第百四十六話 反撃
総合評価が5000を、評価ポイントが2000を超えました。
此処まで来るとどうコメントすれば良いかわかりませんが、凄く嬉しいです。
イズラン公国 アルテル近郊
先の会戦によって掘り返された痛々しい光景。
瓦礫が未だに放置されたままになっている一帯は、森林限界よりも上の地形を思い起こさせる。
見通しの悪いその地形は、敵味方を問わず活発な活動を可能としており、偵察隊を編成しては突発的な遭遇戦が発生していた。
この活動により、人類側は航空偵察と連動して敵情を把握し、メイジャー側は敵の集結状況から大規模攻勢が近い事を把握した。
双方が本格的な衝突を予感した事で、徐々に慌ただしさを増して行った。
その影響は、最前線にも及んでいた。
アルテル東北部郊外
パパパパパパパパパ
ダンッ ダンッ ダンッ
アルテル付近の前線は、先の第三会戦によって形成された戦線がほぼそのまま継承された形となっている為、かなり歪んだ形状をしている。
中でも、東北部は都市部に最も食い込んでおり、激戦区である。
「弾幕を決して絶やすな!撃ち続けろ!」
「今だ、回り込め!」
「急げ急げ急げー!迷うな!止まるな!」
普段であれば、分隊単位での行動、遭遇からのライフルの撃ち合いで双方に死傷者が出て撤退と言う流れであるが、今回は違った。
センテル側は、分隊どころか小隊で行動をしており、暁帝国軍から借りた軽機関銃をも持ち込んでいた。
運悪く出会ってしまった鎮定軍歩兵分隊は、制圧射撃に晒されたまま瓦礫に隠れるしか無かった。
「ヌゥゥゥ・・・舐め腐りやがってェ!」
一人が我慢出来なくなり、瓦礫から顔を出す。
ダァンッ
「うぐお!」
弾は、機関銃手に命中した。
「ハッハー、ザマァ見やがれ!」
パパパパパパパパパ
「うおっとぉ!」
別方向から機関銃の射撃が来るのを確認し、急いで隠れる。
「奴等、本気になりやがったみてぇだなァ!」
その頃、
「ウワッ!」
「何してる!?さっさと立たんか馬鹿者が!」
側面から回り込もうとしているセンテル軍の分隊が移動を続けていた。
瓦礫だらけで足場が悪く転倒者が出たが、分隊長が怒鳴るだけで他は意に介さない。
「分隊長、15メートル先が開けています。」
先を見ると、丁度良く隠れている敵を狙い撃てる地点であった。
「よし、あそこからヤるぞ。」
早足で進み、一気に身を乗り出す。
「・・・・・・!」
制圧射撃に晒されている敵が目に入る。
敵もすぐに気付いたが、明らかに対応が遅れている。
(イケるぞ!)
ダダダダダダダダ
「グゴァッ!どうなって・・・」
銃弾に貫かれたのは、センテル兵の方であった。
「クッ、下がれ!退避ィ!」
被弾を免れた分隊長が叫ぶ。
彼等の背後に、別の敵がいた。
まんまと囮に引っ掛かってしまった事を、生存者は認識する。
ダンッ ダァン
牽制射を浴びせつつ、スタート地点に戻った。
迂回攻撃の失敗を受け、小隊は撤退を決定。
今日も戦線は動かなかった。
シレイズ 派遣軍司令部
「これではイタチごっこだな。」
報告書を手に、ブレイドは呟く。
本格攻勢を間近に控え、その前に少しでも優位を確保しておこうと張り付けている部隊の規模を増したにも関わらず、敵も敵でしっかりと備えているせいで上手く行っていない。
「此方の動きをそれなりに察知出来ている様ですね。」
藍原が相槌を打つ。
主導権を完全に取られている筈の敵の粘り強さに、一同は感心さえしていた。
「図らずも威力偵察になりましたね。敵は想定以上に巧妙です。主導権を握っているとは言え、決して油断の無い様にしましょう。」
此処で余計な損害を負う余裕は無い。
主導権を握っている事で、何処か気の抜けた所があった空気が引き締め直された。
次いで、もう一つの重要な話題へと移る。
「藍原中将、我が政府は例の件について正式に承認するとの報告が入りました。」
「ありがとうございます。此方にも話が回って来たと言う事は、間も無く共同声明が行われるのでしょう。」
「ええ、歴史的な一幕になるでしょう。」
・・・ ・・・ ・・・
センテル帝国
我々人類は、今正に存亡の危機にある
神話に語られるメイジャーの出現、そして彼等から発された服従要求
それ以前からの調査により、メイジャーは人類の祖先などでは無く、人類を理不尽に抑圧していた征服者であった事が判明している
そして、神代の時代の悲劇をこの時代に再現せんと忌わしき復活を果たし、我々人類へ戦いを挑んで来たのだ
既にガリスレーン大陸の西方、イズラン公国が戦火に焼かれ、国土の一部を占拠されている
だが同時に、必死の防戦により敵を押し留める事に成功している
そして間も無く、反撃が開始されようとしている
メイジャーは、一つ重大な勘違いをしている
それは、人類が神代の時代とは比較にならない程に強大化していると言う事だ
かつては被支配者としての立場に甘んじざるを得なかった我々人類は、メイジャーと言うかつて無い脅威を前にしようとも、一歩も退かずに対峙する力を既に身に着けているのだ
そして人類は、脅威を前に団結する事が出来る
その証こそが、今日と言う日を創出した
此処に、人類連合軍の結成を宣言する
<人類連合軍>
通称 連合軍 の結成がセンテル帝国にて宣言された。
人類共通の敵に対峙する関係上、これまでの諍いを飲み込んで互いに協力せざるを得なくなった訳だが、そう簡単に昨日の敵は今日の友とはならない。
そこで暁帝国の提言を受け、全世界へセンテル帝国と共に正式に多国籍軍の結成を行う事となった。
世界トップ2が音頭を取れば、そのお零れに与かろうと我先に傘下に入ろうとする国が殺到するのは目に見えている。
トップ2の傘下へ入ってしまえば、過去に諍いがあろうとも制御は容易い。
独自に作戦を展開しているならともかく、正式な多国籍組織の指揮下に自ら入り、碌な実力も実績も無い中小国が身勝手な真似をすれば袋叩きに遭う。
団結しなければならない場面で内輪揉めを繰り返して来たのが人類の歴史である。
それを考えれば、この様な枠組みの整備は不可欠であった。
そして、少しの時間を置いて目論見通りに推移した。
様子見をする国も少なくないが、普段全く日の目を見る事の無い国が次々と連合参加の打診を始めたのである。
そうして人類の体制が着々と整えられている内に、日和見の国を取り込むもう一つの一大イベントが開始されようとしていた。
・・・ ・・・ ・・・
イズラン公国 アルテル センテル帝国軍第二師団
明け方の静けさが一帯を覆い尽くす中、じっとその時を待つ一団。
しきりに腕時計へと目を落とす姿があちこちで散見される。
「時間です」
その台詞と共に、あちこちから一気に物音が鳴り響く。
その先陣を切るのは、金属の怪物であった。
「大隊、前進!」
多数のトルティス軽戦車がエンジンを鳴り響かせ、軽快に前進を開始する。
瞬く間に毎時40キロを超える速度に達し、徐々に散会する。
「決して止まるな!ひたすら進め 進め 進め 進めェ!」
大隊長は無線に向かって吠える。
彼等の役割は、ただひたすらに進んで敵を攪乱し、防衛線を寸断する事にある。
ガチガチに固められている陣地に突っ込む事は禁止されている。
「うはは、こりゃ凄ェぞ!」
「俺達ゃ最強だ!」
砂煙を巻き上げ、景気良く爆走する様は、興奮を掻き立てるに十分であった。
ヒュウウウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
敵の勢力圏へ接近する中、上空から風切り音が聞こえて来た。
「砲兵隊が攻撃を開始した様です。」
ドォン ドォン ドォン ドォン
遅れて着弾音が響き渡り、正面で土砂が巻き上げられる様子が見える。
「砲兵隊が道を切り開いてくれたぞ!走れ 走れ 走れ 走れェ!」
大隊は、更に加速する。
『此方第二小隊、隷下の車両が二輌擱座 指示を乞う』
「走行不能車両は放置、進める車両のみで前進を続けろ!」
軽戦車と言えど、巨大な金属の塊である事に変わりは無い。
この突進劇は重い負担であり、会敵前から脱落車が続出した。
それでも大隊は止まらない。
そして、その時が来た。
『前方、敵歩兵を視認!武装はライフルのみ、付近にその他は認められず!』
『蹴散らせ!』
タタタタタタタタタタタタタタタタタタ
先頭の何輌かから、同軸機銃が撃ち出される。
碌な陣地も持たない敵は、狼狽する内に機銃弾によって薙ぎ倒された。
だが、そんな事を気に掛けている暇は彼等には無い。
ただひたすらに進み、進む。
『一時方向、塹壕陣地を目視』
『構うな、塹壕の突破は後続の役目だ』
そう言った直後、塹壕の背後から光が放たれた。
ドッ
すぐ近くに着弾し、土砂が巻き上げられる。
『五号車被弾 炎上を確認!』
被弾した車両は唐突に止まり、真後ろにいた車両が慌てて進路を変える。
『死にたくなかったら絶対に止まるな 真っ先に狙われて袋叩きだぞ!』
そう言うや否や、弾薬に引火したのか派手に誘爆を起こして砲塔が吹き飛んだ。
突進の興奮が一気に冷め、多少の不規則性を混ぜながら前進を続ける。
被弾の恐怖に掻き立てられつつ一心不乱に前進を続けていると、いつの間にかかなりの時間が経過していた。
『見て下さい、アルテルが遥か後方です』
砲塔から顔を出して見ると、大隊の斜め後方に地平線に紛れてアルテルの陰が見えた。
『隊長車より全隊へ、敵地後方への浸透に成功した 状況を報せよ』
刻々と各隊より報告が上がる。
内訳は、3輌撃破 6輌脱落 2輌不調 であった。
『不調車両は適当な隠蔽場所を見付けて停止、整備を行え 残りは前進を継続する』
戦闘による撃破よりも故障車両が多い事に内心歯噛みしつつ、前進を下令した。
第七師団
第二師団が敵地への浸透を主としているなら、第七師団は陣地制圧が主である。
その為の重要な目標こそが、アルテルである。
意気揚々と戦闘を開始した者が多い第二師団に対し、大きな被害が予想される第七師団にはかなりの緊張感が漂っていた。
キュアアアァァァァァァ・・・・
上空から、甲高い音が聞こえて来る。
ドォン ドォン ドドォン
音が通り過ぎると、正面から腹に響く低い音と振動がやって来る。
その音を、前傾姿勢で待機している兵員達が固い顔で聞き入っていた。
その背後では、士官が時計を確認している。
「・・・時間です」
ピィィーーーーー
攻撃時間が到来し、笛の音が鳴り響く。
「「「「「ウオォォォォォォーーーーーーー!!!」」」」」
大量の歩兵が、銃剣を装着したライフルを持って走り出す。
更に、その歩兵の盾になる様に数輌のトルティスが随伴、ライト装甲車も機関銃を構えつつ同行する。
パンパンパンパン ドッ ダダダダダ ドォン ドガガガ
様々な種類の銃声、砲声が入り乱れ、ある者は倒れ伏し、ある者は宙に放り上げられる。
『敵陣地まで500メートル 停車ァ!』
敵の築いた塹壕を目の前にして、一輌のトルティスが停車する。
『弾種、榴弾 照準合わせェ!』
車長の命令に、砲手は迅速に応える。
『目標補足』
『装填完了』
装填手もすぐに装填を済ませた。
『撃てェーーー!』
ドンッ
照準器を通し、目の前の塹壕の一部が掘り返される光景が映る。
『命中確認!次、右の目標』
『此方からは確認出来ない どれだ!?』
『今の塹壕の少し奥だ 機関銃がある』
『確認した 照準合わせる』
『装填手、弾種、榴弾』
流れる様に次の目標を定め、次々と手順をこなす。
『う・・・・』
撃てと言った筈が、最後まで続かなかった。
ドガッ
長時間停車していた車両は敵砲兵の格好の標的となり、あっという間に沈黙させられた。
『小隊長車より残存各車へ、動きを止めるな 一発毎に移動し、敵の照準を撹乱せよ!』
装甲に身を包まれているからと言って、決して安全などでは無い。
その事実を強制的に理解させられ、冷や汗が垂れる。
装甲車が集中砲火を受けている頃、そのお陰もあってか歩兵部隊に対する攻撃は逆に限定的となっていた。
その勢いのままに、次々と塹壕へと取り付いて行った。
「オラァ!」
ザクッ
「どけ!」
タタタタタタタ
「コノヤロー!」
ある者は銃剣を突き立て、ある者は短機関銃を乱射し、ある者はその場に落ちていた石を拾って武器にする。
近代的な高度さと、原始的な野蛮さが入り混じった泥交じりの戦闘が繰り広げられる。
「第二線より増援接近!繰り返す、第二線より増援接近!」
最初の塹壕の制圧が佳境に差し掛かった頃、敵の逆襲の報せが舞い込む。
「チッ・・・無線手、航空支援を要請しろ!手空きの者は構えろ!機関銃も持って来い!」
塹壕から顔だけを出し、地面スレスレにライフルを構える兵士達。
その脇で、一部は重量物である重機関銃を三脚と共に設置する。
敵の構築した陣地を利用し、反撃の手筈を整えて行く。
「支援要請、支援要請 敵の増援が此方に向かっている。近接航空支援を要請する。」
『支援要請受諾 攻撃地点報せ』
一方、無線手は塹壕の中に蹲り、無線機の操作を続ける。
『確認した これより近接航空支援を実施する 巻き込まれないよう細心の注意をせよ』
「「「「「オオオオオーーーーー」」」」」
敵の雄叫びが聞こえ、その大軍も目視出来る距離にまで迫っている。
射撃命令は今か今かと待ちかねているところへ、横から大声が乱入する。
「航空支援が来るぞ!頭を吹っ飛ばされたくなかったら伏せろ!」
その言葉に、全員が慌てて身を伏せる。
ヴアアアアーーーーーー・・・・
急降下特有の風切り音が上空から降りて来た。
「来たぞーーーーー!」
誰かが叫び、蹲って耳を塞ぐ。
ドガァァァァァン・・・・
ドドォォォォォォン・・・・
至近距離で凄まじい衝撃が走り、心臓が爆発しそうになる。
「・・・・・・終わったのか?」
少しの間を置いて、頭を上げる者がちらほらと出て来る。
ガラガラガラ カンカンカンカンカン
「うわわわわわ!」
「イダッ!イテテテテテテ!」
同時に大量の瓦礫が降り注ぎ、怪我人が続出する。
「馬鹿か!?さっさと応急処置をして貰え!」
上官に怒鳴られて数人が下がると、今度こそ落ち着いて正面の様子を見る。
爆煙で何も見えないが、辺りは静まり返っている。
「やったのか・・・?」
一人が呟く。
パパパパパパパパパパパ
「うお!」
「グアッ!」
「クッソ、衛生兵ーー!」
突如として弾丸が飛来し、あっという間に死傷者が増える。
「早く撃ち返せ!これ以上好きにさせるなァ!」
多くの者が狼狽える中、機関銃手が逸早く射撃を開始する。
「喰らえ!」
ダダダダダダダダダダ
撃ち始めると同時に、敵の弾幕が一気に弱まる。
「無線手、航空隊に再度支援要請!機銃掃射を要請しろ!」
爆弾は基地へ戻って再装填の必要があるが、機銃であれば継続的な投射が可能である。
「敵が突撃して来るぞ!」
爆煙の中から次々と敵兵が姿を現し、その数は加速度的に増して行く。
「近付けるな、全て撃ち殺せェ!」
手元の武器を矢鱈に撃ちまくるが、いくら撃ち倒しても次々と湧いて出て来る。
ブオオオオオオオオォォォ・・・・
「来たぞ、航空支援だ!」
「巻き込まれないよう注意しろ!」
エンジン音が近付き、遠方から襲撃機が緩降下する様が見て取れた。
敵もそれに気付き、それまでの一貫した突撃が嘘の様に散り散りになる。
タタタタタタタタタタタタタタ
上空からの機銃弾の雨により、一帯に血飛沫が飛び散る。
「司令部より命令が入りました、目前の敵を撃退しつつ、そのまま第二線を制圧せよとの事!」
(気楽に言ってくれるな・・・)
無茶ぶりも良い所だが、敵の統制が崩れている今がその絶好の機会である事も確かであった。
「総員聞け!」
周囲の者が目を向ける。
「これより、敵第二線の制圧を開始する!敵が混乱している今こそがそのチャンスだ!敵が立ち直る前に組み付き、一気に前線を押し上げる!」
訓示が終わると、塹壕から次々と身を乗り出す。
「時間は敵の味方だ、走れェ!」
戦況は概ね、連合軍の優位で進んでいた。
第一海兵師団
「側面援護をする、味方の被害を少しでも減らせ!」
センテル軍が先鞭を付けた一連の戦闘に、暁帝国軍が加わった。
「遅れればそれだけ味方が死ぬ、前進せよ!前進 前進 前進」
戦車が 装甲車が トラックが 戦闘ヘリが
次々と動き出した。
最近PCを新調しました。
執筆ペースを上げられそうです。




