第百三十九話 ガリスレーン大陸の攻防7
海上保安庁に関する設定を一部変更します。
詳しくは、第四話を見て下さい。
ボルゴノドルフ大陸 メイジアVIII
中央庁舎の一室に於いて、サハタイン ファレス ゼルベード が集まり、深刻な表情で顔を揃えていた。
「・・・報告は以上だ。」
ゼルベードが、これまでの西部地域の戦況の推移に関する説明を終える。
「馬鹿者が!」
サハタインが声を上げる。
「だから申したでしょう!」
ファレスがサハタインへ抗議する。
ガリスレーン第一会戦により第十二艦隊は大損害を受けて撤退し、その隙を突いて上陸には成功したものの、敵勢力圏のド真ん中で孤立無援となっている。
「コートさんが引き際を考えられないのは予想出来た事です!」
当初からコートを向かわせる事に懸念を表明していただけに、ファレスは止まる気配が無い。
「余計な被害を受ける様な事をしていられる程の余裕など」
「ファレス、その辺にしとけ。」
ゼルベードがファレスを止める。
「ゼルベードさん!」
「アイツをこれ以上抑えるのは流石に無理だ。お前のトコにも何度も直談判しに来たンじゃ無ェか?」
「ウッ・・・!ま、まぁ・・・」
彼等が姿を現してからと言うもの、コートは一刻も早い行動を求めて頻繁に突き上げを行って来ていた。
交渉が決裂した時には「時間を無駄にし過ぎだ!」と激しく反応し、サハタインでさえ閉口してしまった。
補佐役のファレスに対しても一切の遠慮も無く、特に第十一艦隊の司令官がルードに決まった時は荒れ狂っていた。
「孤立状態で何処まで出来るか解らンが、こうなったら託すしか無ェだろうが。アイツの粘りは半端じゃ無ェぞ?」
「・・・そうだな。」
少しの沈黙の後、サハタインが追従する。
「始まってしまった以上、止めようが無い。進み続けるのみだ。コートは、そう易々と打ち倒される軟弱者では無い。」
孤立してしまった以上はどうしようも無い事もあり、ファレスも頷くしか無かった。
「それにしても、何がどうなって・・・」
困惑が場を支配する。
想定を大きく上回る事態が連発し、練り上げて来た今後の展望が遠ざかって行く。
・・・ ・・・ ・・・
イズラン公国 ブシルーフ領西部
あちらこちらで土煙と黒煙が上がっている。
下を見ると、轍の様な巨大な跡が先まで延びている。
その跡によって農地は踏み荒らされ、木々は薙ぎ倒され、家屋は半壊している物が多く見受けられる。
よく見ると、手作りと思われる人形が落ちていた。
「・・・許さない」
レオンは、膝を突いて人形を拾い上げるとそう呟く。
周囲を見渡すと、ある光景が甦った。
立ち昇る黒煙 焼けた残骸 硝煙の臭い・・・・
(これが予知夢ってヤツか?)
かつて見た夢とよく似た光景に身震いする。
最初に遭遇した敵部隊を打倒した後、バルディへ向かおうとした一行は、先遣隊の指示によって引き止められた。
替わりに、周辺地域の偵察となった。
だが、結果は惨憺たるものであった。
行く先々で敵と遭遇するか、敵が通過した集落を眺める羽目となっていた。
彼等の常識からすれば、有り得ない程の展開範囲と展開速度である。
本国より逐次情報が更新されるものの、たった五人で対応可能な規模では無かった。
「誰もいません。・・・・はい、遺体も一切・・・分かりました。」
「どうだった?」
無線機から手を離したスノウへ、レオンが問う。
「先遣隊が、私達の偵察情報を元に展開を開始しています。」
「じゃぁ、私達の出番は終わり・・・?」
「いえ、バルディへ向かって欲しいとの事です。」
この言葉に、一行の目がギラリと光る。
「待ってた・・・!」
「待ちくたびれたぜ!」
「すぐに行くわよ!」
そう言い、一斉に立ち上がる。
ドドドドドドドドドォォォォォォォ
突如、地面が盛り上がり、大量の瓦礫が巻き上げられる。
五人はすぐに飛び退く。
「イキナリ何なんだよ!?」
喚き立てるも、すぐに固まる。
かつて相対した事の無い巨大な殺気
一般人には決して届かない膨大な魔力
五人は理解した。
「メイジャーだ・・・」
神話に語られる存在と相対してしまった。
決して望ましく無い形で。
・・・ ・・・ ・・・
幾百年か幾千年か幾万年か・・・・
昔々の事、
地上には、現代よりも豊かな実りに溢れており、多数の動物達が駆け回っていた。
そんなハーベストにて、突出して強力な存在が世界を支配していた。
彼等はメイジャーと自称し、卓越した知能、そして圧倒的な魔力によって高度な文明を作り上げた。
メイジャーは、他者との馴れ合いを好まなかったと言う。
その強さ故に孤高を望んだとも、人口の少なさ故に多忙を極め、馴れ合う暇が無かったとも言われている。
だが、例外は何処にでも存在した。
西部地域を拠点としていた二人のメイジャー。
彼等の名は、コートとキッド
二人は、常に共に在った。
ペアで勤め、ペアで戦い、ペアで寛ぐ。
ところが、永遠に続くかと思われたその時間は、突如として強制終了した。
メイジャーに匹敵する力を持つ謎の存在が同時多発的に全世界で決起し、メイジャーを不倶戴天の敵として襲撃したのである。
メイジャーは、その敵を<イデア>と名付けた。
丁度その頃、コートとキッドは勤めの関係で別行動を取っていた。
だがこれが、二人の運命の分かれ目となった。
結果的にキッドは、イデアの近くへと出向く事となってしまったのである。
イデアの力は極めて強力であり、キッド単独では勝ち目が無かった。
コートへ救援を要請し、ひたすら粘り続けた。
事態を察したコートは慌ててキッドの元へ向かうも、全てが遅かった。
到着した時には既にキッドは打ち倒されており、勝ち鬨を上げる多数のイデアが目に入った。
その様を見せ付けられたコートは地を裂かんばかりの怒りに包まれ、単身イデアへと突撃した。
結果から言えば、その行動は失敗に終わった。
イデアも無傷では済まなかったものの、コートの行動は蛮勇に過ぎた。
重傷を負いながらも、駆け付けた仲間のメイジャーによってどうにか一命を取り留めた。
しかし、この様な悲劇は氷山の一角に過ぎない。
イデアの攻勢は苛烈を極め、メイジャーはその数を大きく目減りさせつつ逃れるしか無かった。
その逃避行の中、一際復讐に燃えていた者こそ、他でも無いコートであった。
とある神話研究家の記録より
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国 呉
本土の南岸の海軍拠点となっている町である。
此処では、ある種異様な光景が展開されていた。
主力となる大型艦はその大半が留守にしており、帰投している少数の艦はドック入りしている。
にも関わらず、港湾は非常に慌ただしい。
その原因が、50隻に達するミサイル艇である。
新たに確認された敵艦隊を確実に撃退する為には稼働戦力が現状不足しており、苦肉の策としてミサイル艇による波状攻撃が立案された。
「上は正気か?」
「正気じゃ無いだろうな・・・」
「追い詰められてる証拠だ。何隻生き残れるか分かったもんじゃない。」
小型艇には過酷な外洋作戦である。
反発や不満の声が絶える事は無い。
乗員の身を案じる視線が集中する中、前代未聞のミサイル艇艦隊は出航した。
『艦幅に注意 無理に隊列の維持を考えるな』
「現在地を見失うなよ!?はぐれたら目も当てられんぞ!」
ミサイル艇は、外洋での活動を前提としていない。
増して、数十隻単位での活動など一切想定していない。
乗員の負担は、とてつも無く重かった。
「酷ぇ貧乏クジだなァ!」
ミサイル艇艦隊の指揮を任命された 寺内 正一 大佐 は、波に振り回されながら毒吐く。
粗野な人物だが、実戦での対応力は超一流であり、笑みすら浮かべる程の精神的余裕を持つ。
だが、そんな彼でさえ今回ばかりは恨み言が止まらなかった。
「何が「お前しかいないんだ。(キリッ」だ!?いつもいつも俺に文句ばっか言ってるクセに、こんな時ばっか持ち上げやがって!大体 (以下略」
寺内の愚痴はいつまで経っても止まる気配が無い。
周囲の乗員達は、苦笑するしか無かった。
・・・ ・・・ ・・・
イズラン公国 バルディ近郊
ドガァン
「ぐおっ!」
ドザザザザザザザザザッ
「クッ・・・何てヤツだ!」
振り下ろされた火球が爆ぜ、爆風を受けたレオンは地面を削りながら飛ばされる。
パパパパパパパパパパ
「はああああああああああ!」
「オラオラオラオラオラァ!」
ガガガガガガガガガガガガ
「くぅ・・・!」
「クソッ、届かねぇ!」
撃ち込まれる大量の水弾をフェイとカレンが剣で弾くが、それ以上は攻め切れずにいた。
ヒュゴオオオオオオオォォォォ・・・・
「ふぅ・・・!」
ドドドドドドドドド
「キリが無い・・・!」
シルフィーは全方位から襲い掛かる風の刃へ対空砲火を飛ばし、爆発による気流の急速な乱れによって防御する。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ヤッ!」
ザアアアアアアアァァァァ
「無茶苦茶過ぎる!」
地面から隙間無く槍が生えて来ると、スノウが濁流を起こして全てを押し流す。
「馬鹿か!?アイツ馬鹿なのか!?」
フェイは思わず叫ぶ。
敵はたったの一人。
単純な力は、五人と大差無い。
戦闘力は、敵の方が多少上回っている。
だが、5対1の戦力差は如何ともし難い。
それでも優勢に戦闘を続けている。
その理由が、防御を一切考えない捨て身同然の姿勢である。
回避はするが、出来なければそのまま突っ込み、大掛かりな攻撃を連発する。
「何なんだよコイツは!」
捨て身で挑む敵を前にした事は初めてでは無い。
だが、それは味方を逃がす為、戦況を有利に持って行く作戦として、痛打を与えて生存策を取る時間を稼ぐ為・・・・
後へ繋げる決死のバトンリレーであった。
だからこそ、今回は異質にしか見えない。
バトンを渡すべき相手は何処にいる?
渡すべきバトンは何処にある?
五人の目には、闇雲に死へ突き進んでいる様にしか見えなかった。
「テメェ、何を考えてこんな無茶を!?」
だからこそ、語りかけてしまう。
「俺の友を死へ追いやった災厄が!お前等の死が奴への弔いになる!」
五人は困惑するが、その隙が致命傷となった。
ドガガガッ
「「「「カレン!」」」」
多数の水弾がカレンの全身を貫いた。
そのまま後方へ少し押されると、予備動作無しに倒れた。
「キッド、俺が見えてるか!?コートだ!」
「このォ!」
「フェイ、よせ!」
レオンの静止も聞かず、フェイが突出する。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ガガガガガガガガガガガガ
激しく打ち合う内に、血飛沫が舞い散る。
その全てが、コートの血であった。
腕を中心に、体中に傷が広がって行く。
ドッ
「グアッ!」
だが、吹き飛ばされたのはフェイであった。
「ウッ・・・ゲホッ ゲホッ!」
腹に入ってしまい、激しく咳き込む。
「ハッ!」
「ふん・・・!」
スノウとシルフィーが同時に攻撃を繰り出す。
スノウは水の刃を、シルフィーは風の刃を。
スルッ
「なっ!?」
「ッ・・・!」
だが、両方ともコートを避ける軌道を取ると、その先にいる二人へ向けて襲い掛かった。
「くぅっ!」
「チッ・・・!」
二人は必死に回避する。
どうにか一発も当たらずに済んだが、その隙にコートの準備は完了していた。
「マズ・・・!」
ドドッ
火球が直撃し、全身から煙を立ち上らせながら倒れ伏す。
「この野郎・・・よくもォォォ!」
最後に残ったレオンが激昂し、コートの前へ立ち塞がる。
(考えろ、俺・・・絶対に熱くなるな、頭を動かすんだ!)
互いに動きを止める。
レオンは相手を観察する為に、コートは疲労の為に。
(殆ど満身創痍じゃ無いか。正気じゃぁ無いな・・・)
コートの身体は傷だらけであった。
フェイに切り裂かれた腕から痛々しく血が滴り落ち、鋭利な刃に切り刻まれたかの様に全身が傷だらけとなっている。
(あの傷・・・スノウとシルフィーがやった刃の跡だ!)
コートを回避したかに見えた刃だが、実際は少なからずダメージを与えていた。
致命傷とは言い難いものの、それなりに深い切れ込みを入れていたのである。
(それに、魔力も残り少ない。)
よりにもよって勇者一行を相手に全力を出し続けているのである。
その消耗は、メイジャーと言えども無視出来るものでは無い。
(なら、次の一撃が最後だ!)
「どうしてこうなった・・・?」
フェイは呟く。
向こう見ずな行動を取ってしまった事は自覚している。
だが、問い掛けた先にいる者は、何も答えない。
「スノウ・・・シルフィー・・・カレン・・・」
倒れている三人の更に先に、二つの人影が見える。
一人は憤怒の表情で、もう一人は瀕死の傷で向かい合っている。
二人は駆け出す。
互いが互いを打ち倒す為に。
ドッ
一瞬後、鮮血が飛び散った。
「レオン!」
身じろぎすら困難極まる有り様では叫ぶ事しか出来ない。
信じたくなかった。
次に拳が振り下ろされるのは、
「無茶をするからだ。体は大事にしような?」
「え・・・?」
レオンの声が聞こえた。
フェイは、もう一度目を凝らす。
よく見ると、コートの拳がボロボロとなっていた。
「こんな・・・こんな事があって・・・!」
体への負担を考えない戦い方を続けた結果、このタイミングで限界を迎えてしまったのである。
コートの拳は自らの攻撃に耐え切れずに砕け、鮮血を飛び散らせていた。
レオンはノーダメージであった。
「終わりだ。」
その一言が、コートの聞いた最後の言葉となった。
・・・ ・・・ ・・・
ガリスレーン大陸東側海域 センテル帝国派遣軍
「第一地方艦隊との合流、完了しました!」
「御苦労」
遅ればせながら、センテル帝国軍も戦場へと接近していた。
海軍の被害を耳にしている彼等の緊張は、嫌でも高まる。
「さて、どうなるか・・・」
そう呟くのは、派遣されている4個師団を統括する ブレイド である。
常に冷静沈着である彼も、今回ばかりは緊張を禁じ得ない。
「何人が喜びの再会が出来るか・・・」
出征直前の光景を思い返し、嘆息する。
悲劇は目前に迫っていた。
ミサイル艇ですが、それなりの荒波に耐えられる設計になっています。
流石に外洋で台風にでも遭遇すればおしまいですが。




