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第百五十一話  鎮まり行くガリスレーン大陸

 多くの方が投稿を待っていた様でして、コメントも頂きました。

 本当にありがとうございます。

 ガリスレーン大陸



 アリの顔役の一人であるミルドの狼のボス、ミルドが姿を消した。

 当事者を除き、その話題を耳にした者は極僅かであった。

 しかし、現在の情勢からすればほんの些細な一人のならず者の死が、徐々に、だが確実に影響を与え始めていた。

 また、同時期に連合軍の発足を理由にした無理な徴発等で暁帝国とセンテル帝国の顰蹙を買った各国が対応を変えた事も拍車を掛けていた。

 それまで出所不明な扇動者によって巧妙に怒りを煽られていた暴徒達だが、ある時を境に鎮圧の動きが鈍化した。

 暁帝国とセンテル帝国からのある種の警告により、各国は内心憤慨しつつも警告通りに対応を変更したのである。

 各地で頻発していた徴発は購入に変更され、あくまで無理の無い範囲で行う事が厳命された。

 暴動に関しては、暴徒に対する機動隊よろしく盾を構えてそれ以上の拡大を防ぐ方向に終始した。

 こうした方策の変更は、それまで扇動者が煽っていた言動との矛盾を招き、新たな支持者の獲得を阻む一因となった。

 一方、肝心の暴徒はまともな抵抗が無くなったのを良い事に暴れ続け、それを抑える側は負傷者が増大したが、それでも対応を変えなかった。

 それから暫くは膠着状態が続いていたが、ある時を境に突如として扇動者が姿を消した。

 不満の溜まっている理由を明示し、その原因を明言する事で捌け口とするべき対象を明確にし続けていた存在がいなくなった影響はすぐに表れた。

 まず、最前線に立っていた暴徒は官憲を相手に好き放題暴れる事が出来たお陰で、適当な所で満足して暴動から手を引いた。

 しかし、怒りの収まらない者達は独自に捌け口を求め始め、どさくさ紛れに略奪に手を染める者すら現れた。

 流石に、こうした行為に対してまで各国は傍観を決め込む事は無く、略奪者は次々と拘束、ないしは抵抗すればその場で排除された。

 この様な変化から、一般市民目線では「国が国民を守る為に動いている」と映る様になり、暴徒に対しては白い目を向け始める事となった。

 暴動に対する支持は急落し、各国の支持は自然と上がり始めていた。



 エリク王国



 イズラン公国の隣国であるこの国は現在、西進する連合軍の通り道となっている。

 そのせいもあり、各地で軍の横暴が特に目立つ状態が続いていた。

 中には、国に対してすら横柄な態度で物資の供出を要求する者もおり、この様な状況では一般市民に対する態度は推して知るべしであった。

 当然ながらその様な状況を見逃すミルドの狼では無く、火点けのし易さから本格的な暴動の始まりの地となった。

 だが同時に、イズラン公国に近い事から暁、センテル両国の目が十分に届く範囲内であり、代表団に対する警告を契機として積極的な取り締まりが行われる事となった。

 図らずも後ろ盾を得る形となった王国も、近衛兵すら動員して事態の鎮静化を積極的に推し進める方針を採り、各地へ人員を派遣している。



 とある田舎町



 周辺の村の中心地となり、それなりの人口を持つ街は各地に存在する。

 そうした場所は、主要都市と比較すれば小規模とは言えど物流の中心地となり、様々な物資が集まる。

 同時に、田舎である事から大した防御策を持っていない。

 そうした条件が折り重なれば、現在の情勢では当然こうなってしまう。

「こんなに貯め込みやがってェ!」

「やめてーー!」

「よこせやコラ!」

 暴動のどさくさに紛れた略奪の対象として選ばれていた。

「俺達が苦しんでる時にのうのうと暮らしやがって!」

「お前等も味わえェ!」

 彼等の胸の内にあるのは、怒りと言うよりは最早逆恨みであった。

 苦しんでいる者がいる中で、平和を享受していられる者が許せない

 軍のルートから外れただけで、何事も無く暮らせている事実が受け入れられない

 制御を失った怒りは、いつしかより身近な存在を標的にした憎悪に成り変わっていた。

「死ねェ!」



 ザクッ



 激しく燃え上がった憎悪の炎は、奪うだけでは飽き足らず刃物を振り下ろす。

「あなたーーーー!」

「いやぁぁぁ!」

 一人の男が勢い良く血を吹き出しながら倒れる。

「この人でなしが!どんな理由があってこんな事を」



 ドスッ



 抗議の声を遮る様に、また一人刺される。

「ハッ、何も知らねぇな・・・テメェらがのうのうと暮らしてる間に、俺達がドンだけ苦しんでたのかな!」

 言葉が進むにつれ、怒りで声が大きくなり、表情も怒りで歪む。

 その声につられる様に、略奪に勤しんでいた者達も動きを止め、怒りの表情を浮かべて下を見る。

「テメェらも味わえ!」

 刃物を振り上げて一斉に駆け出す。

「ヒッ・・・!」

 対抗手段を持たない村人は、頭を抱えて蹲る。



 プオォォォォォォォォォォ・・・・



 突如、付近から甲高い音が響き渡る。

「奴等を盗賊と認定、排除せよ!」


 「「「「「オオオオオオオーーーー!!」」」」」


 やって来たのはエリク王国軍である。

 角笛の合図を受け、一斉に突撃する。

「イヤアアアアアッ!」

 馬に乗った士官が先陣を切り、剣を前へ振るう。

「ウギャッ!」

 一人が切り捨てられ、次の標的を定めるとそちらを睨む。

「く・・・来るな・・・来るなァァァァァ!」

 狙われた男は、逃げようとするも恐怖で上手く動けず、後ずさりが精一杯であった。



 ドシュッ



 また一人が切り捨てられると、少し離れた位置にいた暴徒達が激昂する。

「またやりやがったぞ!何処までも俺達を馬鹿にしやがってェェ・・・!」

「見たか、アレが俺達の本当の敵だ!どんなに苦しくても民から奪い続け、終いには面白半分に殺して回る外道共だ!あんな連中に従っても良い事など無いぞ!」

 そう叫ぶ暴徒に対し、今の今まで襲われていた側は冷めた視線を向ける。

「な、何だその目は?」

 自身の主張に全く乗らない様子に困惑するも、周囲の光景が物語っていた。

「ふざけるな略奪者め!お前達に何人殺されたと思ってる!?」

「奪ったのはお前等だろうが!面白半分に殺してもいただろうが!」

 街の惨状を生み出したのは暴徒であり、軍は民を守る為に動いている。

 それが、この場の事実であった。

 粗方の暴徒が排除され、最も遠くにいた数人のみが残る。

 彼等の手元にあるのはナイフと石のみであり、完全武装の本物の軍人相手に対抗など出来ない。

 その上、瞬く間に包囲された。

「正義ヅラしやがって!俺達の娘を攫った人でなし共が!」

 逃げ場も無くなり、自棄になって突っ込む。

「放て!」

 後方から矢が放たれ、直接刃を交える事も無く蜂の巣となった。

「残党がいるかも知れん、周囲を捜索しろ!」

 馬上から士官が命令を飛ばす。

「報告、残党は確認出来ず!」

 その報告と共に、緊張が解ける。

「郊外へ移動し、一時休息を摂れ。通信士、鎮圧を本部へ報告せよ。」

 暴動発生の経緯から、各国では鎮圧に際して市街地へ長時間留まる事が無いよう厳命している。

 また、不要な市民との接触も厳禁としている為、末端では若干のストレスが溜まっていた。

「はーあ、次は何処に引っ張られるんだろうなぁ?」

「移動鎮圧移動鎮圧・・・流石に疲れるね。」

 兵士達は、気楽に武器を担いで移動を開始する。

「あの・・・」

「ん?」

 そんな彼等に対し、市民達が近付いて話し掛ける。

「有り難う御座いました、助けて頂いて。」

 感謝の言葉に面食らう。

「い、イイって事よ、俺達は命令を受けてやってるだけだ。」

「そうね。んじゃぁ、余計な接触は禁止されてるからこれで。」

 そう言うと、速足で郊外へ移動する。

(あんな事は初めてだ・・・)

 君主国家であるエリク王国は、より高位の権力者に認められる事がステータスであり、一般兵にとってもそれは同様であった。

 取るに足らない筈の平民の感謝の言葉は、その様な認識に一石を投じた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  情報省



「・・・以上が、現在までの経過となります。」

 ミルドの暗殺成功の報告を受け、近藤の元で報告会が行われていた。

「予想以上の勢いで収まっています。」

 彼等の予想では、各国が落ち着きを取り戻すまでには一年以上を費やすと考えられていた。

 それが、倍とは言わない勢いで急激に落ち着いているのである。

「原因は何だと思いますか?」

 近藤が問う。

「現地諜報員の報告によりますと、暴徒の多くが略奪に走り始めており、各国がその鎮圧を行う形になっているのが大きいかと。」

「略奪が始まったのは、工作を潰したからですか?」

「タイミングから見て間違い無いかと。結果的に、鎮圧の動きが略奪から市民を守る形になっており、それが良い方向に作用していると思われます。」

 良い報告だが、それでも気は抜かない。

「うん・・・現場に出向いている人達と、後方にいる人達の認識に乖離が出そうですねぇ・・・」

「十分に有り得る事態です。」

 鎮圧に直接出向いている者達からすれば、市民の直接的な反応を受けて、少なくとも感情的には積極的に守ろうと動き出す方向へ行く事が考えられた。

 だが、現場に出る必要が無く、平民を搾取する立場と見ている上流階級は、一向に理解を示す事が無いとも分析されていた。

 そもそも、最初の警告を知らされた段階から憤慨している様子が現地諜報員を介して送られており、対応を変えたのはあくまで滅亡の危険を察知したからに過ぎない。

 更に、警告に従った事が結果的に早期の鎮圧に繋がった事で、心情的に納得出来ない彼等の神経を逆撫でしているのである。

 こうなってしまうと感情論で頑迷になり、現場との認識の差が大きくなって具体的な支障が出るに至ると言うのが良くある展開である。

「今度は、現場と後方で割れてしまう可能性があります。最悪の想定は内戦状態です。」

「イヤですねぇ・・・」

 一難去ってまた一難とはこの事である。

 誰もが渋い顔をする。

「まぁ、まだ猶予はあるでしょうし、外務省に情報を渡して馬鹿な真似をしない様に牽制して貰いましょう。」

 その後、対外情報局によって集められた情報から現状の最善策を導き出し、それを外務省へ伝えて各国へ要請する体制が整えられた。

 無論、これは内政干渉に抵触する行為ではあるが、「貴国は人類か?」と問われては受け入れるしか無かった。

 かつて、人類の敵扱いを脅しとして使い、弱者からの略奪をしていた彼等は、より強大な存在にカウンターパンチを喰らう羽目となったのである。

 それでも、表面上は従いつつ何もしない所もあった。

 その場合、対外情報局からの報告を受けて外務省職員がヘリで直接王城へ乗り付け、笑顔を崩さず丁寧に話し合いを行った結果、真っ青になり大慌てで対応を始めるに至った。

 こうして致命的な事態は回避され、後方の不安は取り除かれたのである。




 ・・・ ・・・ ・・・




 イズラン公国  アルテル



 奪還を果たしたアルテルには、シレイズから司令部が移動していた。

 敵の戦力は膨大ながら制海権を失い孤立している影響は大きく、戦闘力は大幅に低下していた。

 特に、装甲戦力の稼働率の低下は深刻な状況が見えており、車体を埋めてトーチカ代わりにしている光景がそこかしこで展開されていた。

 その影響で効果的な機動が行えず、連合軍は容易に前線を押し上げる事が出来ていた。

「敵は最早、籠城しての遅滞戦闘しか出来ない様です。」

 継続的に上がって来る報告を見ながら、藍原は言う。

「貴軍が敵司令官を打倒した影響も大きいでしょう。指揮系統に問題が出ている節が見受けられます。」

 ブレイドが答える。



 ガチャッ



「フゥー・・・」

 そこへ、街の視察から戻ったマフェイトが入室する。

「お疲れ様です」

「いえいえ、あなた方の苦労に比べれば、この程度など安いものです。」

 戦闘と同時並行で、アルテルは日夜復興を急いでいた。

 軍の協力もあり、瓦礫の撤去は短期間で完了したものの、そこかしこに目に付く弾痕や半壊した建造物が、戦闘の生々しさを物語っていた。

「まずは、いつ崩壊してもおかしくない施設の解体からですな。難民と化した民がこの街へ戻るには、今暫くの時間が必要になります。」

 元々、可能な限り街そのものを破壊しない方針を採ってはいたものの、結果的に殲滅戦と化した事でその様な事を言っている余裕も無くなり、安全を優先して籠城している敵を砲撃で丸ごと破壊する事も多々あった。

 市街戦は、スターリングラードやベルリンの様な徹底抗戦を強いられては、どうしても凄惨な破壊が付いて回るのである。

「申し訳ありませんが、バルディも同様になる事を覚悟して下さい。」

「そうですか・・・」

 自身の領地が破壊されると思うと、どうしても気が滅入る。

「それはそうと、後どの程度でバルディまで到達出来るでしょうか?」

「敵を虱潰しにしながらなので歩みは遅いですが、早ければ半月と言った所でしょう。」

「流石ですな。あなた方がいなければどうなっていたかと思うと、心底恐ろしいです。」



 ブシルーフ領南部沿岸付近  暁帝国軍第一海兵師団



 石煉瓦で出来た街道の脇に、この世界では有り得ないサイズの戦車が勢い良く西進していた。

『前方に熱反応有り 形状から砲塔と思われる 数、4』

『小隊各車、攻撃を許可する』



 ドドドドォン



『誘爆を確認、撃破』

『敵歩兵の撤退を確認、追撃する』

『多目的榴弾を装填、全車タイミングを合わせろ』

『撃て』

『・・・殲滅を確認、進撃を継続する』


 同じ頃、上空にて

『第二師団より救援要請 敵の砲兵陣地に足止めを受けている模様』

『了解』

 立ちはだかる敵は蹴散らし、立ち止まれば空から助け、その歩みは止まらない。



 前回も言いましたが、本当に無謀な挑戦をしていました。

 失踪しない為にも、身の程を弁えてやって行きます。

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