第百四十五話 水面下の面倒事
大変お待たせしました
今回は何故かとんでもない難産でした
ここまで何を描くかで悩んだのは初めてでした。
センテル帝国
人類共通の敵として立ちはだかるメイジャー。
センテル帝国は、メイジャーの調査に全力を挙げている。
同時に、そのメイジャーと同等レベルで高い関心を寄せている勢力が存在する。
それが、暁帝国である。
暁帝国の戦力についてこれまで具体的な調査が出来たのは、ノーバリシアル制裁とレック諸島沖海戦のみとなっている。
強大である事は既に把握しているものの、自国でさえ鎧袖一触の相手では全力を出させるにはまるで足りず、得られた情報はあまり役に立たなかった。
しかし、今度の相手は訳が違う。
不謹慎ながらも、少しの期待を含んで戦いに臨んでいた。
その目論見自体は成功したと言っても良かった。
望んでいる内容であったかどうかは別として。
情報部
「・・・・・・」
報告書に目を通すシモンは、絶句するしか無かった。
暁帝国関連の報告は、メイジャー関連の報告よりも衝撃的なものであった。
単純な火力で言えば双方に大した差は無く、物量はメイジャーが圧倒している。
メイジャー関連では、暁帝国からの情報提供のお陰でかなり正確な推定値が算出されている。
また、一部とは言え連携の問題から暁帝国軍に関する情報も入っている。
(これ程までに大きな差が出るのか!)
技術差が大きければ物量差が意味を成さない事は、他でも無いセンテル帝国が良く知っている。
だが、誘導兵器を除くと互いの装備はかなり似通っており、兵員の練度以外でこうも一方的な結果を叩き出すなど想像もしていなかった。
「海戦はともかく、陸戦は小規模な先遣隊のみが交戦。本当なのか?」
高い命中率を誇るミサイルをふんだんにバラ撒いた海戦で圧勝したのはまだ納得出来る(それでも十二分に衝撃を受けたが)。
しかし、数百人規模の部隊が派遣されたのみで行われたガリスレーン大陸の一幕は、あまりにも現実離れし過ぎた内容であった。
「コレ、信じて貰えるかな・・・」
入って来た情報は、情報部から最高幹部を初め、方々と共有しなければならない。
かつての外交部の二の舞にはならないとしても、果たして受け入れられるか不安しか無い。
「シモン総監、お時間です。」
「ん?ああ・・・もうそんな時間か。」
部下に呼ばれ、他の部署との折衝の予定がある事を思い出し、席を立つ。
・・・ ・・・ ・・・
イズラン公国 シレイズ
この街は現在、かつて無い程の厳戒態勢にある。
至る所に華やかな服装をした屈強な男が立ち、或いは徘徊している。
それ以外では、ブシルーフ領の領軍と官僚しか見当たらず、一般人は何処にもいない。
異様な光景が広がる中、一台の豪華な馬車が姿を現す。
周囲には、馬車に合わせた豪華な飾り立てをした騎兵が並走し、通りにいる者達は姿勢を正して迎える。
派遣軍司令部
「間も無く到着時刻だ!」
暁、センテル両派遣軍を統括する司令部。
これまでとは全く異なる来賓により、戦闘時とは異なる緊張感が漂う。
「後方の司令部とは言え、此処は前線だぞ。何を考えているんだ?」
ブレイドは、不満を隠そうともしない。
「国の存亡の危機ですからね、国内向けのポーズが必要なのでしょう。」
藍原が、諦めの表情で応える。
「この期に及んでおかしな発言が無ければ良いのですが・・・」
暫く後、
「ようこそいらっしゃいました」
応接室にてそう出迎えを受けたのは、小太りの身体付きをした男である。
貫禄を感じる身体付きだが、豪華な飾り付けがされている服装が成金の印象を与えていた。
「そなた等が、軍司令官であらせられるか?」
「その通りです。」
「お初にお目に掛かる。余は、公国宰相の ハーロス と申す。」
大仰ながらも礼儀正しく挨拶する。
「センテル帝国軍ガリスレーン派遣軍司令官ブレイド大将です。」
「暁帝国軍派遣軍司令官藍原中将です。」
自己紹介と共に敬礼する。
「ブレイド殿に藍原殿ですな。両軍の最高指揮官からの出迎えとは光栄の至り。」
「恐縮です。早速ですが、本題に入りましょう。」
見えすいた世辞には一切の反応を見せず、先へ進める。
「まずは、貴殿等の元へ不埒者が度々押し掛けていた事を御詫びしたい。そして貴殿等の抗議を受け、そ奴等は厳正に処分した事を報告致す。」
眉間に皺を寄せつつ、処分内容を語る。
軽く見ても、全員が出世街道から大きく外れた事が分かる苛烈な内容であった。
極少数ながら、斬首刑に処された者すらいた。
「なるほど・・・」
想像以上に厳しい内容に、二人揃って驚く。
(後でクーデターを起こす輩が出るかも知れんな。)
そんな不安を余所に、更に話は続く。
「次いで、此度の訪問の目的を話したい。有り体に申すと、視察を致したい。」
「視察ですか?」
「その通り。貴軍らの優れた実力は既に世に知れ渡っている。その秘訣を是非ともお見せ願いたい。」
早い話が観戦武官の派遣である。
公国側の思惑としてはこれを機に軍内部の膿を一掃し、一気に改革に着手しようと言うものである。
「ふむ・・・」
(受け入れるしか無いか)
要請される側としては、ハッキリ言ってしまえば邪魔なのだが、直接情報を開示しろと言っている訳では無く、更に宰相と言うかなり高い地位にいる者からの要請の為、断り辛い。
その上、最初に自身の不始末に関して頭を下げてまでいる。
こうまでされてしまっては、拒否は百害あって一里無しでしか無い。
「分かりました。その辺りに関しまして、詳細な協議をしましょう。」
その後、観戦武官の受け入れが正式に決定し、20名規模の武官が派遣される事となる。
尚、この話は同大陸の各国にも伝わり、同じく武官の派遣を次々と行う事となった。
同じ頃、
司令部の別室では、ガリスレーン大陸から敵を駆逐する為の作戦の草案の組み上げが行われていた。
「偵察の結果、敵軍は分散配置されています。空爆を警戒しての配置と思われますが、迅速に動けば各個撃破が可能です。」
「しかし分散していると言う事は、此方も敵に付き合って広範囲に展開せざるを得ない。かなりの手間と弾薬が必要なります。」
「その上、敵の機甲戦力が健在です。現状でさえ、推定1000輌余りが稼働可能と見積もられています。補給が見込めない以上は、戦闘が開始されれば急激な稼働率の低下は確実でしょうが、それでも十分過ぎる数ですし、いざとなれば車体を埋めて砲台として利用出来ます。」
「制空権を完全に握っているのは幸いですね。入念な事前偵察と攻撃で予めダメージを与えれば攻勢に出られるだけの隙も生まれるでしょう。」
「航空隊の規模を考えるに、相当なオーバワークを強いる事になりますよ。いくら補給があるとは言え、此方も稼働率の低下に悩まされるのは間違いありません。それと、乗員の疲労も無視出来ません。」
現在までに、センテル軍では航空機の派遣も進んでいる。
再編が完了すると、早速積極的な偵察活動を開始した。
尚、暁帝国軍のヘリを使用していないのは、高射砲や機関砲による抵抗を恐れてのものである。
案の定、敵を発見する度に派手な歓迎を受ける事となり、既に一部は撃墜の憂き目に遭った。
その上で分散配置である。
一度の戦闘に於ける負担が減る一方、捜索や移動に手間が掛かり過ぎる上に殲滅を考えると都合が悪過ぎる。
また、占領されているブシルーフ西部は、領地としては十分な面積ながらも戦場としては狭く、分散している各部隊は互いに連携が可能でもある。
実状が判明した事で、尚更万全を期すしか無くなった。
「現在の我が軍(センテル軍)は、第二 第六 第七師団の準備が間も無く完了、残る第九師団は未だ掛かります。また、第一師団は予備兵力として再編し、臨時に独立第一旅団として後方に待機しています。」
「此方(暁帝国軍)は、第一海兵師団が上陸を完了して移動中、残る第七 第十五師団、第十九 第二十旅団は上陸作業中です。」
総数はあまり多くないが、大陸戦争と同じく占領地維持は当事国に任せる事としている。
「敵に攻勢の動きは?」
「相変わらず、小競り合いばかりです。」
「戦力の温存を優先しているみたいですね。」
「我々は助かりますが、少し不安ですね。」
「と、言いますと?」
「敵が健在な限り、一定の戦力が常に拘束されてしまいます。恐らく、敵はそれを狙っているのかと。」
言わば、陸上版艦隊保全主義である。
戦力分散を強要出来、時間稼ぎにもなる。
「とにかく、集結を急がせましょう。」
ガリスレーン大陸は、もう暫く平穏を維持する。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国 硫黄島
「当分は安静にしてなさい。」
軍の医療施設にて、五つのベッドを占領している怪我人達
「いや待て、部屋割りおかしくね?」
「確かに・・・。」
「と言うより、割ってませんよね。」
「大丈夫かしら?」
大部屋に、男一人、女四人と言う偏った内分けで寝込んでいる。
「いや、キミ達ヒドくない?」
不信の目を向けられているレオンは、いつもの口調が崩れていた。
「酷くない・・・。」
シルフィーは、にべも無く言い切る。
「捕らわれ戦士みたいにならないか気が気じゃ無いんだよ。」
フェイは、寝返りを打って背を向ける。
「そ、そう言うのは宜しくないかと・・・」
スノウは、紅潮しながら若干距離を取る。
「もしかして、あたしが標的?」
最も重傷なカレンは、満足に動けない現状から身の危険を感じる。
「あのですね、ですからね、キミ達ちょっと話を・・・」
レオンの懸命の弁解は止まらない。
地下シェルター
要塞として整備された硫黄島は、軍事施設が充実している。
その硫黄島の地下深く、機密性の非常に高い案件を取り扱う地下設備に、勇者一行と共に運び込まれたコートの死体が拘束されていた。
その腕には、念の為に封魔の腕輪が填めてある。
コートの置かれている場所はドーム状の大部屋となっており、周囲には分厚い防弾ガラスによって隔てられた観測室が複数ある。
また、壁には監視カメラを初めとする各種機器が埋め込まれており、安全に事を行える体制となっている。
「うーむ、コイツで間違無いのか?」
「その筈ですが・・・」
「もう一度艦隊に問い合わせましょうか。」
佐藤を筆頭とする要員が、モニターを眺めながら唸り続ける。
彼等は此処数日、同じ事を繰り返している。
「どうなってるんだ?」
佐藤は、何度目か分からない呟きを口にする。
モニター上には、コートの体内の魔力が表示されている。
しかし、その魔力量は一般人にも劣る程に微々たるものであり、運搬中の取り違えを疑う程となっている。
しかし、内包している魔力は全属性が揃っており、メイジャーである何よりの証明となっている。
だが、やはり勇者一行を大苦戦させたとはとても思えず、堂々巡りを繰り返すばかりであった。
「やっぱり、死んだから体外へ漏れ出したのでは?身体の損傷も酷いですし、それしか考えられません。」
死亡した際、体内の魔力がどうなるかは何も判っていない。
疑問に思う題材では無かった事もそうだが、何より不謹慎である事から実験出来ない。
「確証が無いのが痛いな・・・何処かで死刑囚でも貰い受けるか?」
「それは・・・」
実証はしたいが、良識が邪魔をする。
「やっぱり取り違えたんじゃ」
再び堂々巡りになるかと思われた時、一人が口を開く。
「神話を調べ直したんだが、メイジャーはハルーラによって魔法で魔力から生み出されたんだろ?」
「オイオイ、神話を真に受けてどうする?」
呆れ顔に囲まれるが、意に介さない。
「メイジャー自体、タダの神話の筈だっただろ。それにハルーラの存在も、そのメイジャーが明言してる。」
あり得ない筈の全属性の適性、一部を除く他者を圧倒する力量、方々で発見された遺跡との共通性
神話だからと頭ごなしに否定は出来なかった。
「それで、何が言いたい?」
「俺が思うに死んだ瞬間に魔力が体から抜けたんだと思う。言い換えれば、昇天した。」
「しょ、笑点?いや、商店・・・焦点か?」
「全部違ェよ。昇天だよ。」
予想外の方向からのアプローチに若干間が空く。
「・・・えらく宗教的な話だな。」
「そうでも無いさ。無くなった魔力そのものが意識だったかもって事だ。」
「なるほど」
そこへ、佐藤が割り込む。
「宗教的な表現をするなら、魂が抜けたと言った感じか。」
「魂って、21グラムの事ですか?」
「アレって否定されてなかったか?」
人が死んだ瞬間、体重が21グラム軽くなると言う話がある。
その真偽はさておき、真っ先に連想したのはそれであった。
「確証は無いが、魔力の正体はよく分かってない。可能性は無きにしもあらずだな。」
宇宙に存在する物の内、人間が扱え、或いは観測可能な物質やエネルギーは全体の4パーセントに過ぎない。
23パーセントがダークマター、残りは正体不明となっている。
そして、魔力は4パーセントの内に入らない。
「とにかく入念に観測を続けるぞ。こんな機会は二度と無いだろうからな。」
未知の存在にを前に、気合いが無駄に高まる佐藤であった。
時間が掛かった割に大した内容になってなくて申し訳無いです。




