第十六話 海戦
今回からハンカン王国戦です。
ビンルギー公国 メイハレン
この街では、ハンカン王国の督促(脅迫)を受け、グリンを中心とした防衛隊のメンバー達が忙しい日々を送っていた。
その様な日常とは違う喧騒に包まれている街の沖合に、暁帝国艦隊が停泊していた。
「何と巨大な船だ!」
「まさか、あの噂は本当だったのか!?」
「どうやったら鉄が浮くんだ?」
市民達は二度目と言う事もありそれ程騒いではいないが、偶々この港を訪れていた商人や旅人は驚きの声を上げた。
「前回の倍はいるな。」
領主となったアクーラは、呆れた様に呟いた。
暁帝国海軍 第一合同艦隊
第一艦隊
第一戦隊
CVN 鳳翔 CG 金剛 DDG 秋月 DD 朝潮 DD 大潮 DD 満潮
第九戦隊
CG 妙高 CG 那智 DDG 春月 DD 叢雲 DD 東雲 DD 薄雲
第七艦隊
第七戦隊
CVN 隼鷹 CG 青葉 DDG 霜月 DD 涼波 DD 藤波 DD 早波
第十五戦隊
CG 利根 CG 筑摩 DDG 卯月 DD 早霜 DD 秋霜 DD 清霜
第一〇一艦隊
BB 信濃 BB 尾張
呆然としている商人達の前に、一隻の小舟がやって来た。
乗っていたのは、角田大将を初めとする幕僚達である。
「ようこそいらっしゃいました。私が現領主のアクーラです。この度は、これ程の援軍を派遣して戴き、感謝の念に堪えません。」
「歓迎感謝します、アクーラ殿。私は、当艦隊司令官の角田 元治大将です。」
友好的な挨拶を交わす。
この様子は、後に商人や旅人を通じて拡散し、暁帝国に対して興味を抱く者が急増する事となる。
・・・ ・・・ ・・・
ハンカン王国艦隊
「忌々しい・・・」
モウテンは、艦隊の前を見ながら呟く。
そこには、クローネル帝国の戦列艦が残りのハンカン王国艦隊の進路を塞ぐ様に複縦陣で進んでいた。
船員達も、敵を見る様な目で目の前の戦列艦を見る者が多かった。
作戦会議以降、自軍の士気は下がる一方であった。
(これでは戦えない)
緻密な連携が何よりも重要な艦隊戦は、乗員同士、艦同士の綿密な意志疎通が不可欠である。
現状、主にイサークによってその不可欠な要素が大いに乱されおり、このまま戦闘ともなれば要らない損害を被る事は容易に想像出来た。
その損害が敵との戦闘によるものならまだしも、現状のままでは味方同士によるものが大半を占めるだろうとモウテンは危惧していた。
(まともな艦隊行動も行えずとも勝てる相手であれば良いが・・・)
ハンカン王国史上空前の艦隊を率いているだけに、指揮官であるモウテンの抱える心労はただでさえ大きい。
それに加えて余計な不確定要素が追加されてしまった事で、彼の胃と精神は戦う前から多大なダメージを負っていた。
・・・ ・・・ ・・・
第一合同艦隊
角田は、敵艦隊出撃の報を受けて出撃を命じた。
艦隊は、空母を中心とした輪形陣を取って南西を目指した。
「レーダーに感あり!南西90海里に艦隊!」
「来たか・・・思ったより早かったな。」
「情報にあった魔道具のお陰でしょうか?」
「だろうな。情報によると、10ノットは出るらしい。」
角田は暢気に答える。
(数は多いが、負ける要素は無いな)
そう判断し、総員戦闘配置を下令した。
「艦隊から第九、第十五戦隊を切り離して先行させる。砲撃戦でカタを付けろ。」
先行艦隊は、主力から離れると単横陣を取って敵艦隊へ向かった。
・・・ ・・・ ・・・
ハンカン王国艦隊
戦列艦を先頭とした艦隊は、悠々と進み続ける。
周辺を見回しても海以外に何も見えず、平和そのものであった。
「敵は、俺達に恐れを為して逃げ出したんじゃないか?」
船員の中には、そんな事を言い出す者まで現れていた。
その時、
ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
「ん?何の音だ?」
突然甲高い音が耳に入り、全員が音の出所を探ろうと周囲を見回す。
ドォォォォォォォン
そうこうしていると、一隻の味方艦が爆煙を上げてバラバラに砕け散った。
「な・・・何が起きたァ!」
モウテンは思わず叫んだが、誰一人答える者はいない。
それから数分が経ったが、それ以上の異変は起こらなかった。
乗員は、再度の異変を恐れて不安そうな表情をモウテンへ向ける。
「事故か・・・?いや、そんな筈は・・・」
仮に魔導砲絡みの事故だとしても、あそこまで木っ端微塵とはならない。
(まさか、敵の攻撃!?)
目を凝らして周囲を見渡すが、いくら見渡そうとも敵艦らしき姿は見当たらない。
沈黙していると、通信魔道具が反応した。
『モウテン殿、先程の爆発は何ですかな?』
モウテンは、不快感で顔を顰めた。
「原因は不明です、イサーク殿」
『不明?ただの事故ではありませんかな?』
モウテンの眉間に皺が入る。
「仮に魔導砲の暴発事故だとしても、あそこまでの被害にはなりません。これは推測ですが、敵艦隊からの攻撃では無いかと。」
『フゥ・・・そんな訳が無いでしょう。列強国ならまだしも、辺境の蛮族にそんな大それた真似が出来る筈が無い。やはり事故でしょう。』
明らかに馬鹿にした様な口調に、モウテンの顔が歪んで行く。
『戦う前からこの様な失態を犯されては、貴国どころか帝国の威信にも関わります。この戦いが、皇帝陛下の強い関心を引いていると言う事をお忘れ無きよう。』
言いたい事だけ言うと、通信は一方的に切られた。
「・・・クソがー!」
あまりの怒りで、モウテンはこれまでに無い程の叫びを上げた。
「全く、あんな連中のお守りをしなければならないとはな・・・」
イサークは、甲板で忌々しそうに呟く。
しかしすぐに関心を失うと、敵がいるであろう方向を睨む。
内心穏やかではいられず、敵を探す事で気を紛らわそうとしているのである。
「・・・ん?何だ、あれは?」
そうして暫く何も無い海を眺めていると、北東の水平線上に見慣れない構造物を認めた。
イサークは、目を細めて正体を探りに掛かる。
「島?・・・いや、あんな所に島は無かった筈・・・だとすると・・・船!?」
・・・ ・・・ ・・・
第一合同艦隊 先行艦隊
「第一射、命中確認しました。」
「よし、問題は無いな。」
CICからの報告を聞いた角田は、初の実戦を経験する艦の調子が問題無い事を確信し、安堵する。
ハンカン王国艦隊を沸かせた事故は、暁帝国艦隊からの第一射が命中した事で引き起こされた事態であり、決して事故ではない。
20キロ先の敵艦へ放った砲弾は、寸分違わず命中したのである。
「敵艦隊、進路変わりません。戦列艦と思われる10隻が、前に出て複縦陣を形成しています。」
「退いてはくれないか・・・」
「敵艦隊を目視!距離、13キロ!」
見張りからの報告が上がる。
「妙高を敵艦隊へ近付けて、警告を行わせろ。」
角田の指示を受け、巡洋艦妙高は艦隊から離脱した。
ハンカン王国艦隊
艦隊は、騒然としていた。
見た事も無い巨大船が接近し、乗員が口々に驚きの声を上げる。
「な・・・何なんだアレは・・・」
「まさか、アレが暁帝国の船なのか!?」
「辺境の蛮族じゃあなかったのか!?いくら何でも、デカ過ぎるぞ!」
同時に、イサーク以下、戦列艦の乗員も唖然としていた。
「あんな船、見た事も聞いた事も無いぞ・・・」
「イサーク様、一隻接近して来ます!」
何とか冷静さを取り戻した副官が、イサークへ報告する。
「フン、辺境の蛮族風情が分不相応なモノを・・・だが、所詮は蛮族の船だ。砲撃で粉々にするぞ!」
そう言うと、砲撃準備を指示した。
近付いて来た敵艦は、並走を開始する。
巨大な艦橋の隅には見張りと思われる乗員を目視出来、その地味で弱々しい出で立ちに豪華に着飾っている多くの士官が失笑した。
すると、敵艦から信じられない程の声量で警告が発せられた。
『ハンカン王国艦隊に告ぐ。我々は、暁帝国艦隊である。貴艦隊に勝ち目は無い、直ちに引き返せ。繰り返す、直ちに引き返せ。』
イサーク達は敵の勧告を聞き、怒りで目を血走らせた。
「ふざけるな!辺境の蛮族如きが、我々に対して警告だと!?身の程知らず共め!」
「イサーク様、砲撃準備完了しました!」
「よし、直ちに砲撃だ!蛮族共に我等を愚弄した代償を支払わせてやれ!」
第一合同艦隊 先行艦隊 妙高
「艦長、船員達が何か叫んでいます。」
艦橋からは、戦列艦の船員が目を血走らせながら怒鳴っているのが見えていた。
「退かないだろうとは思っていたがな・・・」
艦長は、そう言って苦笑する。
ドォォォォォォォォン
「な・・・!」
「て、敵弾、100メートル手前に着弾!」
スマレースト紛争の情報から、魔導砲の射程は900メートル前後だろうと予測されていた。
その為、1000メートルまで近付きつつ警告を行うと言う前提で動いていた。
だが、今の光景はその前提を完全に覆した。
彼我の距離が1600メートルの時点で撃って来た上に、1500メートルも飛んだのである。
「危なかった・・・まさか、こんなに射程があるとは思わなかった。」
「スマレースト大陸に輸出した物は、劣化版と言う事でしょうか?」
「だろうな。この程度の事を想定出来ずにいたとは、恥以外の何物でもないな・・・」
輸出品がモンキーモデルである事は、地球でもよくある事である。
当然想定される事態を見逃していた所に、圧倒的な技術差を根拠とする油断が見て取れていた。
「まあ、当たっても沈む事は無いだろうが、戦闘不能にはなっていたかも知れんな。」
現代艦は、敵弾が命中する前に撃ち落とす事を前提としている為、防御力は皆無である。
レーダー等の重要な機器が野晒し同然となっており、もし直撃でもすれば一発で戦闘不能へ追い込まれてしまう。
「これ以上は危険だな・・・すぐに離れるぞ!」
妙高は直ちに離脱し、後方にいる艦隊と合流した。
合流後、砲撃が開始された。
ハンカン王国艦隊
「フハハハハハハ!見ろ、奴等は尻尾を巻いて逃げて行くぞ!」
イサークはそう言い、大いに罵倒した。
だが、同じ光景を見ていたモウテンは不安抱いていた。
(何て速度だ・・・あの巨体であれ程素早く航行出来るとは・・・しかも、あの艦体は鉄ではないか?もしかしたら、我が国はとんでもない間違いを犯したのかも知れんな・・・)
その直後、悪夢が始まった。
ドン… ドン… ドン… ドン…
規則的な砲撃音が鳴り響き、先頭を航行していた戦列艦10隻があっという間に海の藻屑となった。
「そ、そんな・・・こんな事が・・・こんな事が・・・!」
「敵も魔導砲を持っていたとは・・・だが、何と言う射程だ!」
誰もが目の前で起きた現実を信じられず、上言の様に呟きを発する。
その様な中、モウテンの脳裏に有り得ない予測が出る。
(先程の爆発事故は、やはり奴等の砲撃なのか!?いや、目視出来ない距離から当てるなど・・・)
「モウテン、オイ、聞こえてるだろう!俺を助けろ!」
思考を巡らせていると、割り込む様に声が聞こえて来た。
声の聞こえた方を向くと、戦列艦の残骸に掴まったイサークが漂流していた。
だが、モウテンは無視して前進を続ける。
「モウテン、オイ、何をしている!?こんな事をしてタダで済むと思ってるのか!?」
イサークは喚き続けたが、モウテンは耳を貸さない。
「モウテン様、宜しいのですか?」
部下の一人がおずおずと口を開く。
「構わん。こんな所で救助の為に止まっても、敵に狙い撃ちされるだけだ。」
「・・・そうですな。敵の魔導砲は、我々の常識を遥かに超えております。」
イサークの態度に嫌気が差していた一同は、モウテンの判断に笑みを零した。
だが、敵の常識外れの戦闘力に意識が向くと、その笑みはすぐに引っ込んだ。
ドン… ドン… ドン… ドン… ドン…
「敵艦隊、砲撃を再開!」
10キロも離れているにも関わらず、敵弾は一発も外れる事無く味方へと降り注ぐ。
それどころか、一隻当たり一発で確実に沈められており、艦隊は尋常ではない速度でその数を減らし続ける。
「な、何故、全弾当たるんだ!?」
「有り得ない・・・夢でも見ているのか?」
「クソッ!これでは無駄死にではないか!」
凄まじい水飛沫と木片が宙を舞い、残った者達も絶望の内に海へ沈んで行く。
「ッ、降伏だ!降伏する!」
モウテンは叫んだ。
「し、しかし、敵が受け入れてくれるかどうか・・・」
部下が当然の懸念を口にするが、モウテンは暁帝国の降伏の仕方を伝えられていた。
尤も、それは暁帝国からの降伏を受け入れる為のものであったが、その判断を下した上層部の思惑は別の形で発揮される事となった。
「白旗を掲げろ!それで伝わる、急げ!」
第一合同艦隊 先行艦隊
「敵艦隊、白旗掲揚!」
見張りからの報告が上がる。
「全艦、砲撃中止!」
この瞬間、海戦が終了した。
ハンカン王国艦隊は、降伏した40隻を残して撃沈され、暁帝国艦隊は損害無しであった。
降伏した船員は暁帝国史上初の捕虜となり、西部諸島に建設された捕虜収容所へ後送される事となる。
この結果は、通信魔道具によって直ちにハンカン王国へ伝えられ、大きな衝撃を与えた。
戦闘シーンは難しいな。




