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第百三十六話  ガリスレーン大陸の攻防4

 最近、64のゲームをやってます。

 今やっても面白い

 ガリスレーン大陸南沖



 一見穏やかに見える広大な海上の一部に、異様な光景が展開されていた。



 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ



 断続的に砲撃音が鳴り響き、巨大な黒煙と水柱が形成される。



 ドバグシャァ・・・・



 砲撃音と連動する様にグロテスクな音が響き渡ると同時に、水とは明らかに異なる液体が撒き散らされる。

『撃破確認 沈みます!』

 撤収中のセンテル帝国第二艦隊に襲い掛かった7体もの海獣は、アウトレンジから為す術無く排除された。

「タイミングが良過ぎるな。」

 海獣が完全に海面から姿を消したのを確認し、メイターは呟く。

 損傷艦を多数従え、速力を落とした所へピンポイントで前例の無い7体と言う数の海獣の襲撃である。

 疑うのも無理は無かった。

「あ~もう、凄いコトになってんじゃん。」

「コレを掃除するのか・・・」

「気が滅入るわー・・・」

 甲板では、海獣の返り血で汚れた場所を囲み、水兵のテンションが急降下していた。

「全く、どいつもこいつも・・・!」

 戦時下にも関わらず気が抜け過ぎている様子を艦橋から眺め、メイターは危機感を募らせる。

『見張りより艦橋、第四艦隊を目視 間も無く合流します!』

「各艦との連絡を密に、こんな所でヘマをするなよ。」



 第四艦隊



「何てこった・・・!」

 双眼鏡を覗きながら呟いているのはビルである。

 再編後の第四艦隊は主力艦を全て抜き取られてしまった事で、誰もが絶望の底に突き落とされていた。

 更に、突然の攻撃で大損害を受け混乱の極みにいる筈の敵へ空爆を仕掛けた結果、雀の涙の戦果と引き換えに12機を失い、7機が損傷を負った。

 頼みの航空隊も大した戦力にならない事がはっきりしてしまい、尚更不安が募っていた。

 ビルも、不安の底でひたすら耐え忍ぶ羽目となり、面に出さないよう必死になるあまり目付きが無駄に鋭くなっていた。

 尚、彼の周囲はその様子を見て「司令官はこの状況でも戦意を失っていない。」と勘違いした為、どうにか士気が保たれていたのは別の話である。

 だが目の前の光景は、第四艦隊の絶望など些細な問題だと鼻で笑える程に壮絶なものであった。

 艦隊の総数は戦闘前と比較して明らかに少なく、多くの艦は何処かしらが壊れている。

 砲身が根元からへし折られている艦、舷側が大きく抉れている艦、艦橋が瓦礫と化している艦もある。

 戦艦でさえも破損している。

 これまで経験して来た戦いとは根本的に異なる、異質としか言えない光景であった。

 ハーベスト史上初となる近代戦は、地球世界と同様に火と鉄に覆い尽くされた無情な様相を呈したのであった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 イズラン公国  ブシルーフ地方



 イズラン公国南西部に位置する領地の一つ。

 公国内に於いて有数の面積を持つと同時に、最大の港である港湾都市<バルディ>が存在する。

 現在の人口は、4万人を超えている。

 かつては純粋な軍港であったが、その位置関係と規模の大きさから官民一体の施設として再整備が行われ、その過程で都市が形成されて来た歴史を持つ。

 バルディの重要性は高く、此処を含む領地の統治を任されていたのは王族に連なる者であった。

 しかし、今はその一族は存在しない。

 かつて、バルディが所属していた国名はフィノ王国と言う。

 モアガル帝国へ執拗に攻撃を続けた国の一つである為、王族は再編を経て処刑ないし幽閉されているのである。

 ブシルーフの領都は、バルディから馬で一日程度の距離にある<アルテル>となっている。

 人口は、3万人前後となっている。

 バルディが領都とならなかったのは、主要な軍事施設としての側面を持っている為、機密保持の観点から領地運営の人員の一極集中は避けたいが、経済的に主要港からあまり離れたくないと言う面倒な事情があっての事である。

 アルテルから更に内陸へ馬で数日程度進むと、他の領地との往来の場となっている街<シレイズ>がある。

 人口は、1万4000人程度となっている。

 バルディが海の拠点ならば、シレイズは陸の拠点である。

 この三つの街がブシルーフ領の柱であり、イズラン公国の要の一つでもある。

 一つの領地としては明らかに規模が大き過ぎるが、領内は肥沃な土地が多く元々の領地が広い事もあり、食料生産に恵まれているお陰で安定した運営が可能となっている。

 尚、食料自給率は再編以前から100パーセントを大きく上回っている為、食料庫としての役割も担っていると同時に、バルディを利用した貿易で周辺国への影響力すら持っている。

 そんな超優良物件であるブシルーフ領は、現在進行形で人口が減少傾向にある。

 その原因が、メイジャーの脅威を根拠とする疎開である。

 他地域と比較すればかなり抑えられてはいるものの、豊富な物資に恵まれている物流の中心地であるが故に多くの人手を必要としている。

 裕福な土地であるが故に人口が増加した事はあれど、伝染病の流行でも無ければ減少した事は無い。

 その様な経緯が災いし、現在の潜在的な人手不足へ有効な対策を打てずにいた。



 シレイズ



 石畳の街道を一台の綺麗な馬車が通る。

 周囲には騎兵が護衛として同伴しており、高貴な身分の者が乗っているのは明らかである。

 道行く市民は急いで左右へ避けて馬車を見つめる。

 不満は感じられないものの、その視線には不安が入り交じっている。

 やがて馬車は停まり、扉が開く。

 高級そうなマントを羽織った初老の男が降りて来て、目的地である目の前の市庁舎では無く、その傍らに佇んでいる物体へ目を向ける。

 緑の様な茶色の様な何とも言えない色を基調とした、複雑な模様をした鋼鉄製の馬車とは似ても似付かない物体。

 少し眺めた後、現領主 マフェイト侯爵 は市庁舎へ入った。


 市庁舎の応接間では、藍原以下先遣隊の面々の他、スノウ、シルフィーが寛いでいる。

「今の領主は、善政を敷いている様ですね。」

 窓から見える景色に、スノウが呟く。

「でも、いつまで持つかな・・・。」

 シルフィーが余計な事を言う。

「協議中は口を閉じていて下さい。」

 藍原は、シルフィーへ釘を刺す。



 コンコン



「マフェイト侯爵閣下がお見えになりました。」

 使用人の後に続き、マフェイトが入室する。

「暁帝国軍の方々ですね?ブシルーフ地方を束ねております、マフェイトと申します。」

 恭しく一礼する。

 それに応じ、礼を返す。

 全員が自己紹介を済ますと、早速本題にはいる。

「少し街を拝見しましたが、この情勢下に於いても殆ど混乱が見受けられませんでした。実に見事な手腕です。」

「はっはっは、私は大した事はしておりませんよ。この地と民が優れているに過ぎません。」

 元が元だけに、余程の搾取をしない限りは何もしなくとも安定的な運営が可能な立地ではある。

 だが、それだけでは説明が出来ない程の豊かさが見て取れた。

 謙遜してはいるが、マフェイトは物流が経済に影響を及ぼす事を理解しており、スムーズな流通網の構築に苦心して来た。

 その流通網が一市民に至る生活水準にまで寄与し、戦時下の、しかも圧倒的不利が確実視されているにも関わらず、疎開や難民の数に於ける周辺地域との隔絶した差へと繋がっているのである。

 だが、今回ばかりはそれが裏目となっている。

「我が方が入手している情報によりますと、現在接近中の敵軍はバルディ周辺に上陸すると予想されます。」

 マフェイトの顔色が一気に悪くなる。

「主力艦隊は既に撃退済みですが、上陸部隊は撤退する気配が無く、此処ブシルーフ地方が戦場と化すのも時間の問題です。」

「上陸部隊だけが向かって来るのでしたら、此方で迎撃を行いましょう。」

 いくら強力だろうとも、輸送船が戦闘艦より強い筈は無い。

 マフェイトの判断は一応は正しく、優れた決断力も見せ付けた。

「申し訳ありませんが、上陸部隊には護衛も随伴しています。この護衛が動けば、モアガル帝国でも敵いません。」

「それは、いくら何でも・・・」

 全く想像していなかったに、言葉を失う。

 ガリスレーン大陸では、敵に関する情報の伝達が上手く行っていない。

 センテル帝国を圧倒するなどと言う話を真に受ける者は少なく、伝言ゲーム形式で希望的観測の入り交じった情報が地方へ出回り、つい最近まで戦乱に見舞われていた事から民間での危機感は十分ではあるものの、

行政機関の動きは未だに鈍い。

 マフェイトの反応も、こうした問題が顕在化した結果である。


 「大変です!!」


 そこへ、官僚が息を切らせて飛び込んで来た。

「無礼者が!客人の前だぞ!」

「バルディ近郊に未知の大艦隊が現れ、攻撃を仕掛けて来たとの報告が入りました!劣勢らしく、救援を要請しています!」




 ・・・ ・・・ ・・・




 バルディ



「警備艦隊全滅!敵は上陸の構えです!」

「守備隊、動員完了しました!新型銃も配備済みです!」

「間も無く、竜騎兵隊が出撃します!」

 パニック同然の状態となっているバルディ。

 その元凶は、海にいた。



 鎮定海軍輸送艦隊



「敵艦隊の殲滅を確認。」

「上陸用意、30分で済ませろ。」

 早口でコートはまくし立てる。

 手痛い反撃を受けた第十二艦隊とは違い、輸送艦隊へ向かって来たのは少数の帆船であった。

 大陸沿岸での強力な待ち伏せを警戒していただけに拍子抜けしたものの、それだけで気を抜く程間抜けでは無い。

 輸送艦の一隊が低速で前へ出ると、デリックが起動する。

「急げ!操作員を待たせるな!」

 同時に、甲板員が前後甲板中央に張られている幌を撤去する。

 そこにあるのは上陸用舟艇、日本で言う大発動艇である。

「固定確認。上げろー!」

 デリックで舟艇が海面へ降ろされ、そこへ向けて網が垂れ下がる。

 その頃には、甲板は兵員で一杯となっていた。

「点呼!」

「異常無し!」

「よし、搭乗!」

 次々と舷側を降りて行き、波に煽られて大きく揺れる舟艇へ順次搭乗する。

「前進!」

 ウェルドックを使わないこの方式は相応の時間を要し、第一陣が海岸へ前進を開始する頃には40分が経過していた。

 バルディの港湾は完璧に整備されている為、直接乗り上げられる場所が無い。

 第一陣の上陸地点は、整備されていない郊外の海岸となった。

「500メートル!」


 ドザザッ



 左右へ大きく振られ、水飛沫を派手に被るも、誰も動揺せず静かにその時を待つ。

「200メートル!」



 ドォンッ



 上陸地点付近に駆逐艦による爆炎が上がり、瓦礫の一部が降り注ぎ、ヘルメットから軽い金属音が響く。

「来るぞー!」



 ズザザザーー ガッ



 浜辺へ乗り上げ急停止するも、体勢を崩す者は誰もいなかった。

「ランプ開けー!」



 バタンッ

 カッ カカカカン カンカン



「グアッ!」

「うぐ・・・!」

 ランプが開いた直後、多数の矢が飛んで来た。

 身を乗り出すまでの最も無防備なタイミングを狙われた為に、負傷者が加速度的に増えて行く。

「止まるな!ビーチを確保せよ!」



 パンパンッ ダァン

 ダダダダダダダダダ



 弓に対しライフル、機関銃が相手では地の利があろうとも勝負にならない。

 ほんの僅かな足止めを実現した後は、圧倒的な火力差によって撃ち倒されるだけとなった。

「妙だな・・・」

 あっという間に海岸を確保し、点呼の済んだ部隊から進軍と後続の為の片付けをする者に分かれたが、転がっている死体の装備に統一性が無さ過ぎる事に違和感を抱く。

 武器はともかく、防具のある死体は数える程しか無く、服装もてんでバラバラであった。

「まるで民兵だな。」



 パァンッ タタタタタタタ



 直後、聞き慣れない銃声が響き渡った。

「何事だ!?」

「奇襲です!前進部隊がやられました!」

「迎撃する!態勢を整えろ!」

 作業をしていた兵員が直ちに動き、機関銃を中心に伏せ撃ちの構えを取る。

「・・・・・・」

 しかし、一向に誰かがやって来る気配が無い。

「前進する!注意して進め!」

 一列に並び最大限警戒しつつゆっくりと進むも、誰とも鉢合わせる事も無い。

「!・・・あれは!?」

 暫く進むと、前進部隊の死体が散乱していた。

「付近を捜索しろ!」

 周辺へバラけるも、戦闘とはならなかった。

「報告!一帯に敵は見当たらず!」

「報告します!調査の結果、先の戦闘により二個小隊が全滅した模様です!」

「ゲリラ戦か・・・生意気な!」

(厄介な事になったな・・・)

 通常、ゲリラ戦は形勢不利が確実視されてから行われる。

 厄介ではあるものの、そうなった時点でかなり消耗している筈であり、戦局に大した影響は無い。

 だが、最初からゲリラ戦を選択されてしまえば話が変わる。

 敗ける事は無いとしても、予定の大幅な遅れを招くのは間違い無い。

 相手の武器が刀剣の類であればその影響は限定的だが、今の顛末から銃火器の保有は確実である。

(しかも、それだけでは済まない!)

 最大の問題は、海岸線での一幕である。

 銃では無く弓を主体とした迎撃、統一されていない装備、まともな統率の感じられない布陣・・・

 元民間人である事は明らかであった。

 それはつまり、この先出会う者全員が敵として突然襲撃を仕掛けて来る可能性を指摘しているのである。

 ゲリラ戦の中でも、勝者のいない戦いと言われる最も恐ろしい形態が目の前に横たわっていた。



 バルディ防衛隊司令部



「敵の先遣隊の撃退に成功、進軍停止を確認!」

 司令部全体が沸き立つ。

「気を抜くな!」

 一気に静まり返る。

 声を上げたのは、司令官 ファル である。

 所謂鬼軍曹な気質を持っており、部下に恐れられている。

 また、特級魔術師である事から本人の実力も高い。

「義勇兵の編成は済んだか!?」

「い、いえ、一部編成中であります。」

「だったら早くやれ!今の勝利も多少の時間稼ぎでしか無い!」

 慌てて動き出す部下を尻目に、窓際へ寄る。

 外では、銃火器を持った兵員と共に大勢の民間人も雑多な武器を持って動き回っている。

 現在、この街の全てをファルが統括している。

 本来統括する役割を負った職員は逸早く逃げ出しており、止むを得ず軍部が実権を握る事となった。

「よし、お前達は近接部隊だ。路地裏に潜伏し、奇襲を仕掛けるんだ。」

「屋根に上れ!近付く敵を上から射殺すのだ!」

「君等は医療班の助手をして貰う。詳しくは此処の指揮官に聞いてくれ。」

 厳格なファルがトップに立つ事で全員が一丸となって動いているが、総力戦へと向かう光景は悲劇的に映った。



 ヒュオオォォォォォォォォ・・・・



 上空から風切り音が聞こえたかと思うと、多数の飛竜が街上空へ到達した。


 「「「「「ウオオオオオオオオ!!」」」」」


 方々から歓声が上がる中、竜騎兵隊は艦隊へと進路を取る。



 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ



 突如、空に黒い花が咲き、巻き込まれた飛竜が墜落して行く。



 ダダダダダダダダダダダダダダ



 突破した飛竜は、前例の無い濃密な弾幕に晒されて墜ちて行く。

 大した時間も掛からず、一撃も加える事も無く、竜騎兵隊は全滅した。

 歓声は、静寂へと変わった。

(想像以上の手強さだ・・・!だが、地上戦、特に入り組んだ市街地ならば勝機はある筈・・・!)

 絶望が街を覆い尽くそうとする中、ファルは街の希望たらんとする。



 時間が経っても愛されるモノっていいですね

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