悪を渦巻かせながら、飛行物体の攻撃を待つ。
「ん?」
しかし攻撃は無く、代わりに大量の紙がばら撒かれた。
「何の真似だ?」
その質問に答える事も無く、飛行物体は東へ消え去った。
市街地は、パニックのどさくさに紛れた略奪や暴行で無法地帯と化していた。
しかし、上空から大量の紙が降って来る事に気付くと、そちらへ気を取られた事で騒動は鳴りを潜めた。
「何だ、これは?」
それは、暁帝国が撒いたビラであった。
字が読める者は、内容を理解すると周りの者達にその内容を教える。
その内容が広まる毎に、街は恐怖と怒りが蔓延し始めた。
恐怖は、暁帝国の力に対して。
怒りは、暁帝国を挑発したキメイダと、辺境の蛮族に対して。
彼等は、捌け口を求めて動き出す。
・・・ ・・・ ・・・
「辺境の蛮族風情が!!」
大会議場で、キメイダは荒れ狂っていた。
ばら撒かれたビラを回収した結果、今回の事件の犯人が暁帝国である事が判明したのである。
そのビラには、以下の様な事が書かれていた。
『クダラ王国の諸君、
我が暁帝国は、貴国に対して激しい怒りと深い失望を覚えている。
諸君が我が国へ送った使節は、あろう事か我が国民を拉致し、譲歩を迫る為の人質として利用すると言う暴挙に出た。
この様な蛮行を行う様な国とは、我が国は一生関わりを持ちたく無い。
当然ながら、貴国の主張に耳を傾ける気も一切無い。
我が軍の実力は、先程の攻撃で理解したと思う。
我が軍は、先程よりも強力な攻撃手段をいくつも保有しており、何処でも攻撃可能である。
貴国から接触しなければ、その様な手段を行使する事は無い。
だが、もしもまた暴挙に出る事があれば、その手段を躊躇無く行使する。
それは、貴国の滅亡を意味するものである。
賢明な判断を期待する。』
明らかにクダラ王国を下に見た内容である。
この様な一方的な物言いをされれば、誰であろうと不快に思うのは当然である。
増して、見下す立場であったクダラ人からすれば、激昂するに十分な内容であった。
「陛下、キサンにいるヤショウ宰相から連絡が入りました。」
「何!?」
「ハンカン王国から<招待>した者達が、暁帝国の軍人によって連れ去られたとの事です。」
「-------」
格下だと思って見下していた相手にいい様にやられてしまい、顔を真っ赤にして更に荒れ狂う。
「おのれええ、許さんぞ!すぐに出兵の用意をしろぉ!」
「へ、陛下、それは」
「やかましい!蛮族風情に此処までコケにされて黙ってられるかァ!」
あの攻撃を間近で見た官僚達は、恐れ慄いて必死にキメイダを止めに掛かった。
その甲斐あって何とか止まったが、暁帝国へ対抗する事は決定事項となり、大規模な軍拡が開始される事となる。
その結果、反動でクローネル帝国と国境を接している中小国への支援が疎かとなり、結果的に暁帝国へ接触しようとする動きが活発化し、クダラ王国の影響力が本格的減じて行く事となった。
そして、当初は恐怖に縛られていた官僚達も次第にその恐怖を忘れて行き、暁帝国憎しで動き出す。
その動きは、捌け口を求めていた市民にも知られ、官民一体の態勢が築かれた。
その動きが、後にインシエント大陸全体を派手に動かす事となるのだが、この時は誰も知らない。
次は、どうしようかな。




