第百三十八話 ガリスレーン大陸の攻防6
応援コメントをいくつか頂いています。
非常に嬉しいです。
小学生並みの感想しか出てきませんが、とにかく頑張ります。
イズラン公国 アルテル近郊
「間違い無いよな?」
「他に無いでしょ?」
「もうこんな所まで・・・。」
偵察隊として先行している勇者一行。
身軽になった彼等は僅か半日でアルテルへ到着、更に西へ歩を進めようとした。
そこで、真っ先に異常に気付いたのがカレンであった。
付近の茂みや木陰に、街を窺う怪しい集団が散見されたのである。
詳しく見ると、明らかに近代的な装備をした軍人であり、思い当たる節は一つしか無い。
「けど、おかしいじゃ無いか。バルディはまだ陥ちてないだろ?」
「戦局が決定的になってしまった可能性があります。」
レオンの指摘に、スノウが答える。
「すぐに報告入れた方が良くね?」
「そうですね。」
一行は、長距離通信用の無線機を渡されている。
スノウとシルフィーがアンテナの組み立てを行い、残りは周囲を警戒する。
「それにしても、こんな短時間でどうやって此処まで?」
「ホントだな。」
スノウが無線でやり取りをする中ブーメラン発言を連発する三人だが、暁帝国とセンテル帝国を除けば移動方法は徒歩か馬に限られる。
人外じみた身体能力を持つ五人は例外だが、見える人影にその様な特殊能力を持っている様子は無い。
「見た感じ、向こうも偵察隊・・・。だけど、移動手段も色々持ってそう・・・。」
「足以外に何があるってんだ?」
「車輌とかでしょうか。」
交信を終えたスノウが会話に加わる。
「車輌って、トラックとかか?何でそう思った?」
レオンが尋ねる。
「特に根拠はありませんが、調べれば判るでしょう。」
「調べれば?」
「交戦許可が下りました。最低でも装備の鹵獲、可能なら捕虜の確保をせよとの事です。」
五人の纏う空気が変わる。
「右は俺とシルフィー、左は任せた。」
「分かった。」
敵は、四つの集団に分かれている。
五人から見れば、ちょうど左右に二つずつ分かれている。
ザッ
「ッ・・・!!」
アルテルの様子を見ていた彼等は、視界の端から飛び出した人影に体が跳ね上がる。
「クッ・・・!」
ドッ ドッ ガッ
訓練の賜物か、すぐに戦闘態勢に移行するも、早過ぎるその動きに二班が瞬く間に無力化された。
「チィッ!」
更に残りの二班へ向かって来るも、既に準備は整っていた。
パパパパパパパパパ
短機関銃が火を吹くが、一発たりとも命中する事無く恐るべき速度で接近を許してしまう。
「フンッ!」
今度は拳銃を持って控えていた者が前へ出ると、足と拳を繰り出し銃口を向ける。
ダンダンダンダン
(マズッ・・・!)
足も拳も銃弾も全て呆気無く避けられ、対応速度も明らかに大きな差がある。
ドドッ ガッ ドッ
「ウッ」
「クソが・・・」
僅か10秒程度の攻防
たったそれだけの戦闘によって、見事に力量の差を見せ付けられたのであった。
・・・ ・・・ ・・・
バルディ郊外
「点呼!」
「異常無し!」
「車輌が通るぞ、道を開けろ!」
想定外の抵抗によって予定を大きく狂わされた鎮定軍は、後続を付近の浜辺から順次揚陸、再編を行っていた。
「そろそろ偵察隊からの定時報告が入る頃だが。」
「これまでは不気味な程に変化が無かった。待ち伏せでもされてなければ良いがな。」
指揮官同士で語り合っていると、連絡員がやって来る。
「報告!先程、各偵察隊から定時報告が入りましたが、最先発の隊との連絡が途絶しました!」
「遂に来たか・・・位置は?」
「前回の定時報告から、およそこの辺りかと。」
地図を広げ、襲撃地点の当たりを付ける。
「なるほど。この街は恐らく、この近辺では主要都市と言える規模だろうな。」
そう言いつつ、アルテルに注目する。
「と言う事は、此処を中心に防衛ラインを構築してると?」
「だろうな。沿岸では艦砲射撃も受ける。それを警戒すれば、内陸で待ち構える策を採っても不思議では無いな。」
「しかも、内陸に引き込まれてしまえば、補給と地の利でこっちが不利になる。」
力の差は圧倒的だが、敵は馬鹿では無く、確かな実力を持つ事を再認識する。
ドドドドドドドドドドドド
轟音につられて顔を向けると、バルディ外縁で派手に土煙が上がった。
「まだ持ち堪えてやがる!」
「それも時間の問題だ。見る限り、防戦一方だ。」
バルディ外縁
コートとファルは、屋根の上で向かい合っていた。
二人の周囲は、中途半端に崩れた家屋、戦闘によって発生した瓦礫、所々で立ち上る炎と言った光景が広がっている。
一見すれば、第二次世界大戦の市街戦の惨状を彷彿とさせるが、この光景はたった二人によって生み出された。
もっと正確に言えば、ほぼ一人で。
ドォッ
コートが片手を上げた瞬間、地面から石レンガやその下の土砂が吹き上げられ、ファルへ向けて降り注ぐ。
落下物によって屋根は抉れ、レンガが砕かれるが、ファルはその全てをかわし、弾き飛ばす。
「まだ耐えるか!」
既に半日以上に渡り、コートはあらゆる攻撃を試みた。
銃弾ならぬ水弾を撃ち込み、虚空から火炎放射を叩き込み、街道に岩石の剣山を生やし、突風で瓦礫を巻き上げ、にも関わらずかすり傷を負わせたのみである。
ヒュン
「!!」
風切り音がした瞬間、咄嗟に顔を横へずらす。
「貴様ッ!」
飛び散った破片を逆に利用され、頬を掠めた。
まともに喰らっても大したダメージでは無いが、単に耐え続けるどころか反撃すらも行う余裕があり、その分予定に遅れが出る。
ボルテージは青天井となっていた。
「ハァー... ハァー... 」
コート視点では反撃さえ行う余裕のあるファルだが、その実疲労困憊であった。
そもそも、半日ぶっ通しで戦闘を続けられている事自体奇跡である。
(そろそろ怒気で死ぬんじゃないか?)
当初から、相手側が怒りで精細を欠いているお陰で持ち堪えられている事は理解している。
特級魔術師とは言え、自分の方が格下である事は自覚しているが、それだけとは思えない怒りの大きさに違和感と理不尽さを覚える。
(だが、どうする?)
相手の怒りは時間毎に大きくなり、攻撃はどんどん大雑把となっている。
だが、体力、魔力共に打ち止めに近いのはファルの方である。
ゴバッ
「ッ!」
突如、コートの目の前からファルの足場までの一直線上の地面が一気に巻き上げられた。
(遂に来たか・・・!)
圧倒的な破壊力を前に瓦礫と共に巻き上げられたファルは、空中で姿勢を制御しようと四苦八苦する。
「あ」
目の前にコートがいた。
(死んだ)
攻撃も防御も間に合わない事はすぐに分かった。
自身を含む全ての動きが異様に遅く見える。
死が間近に迫っているにも関わらず、自分でも驚く程に冷静であった。
(時間は十分に稼げただろう。後は頼む・・・)
部下に 領主に 国に 列強に 人類に 世界に
メイジャーの脅威に晒されている全てに対し、ファルは後を託した。
バルディ上空に、瓦礫の雨に紛れて一つの赤い花が咲いた。
要を失った防衛隊にこれ以上の抵抗の術は無く、間も無く陥落した。
後に、<ガリスレーン第二会戦>と呼称される戦闘が終結した。
「13時間以上も無駄にした!作業は進んでるんだろうな!?」
揚陸作業を進めている部下の元へ戻ったコートは、不機嫌なまま尋ねる。
「順調に進んでいます。既に偵察隊の情報を元に、先遣隊二個中隊を出しました。」
「本隊の準備は?」
「もう暫く掛かります。」
「チッ!」
舌打ちしつつ、忌々しげに廃墟となったバルディを見る。
ファルとの戦闘に於いて、コートはわざと手加減をしていた。
元々の予定もあり、全力を出して過剰に街を破壊したく無かったからである。
しかし、その方針は作戦の遅れによる怒りも相まって盛大に裏目に出てしまった。
「何か異常は無いだろうな?」
これ以上の遅れを許容したく無い事もあり、かなり剣呑な口調となってしまう。
「先程、偵察隊の一つが連絡を絶ちました。」
「原因は?」
「不明ですが、通信機の故障の可能性は低いかと。」
そう言いつつ地図を広げ、予想を説明する。
「先遣隊の一隊は、この近辺へ向かわせています。」
「そうか。」
(航空機を失ったのがかなり痛い・・・)
爆発するかと身構えた周囲に対し、コートは一周回って冷静になっていた。
「少し休む。作業を続けろ。」
項垂れながら座り込み、待ちに入った。
・・・ ・・・ ・・・
ブシルーフ領西部
何も無い平原に派手な土煙が上がる。
この世界の人間が見れば、騎馬の集団か野生動物の大移動と思うだろう。
だが、その集団は鋼鉄に覆われている。
「怖ェ・・・」
付近からそんな声が上がる。
「そんな事言うなんて珍しいな。」
「これでも女なんだけど。」
「いい加減、その辺りを理解しましょうか。」
「う・・・」
勇者一行である。
アルテルから更に西進している一行は、バルディへ向かう途上で先遣隊と鉢合わせた所である。
「それにしても、凄いスピード・・・。」
「そうね。重い金属で出来たとは思えない。」
敵は、軽戦車すら擁している機甲部隊となっている。
今までとは明らかに違う重厚な見た目に、違和感と同時に新時代の片鱗を感じる。
「いつまでも眺めてられない。そろそろ行こう。」
レオンが立ち上がると、四人も続く。
それは、唐突であった。
最初、側面から何かが接近して来るのが視界の端に移った。
付近を縄張りにしている猛獣が突っ込んで来たのかと思っていたら、轟音と共にハーフトラックが一台ひっくり返された。
「敵襲!」
大多数が固まる中、中隊長はすぐに声を張り上げた。
硬直はすぐに溶け戦闘態勢を取るが、何をされたか、何処からやられたか、何も分からない。
車輌がひっくり返るなど、急勾配に嵌まるか、地雷を喰らう事が無ければ起こり得ない。
敵の正体が判らない不気味さを感じようとした時、人影が見えた。
「いたぞ!近・・・」
「早く撃て!撃つ」
「右だ!もっとみ」
「何が起きて」
「クソが!早過ぎる」
そう、早過ぎる。
輪郭からして明らかに人が相手だが、生身で出せる素早さでは無い。
隊列の内側を縦横無尽に駆け回り、恐らく刃物で次々と切り裂いて行く。
「広がれ!間隔を広く取って間合いに入れるな!」
形勢不利なのは、単に敵が常人離れしているだけでは無い。
密集している所へ、少人数で懐まで入り込まれたのも大きな要因だ。
外側に陣取っている軽戦車から移動を開始し、砲塔が動く。
「ふざけやがって!たっぷりおかえ」
戦車長の憤怒の言葉は最後まで続かなかった。
戦車ごと炎に包まれてしまった。
「対戦車砲か!?」
「待ち伏せされてたんだ!」
見た所、装甲は貫通していないが、エンジンはやられている。
かなり派手な爆発だったから、他にも壊れた箇所があるだろう。
この被害を切っ掛けに、統制が乱れ始めた。
「マズい、車輌から離れろ!巻き込まれるぞ!」
「ギャアァァ!腕を斬られたァァァァァァァ!」
「下がれ!早く退くんだ!」
「馬鹿、あれは味方だろうが!」
どうにもならないとハッキリ認識する。
二輌目の戦車が撃破される。
「逃げられそうも無い。」
全滅は必至
出来る事は、後一つしか無くなった。
「終わったな。」
「全部だな?」
「見ての通りさ。」
「そっちは?」
「大丈夫よ。」
敵を殲滅した五人は、戦果確認に移る。
「フェイ、さっきのはどう言う事なんだ?」
「ん?」
唐突にレオンがフェイに問う。
「一人で突っ込み過ぎだ。」
「え」
「そうですね。あそこまで突出するなんて、らしくありません。」
「そんなに突出してたか?」
「うん。」
「明らかに・・・。」
全員に突っ込まれ、フェイは言葉を失う。
「そんなつもりは無かったんだけどな・・・」
言いつつ、自身の手を見る。
無自覚に拳を握っていた。
漸く力み過ぎている事を自覚し、拳を解く。
「悪い、気を付けるわ。」
ヒラヒラと手を振り、顔を綻ばせる。
「にしても、随分ゴテゴテしてるな。」
レオンはフェイから目を離すと、今度はスクラップとなった戦車を眺める。
その間、スノウは無線機を操作している。
「フェイが言った通り、よく見ると少し怖い・・・。」
「同感ね。私達が此処で見付けなかったら、どうなってたのかしら?」
近代戦の一端を想像し、寒気を覚える一同。
「何ですって!?」
突如、スノウが声を張り上げた。
「急にどうした!?」
「バルディが陥落したと・・・」
全員の顔色が変わる。
「様子を確認するようにとの事です。」
一行は、更に西へ向かう。
個人対個人の戦闘はやっぱり苦手です。
上手く描写しようとして無駄に時間を掛けた挙げ句、この程度で申し訳無いです。




