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第百四十四話  排除される脅威

 お知らせ

 本作の外伝の投稿を開始しました。

 本編で省略していた話をやっていきます。

 ドレイグ王国沖



「出たぞーーー!!」

 複数の商船が徒党を組んで進む中、船員が海面を見て叫ぶ。

 そこには、海獣と言う名の絶望がいた。

「急げ!逃げるんだァー!」

「早く進め!」

 間近に迫る巨体に生存本能を刺激され、どうにか船を加速させようと無意味に甲板を駆け回る者が続出する。

 焦燥と恐怖がない交ぜとなり、顔を歪めて涙を流す者さえ現れる。

「た・・・た、たた、た・・・助けてくれェェーーーー!!」

 耐え切れずに叫ぶ者も現れる中、一周回って冷静になった者が無表情で空を見上げる。

「ッ!・・・何アレ!?」

 その声につられて上を向くと、太陽の中に人影らしきものを認めた。


「漸く姿を見せおったなァ!」

「海の中でコソコソしおって・・・!」

「海蛇風情が、決して逃がさん!」

 太陽を背に、赤竜族の部隊が急降下する。

 風切り音に気付いた海獣は、咄嗟に潜航しようと体を曲げる。

 海に生きる者として、空の生物が天敵である事はその辺の魚と変わらない本質である。

「決して逃がすな!炙り出してやれェい!」

「;;¥^*&$・・@」

 それに気付いたゴルナーが叫び、命令に応じて呪文の詠唱が始まる。

 海獣の全身が海中へ没すると同時に詠唱が終わり、身構える。

「放てェーーーーい!」

 ゴルナーの合図で、特大の火球がいくつも撃ち降ろされる。



 ジュゴオオオオオオオオオ・・・・



 猛烈な勢いで海水が熱され、凄まじい音と真っ白い水蒸気が立ち上る。



 ザバアァァァァァ・・・・



 熱は海中に及び、直に茹で上げられた海獣は堪らず顔を出す。

「やれェェい、生きて返すなァ!」

 後は、拳だけで事足りた。

 頑丈な龍にさえダメージを与えられるその拳は、それより耐久力で劣る海獣には致命傷となった。



 ドッパァァァァァァァァン



 力無く海面へ体を横たえると同時に、派手な水飛沫が上がる。

「フンッ、我等が領域で好き勝手しおって・・・!」

 ドレイグ王国では、ある問題が表面化している。

 それが、海獣被害者の急増である。

 シャカ島周辺海域に於いて救助活動を始めたのは良いものの、想定を大きく超える被害の大きさに手が回っていないのである。

 そして、こうなってしまう程に自身の勢力圏で好き放題されていると言う事実を認識し、フラストレーションが溜まりに溜まっていた。

 ドレイグ王国の参戦表明は、半分は吐き出す場を求めてと言う意味合いがある。

 最早、海獣を狩り尽くすだけではどうしようも無い程に。

「蛮勇にならなければ良いのだが・・・」

 雄叫びを上げて喜ぶ部下を横目で見ながら、世界を知ったゴルナーは小さく呟く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 西セイルモン諸島  ローバル島 セイルモン海域司令部



 相変わらず様々な立場の者達が最新情報を求めて集まる中、関係者以外に立ち入りが許されない上階では、伊藤とノシフスキーを筆頭とする各国の海軍関係者が集まり、連絡会を開催していた。

「統計によりますと、インシエント大陸周辺では海獣被害はほぼ収束していると見て良いでしょう。ただ、別エリアから新手が流れて来る可能性がありますので、油断すべきではありませんな。」

 資料を提示しつつ、元クローネル帝国艦隊司令長官のベイルスが報告する。

「順調に減っていますね。」

「はい。遭遇した際の対応策を共通化し、それに慣れたのも大きな要因でしょう。」

 現状、東部地域に於ける海獣被害は大幅に減少している。

 特に、暁勢力圏は最盛期の20分の1にまで減少しており、そのお陰で損失の補填が順調に進んでいる(鋼鉄船であるお陰で大多数は損傷で済んでいる)。

 ただし、此処で懸念されているのがセイキュリー大陸である。

 イウリシア大陸方面でも順調に海獣駆除が進んでいるのだが、セイキュリー大陸方面は完全に放置状態となっている。

 その為、この方面から流れて来たと思われる個体によって、ノーマークとなっていたエリアでの被害が突発的に発生したり、全体的な被害の微増が度々確認されている。

 だが、それに対する抜本的な対策は取っていない。

 ハレル教圏は瓦解したとは言え、それが原因で他者を一切信用出来ない群雄割拠の時代に突入しているのである。

 迂闊に近付いて藪蛇となるのは避けたい上に、時間が経てばその勢いのまま外界へ牙を剥く可能性も十二分にある。

 それならば、むしろ放置する事で海上封鎖状態にしておいた方が良いと結論された。

「それにしても、この状況を利用して大儲けする連中が出て来るとは予想外でしたよ。まぁ、いくら注意しても被害が出る時は出ますから無理もありませんが・・・」

 そう呟くノシフスキーの心境は複雑なものであった。

 海獣騒ぎに乗じる様な形で、イウリシア大陸では大きく隆盛を迎えている業種が存在した。

 それが、保険業である。

 それまでに存在しない全く新しい業種であった事、基本的に自助努力で生活して来た事から、導入が始まった当初からつい最近まで信用は地を這い、碌に認知すらされずにいた。

 それが、どうしようも無い継続的な災害に見舞われた事で、藁にもすがる思いで契約を希望する商会が殺到したのである。

「もしもの場合の補償を求めるのは、人の性みたいなモノです。リスク管理の為にも、こうした物は必要なのですよ。」

 今回は発展を享受した理由が理由であるだけに、方々から怒りや嫉妬の声が上がっている事も確かである。

 だが、それでも必要だと伊藤は言い切る。

「どうせなら、最前線で直接安全を守っている軍艦の保険も引き受けてくれれば良いのですが。」

「沈む前提の軍艦は保険を受け付けませんよ。確実な保証が約束されているなら保険は成立しません。いえ、それ以前に軍隊など必要無くなります。」

 軍隊も、言い換えれば国家にとっての保険と言える。

 他国からの侵略に晒されるかも知れないと言う可能性に対する備えとして整備されている。

 その心配が無いと言う絶対の保証が得られるならば、金喰い虫の軍隊など邪魔でしか無い。

「失言でした。」

「いえ。それはそうと、そちらの戦力は大丈夫ですか?」

 東部地域は、海獣の脅威を退けるのは時間の問題となりつつあった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国



「これは良くないな・・・」

 皇城にて行われている定例の最高会議に於いて、ロズウェルドは呟く。

「根本的な解決の目処は立たんのか?」

「統計によりますと、少しずつではありますが被害は減少傾向にありますので、現状維持が最善かと。」

 彼等の手元にある報告書には、海獣による商船被害と駆除数が纏められていた。

 それによると、駆除数は西部と東部で3倍もの差が開いている事が判明している。

 尤も、これは遊弋している海獣の絶対数の差から来る会敵機会の差の問題が根底にある為、一概に比較は出来ない。

 そして、ロズウェルドが呟いた理由である被害は、西部が5倍もの数字を叩き出していた。

「現状維持と言ったが、海軍はどうなっているのだ?」

 その問いに、一同の表情が暗くなる。

「先の海戦の影響にから稼働艦艇が低下し、作業は低調とならざるを得ません。」

 ガリスレーン第一会戦の結果は、その損失に見合った成果を出したものの、その後の展開に暗い影を落としていた。

 制海権は(敵海上戦力が出て来ないお陰で)握っているものの、広域の維持が出来る程の戦力的余裕は無い。

 そこで戦時下である事を利用し、船団を組んでの航行を勧告したのである。

 この方式ならば、効率良く被害を抑えつつ駆除も進む。

 西部地域各国にもこの方式の採用を要請しており、即応のし易さから採用を推す声が各所で上がっている。

 ただし、船団は経済性が悪い事から海運業界からは不満の声が上がっている。

「幸い、地方艦隊は無傷ですので、護衛戦力につきましては心配ありません。」

「更新は間に合っているのか?」

「東部地域が比較的平穏な為、第一、第三艦隊へ優先的に新型艦を配備しております。」

 尚、主力艦隊のみならず地方艦隊までもが割りを食っている現状に現地の将兵は絶望して拳を壁に叩き付ける光景が常態化しており、東部方面はカウンセラーと鎮静剤が優先的に配置される事となった。

「では、イズラン公国への援軍は予定通りに行っているのか?」

「予定通りに進行しております。現在までに、該当の輸送船団の被害も確認されておりません。」

「うむ、それは良い事だ。ところで西部地域諸国だが、持ちそうか?」

 持つとは、世界大戦時に発生した経済の崩壊に端を発する国の崩壊に関してである。

「解体間近の老朽船舶を動員して補っております。ただ、その事につきまして一つ気になる事があります。」

「気になる事?」

「モフルート王国なのですが、つい先日までエイグロス帝国向けに大量の食糧を輸出していた事が判明しました。」

「エイグロス帝国だと?彼の国は確か・・・」

 暁帝国による偵察衛星の情報は、既にセンテル帝国首脳部にも周知されている。

「そうだとすると、敵軍の不可解な動きにも説明がつく。」

 エイグロス帝国を経由して侵攻を企てた敵は、何故かアウステルト大陸を迂回してリスクの高い飛び地の確保を行った。

 今回の情報は、その根拠となり得るものであった。

「外交部は大使館へ向かい、腹を探れ。」

 礼儀正しいが扱いにくい

 これが、センテル帝国のモフルート王国に対する印象である。

 敵対すべきか否か、慎重さを要する相手に緊張が高まる。




 ・・・ ・・・ ・・・





 ボルゴノドルフ大陸  メイジアVIII



「アドルカモフ、報告とは何だ?」

 サハタインは魔導管理局からの呼び出しを受け、アドルカモフの元を訪れていた。

「突然申し訳ありません。」

「謝罪はいい。用件を言え。」

 急かされると、資料を取り出す。

「・・・・・・これは!」

「御覧の通りです。当初より実行して来ました妨害は、鎮圧されたも同然です。」


 SSD-9110  総数520/残存177

 RDD-6200  総数20/残存2


 他にも色々と羅列されているが、重要なのはこの二点であった。

「元より使い捨てのつもりの置き土産ではあったが、予想以上の被害だ・・・」

 以前より何度も言及していた置き土産

 それは、いわゆる生物兵器である。

 生態系の頂点に立ち得る素質を持つ生物の異種交配を繰り返しつつ、外部からの魔力注入による肥大化を行い、極めて強力な新種を開発する。

 更に、特定の魔力を専用の設備から照射する事で、制御運用する。

 魔導管理局の研究によって生み出されたそれは、人類の反乱によって世界へ解き放たれ、長い雌伏の時を経て動き出した。

 SSD-9110 すなわち海獣

 RDD-6200 すなわち龍

 メイジャーの力を以てしても容易では無いその脅威は、確かに人類を苦しめた。

 しかし、予想よりも遥かに早く排除されようとしている。

「鎮定軍による通商破壊を進言します。」

 アドルカモフの提案に、暫し黙考する。

「・・・あまり気は進まんが、ゼルベードと相談しよう。」

 そう言い残し、魔導管理局を後にする。

「生物にすら有効に機能し得ると言うのか、奴等の装備は・・・」

(地の利は対抗可能な武器となるのか?)

 何もかもが上手く行かず、サハタインは自らが率いて来た力に自信が持てなくなろうとしていた。



 普段は隠れているからこそ、その場にいなくても警戒を強いられる。

 敵を締め上げるのに通商破壊は本当に有効ですね。

 そう言えば、艦隊決戦に夢中になりすぎて通商路には目もくれない海軍が何処かの島国にいた様な・・・

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