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第二十一話  インシエント大陸の強小国

 やっと、人間以外の種族が登場します。

 暁帝国 東京



 時は、少し遡る 


「インシエント大陸からの使節が来た?」

 自室でのんびりしていた東郷に、そんな報せが飛び込んできた。

(上陸作戦が成功して、一息吐けたと思ったら・・・)

 内心でそんな恨み事を吐きながら、自室を出る。

 東郷の自宅は、自宅兼政府中枢となっている為、外へ身を晒す心配は無い。

 更に、赤外線や堀等を設置して要塞の様な仕上がりとなっている。

 会議室の扉を開けると、既に閣僚は全員揃っていた。

「それじゃあ、始めようか。」

 席に着くと、そう言って会議を始める。

 まずは、海上保安庁から経緯の報告が始まった。

「昨日、巡視船あかいしが西部諸島西側のEEZ付近で、東進する帆船を発見しました。接近しても逃亡しなかった為に臨検を行った所、インシエント大陸北部にあるフロンド共和国からの使節である事が判明しました。」

 フロンド共和国は、クローネル帝国との戦いに敗れて滅ぼされた国の生存者達が集まって建国された国であり、険しい山岳地帯を天然の要害として長い間クローネル帝国と対峙して来た国である。

 小国ではあるが、インシエント大陸で唯一クローネル帝国と互角に渡り合っており、強小国と呼ばれている。

「そんな強国が、こんな辺境に何の用だ?」

「友好条約を締結したいと打診して来ております。恐らく、スマレースト紛争の実績から我が国を高く評価し、連携してクローネル帝国に対抗したいのでしょう。」

「友好条約か・・・」

 東郷は、嬉しそうな顔をする。

 現在、暁帝国にはスマレースト大陸同盟以外に国交を結んでいる国は存在しない。

 地理的要因から大多数が辺境の未開人と侮っている上に、スマレースト紛争の話が伝わると大法螺吹きの蛮族と言った認識となり、更に見る目が厳しくなった事で大使館に訪れる者も冷やかしばかりであったのである。

 その上、魔力を持たずに魔術が使えない事も、偏見に拍車を掛けていた。

 加えて、スマレースト大陸を介して齎される暁帝国製の商品を見た者達は、「あんな魔力無しの法螺吹きの蛮族共が、こんな物を作れるワケが無い。大方、列強国から盗んだに違い無い。」と盗人扱いする始末であった。

 極一部の商人は、冷静に情報を見極めて商売にやって来る事もある為、全員が偏見を持っていると言う訳でも無かったが、いずれにせよ暁帝国の外交成果は悲惨の一言であった。

「だが、この情勢下でわざわざウチと同盟を打診すると言う事は、かなり切羽詰まってるんじゃないか?」

「追い詰められているのは確かな様です。まぁ、あの大陸の国家は何処も同じ様なモノですが・・・」

 外務官僚が発言する。

 フロンド共和国は、敗戦国の生存者が建国したと言う事実が災いし、「敗残者の末裔など役に立たない。」と他国から下に見られていた。

 しかし、他国と比較して明らかにクローネル帝国を相手に際立った戦果を挙げ続けており、その事実が周辺国のプライドを傷つける事となってしまい、尚更孤立化が進んでしまうと言う悪循環が形成されてしまっていた。

 この状況を打開する為に他大陸との関係を強化しようとしているが、高い外洋航行能力を持つ船舶を建造する能力は殆ど無く、そのせいで他大陸でも下に見られると言う事態を招いていた。

 そこへ現れたのが、暁帝国である。

 スマレースト紛争の話を聞いたフロンド共和国は、事の真相を確かめる為に多数の諜報員をスマレースト大陸へ送った。

 防諜能力が未だに弱いスマレースト大陸での情報収集は順調に進み、先の紛争の結果が真実であると結論を出した。

 同時に、自国と同じ様に実力があるにも関わらず、下に見られると言う状況に置かれている事も知り、友好関係を結べるのでは無いかと期待して使節を派遣したのである。

「可哀想な国だな・・・」

 事の経緯を聞いた東郷は、未だ見ぬ友好国候補を哀れんだ。

「しかし、何で直接本土を目指したんだ?大陸の大使館に向かった方が安全だろう?」

「彼等は、ハンカン王国が我が国と接触していた事も掴んでいた様です。」

「なるほど。それを警戒してこっちへ来たのか。」

 東郷は、フロンド共和国の諜報能力に舌を巻く。

「今、使節達はどうしてる?」

「佐世保のホテルに泊まって戴いております。この後は、各所を案内して我が国の国力を示すつもりです。」

 覇権主義が横行するこの世界では、決して舐められてはならない。

 ハンカン王国とクローネル帝国については手遅れではあるものの、この世界との関係を広げる絶好の機会を逃す訳には行かない。

 その為にも、此方がどの様な存在であるかをハッキリ示す必要がある。

「向こうの態度次第だが、友好条約を締結する方向で進めてくれ。」

「分かりました。」

本来ならばそこで終わる筈であったが、ある重要な情報があった。

「総帥、使節団の顔ぶれなのですが、少々変な所があります。」

「変?」

「はい。尻尾が付いていたり、不自然な程に毛深かったり、耳が長かったり・・・」

「・・・マジ?」

 その直後から、東郷はすぐに直接使節に会いに行くと喚き始めた。

 これまで出会ってきた者達はただの人間ばかりであったが、遂にファンタジーな存在と接触出来たのである。

 だが、立場上そんな訳にも行かず、周りに力ずくで抑え込まれて断念する事となった。

 こうして、第一回目の対フロンド共和国会議が終了した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  佐世保



 フロンド共和国の面々は、目の前の光景が信じられなかった。

 巨大な鉄の船がいくつも停泊する巨大な港、想像すらした事が無い多数の高層建築物、未知の素材で出来た道を馬よりも速い速度で自走する鉄の馬車。

「私は、夢でも見ているのか?」

 使節団の代表である レティ は呟いた。

 その身体的特徴から、エルフ族である事が分かる。

 彼女は、フロンド共和国を生き永らえさせた陰の功労者である。

 諜報を重視してクローネル帝国の攻勢を躱し、農業へ梃入れを行う事で人口増加に備え、増え続ける敗残者の受け入れにも尽力して来た。

 要するに、彼女がいなければフロンド共和国はとっくの昔にクローネル帝国に飲み込まれていたと言う事である。

 それ程の手腕を持ち、あらゆる困難に動じなかった彼女でさえ、佐世保の高度に発展した街並みには驚嘆を禁じ得なかった。

 同時に、一切の魔力が感じられない事に気付いた。

(どうなっている?魔術を使っていないのか?)

 不可解ではあるが、自分達よりも強大な存在である事は疑いようも無い。

「交渉は厳しいものとなる。皆、覚悟しておくんだ。」

 使節団は、気を引き締めた。


 翌日から、帝国各地を案内された。

 鉄道と呼ばれる交通網、飛行機と呼ばれる空飛ぶ機械、立体的な街並み、全てが規格外であった。

「凄いものですね。我が国にもこれ等を大々的に導入したいものです。」

 レティは、案内役の官僚に話しかける。

「お褒めに与り光栄です。しかし、この佐世保は地方都市に過ぎません。首都である東京はもっと凄いですよ。」

「「「「「!!」」」」」

 使節団は、驚きのあまり絶句した。

(これ程の大都市が、地方都市だと!?いや、そんな事・・・)

「そ、それは、凄いですね。すぐにでも見に行きたいものですよ。」

 レティは、声を震わせながら何とか答える。

 そして、疑問を口にした。

「ところで、一つお伺いしたいのですが。」

「はい?」

「此処へ訪れてからと言うもの、魔力を感じません。これまで見せて戴いた様々な機械も、そしてあなた方自身も・・・」

「ああ、我々は魔力を一切持ち合わせておりません。原因について調査を行っているのですが、未だに不明です。」

「「「!!」」」

 使節団は、再度絶句した。

「これまでお見せした物も、全て魔力を使わずに動かしております。」

(ま、魔力を全く使っていない!?そ、そんな馬鹿な!)

 あまりにも常識からかけ離れ過ぎてしまっている暁帝国の実情に、遂に思考が追い付かなくなってしまった。

 固まってしまった使節団を何とか動かして彼等を新幹線へと乗せた官僚は、「驚かせ過ぎると余計な苦労を背負い込む事になる。」と後に語った。


 新幹線に乗せられた彼等は、外の景色を見たまま一言も話さない。

 いや、話せない。

 想像を超える速度で走行し、にも関わらず静かで快適な乗り心地の車内。

 これだけでも圧倒的な格差がある事を実感するが、目まぐるしく変わり続ける高度に発展した外の景色を見せ付けられ、どの様な分野であろうとも優位性が全く存在しない事を痛感させられる。

 そして、様々な場所を案内された一行は、遂に東京へ到着した。

 官僚の証言通り、佐世保とは比較にならない程の大都市である。

 彼等は、バスに乗せられると迎賓館へと連れられて行った。

「取り敢えず、歓迎はされてるみたいだな・・・」

 帝国側の歓待を目にしたレティは、そう判断する。

 使節団は、用意された食事を堪能した。

 自国の料理とは比較にならない味に、またも驚愕した。

(後、何回驚けばいいんだ・・・)

 一行は、いい加減驚き疲れていた。



 翌日、



 暁帝国側の外交官との会談が始まった。

「急な訪問にも関わらず、これ程の持て成しをして戴き感謝します。」

「いえ、当然の事です。」

 互いに社交辞令から入る。

「さて、既に申し上げましたが、我が国の目的は貴国との友好関係の構築にあります。」

 レティは、早速本題に入る。

「それは良いことです。我が国も友好国を欲しています。しかし、残念ながら今は戦時下である為、友好条約締結等は終戦後になるかと思われます。」

「確か、ハンカン王国から宣戦布告を受けたと聞き及んでおります。必要なら、我が国には相応の支援を行う用意があります。」

(我が国に貸しを作って、優位に立とうとしたい訳か。)

 帝国側の外交官はそう判断するが、支援が必要な戦況では無い。

「お気遣い感謝します。しかし御心配無く。我が軍は、有利に戦いを進めております。いえ、圧倒と言っても良いでしょう。」

 そして、これまでの詳細な戦況を公開する。

「後、一両日中には首都シーエンも占領出来る見込みです。」

「も、もうそこまで!?」

「はい。希望されるのでしたら、観戦武官の派遣も受け入れますが?」

「・・・い、いえ、結構です。」

 あまりにも圧倒的な展開に、使節団には内心疑念が生じていた。

 しかし、スマレースト紛争の戦績も真実である以上、嘘と断言も出来ない。

「貴国には驚かされてばかりです。貴国と友好関係が結べれば、どれ程有益か想像も付きません。しかしハンカン王国を降してしまったら、クローネル帝国が黙っていないでしょう。」

「間違い無いでしょうね・・・しかし、我が国はクローネル帝国も圧倒出来ます。」

 少しでも優位に立とうと話を振ったが、あっさりと断言されてしまう。

「そ、それは、大変頼もしいですね。」

 最早、おだてる事しか出来ない。

「しかし、我が国一国だけで何でもやろうとするのは愚かな事です。我が国は、共に困難に立ち向かう友邦を求めています。貴国と同盟出来れば、我が国にとっても大きな利益となるでしょう。」

「!!」

 使節団は驚いた。

 同盟締結も視野に入れてはいたが、相手を見極める為にあえて友好関係と言う言葉を使っていたのである。

 まさか、暁帝国側から持ち掛けられるとは思っていなかった。

「如何ですか?」

「・・・」


 その後、同盟締結の話が受け入れられ、暁帝国側から使節を派遣して同盟締結を行うと事が合意された。

 その間に、ハンカン王国は暁帝国に降伏する事となる。



 大陸情勢は複雑怪奇

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