第百四十二話 防戦の終わり
モチベーションが滅茶苦茶落ちてて二週間くらい放置してました。
初心に返る為に色々見直したりやり直したりして沼に嵌まってしまった。
暁帝国南方上空
「圧巻とはこの事か・・・」
その呟きは、誰の耳にも届かない。
現代ではお目に掛かれない筈のこの光景を前にしては、呟かずにはいられない。
『ゴーストアイよりジャック隊へ、間も無く変針地点へ到達する 空中衝突に注意せよ』
『ジャックリーダーより全機、残燃料確認せよ』
攻撃予定空域へと順調に飛行を続ける大型機の群れ。
『変針用意 5 4 3 2 1 今!』
54機もの大型機が一斉に旋回する光景は、見る者にある種の感動を与える。
TU-160による攻撃隊は、敵艦隊の進路調整に合わせた若干の変針を行いつつ攻撃地点へ向けて順調に行程を消化していた。
『ジャック隊に告ぐ、攻撃ポイントまで残り5分を切った 現在、敵艦隊に変化無し』
AWACSから情報が入り、隊長機が指示を出す。
『ジャックリーダーより全機、編隊を解け 予定通り攻撃を開始する』
命令が下り、移動体形から攻撃体形へと一斉に動き出す。
ゆったりと、しかし迅速に編隊が変形して行き、一矢乱れる事無く新たな形態を採った。
『ジャック隊へ、攻撃ポイントへの到達を確認した 交戦を許可する 目標は敵性戦闘艦』
『了解』
交戦許可が下り、爆弾倉が開かれる。
『・・・投下!』
ガコッ カシャン
爆弾倉から投下されたのは、かつて一方的に敵対勢力を破壊した無誘導爆弾では無く、圧倒的な射程と極めて精密な誘導性能を持つ巡航ミサイルであった。
投下されると同時に主翼を展開し、エンジンを点火する。
一機当たり4発が投下され、一路敵艦隊を目指す。
『全機投下完了』
『此方でも確認した 任務完了だ 帰還せよ』
・・・ ・・・ ・・・
同時刻、
『爆撃隊の攻撃開始時刻です』
「チッ・・・!」
始まってしまったとでも言いたげな顔で、寺内は舌打ちする。
小型艇には大き過ぎる揺れに翻弄され、神経を磨り減らしている状況が続けば、舌打ちの一つも出てしまう。
ミサイル艇の外洋能力は、他大陸沖(インシエント大陸及びスマレースト大陸)への展開を前提としたものであり、本格的な外洋進出は考えられていない。
つまり、
『此方41号、機関出力低下!落伍する!』
『22号、捜索レーダーブラックアウト!』
『此方35号、乗員2名が転倒により負傷!』
『此方28号、主砲にエラー発生!』
想定していない過酷な作戦へ駆り出された事で、トラブルの見本市の様相を呈していた。
既に、5隻が脱落して引き返すか放棄されており、他もギリギリの状態が続いていた。
「全艇集結!これより敵艦隊を攻撃する!」
乗員にとって、長い長い行程の半分が終了した事を告げる命令が下った。
波に煽られ綺麗な隊列は取れないが、自艇の保全に全力を挙げていたミサイル艇艦隊は攻撃態勢を取る。
『AWACSよりデータ取得完了 巡航ミサイルは予定通りに発射された模様』
艦橋のレーダー画面に、巡航ミサイルを示すシンボルが追加される。
「出ました。着弾まで、後50分」
「30分後に攻撃開始する。」
(30分後に何隻攻撃出来るのやら・・・)
寺内の内心は、絶対に表に出せない冷ややかなものであった。
『49号より、システムダウン!攻撃不能との事!』
早速1隻が離脱し、頭を抱える。
30分後、
「時間です。」
「攻撃開始!」
ドオォォォォォォォォォ・・・・
巡航ミサイルからおよそ10分の距離を置き、一隻当たり4発のミサイルが放たれた。
点火直後に派手に煙を上げたブースターはすぐに切り離され、海面ギリギリを這う事で、レーダーによる探知はおろか目視すらも困難なハンターが完成した。
「全艇攻撃完了を確認!」
報告を聞き、寺内は一層機を引き締める。
「よし、次だ!ミサイルを捨てて軽くなったからって気を抜くな!此処まで来て脱落は許さんぞ!」
此処まで辿り着けたのは42隻。
8隻が脱落の憂き目に遭っていた。
「再度バラけろ!自艇の保全を最優先するんだ!主砲の使えないヤツ以外は前進しろ!」
隊列を解いたミサイル艇艦隊は、大多数が針路を変えずに前進を続ける。
・・・ ・・・ ・・・
一方のAWACS、
『海上よりミサイルの発射を確認』
『第一波、着弾まで20分 第二波、着弾まで30分』
『敵艦隊上空に変化は?』
『哨戒機と思しき機影8を探知』
ミサイルが標的へ刻々と接近して行く様を淡々と眺め、同時に標的の異常を監視する。
ひたすらに待つだけの長い時間だが、機内には強い緊張感がっている。
モニター上のミサイルが近付く毎に、それを眺める監視員の目がギラつく。
『第一波、着弾まで残り1分』
緊張が高まる。
ミサイルのシンボルが標的と隣り合わせとなり、そして重なる。
同時に消失した。
『全弾命中を確認 続いて第二波、着弾まで10分』
息を吐く音がそこかしこから聞こえ、空気が若干弛緩する。
その後も監視を続けていると、敵艦のシンボルが次々と消え始めた。
『巡洋艦クラスの撃沈・・・2隻撃沈を確認』
『大型艦1撃沈』
『新たに駆逐艦クラス8が沈没』
『巡洋艦クラスが更に2隻撃沈』
撃沈報告が矢継ぎ早に出され、いつまで経っても途切れない。
『ミサイル艇艦隊、一部を除いて前進を継続』
モニターには、引き返して行く2隻と前進を続けるミサイル艇の姿があった。
『第二波、間も無く着弾します』
撃沈報告が途切れがちになった頃、第二の山場がやって来た。
『弾着、今!』
モニター上から、全てのミサイルが消える。
『全弾命中を確認』
再度、撃沈報告が加速する。
そうして暫く経つと、新たな局面がやって来た。
『ミサイル艇艦隊、主砲射程に敵残存艦艇を捉えました』
・・・ ・・・ ・・・
「対象を目視!」
ミサイルの嵐によって大きく数を減らした敵艦隊だが、未だに多くの艦艇が残存している。
戦闘艦はいずれも大破しているものの、その後方より近付いている輸送艦は大半が無傷のままとなっている。
そして、引き下がる素振りを一切見せない。
だからこそ、ミサイル艇艦隊は目視圏内での対峙を選択した。
失敗続きの敵には後が無い事は分かり切っている。
そうなれば、如何なる犠牲も気にせず突っ込むのは人間も同じである。
その一方、一見圧倒的優勢に見える人類側にも余裕は無い。
僅かな成果すらも許容出来ず、不慣れな砲撃戦を行う程度には。
「まだ戦闘艦は生き残ってる、気を抜くな!一発でも喰らったらスクラップだぞ!」
寺内の檄が飛び、現代海戦ではお目に掛かれない砲撃戦が幕を開けた。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
速射性に優れる76ミリ砲から短時間の内に大量の砲弾が吐き出され、壁の様にも見える水柱を形成する。
同時に、そこかしこで爆炎も形成され始めた。
「精度が悪いな・・・」
200トンクラスとは思えない高火力を披露しているが、そのせいで高度なFCSは搭載出来ず、大き過ぎる揺れも相まって外れ弾が量産されていた。
ドッパァァァァァァァァァァン
遠方の水柱を眺めていると、すぐ近くに水柱が立った。
「・・・最後っ屁のつもりか?」
寺内は眉一つ動かさず、傾斜して沈没寸前となっている巡洋艦を見遣る。
最も手前にいるその巡洋艦は、砲撃の水柱によって視界を遮られている他艦よりはいくらかマシな条件が整っていた。
だが、それも徒労に終わった。
第二射を吐き出す前に急速に沈降を始め、砲撃どころでは無くなった。
『敵艦に近付き過ぎるな!慎重に距離を取れ!』
針路が巡洋艦と被っているミサイル艇は一時砲撃を中断し、回避に専念する。
「クッ・・・!」
「うおっ!」
沈没によって生じた渦が海面を掻き乱し、イレギュラーな揺れとなって乗員に襲い掛かる。
「しっかりしろ!腹に力入れ直せ!」
多くの乗員がよろけてしまい、叱咤の声が飛ぶ。
「ミサイルを積んだままだったら危なかったな・・・」
何人かが密かに冷や汗を掻く。
巡洋艦を通過すると、砲撃が再開される。
非武装非装甲の輸送艦ではどうにもならず、瞬く間に戦線が押し上げられ、護衛の駆逐艦も水柱によって照準すら出来ない。
ドウン!
『敵艦の誘爆を確認』
『目標変更、』
その様相は、戦闘と言うよりは最早狩りであった。
狼と化したミサイル艇に根こそぎ狩られる哀れな羊の群れ。
海面には大量の残骸が散乱していた。
『攻撃止め!』
間も無く、戦闘が終了した。
まともに浮いているのはミサイル艇だけであり、他に無事な物は存在しない。
『全艇、状況報せ』
多くが弾薬欠乏に陥っていた。
そして、弾痕が目に付いた。
艦自体が非武装と言えど、銃火器の類いは大量に搭載している。
正規戦では想定されていない戦闘の跡に寒気を覚える。
「帰りも何事も無いと良いがな・・・」
その一言と共に、ミサイル艇艦隊は撤収を始めた。
ある意味、戦闘よりも過酷な後半戦が目の前に横たわる。
メイジャーの放った第三の矢は、文字通りの全滅と言う最悪の結果で終わった。
しかし、完璧とまでは行かなかった。
この戦闘に参加したミサイル艇の大半が、想定していなかった状況への投入によってボロボロとなり、廃艦処分となったのである。
これは、暁帝国史上最大の損害であり、沿岸防衛力の大幅低下を招いた。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国
東郷の下にて、
「それでは、新戦略の策定を進めます。」
今までに確認していた全ての攻勢を凌いだ事で、主要な人員が集まっての戦略会議が開催された。
まずは、現状確認から始まる。
「メイジャーにより攻勢は、これまでに三度確認されています。」
モニターに世界地図が映し出され、東部諸島 イズラン公国 無名諸島(仮称) にバツ印が表示される。
「最初に標的となったのは東部諸島です。これは、我が軍の迅速な対応によって早期の撃退に成功しました。」
東部諸島のバツ印が消える。
「次は、ガリスレーン大陸南西のイズラン公国です。戦場となったのは、良港の存在するブシルーフと言う地域です。我が軍の先遣隊とセンテル帝国軍によって迎撃を行った結果、艦隊の撃退には成功したものの分離した輸送艦隊によって上陸を許し、地上戦が展開された末にブシルーフの西半分のを領された状態で膠着しています。また、特筆すべき点として、勇者一行が現地にてメイジャーと交戦、打倒したとの事です。」
イズラン公国のバツ印が消え、被占領地域が赤く着色される。
「最後に、無名諸島です。これも、我が軍の爆撃隊と緊急編成されたミサイル艇艦隊によって、先頃殲滅に成功しました。しかし、無理のある運用によって44隻のミサイル艇が廃艦処分となりました。」
無名諸島のバツ印が消える。
「以上が、敵の主要な攻勢に関する報告になります。」
終わるや否や、早速ざわつく。
「メイジャーに関して詳しい情報は入っていますか?」
「イズラン公国の被害は?」
「各国の反応は?」
「それはまた後程。」
矢継ぎ早に出される質問を、進行役が押し留める。
「では次に、現状の把握を行いたいと思います。まずは、ガリスレーン大陸についてです。」
「それでは報告します。」
吉田が立ち上がる。
「敵の占領を許したイズラン公国を筆頭に、現地住民の動揺が広がっています。以前より活発化していた疎開がブシルーフ地方を起点に更に活発化しており、その疎開民によって敵に関する噂が尾ヒレを付けて加速度的に広がってしまい、更なる不安を煽る悪循環に陥ってしまっております。」
性質の悪い事に、様々な情報に触れる機会の多い立場にある現地の官僚や商人が直接的な被害を抑える為に積極的に噂の出所となっている節があり、その立ち位置故に根も葉も無いデマであっても一定の信頼性が付与された上で原型を留めない程の尾ヒレが瞬く間に付いてしまうと言う事態も発生している。
「現地政府も対応に苦慮しており、事を収める為に一刻も早い反撃を我が国とセンテル帝国へ要請しております。」
当然ながら、中でもイズラン公国の突き上げは非常に強く、マフェイトが抑えに回る事さえある程となっている。
「その他の地域の反応としましては、ドレイグ王国が正式に参戦を表明した以外は各国が警戒をより強めたと言った程度です。未だ、何処か他人事な雰囲気がありますが、海獣対策で余裕が無い事も確かですのでそこまで強くは言えません。」
現在、海獣被害は減少を続けている。
まだ気は抜けないものの、経済活動は徐々に活気を取り戻し始めている。
しかし、此処で問題となっているのが、これまでの被害を原因とする船舶不足である。
海獣を殲滅しても、船が無ければどうにもならない。
世界は、確実に世界大戦後の惨状へと近付いていた。
「損失の穴埋めの為に各国では造船業が活性化しているそうですが、まるで足りません。そこで、我が国へ商船の注文が殺到しております。」
暁帝国に限らず、センテル帝国へも注文が殺到していたが、自国の事で手一杯である為、全て断っていた。
それ以外では、アルーシ連邦で未だに用途の決まっていない大量の余剰戦列艦を損失の補填、及び供与している。
「我が国も大して余裕がありませんので、注文の大多数を大陸同盟及び大陸連合へと回すよう手配しました。取り敢えずは拒否しなかったお陰で、我が国に対する支持はより強固になったと見て良いでしょう。」
暁勢力圏は、既に蒸気船の建造が可能である為、多くの国のニーズに応える事が可能となっている。
被害も最小限で済んでいる為、最も余力を有している。
積極的な開発や支援が、本国の余裕の無い現状を上手くサポートする体制へと繋がっている事実はこの場の全員に共有され、それが更に世界との付き合いに於いて上手く活かされる。
これまでの方策が正しかった事を実感させた。
「ただ問題は、現状が続けば続く程、ガリスレーン大陸諸国の不信感が増す事です。外交的観点からしますと、今すぐにでも反撃を行って欲しいと言うのが本音です。尤も、軍事の素人が作戦にどうこう言うべきでは無い事は理解しています。私からは以上になります。」
吉田は着席する。
「では、只今指摘のありました、軍事的観点からの意見をお願いします。」
今度は田中が立ち上がる。
「まず申し上げますと、現有の現地戦力では占領地奪還は不可能です。」
予想出来た回答だが、落胆の声が上がる。
「敵は、最後の会戦の後の再編を行っている隙に防御を固めてしまいました。艦隊を撃退出来た事で増援の心配はありませんが、どうしても戦力不足です。」
「孤立無援なのだから、兵糧攻めは出来ませんか?」
一人が手を挙げて意見するも、首を横に振る。
「あの一帯は有数の穀倉地帯です。事、食料に関しては最悪の条件が整っています。また、孤立無援と言えども敵は健在です。後の事を考えますと、無理な攻勢で損害を増やす行為は避けなければなりません。」
俯く者が出始める。
「ただし、最終的に攻勢に出る事は決定事項として動いています。センテル帝国軍との共同と言う形になりますが、必要な増援が到着次第作戦を開始出来るよう調整を進めています。」
「悠長に準備している時間が?その隙に別の地域が侵攻を受ける可能性もある。」
当然の懸念が出る。
「衛星による監視を継続していますが、新たな攻勢の動きは一切確認されていません。」
これは軍に限らず、帝国航空宇宙開発機構との一致した見解となっている。
「目下最大の問題は、ガリスレーン大陸諸国の動きです。先程も指摘がありましたが、此方に対する不信感が増しつつあります。小規模ながら衝突も発生しているとの報告も上がっており、突然の離反に遭う危険性も示唆されています。」
現在発生している衝突とは、具体的には駐留軍の元へ直談判をしに来る武官の爆発である。
国土を守る立場として、現状を主に心情的に受け容れられない者達が必死の形相で即時の攻勢を主張しているのである。
国土を占領されている事実と、自身ではどうにも出来ずに他国に頼るしか無い現状。
二重の屈辱に堪えられない者達が続出し、半分憂さ晴らしの様な形で押し入っているのである。
「流石に礼を失する行為との事で、大多数は大人しくしています。」
怪我の功名と言うべきか、我慢出来ないこうした者達の姿が反面教師となり、多くの政府関係者の頭を冷やす事となった。
「しかしそれも、ほんの僅かな時間稼ぎに過ぎません。我々としましては、外務省の力をより借りる他はありません。」
視線が吉田に集中する。
「友好国を繋ぎ止めるのも外務省の務め。ただし、それには具体的な数字が必要ですな。増援の内訳、到着日時、作戦期間等、説得には明瞭な情報が必要です。」
「機密に当たりますので、協議が必要ですね。」
話は、一旦終了する。
「では他に、報告すべき案件はあるでしょうか?」
進行役が口を開く。
「倒したメイジャーはどうなってる?」
東郷が尋ねる。
「現在、本土への運搬を検討しており、準備を進めております。」
田中が答える。
「分かった」
「総帥、運搬を終えるまで佐藤を抑えて下さい。」
「佐藤を?」
「興味津々で急かして来るのですが、あの勢いでは現地まで飛び出しかねません。」
「あー・・・」
暴走状態の佐藤の相手など誰もやりたがらないが、やらなければならない。
「それはこっちで何とかするとして、そっちは任せた。出来るだけ急いでくれ。」
「了解しました。」
メイジャーと人類のこれまでの戦況は、攻守をすげ替えようとしていた。
海底資源の採掘に成功したらしいですね。
採算が取れるか疑問ですが、属国日本が何処まで恩恵を享受出来るか見物だなー。




