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第百三十四話  ガリスレーン大陸の攻防2

 艦隊戦の始まりです。

 ガリスレーン大陸南西海域



「暁帝国潜水艦隊より入電!」

 通信士官の報告に、メイター以下は耳を傾ける。

「敵艦隊と遭遇、攻撃を敢行したとの事です。」

 艦橋の緊張が増幅される。

「結果は、戦艦 空母 潜水艦全艦、重巡12隻撃沈 重巡5隻大破 重巡3隻中破との事です。」

 控えめなどよめきが巻き起こる。

「たった4隻の戦果とは思えんな。」

「主力艦が軒並み排除されたならば、我が艦隊だけでもどうにかなるか?」

「間違い無いんだろうな?戦果誤認だったら目も当てられんぞ?」

 現状、センテル帝国に於いて最強の存在は戦艦である。

 航空機は、長らく飛竜が世界中で活躍して来た実績から将来性はあると認識されているが、潜水艦は完全に未知の領域となっている。

 更に、配備が始まったのは実用性に疑問符の付くホランド艇擬きであり、兵装は未だに実績の無い魚雷である。

 送られて来た戦果に、どうしても懐疑的とならざるを得なかった。

「信じても良いだろう。」

 唯一そう言ったのは、メイターである。

「司令官、大丈夫でしょうか?」

 不安げな視線がメイターへ集中する。

「俺は、君達よりも彼等の事を良く知ってる。この戦果に間違いは無い。」

 自信満々の断言に安堵の空気が漂うが、メイターは視線を鋭くする。

「だからと言って、楽に撃滅出来ると思うな!」

「司令、それはどう言う」

「物量を考えろ。暁帝国にとっては残りの敵は掃討戦で済むが、我々はそう言う訳には行かん。」


 重巡洋艦:8隻

 軽巡洋艦:14隻

 駆逐艦:66隻


 大破した5隻を置いておくとしても、残敵と言うにはあまりにも大規模である。

 加えて、性能も遥かに高い。

「航空機で補うとしても、最高でも一時的に戦闘不能にするのが精一杯だろうな。」

 センテル帝国の航空戦力の攻撃方法は、7.7ミリ機銃と100キロ爆弾のみである。

 余程のラッキーパンチが無ければ、どうでも良い非装甲の構造物を破壊するだけに留まる。

「これより、艦隊を再編する。第二艦隊は水上打撃部隊とし、第四艦隊は空母機動部隊とする。」

 艦隊は輪形陣を解き、大きく動き始める。


 第二艦隊

 戦艦:5隻

 重巡洋艦:10隻

 軽巡洋艦:14隻

 駆逐艦:34隻


 第四艦隊

 空母:2隻

 軽巡洋艦:3隻

 駆逐艦:8隻


 再編を済ますと、第二艦隊は前進を再開し、第四艦隊は変針しつつ航空隊の準備を進める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 第十二艦隊随伴輸送艦隊



「クッ・・・一体、何が起きたのだ!?」

「誰でも良い、応答してくれ!」

「作戦は失敗だ・・・撤退するしか無い。」

 直接被害を受けた訳では無いにも関わらず、輸送艦隊は阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 表面上は整然と進んでいるが、通信室を中心に各所へ混乱が広がりつつあった。

 そして、コートを含む幕僚は、

「第十二艦隊との連絡は、依然として回復出来ていません。混線状態でパンクしていると思われます。」

「見張りからの報告では、空母の全滅は確実との事。我々は、制空権を失いました。」

「加えまして、空母以外の主力艦にも甚大な被害が出ているそうです。詳細は不明ながら、壊滅判定をしなければならないかと・・・」

「先程、潜水艦の定時連絡を行いましたが、全艦との交信が途絶えています。全滅と判断します。」

 良い報せは一つも無い。

 誰もが撤退を考えるが、口に出す者は誰もいない。

(この惨状、1時間や2時間の遅れだけで済む問題を超えているぞ・・・!)

 周囲の重苦しい空気を全て塗り替えてしまいそうな、どす黒い空気を纏う者が一名。

 コートの表情は、怒りと苦渋に満ち満ちていた。

 暫く沈黙が続くが、唐突に口を開く。

「何故、追撃が来ない?」

 絶望に支配されていた幕僚の目付きが一斉に変わる。

 此処まで追い込んでおきながら、攻撃の手を緩める理由は無い。

 だとすれば、何が考えられるか?

「・・・弾切れ?」

 一人が躊躇いがちに言う。

「そうとしか考えられんが・・・」

「そんな事が有り得るのか?」

「楽観に過ぎやしないか?」

 この中に、無条件で楽観論に飛び付く無能はいない。

 可能性はあるとは言え、かつて無い強大な敵を前にこれ程間抜けなミスが有り得るのか?

「敵の攻撃方法は何だったんだ?」

「情報が錯綜していますが、見張りの報告と通信内容から大半が雷撃を受けたと思われます。」

(だとすれば有り得るな)

 この不可解な状況を打開するヒントでも得られればと話を振ったコートは、思いの外早く結論に達した事に拍子抜けした。

「弾薬切れでほぼ間違い無いだろうな。」

「それは早計では?」

「艦隊の数を考えろ。状況から判断するに、この惨状は潜水艦によるものだろう。潜水艦による戦力集中はどの程度まで出来る?魚雷は同時に何発搭載出来る?攻撃時間はどの程度必要だ?」

 U-VIIC型を例に挙げれば、魚雷14本 2センチ機関砲1万発 8.8センチ砲120発 を搭載する。

 その上で群狼戦術を行う場合、最低で3隻、最高で12隻を投入する。

 ただし、最初から装填されているのは5発のみである。

 再装填には、どれ程少なく見積もっても5分は掛かる。

 そして、まともな艦隊戦力相手に浮上攻撃など論外であり、主砲は使えない。

 結論すると、潜水艦のみで第十二艦隊の殲滅は不可能となる。

「敵の運用能力が我が方よりも優れていると仮定しても、一度に投入出来る数は20隻が限界だろう。ついでに言えば外れ弾も多い筈だ。となれば、余計に雷撃のみでの殲滅など考え辛い。」

 納得の出来る説明だが、それが正しいとなれば新たな脅威を意識せざるを得ない。

「殲滅を最初から考えていないとすると、追撃が来る可能性があるのでは?」

「可能性と言うより、確実に来るな。我が方の規模を考えれば、戦艦を含む大艦隊が来るのは間違い無い。」

「つまり、接近が察知されていた・・・?」

「そう言う事だ。だが、予想より相当早いな。」

「し、しかし、我々の相手はセンテル帝国の筈です!これ程の力があるとは」

「単独で対応する義務など無い。最低でも連絡体制位は整えているに決まっている。」

 第十一艦隊の惨状から、コートは単純に敵(暁帝国)の索敵能力が優れているとは考えていなかった。

 即座に全容を把握する極めて優れた分析力を持ち、それが一方的な蹂躙を許した一番の原因であると結論していた。

 そして、恐らくそれが遠く離れた西部地域に於いても機能するとも予測した。

 現状からその予測は確信へ変わったが、本土から遠い地域に関しては相応の遅れを見せると考えていた為、結果的に完全に虚を突かれた形となってしまっていた。

(グズグズしてはいられない!次が来る前にさっさと手を打つ!)

「これより、輸送艦隊を第十二艦隊から分離する。最短距離でガリスレーン大陸を目指せ。」

 異論は出ない。

 輸送艦隊とは言え、護衛は伴っている。

 それよりも、大打撃を受けている艦隊と共にいる方が危険である可能性が高い。

 こうなってしまっては、捨て石とするしか無い。

「報告します!我が方の索敵機が、此方へ接近する敵艦隊を捉えました!」

「連絡が付き次第、第十二艦隊には敵艦隊を迎撃するよう伝えろ。」

 後が無い彼等には、撤退の選択肢は存在しない。

 ただ、前進あるのみ。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国第二艦隊直援隊



『直援隊より旗艦、敵偵察機を発見 これより、迎撃を開始する』

 言うや否や、隊長機は真っ先にダイブする。

『機種は、暁帝国の情報にあったSBDだ 距離・・・1000、雲の切れ目にいる 各機、目測を誤るな』

 4機のシーコルドは綺麗な編隊を保ったまま、約1000メートル下方のSBDへ殺到する。

『今更気付いても遅い!』

 SBDは上空からの異変に気付き、慌てて回避行動を取る。



 ダカカカカカカカカカ



『手応えあり!』

 そう言いつつ、味方の被害を確認する。

『敵機、撃墜ならず!逃亡を図る模様!』

 味方の被害が無い事に安堵したのも束の間、僚機の報告により敵へ目を向ける。

『トンでも無く頑丈なヤツだ!追撃するぞ!二番機は本機と共に左から攻める、三、四番機は右からだ!』

 敵は、確かに損傷している。

 主翼は勿論、操縦席周辺にも弾痕が確認出来る。

 にも関わらず、特に支障無く飛行を続けている。

『油断するな、左右から順番に弾丸を叩き込んでやれ!』



 ダカカカカカカカカカ

 タタタタタタタタタタ



 フィースト改の頃とは違い、シーコルドは見事な動きで敵を追い詰め続けた。

 その動きにかつての危うさは無く、空中衝突など起こる気配は無い。

『此方二番機、被弾した!機体の挙動が少しおかしい!』

『二番機、すぐに帰投しろ!』

 SBDもただやられてばかりでは無く、後部銃座から反撃を続け、遂に一機を撤退に追い込んだ。

(いい加減墜ちろよぉぉぉぉ・・・!)

 とは言え、その機体は既に多数の被弾で穴だらけであった。

『此方三番機、弾薬欠乏 帰投する』

 理不尽すら感じる頑丈さに、遂に一機が力尽きる。

(ヤバいヤバいヤバいヤバい!)

 焦りが募るが、攻撃はやめない。

『・・・・・・アッ』

 直後、敵機の主翼がバラバラに砕け散り、錐揉みしながら海面へ激突した。

『直援隊より旗艦、敵偵察機を撃墜 繰り返す、敵偵察機を撃墜した』

 これが、センテル帝国初の記念すべき航空機撃墜となった。

『直援隊へ、よくやった 直ちに帰投せよ』

(高々偵察機一機程度に此処までてこずらされるとは思いもしなかった・・・)

 帰投中、隊長は敵の強大さを思い、密かに身震いした。



 第四艦隊



「直援隊が、敵偵察機を撃墜しました。」

「分かった」

 ビルは、一言だけ返す。

(数的優位もあるだろうけど、取り敢えず此方の攻撃も通用する事が判っただけでも収穫と言う事にしよう。)

 主力艦を片っ端から第二艦隊に取られ、不安の絶頂にいるビルは、そう考えて自身慰める。

「メイター司令より命令です。[第四艦隊ハ、射程ニ入リ次第直チニ稼働可能ナ全航空機ヲ出撃サセヨ]以上です。」

(とうとう来てしまった・・・)

 自分が、対メイジャー戦の急先鋒となる。

 名誉ではあるが間違い無くプロパガンダとして使われる役回りであり、誰よりも前線へ出なければならなくなる。

 普段から寡黙と誤解されているだけに、最早逃れられないのは明白であった。

「ラングレイ レンジャー へ出撃準備を下令せよ。目標は、敵残存艦隊。艦隊増速、敵艦隊を射程に納めよ。」

「了解しました!」

 その寡黙な見た目が幸いし、前例の無い命令にも部下は動揺せず応える。


 暫く後、


「敵艦隊との距離、140キロを割り込みました。攻撃圏内です。」

 飛行甲板に攻撃隊が軒並み揃った頃、敵艦隊とドール改の往復圏内まで接近した。

「搭乗員を甲板に集めてくれ。」

『攻撃隊搭乗員は、直ちに甲板へ集合せよ』

 艦内放送が流され、5分も掛からず集合する。

 一同は整列し、その前にビルが立つ。

 整列する一同を見渡し、口を開く。

「諸君、待ちに待った出撃の機会がやって来た。諸君も知っての通り、我が航空隊は未熟だ。対する敵は、空母を失ったとは言え強大だ。諸君等の内のどれだけが帰ってこれるかも分からない。性能も、運用も、戦術も、暁帝国は愚か、その敵にさえ劣るからだ。かつて、世界最強と言われはしたが、今は間違い無く未熟者だ。」

 ネガティブな発言に俯く者も出る。

「だが、それでも立ち向かわなければならない!未熟だから何だ!?誰にでも未経験で未熟な時期はある!知識と経験を積み上げるから成長する、強くなる!諸君はこれより、その第一歩を踏み出す!我が軍はこれからも強くなる!生きて帰って来い!」



 ザッ



 一糸乱れぬ敬礼が交わされ、艦載機のエンジンが始動する。

 センテル帝国初の近代戦が始まった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 第十二艦隊



「レーダーに機影を探知!まっすぐ向かって来ます!数、60!」

 意味不明な攻撃が過ぎると、主力艦は大半が沈んでいた。

 何とか混乱から立ち直ると、残存艦で敵を迎撃しろと命令が下った。

 幸い、空母が撃沈される前に偵察機を上げており、すぐに敵の所在は判った。

 だが、こんな半身不随の艦隊では、時間稼ぎにしかならない。

 まあ、時間稼ぎの為の攻撃命令だろう。

 まずは空襲を避ける必要がある。

 大破艦は戦闘に加われないが、囮には使える。

 トドメを刺そうと、ただでさえ少ないリソースを割く筈だ。

「対空戦闘用意!」

 損害を受けようと、乗員は迅速に職務をこなす。

 陣形が乱れたままなのは痛いが、どうしても時間が掛かるから仕方無い。

「何だありゃぁ?」

 呆れ気味な声があちこちからする。

 見ると、接近している機体は全て複葉機だ。

 脅威度は低いが、今は余計なダメージを受ける余裕は無い。




 ドン ドン ドン ドン ドン

 ダダダダダダダダダダ



 焦れったくなる程に遅い敵編隊が漸く射程に入り、迎撃が始まった。

「2機撃墜!」

 機銃の射程に入る直前、初撃墜を飾った。

「何をしてる!?もっと早く落とせ!」

 指揮官クラスが怒鳴り声を上げるが無理も無い。

 砲弾は、その殆どが敵の遥か手前で炸裂している。

 機銃も、旋回が速過ぎて照準があまり合っていない。

 そうこうしている内に、緩降下爆撃が始まった。

 驚いた事に、大破艦には見向きもしない。

『被弾 被弾!』

『機銃員がやられた!衛生ー!』

『威力は大した事無い 狼狽えるな!』

 投弾したついでとばかりに、戦闘機も機銃を乱射した。

 艦はともかく、乗員の損失は手痛い。

 追い撃ちで何機か撃墜したが、何の慰めにもならない。

 こんな状態で、更に艦隊決戦をしなければならない。

 時間稼ぎ出来るかどうかも怪しくなって来た。



 本作とは別に、エッセイを投稿してみました。

 興味のある方は見てみて下さい

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です センテル帝国にとって初の近代戦は苦戦しつつも勝利という形で終わってほしいなぁ
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