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第二十四話  拉致被害者奪還

 前書きで書くことが無くなってきたな

 クダラ王国上空



 薄明るい夜明け前の空、

『降下10分前 機内減圧開始 マスク着用せよ』

 人の目で辛うじて見えるか見えないかの高度に、ソレはいた。

 平和な空に不似合いな、物々しい空気を発しながら進む。

『降下六分前 後部ハッチ 開きます』

 カウントダウンが続き、いよいよ動きが活発化し始める。



 ガコォーーン



 ハッチが開く。

『日の出です』

 そこには、美しい日の出を拝むツワモノ達が座っていた。



 ビュォォォォォォォォ



 激しい風が体を襲う。

『外気温度 摂氏マイナス46度』

 地上ならば、極地に近い場所で無ければ有り得ない気温に晒される。



 ゴオオオオオオオオオ



 巨大なエンジン音が鳴り響く。

『降下二分前 スタンドアップ』

 ツワモノ達が、一斉に立ち上がる。

『降下一分前 後部に移動せよ』



 コツ コツ コツ コツ コツ



 座席から、後部へと移動する。

『降下十秒前 スタンバイ』

 淡々と続く手順を黙ってこなし、全ての準備が完了した。

『全て正常 オールグリーン』

 ライトが、赤から青へ変化する。

『カウント 5 4 3 2 1 』



 ダッ… ブォォォォォォォ…



 C-17グローブマスターから、暁帝国軍特殊作戦連隊の兵士達が飛び降りた。

 昭南島から拉致された国民を救出する為に。




 ・・・ ・・・ ・・・




 昭南島  シーエン 帝国総督府



 総督である伊藤は、目の前の男に困り果てていた。

「総督、お願いします!」

 伊藤に迫っているのは、シーエン市長に指名されたリュウショウである。

 彼は、国民(元ハンカン王国民)がクダラ王国によって拉致された事を知り、伊藤へ救助を強く要請しているのである。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!気持ちは分かるけど、そんなに詰め寄られたらまともに話も出来ないよ。」

「落ち着いてなどいられません!私は、国民を守る為にあなた方に降った。しかし、その結果がこれですよ!?この様な失態を犯されては、我々はあなた方を信用出来ません!」

 リュウショウは、止まる気配が無い。

「だから落ち着いて!もう救出作戦は始まってるんだから!」

「・・・・・・は?」

 予想外の言葉を聞き、漸く止まる。

「フゥ・・・やっと話を聞く気になってくれたかな?」

 その後、詳しい話を聞いたリュウショウは、恐怖で頭が一杯になった

(こ、こんな連中に我々は挑んでしまったのか・・・)

 リュウショウは、どうやっても勝てない絶対的な差がある事を思い知った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 クダラ王国  キサン



 此処は、クダラ王国唯一の港町である。

 軍港ならば他にもあるが、一般人の立ち入りは許されていない。

 元々が内陸国であった為に海に面している領地が少なく、周辺国を制圧しようとするとクローネル帝国へ対抗すると言う大義名分を失いかねない。

 その状況を打開する為にハンカン王国に目を付けたが、暁帝国に先を越されてしまった。

 <辺境の蛮族>に先を越されてしまったと言う事実は、彼等のプライドを刺激するには十分であり、現地人の拉致と言う凶行に簡単に及ぶ事となったのである。

 尤も、彼等には凶行に及んだと言う自覚は無い。

 自分より格下=何をしても許されて当然 と言う方程式が成立しており、これに逆らう事こそ忌むべき事と認識しているのである。

 彼等に言わせれば、「凶行では無く、権利」でしか無い。

 そして、その<権利>によって拉致された国民は、キサンの奴隷市場に収容されていた。


「あそこか・・・」

 その奴隷市場を近くの茂みから覗いている一団があった。

 特殊作戦連隊の面々である。

 小隊長は、双眼鏡で奴隷市場となっている建物を覗く。

「表に5人、裏に3人か・・・規模の割には多いな。」

 外にいる見張りの数を数える。

 建物の規模は、町工場の倉庫と同程度のサイズである。

「此処は、これでも国営らしいですよ。外国から攫って来た人を専門に扱ってるらしいですけど・・・」

 クダラ王国は、大国として影響力を持っている事を良い事に、隣国の国境に近い集落を中心に奴隷狩りをしばしば行っている。

 そうした者達は、騒ぎにならない様にわざと街はずれ等に設置された市場で隠れる様に出品されているのである。

「まあ、街はずれなら目立たずに済む。・・・始めよう。」

 小隊が、一斉に動き出す。


「あー、退屈だー・・・」

「おい、集中しろ!」

「そんな事言ったって、ここが襲われる事なんてあるワケ無ぇよ。」

 裏の見張り達が、気の抜けた会話をしていると、



 ガサッ



「ん?」

 近くの茂みから物音がした。



 バスッ バスッ バスッ



 直後、真後ろから謎の衝撃が襲った。

 その衝撃が何なのかも分からず、三人の意識は永遠に閉ざされた。


「クリア」

 サイレンサーを付けた一式小銃で裏の見張りを三発で仕留めた隊員達は、裏口から内部へと入る。

 入り口付近には誰もいない。

「随分とザルだな・・・」


 「「「「「ワァーーーーー!!」」」」」


 上から歓声が聞こえて来た。

「・・・始まった様だな。」

「急ぎましょう。」

 隊員達は、急いで二階へ向かう。

「貴様等、なにも」



 ガッ

 ドスッ



 階段の上にいた見張りをあっという間に無力化し、奥の扉の前に着く。

 全員の準備が終わると、隊長は突入の合図を出した。



 バンッ



「全員、動くな!」

 客と思われる者達が悲鳴を上げる。

「貴様等、此処を何処だと」



 バスッ



 護衛と思われる者が剣を抜いて向かって来るが、一発で無力化した事で会場は静寂に包まれる。

「此処の責任者は誰だ!?」

 奥で立っている中年の男へ視線が集中する。

「彼等を全員解放しろ!抵抗すれば命の保証はしない!」

「そ、そんな・・・何の権利があってそんな事を」



 バスッ



 男は倒れた。

 残りの者達は、恐怖に歪んだ表情をしている。

「大人しくしていれば何もしない。指示があるまでその場から動くな。」

 小隊長はそう指示を出すと、部下と共に奴隷となっている者達を調べ始める。

「・・・隊長、全員います。」

 拉致された国民が全員生きてこの場にいる事が確認され、隊員達は安堵した表情を浮かべる。

 一人ひとり、拘束を解いて行く。

「ああ、助かった・・・」

「ありがとう、ありがとう」

「帰れるのか?本当に?」

 拉致被害者を解放する間、無線手が連絡を取り始める。

「此方甲小隊、目標を発見。救出は成功、迎えを頼む。」

『甲小隊へ、よくやった。すぐにハゲタカを向かわせる。』

 通信を終えると、別の隊員が外からやって来た。

「表の見張りは全て無力化しました。幸い、まだ誰も気付いていません。」

「そうか、此処が街はずれで良かったな。」

 そんな事を話していると、拉致被害者とは別の奴隷が話し掛けて来る。

「あの」

「ん?」

「私達も連れて行ってくれませんか?」

「え?」

 小隊長は驚く。

「私達は、此処から西にある国から攫われて来たんです。」

「西か・・・」

 キサンは、大陸の東側の海岸に面した街である。

 クダラ王国の西側に存在する国とは、かなり離れている。

「分かった、君達も連れて行こう。ただ、その後の事は何とも言えない。」

「え・・・」

「大丈夫だ。我が国に奴隷はいない。君達を奴隷にする事も無い。」

 良からぬ事を想像した事を理解した小隊長は、そう言って安心させる。

「貴方達は、何処の国から来たんですか?」

「我々は、暁帝国から来た。」

「暁帝国?」

 広く認知される様になったとは言え、一般人には未だに知らない者も多い。

「暁帝国だと!?」

 だが、すぐそこに知っている者がいた。

「辺境の蛮族如きが調子に乗りおって!このままで済むと思うな!」

 隊員の一人が銃口を向けると、すぐに引き下がる。

「あんたは誰だ?何故我が国を知っている?」

「ふ、フン、私は、クダラ王国宰相のヤショウだ。貴様等の犯した蛮行も全て知っているぞ。」

 ヤショウは、伊藤に対して行った主張の事を言っていた。

「蛮行?我々は、自身の身を守る為に戦ったに過ぎない。そちらのやっている事こそ蛮行だろう。」

「き・・・き、貴様、たかが蛮族如きがその様な口を・・・!」

 ヤショウは、怒りで顔を真っ赤にしている。

 しかし、対抗手段が無い為、それ以上の事は出来ない。

「いずれにせよ、我が国は貴国如きを相手にしている暇は無い。そろそろ、別動隊が首都に到着する頃だ。」

「な・・・!」

 ヤショウは、驚く事しか出来なかった。

 何とかこの場を逆転させる方法を考えようとするも、怒りで冷静さを著しく欠いている為、思考は空転するばかりであった。

「余計な企みはしない事だ。これ以上我が国にちょっかいを掛ける様なら、今度こそ本当に潰すぞ・・・!」

 小隊長は、凄まじい殺気を放つ。

 彼も、今回の拉致事件に激しい怒りを感じていたのである。

「ヒィッ・・・!」

 ヤショウは、情けない声を上げて縮こまる事しか出来なかった。



 バタタタタタタタタタタ



 外からヘリの音が聞こえて来た。

『此方ハゲタカ、待たせたな、甲小隊。』

 通信が入り、撤収を始める。

「貴国とは、二度と関わりたくないものだな・・・」

 小隊長は、部屋を出る前に振り返って呟いた。


 外に出ると、CH-47とUH-60が待機していた。

「待ちくたびれたぞ!」

「悪いな、飛竜にてこずった!」

 小隊長とCH-47の機長が軽く挨拶する。

「まあいいさ、拉致被害者を乗せてすぐに撤収しよう!」

「おいおい、何か多くねぇか?」

 機長は、事前に把握していたよりも人数が多い事にすぐ気付いた。

「ああ、拉致被害者以外もいたから全員連れて来た。」

「・・・知らねぇぞ。」

 機長は、呆れ顔で呟く。

「隊長、街の方から敵が接近しています!」

「チッ、急いで乗せてくれ!俺達が時間を稼ぐ!」

「任せろ!」

 短いやり取りを終えると、小隊長は駆け出した。



 ダンダンダンダンダンダンダン



 部下達は、既に交戦していた。

「状況は?」

「見える範囲に500はいます。騎兵も80程確認しています。」

 見ると、600メートル程先に此方に向かっている人だかりが見えた。

 余程慌てているのか、隊列も取らずに馬鹿正直に突っ込んで来る。

「これなら楽勝だな。撤収準備が出来たら、すぐにブラックホークに飛び乗るぞ!」

「了解」

 戦闘が始まった。

 いや、戦闘と言うよりは、射的の様になっていた。



 タタタタタタタタタタタタ



 多人数が密集している事もあり、狙わなくても次々に当たる。

 鎧をあっさりと貫通する攻撃に敵は怯んだが、騎兵が前に出た事で勢いを取り戻す。

「賊如きが、調子に乗るなァァァァ!」

 先頭にいる騎兵が雄叫びを上げた。

「先頭のヤツを撃て!」



 ダン



「ガッ・・・」

 小隊長の指示通りに、雄叫びを上げる先頭の騎兵に命中する。

 頭部を撃ち抜かれた騎兵は、馬から転げ落ちた。

「だ、団長が・・・団長がやられた!」

 元々統制が取れているとは言えなかった敵軍は、団長と呼ばれた者が倒れたのを切っ掛けに我先に逃亡を始めた。

「あいつ等、素人か?」

 その様子を見た機長は、呆れ返る。

「隊長、撤収準備完了です!」

「よし、全員乗り込め!」

 小隊長達がUH-60へ乗り込むと、昭南島を目指して離陸した。


 同じ頃、昭南島からクダラ王国へ向けて飛行する編隊があった。



 一話で終わらそうと思ったけど、思ったより長くなっちゃった。

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