第十九話 上陸戦2
ハンカン王国上陸戦後編です。
第一合同艦隊
「全騎撃墜を確認しました。」
艦隊は、ESSMにより飛来した24騎の竜騎兵を撃墜した。
「思ったよりも残っていたな。」
角田は呟く。
上陸作戦の手順は以下の通りである。
一 サンカイの南北に構築された敵陣地を、TU-160による絨毯爆撃によって殲滅する。
二 F-35及びAH-64の援護の下、サンカイへUH-60による強襲を行う。
三 南北の沿岸へLCACによる上陸を行う。
四 上陸した諸部隊により、サンカイを占領する。
そして計画通りに爆撃が実施され、南北の陣地は殲滅した。
投下したのは無誘導爆弾であったが、攻撃範囲を考えればオーバーキルもいいところであった。
戦果確認により、陣地に配備されていた飛竜も全滅した事を確認済みである。
にも関わらず、これ程の数の飛竜が上がって来るのは驚きであった。
「もしかすると、市街地にいたのかも知れません。あの街は王国の中でも二番目に大きい街ですから、街の中心部等に軍事施設があってもおかしくありません。」
事前に航空偵察を行ってはいたが、市街地の建造物のどれが何の建物かまでは見分ける事が出来ずにいたのである。
「まぁどちらにしても、市街地のド真ん中を爆撃するのは後の事を考えると出来ないがな。」
露骨な破壊行為を行えば住民の反感を招き、占領後の統治がやりにくくなる事は目に見えている。
特に、ハンカン王国はインシエント大陸へ睨みを利かせるには絶好の場所に位置している為、是が非でも此方側へ引き入れておきたいと言う思惑も存在している。
『サンカイを目視』
見張りからの報告が入る。
角田は、艦橋から双眼鏡で陸地を拝む。
「派手にやったな・・・」
見ると、爆撃の黒煙が未だに上がっていた。
「揚陸艦隊に上陸準備を指示しろ。合同艦隊は、敵軍の動向を監視しつつ待機。市街地から出て来る敵軍がいた場合は、艦砲射撃によって排除する。」
角田の指示により、揚陸艦隊の動きが慌ただしくなる。
「急げ急げー!」
「さっさとしろー、ノロマ共!」
「ヘマしたら、俺が撃ち殺してやるからな!」
初の実戦と言う事もあり、全員が殺気立っていた。
暫くすると、LCACと各種ヘリが揚陸艦を離れて海岸線へと向かい始めた。
その上空を、F35が通り過ぎて行く。
遂に、初の陸上戦が始まろうとしていた。
・・・ ・・・ ・・・
港湾都市 サンカイ
サンカイの市街地は、混乱の真っ只中にあった。
先程、クローネル帝国の竜騎兵が何者かからの攻撃を受けていると通信を寄越した直後に連絡を絶った。
この報告を受けて軍は警戒体制に移行したが、そうこうしている内に東の海上から信じられない程の巨大な鉄の船が多数出現した。
「何だアレは!」
「鉄だ!鉄で出来た船が浮いてるぞ!」
「一体何者だ!?神の軍勢でも攻めて来たんじゃないか!?」
「オイ、あの旗を見ろ!」
「あれは、暁帝国の国旗じゃないか!」
「何だと!?たかが蛮族があんなモノを・・・!」
真っ先に目撃した兵士達は人目も気にせず大きく動揺した。
そして、街を守る筈の兵士達の狼狽ぶりを見て、市民も激しく動揺する。
そこへ追い打ちを掛ける様に、多数の素材の分からない小型船や、金属製の飛竜の様な物体が恐ろしい速度で近付いて来た為、誰も彼もがパニックとなってしまっていた。
「落ち着けェェい!!」
突然響き渡る声に、全員の動きが止まる。
「兵士諸君、今我々がやらねばならぬ事は何だ!?この街を守る事だ!目の前の異形の船団は、明らかにこの街を攻撃しに来ている!ならば、我等のやるべき事は一つ!奴等を返り討ちにする事だ!あの様な異形を相手に戦うのは恐ろしいだろう・・・だが、恐れる事は無い!諸君は、この様な事態に備えて日々厳しい訓練を積み上げて来た!その辛い日々が、諸君を裏切る事は無い!自信を持って訓練通りにこなして見せよ!そうすれば、必ずや敵を返り討ちにする事が出来るだろう!諸君、我に続け!」
「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!」」」」」
隊長が高らかに演説をした結果、周囲の兵士達は己の責務を思い出し、拳を振り挙げた。
(何とか持ち直したか。しかし、あの様な異形を相手に何処まで通用する事やら・・・)
演説を行った隊長、コウヨウ は内心嘆息する。
だが、部下へその様な姿を見せる訳には行かない。
彼等は桟橋へと向かい、迎撃態勢を整える。
上陸部隊
多数のUH-60が、市街地上空へと雪崩れ込んだ。
乗っている兵員は、ロープを降ろして懸垂降下して行く。
その隙を狙われない様に、同行しているAH-64が周囲の敵を蹴散らして行った。
「沿岸部の敵は、比較的統制が取れてるな。」
街中が大混乱から来る怒号と悲鳴で溢れ返る中、彼等の降下した地点の敵兵は動揺こそしていたが混乱している様子は見受けられず、秩序立った動きをしていた。
「優秀な指揮官がいる様だな・・・」
小隊長が呟く。
「右より敵接近!」
タタタタタタタタタタ
一式小銃の射撃により5名の敵兵が倒れ、残りは負傷者を庇いながら撤退した。
「今度は左からだ!」
タタタタタタタタタタ
同じ光景が再現される。
「隊長、このままではジリ貧です!」
「マズいな・・・」
想像以上に敵の統制が取れている状況に、思わず歯噛みする。
「このままでは各個撃破される。予定を変更して他の部隊と合流する!」
本来の予定では小隊から分隊毎に分散し、混乱の極みにいる敵軍を各個撃破しながら一気に敵の中枢を叩く筈であった。
だが、敵は混乱するどころか市街地と言う地の利を生かし、縦横無尽に統制の取れた攻撃を仕掛けて来ている。
その為、各個撃破するどころか、逆に各個撃破される危険が増してしまっていた。
これは、コウヨウが市街地のド真ん中での戦闘を事前に想定していたからこそ出来た事であり、本来ならばこの様な戦い方は想定すらされていなかった筈であった。
だがコウヨウは、暁帝国を「辺境の未開人」と侮る事は一切せず、冷静にスマレースト大陸での騒動を分析し、対応策を考えていた。
その成果が、暁帝国軍の作戦変更と言う形で表れたのである。
ハンカン王国軍
通信魔道具を通して続々と上がってくる報告に、コウヨウは焦りの色を濃くしていた。
暁帝国の力は、彼の想像を遥かに超えるものであった。
空中で静止し、多数の兵士を運搬出来る竜など聞いた事も無い。
更に、その輸送用と思われる竜を援護する攻撃用の竜まで率いている。
先の演説により、部下の士気が崩壊する事は無かったが、動揺は大きく初撃は上手く行かなかった。
今の所、敵を各個に封じ込められてはいるが、既に300名もの死傷者を出しており、次の一手を出せずにいた。
「これ程とは・・・」
コウヨウは、スマレースト紛争で暁帝国が見せた力がほんの一部に過ぎない事を思い知らされた。
「隊長、南北の海岸に敵の小型船が上陸しました!驚くべき事に、船がそのまま浜辺に乗り上げ、巨大な鉄の馬車をいくつも直接降ろしているそうです!」
他の部隊と連絡を取り合っていた部下が、コウヨウへ報告する。
「鉄の馬車だと!?」
「はい。しかもその鉄の馬車は馬の牽引を必要とせず、自力での走行が可能だそうです。」
コウヨウは絶句した。
南北の海岸へ配置していた部隊は、先の大爆発によって全滅している。
市街地にいる敵だけでも手に余るのに、更に強力な敵が多数上陸して来たとあっては、どうしようもない。
「隊長、市街地にいる敵兵が動き出しました!」
「何!?」
別の部下からの報告が入る。
「敵軍の動きから見て、合流しようとしている様です。阻止しようとした部隊は、上空からの援護を受けてあっさり突破されてしまった様です。」
既に飛竜は全滅しており、制空権が完全に敵の手に落ちている為、敵の上空からの援護を阻む事は出来ない。
更に、もしこのまま敵の合流を許してしまったら、対抗する術は皆無となる。
だが、現状では合流を阻止する事は出来ない。
加えて、南北の海岸から敵が上陸して来た事により、街は半包囲されてしまっていた。
「・・・降伏する」
「!!」
八方塞がりとなったコウヨウは、決断した。
すぐに各部隊へ伝達され、コウヨウの指揮下にあった沿岸の部隊は、その生命を保証された。
・・・ ・・・ ・・・
サンカイ軍司令部
「コウヨウ隊長の部隊が、敵に降伏!敵は、此方へ真っ直ぐ向かって来ます!」
「クソッ!コウヨウめ・・・蛮族に降伏するとは恥知らずが!」
司令部は紛糾していた。
あまりに想像を超えた数々の攻撃によって味方は悉く叩き潰され、最後の希望であったコウヨウの部隊も降伏した事で、対抗可能な部隊は皆無となってしまったのである。
「止むを得ん・・・こうなった以上、サンカイは放棄する。」
司令官の決断に異を唱える者はいなかった。
蛮族と蔑んでいた敵に背を向けるのは、彼等もやりたくはない。
だが、現状ではどうしようもない事も理解していた。
「脱出するぞ!」
その場にいる全員が動き出そうとした時、
『司令部にいる者達に告ぐ。此処は完全に包囲されている。直ちに降伏せよ。降伏すれば、諸君の身の安全を保障する。降伏する場合は、白旗を掲げて武装解除せよ。』
司令部の周辺で多数の兵士を運んだ奇妙な竜が飛び回り、降伏勧告を行う。
「し、司令官、どうしますか?」
「蛮族如きに降伏などしてたまるかァ!こうなれば此処で奴等を迎え撃ち、一人でも多くの敵を道連れにしてやる!」
司令官は、血走った目で叫んだ。
「し、しかし、その様な事をしては」
ドス
司令官は、反論しようとした部下を何の躊躇いも無く刺殺した。
「私の命令に異議のある者は・・・?」
殺気を漲らせた司令官の目付きに恐れをなし、誰も反論しなかった。
こうして、徹底抗戦の方針が決定された。
上陸部隊
「応答は無しか・・・仕方無い、攻撃せよ!」
ドガガガガガガガガガガ
アパッチの30ミリ機関砲が火を噴いた。
司令部にいた人間は、機関砲の直撃を受けて消滅するか、掠って体が大きく抉れて即死するか、暫く悶えた後に死に絶えた。
こうして、一切の抵抗を示せないままサンカイ軍司令部は陥落した。
・・・ ・・・ ・・・
コウヨウは、司令部の陥落を遠方から目撃し、恐怖した。
我々は、何と言う化物を敵に回してしまったのだ。
魔術の使えない未開人?
とんでもない。
魔術よりも強力な攻撃手段をいくつも擁しているではないか!
その容赦の無いやり口から、自分も部下達も同じく容赦無く殺されるだろう。
だが、何としてでも部下だけは助けなければ。
コウヨウの悲壮な決意は杞憂に終わる事となるが、司令部の惨状と並んでサンカイ陥落の証明となった。
・・・ ・・・ ・・・
西部諸島 西部海域
暁帝国のEEZに近いこの海域を、東へ向けて進むみすぼらしい帆船があった。
「本当に、この先に彼等の国があるのか?」
「暁帝国に直接行った事のある商人からの情報だ。間違い無いよ。」
「だといいけど・・・」
彼等は、目を皿の様にして陸地を探す。
「!・・・オイ、船だ!東から船が来るぞ!」
一人の船員が叫ぶ。
「本当だ!」
「噂は本当だったんだ!」
船員達は口々に叫ぶ。
直後、恐怖する事となった。
「な、何なんだよ、いくら何でもデカ過ぎる・・・」
「あれって、鉄で出来てるのか!?」
「何てスピードだ・・・!」
「甲板に魔導砲みたいなモノがあるぞ。」
彼等が目撃したのは、海上保安庁の巡視船である。
その後、巡視船の臨検を受けた彼等は、目的であった暁帝国政府との接触に成功した。
登場人物が増えてきたな・・・




