第百五十話 汚れ仕事3
連載再開です!
モアガル帝国 アリ 南西エリア
このエリアの中心にそびえ立つ立派な屋敷の最上階。
その中の最奥の部屋で、椅子に座った妖人族の男と、直立不動でいる複数の男が話をしていた。
「進捗はどうだ?」
妖人族の男は言う。
「はい、順調に拡大しています。」
冷たい空気の中、緊張した面持ちで一人が答える。
「予定だと、そろそろ鎮圧が始まる頃合いだな?」
「は、はい・・・」
立っている男達の顔から冷や汗が垂れる。
「どうした?」
「い、いえ、その・・・」
言い淀んでいると、妖人族の男から殺気が放たれる。
「早く言え」
「ヒッ・・・!は、はい!実は、鎮圧の動きが見られません。軍や騎士団が集団の先で待ち構えている事は確認出来ましたが、睨み合ってるだけで動こうとしません。」
「ほぉ?・・・原因は?」
「そ、それが、皆目見当も付かず・・・」
そこまで聞くと、手を横へ振る。
それに応える様に、周囲の者が受け答えをしている男を取り押さえた。
「ヒィッ!な、何を!?」
「何を?そんなの決まってるだろ?」
ゴミを見る様な目で続ける。
「今回、何の為にこんなに手広くやったのか、忘れたとは言わないよな?」
「も、勿論です!今回の戦乱を利用して暴動を起こし、この街も混乱させて他の三勢力を一気に追い落とします!」
「そうだ。この街にも波及させる為には、国が血を流す程の過激な鎮圧をしなければならない。そこまでやって初めて、この街の連中は外部からの圧力に本格的に抗う体制を構築するだろう。連中の意識と余力が外部へ向いている隙を突き、一網打尽にする。これならメルドの奴も無事では済まない。」
立ち上がり、ゆっくりと部屋を歩き回りながら語る。
「にも関わらず、鎮圧しないだと?なら、これからの計画はどうなる?いつになれば次の段階へ移れる?」
口調は静かだが、そこから凄まじい圧力をその場の全員が感じた。
「お前はこう言った「必ず予定通りに進みます」と。だからこそ、その予定に合わせて準備を進めた。危険を冒していつに無く手広くやった。」
取り押さえられている男へ視線を向ける。
「落とし前を付けろ」
鋭い視線に射抜かれ、蛇に睨まれた蛙の如く、何も言えなければ動けもしない。
だが、周囲はすぐに動いた。
「うわああああああああ嫌だああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!!」
部屋から引きずり出され、少しすると刃物が振り下ろされる音が響いた。
「ったく、あの役立たずのせいで予定が狂ったな。」
そう言いながら、妖人族の男であるミルドは窓の外から北を見る。
「メルドの奴、今に見てろ・・・」
憎悪を滾らせ、ただ一言呟く。
北東エリア
前門の虎の縄張りである北東エリア。
その中心には、三階建ての木造建築物がある。
そこへ、報告業務を携えて一人の男がやって来た。
「ボス、報告です。」
「アン?」
最上階の部屋で、常人には大き過ぎる椅子に座る男が顔を向ける。
「大槌に何やら怪しい動きがあります。」
「大槌?ハルトのガキが?」
煙草を咥えながら、ぶっきらぼうに問う。
「はい。間諜からの報告で、見慣れない集団が大槌と接触したとか。」
「何だそりゃ?」
「あまりにも見慣れない格好なので、余所者だろうとの事で。」
「余所者ねぇ・・・」
目を細めて煙を吐く。
「それで、こっちに何かやらかすつもりなのか?」
「いえ、大槌の動きを見るに、南西エリアに何かする気ではないかと。」
「オイオイ、ミルドの奴に喧嘩売る気かよ。あのガキがそんな大それた事を自分からやるとは思えねぇなァ?」
「はい。この動きからして、余所者が関わってる情報は確度が高そうです。」
「だからって警戒はしとけよ?こっちにとばっちりが飛んで来ない保証は無ぇんだからな。後、幹部を全員呼んどけ。」
連絡員が出て行くと、虎の獣人であるティゲルは怒りを南へ向ける。
「あのガキ、この街をぶち壊す気か?」
他の者と同じくはみ出し者であるティゲルは、自分を受け入れてくれたこの街に愛着を持っている。
そして、武の面からこの街を守ろうと動いた結果、戦闘力に特に秀でた勢力となった。
「よりにもよってミルドのヤツを・・・」
残虐さが目立つミルドは、ティゲルにとってはアリを内側から破壊する癌の様な存在である。
だが、それでも全面戦争などは決して起こさない。
決して起こしてはならない。
北西エリア
立派な石造りの建造物が連なるこのエリアでは、外部の人間にとって危険と認識される様な無秩序さがあまり見当たらない。
道には子供から老人まで自由に行き来し、活気に満ちている。
中央エリアにやや近い場所には、周囲を堀で防御している一際巨大な屋敷が構えられている。
その中では、礼服を着た集団が円卓を囲んで会議を行っていた。
「・・・以上の情報から、ミルドの狼によって画策されたものと判断します。」
「これだけの手間を掛けてまで、外部の暴動に火点けをしているのか?何の為に?」
「国の徴収から逃れる為では?」
「それにしては手間を掛け過ぎだ。たったそれだけの為に、此処まで大それた真似をする意味があるのか?どう考えてもリスクに見合わない。」
メルドファミリーの幹部である彼等は、ミルドの狼が行っている扇動を独自に突き止めており、その報告会の真っ最中であるが、何を目的としているかが見えずにいた。
誰もが首を捻る中、一人が口を開く。
「マスター、その件なのですが、大槌が何かを突き止めた可能性があります。」
「何でそう言える?」
「それが、南西エリアへ全面対決を仕掛ける兆しがあるとの報告がありまして・・・」
「馬鹿な!」
「何て事を!」
「正気か!?」
一斉にどよめく中、最奥に座るメルドが手で制し、場を鎮める。
「それは確かな情報なんだな?」
「間違いありません。かなり派手に動いておりますので、間違えようがありません。」
断言口調に目を細めると、今度は考え込む様に少し顔を下げる。
「マスター、ミルドの狼を相手に抗争が起これば事です。すぐに大槌に使いを出して牽制をするべきかと。」
「その通りです。一度火が点いてしまえば、南エリアだけで済む保証はありません。」
「一刻も早く、大槌の動きを止めましょう。恐らく、もう時間は残されていません。急いで此方も」
「浮き足立つな」
静かに、しかしハッキリとしたメルドの言葉に、全員が口を閉ざす。
「ミルドがどんな奴かは誰よりもよく知っている。この俺が、誰よりもな・・・」
暗さを増したメルドの空気に、その場の全員が気圧される。
「ミルド本人だけじゃない。ミルドの狼の連中の性格を考えれば、騒動のどさくさに紛れて手前勝手に見当違いの場所で略奪でもやらかすだろうな。」
これこそ、この場のメンバーのみならずアリの住人全員が恐れている事である。
一言にはみ出し者と言っても、その内情は様々である。
ハルトの様に理不尽に虐げられて来た者、世間とズレた思考を持つ者、優れた資質を持つ為に邪険にされた者・・・・
ミルドの狼はその様な者達の中で、根っからの犯罪者が大多数を占める。
自分勝手を絵に描いた様な人格の持ち主が集い、日々を過ごしている。
その生活が一般人の様に行く訳も無く、自らの本性を隠しもせずにいるのである。
ただし、本気で身の危険を感じる程の恐怖があれば、彼等の動きは止まる。
アリの場合、ミルドこそが恐怖の源泉である。
だが同時に、自分勝手な振る舞いを保障するのもミルドである。
その結果、事が起これば目が届かないのを良い事に、これ幸いと本来の目的とは大きく外れた行いをする者が後を絶たない。
誰もがミルドの狼との全面対決を避けるのは、統制を外れた者達による被害を少しでも抑える意味合いが大きい。
その様は、正に外国の軍勢による破壊の如しとなる。
「脳筋のティゲルでさえ弁えてるんだ。ハルトが理解してない筈が無い。」
そう言うと、大槌の情報を持ち込んだ部下を見る。
「大槌の動きは考え無しに見えるか?」
「いえ、何か確信を持っている様に見えます。」
「それが何か見当は付くか?」
「確たる事は何も。ただ・・・」
「ただ?」
「南東エリアで怪しい集団の目撃情報があります。」
メルドの目が光る。
「その集団の詳細は?」
「不確かな目撃情報のみですので、詳細は何も。ただし、この街の人間では無い可能性が高そうです。」
場が一気に騒がしくなる。
メルドファミリーも例に漏れず、外部の人間を一切信用していない。
彼等の顔には嫌悪感が浮かんでいた。
「落ち着け」
メルドの一言で再度場が静まるが、その空気は悪い。
「大槌は、何か掴んだと言うより、掴まされたのかもな。」
「だとすれば思ったよりも深刻です!すぐにでも止める必要が」
「だから落ち着け!ハルトは馬鹿じゃ無い、あいつがイヌ共の思い通りになるタマだと思うか?」
イヌとは、権力者や権力者に擦り寄る者全般を指す隠語である。
尤も、そうした権力者の支配を受け入れている一般人に対しても忌避感が強い為、外部の人間全員をイヌ呼ばわりする事も多い。
「ハルトがイヌ共と手を結ぶなんぞ有り得ると思うか?あのハルトがだぞ?」
そう言うと、全員押し黙る。
「あのハルトが外の誰かの話を聞いた、そして何かの確信を持って動き出した。」
これまでの情報を二言で纏める。
ならず者が集まる場所にしては甘ちゃんだが、決して馬鹿では無く、世間に対する不信感はむしろ誰よりも根深いあのハルトが、外部の人間の言を聞き入れた。
「どうなるか予想は付かないが、お手並み拝見と行こうか。」
誰もが顔を見合わせ困惑する中、一人が口を開く。
「しかし、大人しくやられるミルドでも無いでしょう。」
「そうだな。それに、ティゲルが爆発しないとも限らん。俺達がやるべきは、見当違いな場所で被害を出さん事と、ティゲルを抑える事だな。要するに大槌のケツ持ちだ。」
「南東エリアはどうなるでしょうか?」
「それこそハルトにやらせるさ。自分のエリアは自分の責任で守らせるべきだろう。それより早く動け、俺は北東エリアに行ってティゲルを抑える。お前等は南西エリア方面の防御を固めとけ。」
それだけ言うと、メルドはさっさとその場を後にした。
南東エリア 南西エリアとの境
その日、いつもの様に抗争が勃発した。
だが、今回は決定的に違う事がある。
いつもであれば、抗争が始まるのに明確な理由は無い。
偶然、武装している者同士が出会った 虫の居所が悪い者が罵声をエリア越しに浴びせた 端所で起こった喧嘩にエリアを越えて参加した・・・・
大抵の場合、下らない理由で始まり、有耶無耶の内に終わる。
今回もその類だと油断していたミルドの狼の下っ端達は、大槌の精鋭による圧力にまるで対抗出来ず、あっという間に蹴散らされた。
「やりやがったぞアイツら!あの馬鹿共が!」
「舐めやがってェ!突っ込めばどうにかなるとでも思ってやがるのか!?」
エリアの境での戦闘は瞬く間に大槌が制したが、こうした事態は誰もが想定して備えている。
「野郎共、構えろォ!」
屋根に陣取った一隊が、遠方からボウガンを構える。
「放てェーー!」
ヒュッ ガヒュッ パシュッ
引鉄を引く音と風切り音が一瞬響くと、大槌めがけて勢い良く矢が飛び立つ。
「!・・・クッ・・・次だ、急げ!」
矢は確かに命中した。
だが、敵は全く怯まないどころか負傷者を一部が後方へ下げると、他が一気に前へ出て前線を押し上げる。
「奴等、縄張りが目的じゃないのか!?」
大半の些細な小競り合いに隠れる様に、ごく稀に発生する組織的な抗争がある。
それが、一部の縄張りを奪う目的で発生する領土紛争である。
特徴として、目的のエリアに存在する建造物を虱潰しにして占領し、元の住民は殺戮、又は無理矢理傘下に入れて終了する。
だが、今回はその様な動きとは明らかに異なり、誰もその辺の建造物などには目もくれずに前進を続けている。
「オイ、何してる!?もっと早く撃ちまくれ!」
「そんな無理言われても出来ませんぜ!一発ずつ装填しないといけねぇんですから!」
「言ってる場合か!チンタラやってたら肉薄されちまうぞ!」
ボウガンは威力と射程に優れる反面、連射力に大きく劣る。
いつもの縄張り争いであれば、遠方から確実にダメージを与えて一方的に消耗を強いる便利な武器だが、ひたすら前進を続ける今回に関しては相性が悪い。
「連中、何が目的だ!?」
「だから言ってる場合か!?とにかく撃ちまくれ!」
「もう無理だ!こんなトコでチンタラやってたら殺されちまう!」
急速に前進を続ける大槌に対し、遂に忍耐が限界に達した者が逃亡を始めた。
「あ、オイ!」
「そうだ、もう限界だ!ズラかるぞ!」
一人が動けば躊躇する者はいなくなる。
誰もが武器を捨てて背を向ける。
「ボケ共が、ミルドの頭に八つ裂きにされてえのか!?」
その怒鳴り声に、全員の動きが止まる。
「頭が敵前逃亡した奴を生かしておくと思うのか!?見せしめに残酷な殺され方をするのがオチだぞ!」
その言葉は、決してブラフでは無い。
ロクデナシの中でも酷い者が集まるミルドの狼は、忠誠心に篤い者は数える程しかいないが、抜け出そうと考える者は誰もいない。
それ程にミルドは恐ろしいのである。
「この街から逃げても、何処までも追って来るぞ!頭から逃げられると思うな!」
逃亡者達の顔は恐怖で歪み、それ以上足が進まなくなる。
「戻るんだ。今ならまだ間に合う。」
その言葉に、遂に観念した様に踵を返す。
既に、ボウガンなど役に立つかどうかも怪しい所まで接近されているが、それでも逃げられない。
「それでいい。これ以上、逃げようなんて・・・!」
それに気付いた時には、もう遅かった。
バガアアアアアアアアン!
巨大な岩が空から降って来たかと思うと、一帯を派手に破壊しながら地面に落ちた。
屋根に陣取っていた彼等も地面に落ち、ある者は潰され、ある者はとんで来た瓦礫に貫かれた。
この場で生き残ったのは、最初に逃亡した一人だけだった。
ミルド邸
大槌の大規模侵攻の話は、すぐにミルドの元へ届いた。
その程度の事で今更慌てるミルドでは無いが、いつもと動きが異なる事を把握すると態度が一変した。
「カスの寄せ集めが舐めやがってェーーーー!」
激昂したミルドを前に、誰も口を挟めない。
「よりにもよってハルトのクソチビだとォー!?この俺様にあんなゴミカスが此処まで舐めた真似をォーーーー!」
暫く後、
「フゥーーーー・・・ハァーーーー・・・」
散々喚き散らし、息を切らせながら何とか落ち着くと、周囲を睨んで口を開く。
「で、返り討ちにしてんだろうな?」
「も、目下、戦闘は続いています。」
「ああ?まだ終わってねぇのか!?」
「て、敵は総力を挙げているらしく、まだ終わっていません。で、ですが、攻撃は跳ね返しているので、いずれは終わるかと」
ザシュッ
「あぎゃああああああああああ」
気に入らない報告を遮り、その場で切り捨てるミルド。
「ッたく・・・つまんねえ事言ってこれ以上俺の機嫌を損ねるな。」
残りは誰も口を開かず、ただ直立不動でいるのみ。
「・・・岩を撃ち込め」
「「「「「!!」」」」」
その言葉に、微動だにせず驚愕する。
「・・・聞こえなかったのか?岩を撃ち込めってんだ。」
再び危険な目付きになったミルドから逃げる様に、全員が一斉に駆け出した。
ミルド邸の外縁には、かつて何らかの目的で建設された高層建築物(五階建て程度)の跡がある。
それ等は二階の床までが残っており、支柱が野晒し同然の状態となっている。
この支柱と多少の高所を利用して考えられたが、即席のバリスタである。
二本の支柱に弦となる布を巻き付け、岩を飛ばす。
アリで最強の兵器であり、ミルドの最終兵器でもあるこのバリスタは、自身の縄張りの安全すら考慮していない。
「引けーーー!」
これが使用されると言う事は、ミルドが何を犠牲にしてでも身を守ろうと判断した時。
「準備完了!」
それはつまり、味方を巻き添えにしてでも敵を退ける事を優先した時。
「放てーーー!」
ミルドの狼に集っているロクデナシでも、僅かに残った一片の良心が疼く自爆兵器。
それを躊躇無く使わせるのがミルドである。
飛び去った岩は味方エリアに着弾し、敵味方を問わず押し潰しながら街を破壊した。
命令通りに攻撃が遂行されたのを窓から確認し、ミルドは満足そうに頷く。
「御満悦みたいだね、こんな事しておいて・・・」
勢い良く振り向くと、そこにはハルトと、見慣れない格好をした集団がいた。
「役立たずのカス共が!何あっさり通してやがんだ!」
「何言ってんだよ?皆キミの命令通りにアレを動かしてるだけじゃないか。」
そう言いつつ、窓の外で再び撃ち出された岩を指差す。
「それにしても酷いもんだね。こうして顔を合わせるのは初めてだけど、出来れば一度も直接会わずにいたかったな。」
「だったら二度と会わずに済む様にしてやるクソチビが!」
パシュパシュ
言いながらハルトに飛び掛かるが、その瞬間に足に激痛が走る。
駆け出した勢いそのままにつんのめり、全員が飛び退く。
「グ・・・ウグゥゥゥゥゥ・・・!」
「アッハハ、惨めだねぇ。」
痛みで唸っていると、ハルトが煽る。
「テメェ・・・!」
あまりの怒りで振り切れたミルドは、痛みも忘れて立ち上がる。
「うわあ・・・中身が醜いヤツが怒るとこんなにキモい顔になるんだねぇ・・・」
再度、煽るハルトにそれ以上言葉も無く飛び掛かろうとするミルドだが、その瞬間視界がひっくり返り、気付いた時には床に抑え付けられていた。
「惨めだねぇ」
上から見下ろしてまた煽るハルトに、ミルドは最早言葉にならない罵詈雑言を浴びせる。
「あー・・・そろそろいいかな?」
此処で、ミルドを抑えている斎藤が口を開く。
「えー、もう終わりなの?」
「もう十分だろ・・・」
「俺を無視するんじゃねええええーーーー!」
「うるさいから」
「モガアッ!」
口に蹴りを入れられ、流石に喚けなくなったミルド。
漸く本題が始まる。
「ホント、よくもやってくれたよねキミは。外で暴動を煽ってこの街も暴動塗れにして、そのどさくさに紛れて僕達を一網打尽にしようとしたんだってね?」
ミルドは目を見開く。
言葉は発しないが、目が「何でそれを?」と言っていた。
「自覚は無いみたいだけど、キミは敵を増やし過ぎたんだよ。暴動を起こされて実害出てる国が、そのままにしておくと思うかのい?しかも、今は戦時中だよ?」
「馬鹿にするな!そんな事は解ってる!」と目で訴えるミルドを鼻で笑い、更に続ける。
「ま、並の国だったら君の思った通り、暴動を無理に鎮圧して火に油を注ぐだけだけど、世界を主導してる国はやっぱり違うね。流石は暁帝国だよ。」
それを聞いたミルドは、怒りがすっと引くのを感じた。
そして、初めてハルト以外へと目を向ける。
見ると、妙な寒気が背筋を駆け抜け、冷や汗が止まらない。
残虐なミルドでさえ及ばないと思わせる程の、より深く冷たい何かを感じる。
しかし同時に、「暁帝国がこんな遠方に何故?」とも考える。
その疑問も顔に出ており、ハルトはため息を漏らす。
「さっき言ったじゃないか、戦時中だって。暁帝国も動いてるんだよ?そして、キミのせいで実害を被ってるんだ。こうして動かなきゃいけない位にね。キミは手を出してはいけない所に手を出してしまったんだよ。」
ミルドの体が小刻みに震え出す。
「ふーん・・・その様子だと、暁帝国の事も良く知ってたみたいだね?」
ミルドと言えども、自らが生き残る為に手を出してはならない領域は弁えており、暁帝国の事も把握している。
その実情の全てを信じていた訳では無いが、そうした事情を差し引いても手を出してはならないと判断していたのである。
そして、現状を見て手に入れた情報の全てが真実であると確信した。
「・・・何だいその顔は?」
ミルドの表情からは威勢の良さは既に消え失せ、絶望に彩られていた。
「キミってそんな顔が出来たんだねぇ・・・でも、キミにそんな顔をさせられた人って多そうだよね?」
そう言うと、外に目を向ける。
そこには、怒れる群衆が大槌と共に近付いている光景が見えた。
「これが答えさ。キミはこれから報いを受けるんだよ。」
その言葉を聞き、忍耐が限界に達したミルドは気絶した。
確実に気絶した事を確認すると、斎藤は手を離して立ち上がる。
「さて、手筈通りミルドを倒したのは君達の手柄だ。」
「何だか申し訳無いな。こんなにお膳立てして貰っておいて、何もかもを僕が総取りなんて・・・」
「此方からすれば、煩わしい事を全て君に押し付けているだけなんだがな。祭り上げられるのは困るんだ。」
「そうか・・・でも、僕は覚えているよ。また来てくれたら歓迎するよ。」
「それは有り難い。だが、今日はこれでお別れだ。誰にも悟られてはならないからすぐに消えるとする。報酬は後日届けるから、歓迎の準備をしておいてくれ。」
そう言うや否や、斎藤達はすぐに駆け出した。
投石を切っ掛けとして、南西エリアは混乱を極めていた。
敵も味方も関係無く多数の死傷者を出したこの攻撃は、「何故か」ミルドに対する恐怖心をものともしない一部の者達によって瞬く間に詳細が知れ渡り、そのままミルドへ怒りの矛先を向け始めた。
度を超え過ぎた今回の攻撃は、恐怖心を上回る怒りを誘い、それまで抑止力として機能していたミルドの狼の残虐さすらも恐れない死兵を促成した。
心の奥底へ封印していた溜まりに溜まった不満も噴出し、南西エリアの住民の大半がミルドの狼の敵としてミルド邸へと行進を始めたのである。
そして、そんな民衆を守る様に大槌が先頭を行き、自然と大槌に対する支持が集まった。
逃げずに残っていたミルドの狼の構成員は、怒れる群衆に翻弄され、無残な姿を道端で次々と晒して行き、壊滅状態に陥った。
北西エリアや中央エリアへ逃げ込もうとした構成員も多数いたが、そちらは事前に警戒していたメルドファミリーと前門の虎によって返り討ちに遭い、そこからも何とか生き延びた極少数がアリから立ち去って命を繋いだ。
守る者がいなくなったミルド邸へ群衆が殺到すると、そこにいたのは大槌のボスであるハルトと、ボロボロになって気絶しているミルドであった。
単身敵中突破して逃亡を防ぎ、ミルドを拘束したハルトは英雄として大いに騒がれ、道中の大槌の行動も相まって南西エリアの顔役として推薦された。
推薦を引き受けた事で、大槌は南西エリアと南東エリアを統合した南エリアを統括する存在となり、一気に最大勢力へと躍り出た。
統合が成っての最初の仕事は、ミルドの処刑であった。
だが、あまりにも恨みを買い過ぎていた為にあっさりと殺して終わりとは行かず、手足を切り落とした上で磔にし、晒し者とされたのである。
元南西エリアの住人達は、ミルドの無残な姿を一目見ようと殺到し、その姿を目にすると歓声を上げた。
それから数時間後、失血によってとうとう死亡したミルドは、街の外に打ち捨てられて野生動物の餌と化した。
尚、その様子を聞いたメルドは、秘かに涙したと言う。
毎回出だしで凄く悩むんですが、今回は異常な程に全く出て来なくて参りました。
足踏みしてる内にモチベーションが急降下して手を付けられなくなってしまい、何か切っ掛けにならないかと色々読み漁って時間を浪費してしまい、気晴らしに別の話を描いていたらそっちが乗ってしまって余計にモチベーションが上がらず。
酷い悪循環に陥っていましたが、何とか抜け出せました。
それにしても、いきなり四つの勢力が入り乱れている様子を描こうとするのは無茶が過ぎました。
三つ巴でも三国志みたいにとんでもなく複雑化するのに、馬鹿過ぎました。
気晴らしに描いている話ですが、その内投稿しようと思います。




