第百四十九話 汚れ仕事2
長らくお待たせしてすみません
モアガル帝国 アリ 南東エリア
エリア郊外での一悶着の後、一行はハルトの住まう中心地へと移動する。
移動中に見た街の光景は、西部開拓時代に近いものであった。
所々には、この街がまともであった頃に建設されたと思われる石造りの建築物も存在するが、大半がかなり劣化している。
そして、それ以外は二階建ての木造建築が連なっており、入り口付近にはガラの悪い男達が座り込んだり食事を摂ったりしている。
それ等の建物の下には、かつてそこに建っていたと思われる建造物の石製の基礎が見える。
「おい、アレって大槌の主力じゃん。」
「マジかよ・・・連中が動くとか、何かあったのか?」
「一緒にいる奴等はナニモンだ?見た事無ェ格好してやがるなぁ。」
「誰だろうが関係ねぇよ。馬鹿な真似しやがったら速攻叩き出してやるだけだ。」
擦り切れたり引き裂かれたり、みすぼらしい服装をしている者達の間を立派な格好をした者が通る事で、嫌でも注目が集まる。
警戒の視線が全方位から向けられ、威勢の良い会話も聞こえる。
(思った以上に信頼されているらしいな・・・この辺りに、大槌の機嫌を損ねる真似をする者は住んでいないと見て良いだろうな)
警戒しつつも、先程の様に早まった真似をする者は一人もいない。
その一方、恐怖の類もそれ程感じない。
大槌が住人を力づくで抑え込んでいる訳では無い事を肌で感じた。
暫く後、
「到着したぞ」
そこは、立派な石造りの屋敷であった。
塀に囲まれており、鎧まで装備した警備が何人もいる。
「例の一団だ」
門の見張りと指揮官が多少の会話を行う。
時折、見張りは此方へ視線を向けつつ話を続ける。
「すまんが、此処で少し待っていてくれ」
話し合いが終わると、指揮官はそう言い残して一足先に敷地内へと入って行った。
「さて、お前達の素性は聞かないが、流石にそのまま此処を通す訳には行かない。身を改めさせて貰う。」
待っている間、見張りによって持ち物検査が行われる事となった。
食料 無線機 ナイフ 拳銃・・・・
様々な物が取り出されるが、検査する側は非常に困る事となった。
「立派なナイフだな・・・悪いが、これを持ち込ませる訳には行かない。預からせて貰う。」
「何だコレは?黒い箱?サイズの割にやけに重いが・・・」
「食い物の絵が描いてあるが、やけに精巧だ。弁当か何かか?材質は鉄か?いや、鉄とは違うな・・・」
「いやちょっと待て、コレは本当に何なんだ?」
見慣れない物があまりにも多過ぎ、遅々として進まない。
そうこうしていると、案内人がやって来た。
「おい、何をしている!?」
「げっ・・・」
思わず出てしまった声に目付きを鋭くして現在の様子を見る。
「・・・まだ終わっていないのか?ん?」
「そ、そうは言いましても、この通り用途の分からない物がこんなにあるので」
「武器以外はさっさと持ち主に返せ馬鹿者が!」
怒鳴られて大慌てで動くが、返した物の中には拳銃も含まれていた。
「それでは、付いて来てくれ」
案内に従い、内部へ入る。
殺風景ではあるが掃除は行き届いており、使用人が並んで出迎える。
尤も、その服装は使用人と言うよりも、飲食店の給仕に近い。
そのまま階段を上がり、最奥の大部屋の扉が開かれる。
「キミ達かな、僕に大事な話があるのは?」
その姿は、愛嬌のある少年であった。
「僕が大槌のリーダー、ハルトさ。さぁ、入って」
威圧感のある見た目を想像していた面々は、多少困惑しつつ入室する。
部屋の奥には、組織名の由来となったであろう大槌が立て掛けられていた。
「ああ、それは僕が愛用してる武器だよ。」
視線に気付き、ハルトが説明する。
「僕は反対したんだけど、皆が僕がそれを持ってる姿から組織名を大槌にしようって押し切ったんだ。全く、名付けられる側は恥ずかしいんだけどねぇ・・・」
ふてくされ気味に、周囲の部下を睨む。
しかし、誰一人目を合わせようとしない。
「さて、今度はそちらの番だよ。キミ達は誰なのかな?」
ハルトに問われ、先頭の男が代表して答える。
「我々は、暁帝国より派遣された者だ。私は・・・ 斎藤 と呼んでくれ。」
国名を口にすると同時に、ハルトは目を細める。
「ふぅん・・・暁帝国から来たって事は、軍の関係者かな?」
ガリスレーン大陸へ軍を派遣している事は、後方と言えども今や広く知られている。
「いや、軍と連絡を取り合ってはいるが、全く別の部署に勤めている者だ。」
「そうなんだ。後ろの皆もかな?」
「その通りだ。全員、私の部下だ。」
一拍置き、再開する。
「それで、僕達はキミ達の国とは何の関わりも無い筈だけど、どうして僕達に縄張りを広げさせようとするのかな?」
「それが我々にとっても利益となるからだ」
「その利益って?」
「現在のこの大陸の情勢は既に把握していると思う。」
「それは、どっちの事を言ってるのかな?」
外部からの侵略者の事か、頻発している暴動の事か
既にどちらも把握している事を暗に示していた。
「どちらもと言いたいが、暴動に関する事だ。」
「そっちね・・・」
妙に冷たい空気が更に冷たくなる。
「標的は南東エリア、ミルドの狼だ。」
場がざわつく。
ミルドの狼は、残虐さと非情さに於いて四勢力の中でトップと評判の組織である。
これだけ荒れた土地である以上、非情さや残虐さは何処にでもあるが、必要以上の非情を働く点でミルドの狼は抜きんでている。
「そんな事をしたら、この南西エリアは血の海になるよ。」
「そうならない為に我々がいる」
「いい加減にしてくれないかな?」
斎藤は、思わず口を閉じる。
ハルトの顔は穏やかなままだが、細めたままの目は笑っておらず、纏っている空気は明らかに悪い。
「僕は縄張り争いなんかに興味は無い。重要なのは、僕の傘下にいる連中が無事にいられるかだ。」
その口調には、確かな怒りが籠っていた。
「それを台無しにしたのがキミ達なんだよ。キミ達がどうして此処に来たのか見当はついてるよ。大方、あちこちで起こってる騒乱をどうにかする為だよね?」
顔役達の情報網は街の外にも繋がっており、今回の暴動に関しても早い段階から把握していた。
その情報網を通じ、協力の要請を受けていると言う噂すらある。
「それに協力して何のメリットがあるんだい?ミルドを向こうに回してまで縄張りを広げて、どうしろってんだい?それがメリットなんて言わないよね?」
矢継ぎ早な口調が、ハルトの穏やかでは無い内心を表していた。
(思った以上に敵視されているな・・・)
今回の暴動は、大元を辿ればメイジャーの侵攻が遠因ではあるが、それに対する各国の国内への乱暴な対応が直接的な原因となっている。
それだけであればまだしも、状況をより悪化させたのがセンテル帝国と暁帝国の行動である。
「ウチの縄張りでも最近物価が高騰しててね、遣り繰りが大変なんだよ。中央のお役人が、まさかこんな所にまで手を伸ばして来るなんて思わなかったよ。」
独立した荒くれ集団であるアリは、明治初期の鹿児島に近い。
中央エリアの役所へ献金をする事で公にその立場を保障されている上で、政府の命令をまともに聞かない者が揃っている事もあり、通常であれば戦時下でさえ国が手を出して来る事は無い。
その為、ある意味で安定した生活が送れる場所であり、他に行き場が無い者が多いこの街の住民が一定の秩序を守れている理由でもある。
しかし、その前提が連合軍の結成によって崩壊を始めていた。
中央エリアからの通達により、一定量の物資の徴発、或いは人員の派遣が政府より要求されている事が明かされ、それに加えてその為の人員が外部から派遣された。
その規模は、全力で抵抗したとしても力づくで制圧可能な程であり、独自戦力を持っている彼等と言えども従うしか道は無かった。
そうした結果、その他の地域と同じく物資不足に起因する物価の高騰が始まっているのである。
流石に無法な行為を見逃す事は無かったが、一切の抵抗が出来ない周辺と比較して多少マシ程度の話でしか無く、生活は嫌でも苦しくなり始めている。
他地域であれば普段から発生している事態であり、その怒りの矛先は自国へと向かうのだが、いつもは国とは無関係なこの街は、より根源的な理由へ目を向けていた。
「分かるよね?キミ達のせいなんだよ。キミ達が余計な事をしでかしてくれたお陰で、こっちは苦しくなる一方さ。」
暁帝国とセンテル帝国を敵視していると宣言したも同然であった。
「一つ聞きたい」
斎藤が口を開く。
「話を聞いている限りだと、外部の騒ぎには一切関心が無い様に思える。」
「当然だよ」
「何故、当然なのか聞いても?」
「あんまり詮索しないで欲しいんだけどね・・・」
そう言いつつも語り始める。
「僕達はさ、大半が他に行き場が無いんだよ。中には自業自得なのもいるけどね」
世の中には、理不尽に標的にされ、理由無く虐げられる者が大勢存在する。
実体の無いエリート意識、見た目や出身の差による差別意識、単なるストレスの捌け口・・・・
アリは、そうして居場所を奪われた者達の最後の居場所として機能している側面がある。
方々のはみ出し者が揃う事で、世の理不尽さに対する共感から団結し、どうにか今日まで生きて来た。
中にはどうしようもない犯罪者も存在するが、そうした面子も纏めて吞み込める街だからこそ、虐げられて来た面々がそれなりの平和を謳歌出来ているとも言える。
「僕だってそうさ。元は結構気弱な性格だったんだけどそのせいで捌け口にされててね、しかも村全体が敵に回ってたのさ。僕が虐げられる事で村全体が団結出来てるんだから必要な犠牲だってね。まぁ、僕の両親がそれにキレて皆殺しちゃったんだけどね。けど、僕を犯罪者にしないようにって無理矢理外に逃がして、行き着いたのがこの街って訳さ。」
気楽に語るにはあまりにも壮絶な体験である。
「此処にいる者は、皆似たり寄ったりだ。」
その言葉に反応する様に、周囲の控えは顔付きを変える。
憤怒 困惑 後悔 悲嘆
(そんな体験をしてりゃぁ、外部の人間を一切信用出来ないだろうな)
その上、這う這うの体で辿り着いたであろう最後の居場所でさえも侵されようとしている。
まともに話を聞こうともしないのは、むしろ当然の事であった。
「なるほど、それはまたとんでも無い連中にめぐり会ってしまったな。」
「完全に他人事だね」
「実際、他人事だ。」
室内に殺気が漏れる。
「だが、これから起こる事は誰も他人事ではいられない。」
「全人類の危機ってヤツかい?知らないね、僕達には一切関係無いよ。何もしてくれない世の中の為に、何で僕達が命を張らなきゃならないんだい?」
「そんな事は一言も言っていないんだが?」
この一言にハルトの顔つきが変わる。
「・・・何だって?なら、何の為に此処に来たんだい?」
「最初に言った通りだ。ミルドの狼の縄張りを取って欲しい。」
此処に来て、話は振出しに戻った。
「あんた等が外部に協力したくないならそれで良い。だが、我々が今戦っている相手はそんな事情を斟酌する事は無い。この街ごと全てを踏みにじるぞ。」
メイジャーは、ある意味無差別に人類を扱うつもりでいる。
だが、その扱い自体は人のそれでは無い事は確実である。
「我々は別にあんた等と敵対しに来た訳では無い。この街で起こっている問題をこの街の人間によって解決して貰いたいだけだ。それが、我々の抱えている問題を改善する事へと繋がる。」
「その問題ってのは?治安とか言うなら話は終わりだよ?」
「南西エリアを除くこの街への暴動の波及、そこから続く覇権争いだ。」
「何だって?」
思っている以上に規模の大きな話に動揺を隠せなくなる。
「お察しの通り、我々が改善したい問題と言うのは、あちこちで発生している暴動についてだ。この暴動の裏には扇動者がいる。その大元が、ミルドの狼だ。」
斎藤は、更に話を進める。
非情さが目立つと言われるミルドの狼の姿勢は、ミルドの個人的な性格による所が大きい。
理由は不明ながら、ミルドはメルドファミリーを特に目の敵にしており、その為に手段を問わない勢力拡大を続けて来た。
そうした姿勢から配下も乱暴な者が多く集まり、犠牲者も他三勢力と比較して明らかに多い。
無論、評判も悪い。
そして、対外情報局によって集められた情報を精査した結果、現状を最も疎んじているミルドが扇動を指示しており、その暴動の余波をアリにも波及させ、暴動の混乱の隙を突いて勢力拡大を目論んでいる事が判明した。
「それが全貌なのか・・・上手くやったもんだね。」
少しの労力で外部からの圧力を弱め、尚且つ直近の敵も同時に苦しめ、或いは排除出来る。
碌で無しとは言え、ハルトをしてその手腕は素直に称賛に値するものであった。
「でも、それなら簡単な事じゃないか。キミ達がミルドを処分して暴動も鎮圧すれば良い。キミ達の力なら、とても簡単な事だと思うけどね?」
ハルトは、暁帝国の力を見誤ってはいない。
距離的な問題は存在するが、(コストパフォーマンスを抜きにして)その問題をすぐに解決出来るだけの力がある事も見抜いていた。
「勿論、出来るかどうかと問われれば出来ると答えるが、それでは根本的な解決にならない。ミルドの処分はともかく、力づくでの鎮圧など火に油を注ぐだけだからな。第一、今回の暴動のそもそもの原因は各国の行いにある。我が政府は、頭を冷やす丁度良い機会だと捉えている。」
「そうなんだ」
平坦な返事をしつつも、内心では驚いていた。
(暴動を起こした民衆にはお咎め無しで行くのか・・・て言うか、今の口振りだと全面的に味方してくれてる国こそ悪いと宣言してる事になる。その辺の民衆と国だったら、間違い無く国を取る筈なのに)
そう思っている間にも、斎藤の話は続く。
「問題なのは、意図的にこの暴動を広げられる事だ。実際、現状でさえ異常な勢いで広がりを見せている。これ以上の広がりは、後方に不安を抱えながらの戦いを強いられる状況を生み出す事になるだろうな。だからこそ、ミルドの狼の企みは阻止する必要がある。」
「同時に、僕達の安全にとってもミルドは無視出来ない。」
「その通りだ」
一つずつ納得を引き出し、ハルトの疑問は残り一つとなった。
「でも、それでどうして僕を頼るんだい?さっさと始末しちゃえばいいじゃん。」
「我々は此処にはいないからだ」
「え?」
不可解な回答に、目の前の人間が幽霊なのではと一瞬疑う。
「考えても見てくれ、これは明らかに破壊工作に該当する活動だ。友好国のド真ん中で、それも戦時下にだ。我々だけで動けば、必ず察知される。連中はそこまで馬鹿じゃ無いぞ?」
少し考えてみれば当然の話であった。
国の目が届かないアリの住人達は、国に仕える者の能力を見誤っている事は否めない。
ハルトでさえ、その例外では無かった。
「それもそうだね。それで、僕達を誘ってワンクッション入れたいのか。」
「その通りだ」
質疑応答が終わり、ハルトは長考に入る。
斎藤は口が開かれるのを待ち、控えはどの様な回答が飛び出るのか緊張の表情で見守る。
「・・・分かった、その話に乗るよ。」
「それは良かった」
「ただし、苦労に見合う報酬は支払って貰うよ?」
「出し惜しみはしない。大抵の希望には添えると思う。」
そう言いつつ、双方が納得出来る支払いが決まるまでには、かなりの時間を要する事となった。
・・・ ・・・ ・・・
イズラン公国 シレイズ 派遣軍司令部
『海猫1よりコマンド、大規模な機関銃陣地を視認 航空支援を要請する』
『黒豹より司令部!敵の攻撃苛烈、身動きが取れない!大至急救援を!』
『敵野砲陣地を確認 迂回の後攻撃する」
アルテル陥落後も反攻の手を緩めない連合軍は、随所で反撃を受けつつも前進を続けていた。
司令部でも次々と敵陣突破、拠点制圧と言った報告が舞い込んでおり、戦勝ムードが漂いつつあった。
にも関わらず、此処に来て冷や水を浴びせるが如し話題が舞い込んで来た。
応接室
突然の来客に対応するのは、藍原とブレイドである。
司令官クラスが対応するのは、相応の人物がやって来る事を意味していた。
とは言え、戦局の問題から儀礼的な対応などしている暇は無い。
そして、一体何の用でやって来るのかも予想がついていた。
「情けない話です」
「本当に、こんな尻拭いなどしていられませんね。」
脱力しながら愚痴を漏らしていると、廊下から足音が近付いて来る。
コンコン
「到着されました」
「入れ」
扉が開くと、案内人の後ろから華やかな衣装を着た五人組が入室する。
「どうぞお座り下さい」
藍原が促し、全員が着席する。
「お忙しい中、時間を割いて頂き感謝致します。私達は、各国の外交官の代表として参りました。」
今回の訪問は、多数の中小国の事情を携えてやって来る事が事前に報されていた。
しかし、流石に全ての国の外交官が一度に押し寄せると規模が大きくなり過ぎる為、連合軍内での活動として連携する事で、五人の代表者を選んでの連名で今回の件に当たる事となったのである。
「お気になさらず。ただ、あまり時間が取れませんので、早速本題に入りましょう。」
「では早速」
五人の中で最も年上と思しきカイゼル髭の男が口を開く。
「現在、各国で発生している問題は御存知でしょうか?」
「暴動の件でしたら、既に把握しています。」
「流石、耳が早いですな。」
お世辞を口にするも、二人は苛立つ。
その空気を察し、急いで本題へ戻す。
「単刀直入に申しますが、暴動の鎮圧を行って頂きたいのです。」
((やっぱりか・・・))
二人は、揃って呆れる。
暴動に関する情報は、前線では本国を経由して報告を受けている。
その情報の中には、暴動が発生するに至る経緯も含まれている。
その上で、この件の対応も指示されている。
「現在の我が軍の状況を理解して仰っているのでしょうか?」
「勿論ですとも!破竹の勢いで進撃し、敵を追い散らしつつあるのでしょう!」
ブレイドの問いに、小太りの男が答える。
「破竹ですか・・・そこまで順調とは言えませんね。優勢ではありますが、敵も中々のものです。」
「謙遜されますな、世界最強の貴軍らが苦戦するなどありえませぬ。十分な余裕を持った進撃を行っている事はよく存じておりますぞ。」
かなり若い見た目の美形の男が世辞を述べる。
「本当に余裕があればそれがベストですね」
相原が適当に相槌を打つ。
(どう言う事だ?反応が思わしくないぞ)
五人は、申し出に明らかに乗り気では無い反応に怪訝な表情になる。
「さて、本国よりこの件につきましては事前に指示を受けています。」
(な、何だと!?既にそこまで話が進んでいるのか!)
(何と言う情報伝達の速さだ!そして、何と言う決断の早さだ!)
ブレイドの言葉に、五人揃って驚愕する。
「我々は、本件に対する協力は一切行いません。」
「な、何故ですか!?これは背信行為ですぞ!」
人類の団結を謳って連合軍を結成し、彼等を引き入れたのは、他でも無い暁帝国とセンテル帝国である。
だからこそ、戦局に影を落としかねない暴動を放置する事は無いと考えていた。
また、人類の団結を旗印にしている以上、政治的な理由からも断る事は無いと考えていた。
背信行為と言う言葉は、この前提が崩れたからこそ出て来た言葉であった。
「さて、一体何処が背信行為なのでしょうか?」
「この期に及んでとぼけるのは止めなされ!団結しなければならないこの時に、その団結を乱す者に加担する宣言をたった今されたのですぞ!」
「略奪行為は団結を乱す行為では無いので?」
「略奪ですと?」
「ええ。暴動が発生している地域は、揃って国からの略奪を受けている事が判明していましてな。何でも、人類の団結を名目に、様々な物資や食料を好き放題奪い去り、場合によっては若い娘を攫っているとか。」
この主張に、五人揃って顔を真っ赤にする。
「何たる暴言!何たる事だ!国家の守護の為の活動に協力するは民の義務!増して、人類の守護の為とあらば自ら協力するが筋と言うもの!そうしてこそ民の安全も守られる!何の為に国家に仕える者が命を懸けているか、それを考えればむしろ協力出来ている事を喜ぶべきと言うものだ!」
人権意識が希薄な君主国家の主張であった。
更に、人類の団結と言う名目を都合良く利用している事がはっきりと明言された。
「随分と都合の良い話だ。では聞くが、その国家に仕えている者達は今何処で何をしているのか?最前線で戦っているのか?」
丁寧な言葉遣いを止めたブレイドは、遠慮無い指摘を始める。
「明日の食い扶持を奪ってどうやって生き延びろと?略奪のせいで餓死の危険がある民衆の何を守っているんだ?慰み者にされる娘達は、いつまで生きていられる?」
「じ、人類とは、乃ち国家を動かす者だ。国家が存続してこそ人類は生き延びる事が出来るのだ。タダの平民に国家の存続が出来るのか?無学で愚かな平民に?何を優先すべきかも理解出来ないと?」
やや気圧されつつも、虚勢を張る様に言い返す。
「やれやれ・・・王族だろうと平民だろうと同じ人類である事に変わりは無いでしょう。守るべきは人類。当然、平民もその人類の内です。」
藍原が口を開くも、馬鹿にした様な表情が返って来る。
「だから、守る為にも協力をすべきだと言っている!軍を動かす負担がどれ程のものか、軍人であれば理解出来ない筈は無い!」
「優先順位などを付けて、平民を後回しにする旨をお聞きしましたが?本当に守る気があるのでしょうか?」
一瞬、言葉に詰まる。
「と、当然だ!」
その反応を確認し、ブレイドと目を合わせる。
「我が政府は、あなた方の態度に失望しています。大義名分を都合良く捻じ曲げ、守らなければならない民衆から搾取するその姿勢に。」
「我が政府も同様だ。人類の敵の定義が変わる可能性すらあると言っておこう。」
この発言に、五人は顔面蒼白となる。
メイジャーに全力を注いでいる最中とは言え、世界トップ2が敵に回る意味を違える事は無かった。
「そ、そんな・・・どうしてそこまで・・・」
「それが理解出来ないようでは話になりませんね。一度、頭を冷やすと良いでしょう。」
それ以上話す事は無く、藍原とブレイドは一足先に退室した。
その間際、顔色を悪くしながらも二人を恨めしそうに見る五つの視線がある事を自覚しながら。
「こんな事で憎まれ役をやらなければならないとは・・・」
「これも仕事の内です。汚れ仕事も軍人の役目ですから。」
技術だけでは無く、常識すらも大きな隔たりが存在する人類連合軍。
何処までを人類とするか、その定義は揺れていた。
文字数も時間もこんだけ掛かって裏話がまだ終わらないってどうゆう事!?
もうしわけございませーん!(土下座




