第百三十三話 ガリスレーン大陸の攻防
評価の仕様が変わりましたね。
なろうって、奇数が嫌いだったり?
暁帝国 国防省
「新たな動きが確認されました!」
最近、会議会議で多忙を極める山口の元へ、部下が駆け込んで来た。
現在も、西部地域への戦力派遣に関しての会議を行っている最中である。
「時間が無いから報告書に纏めろと言った筈だが?」
「最優先事項です!」
山口の不機嫌にも怯まず、口も挟ませず詳細を話す。
「・・・画像をすぐに出せ!」
詳細を聞くと場がどよめいた。
少しして、モニターに衛星写真と暁勢力圏の地図が表示される。
その地図は、探知可能なあらゆる戦力の動向を表示しており、敵性戦力が赤く表示されている。
また、その後の予想針路が矢印で表示されているが、その先を見て全員が青ざめた。
「動かせる戦力はあるか!?」
「どの艦も出撃中か、補給と再編をやってるかドックの中だ。」
「だが、放置したら事だぞ・・・」
「空軍はどうだ!?何とかなるんじゃ無いか!?」
「爆撃機を使えば巡航ミサイルを撃ち込めると思うが、今回は後方の輸送艦隊も殲滅する必要がある。巡航ミサイルの運用は以前に比べて縮小されているから、弾数が足りるかどうか・・・」
軍のトップ達を一挙に混乱へ陥れた元凶は、巡洋艦を主力とする艦隊と後方の輸送艦隊であった。
そして、その先にあるのは暁帝国から真南にある、名も無き諸島である。
・・・ ・・・ ・・・
モアガル帝国 ウレブノテイル
「出航準備、完了しました。」
「両舷前進原速」
勇者一行と先遣隊の上陸を完了させた対馬は、全ての積み荷を揚げ終えて出航した。
「海獣に留意、監視を厳と為せ!」
(監視しても何にもならない・・・本当に大丈夫だろうな?)
気休めにしかならない命令に、艦長は内心嘆息する。
当然ながら、揚陸艦は海中からの対抗手段を持たない。
しかし、洋上艦は護衛に割ける程の余裕が無い為、行きも帰りも西部地域に展開している潜水艦が1隻護衛に就く事となっている。
ただし、極秘に展開している事から詳細は知らされず、一切の連絡も取れない。
「副長、往路では海獣に遭遇しなかったが、護衛のお陰かな?」
不安がつい口を突いて出る。
「確認した限りでは、単に運良く遭遇せずに済んだだけかと。」
対する副長は、微妙な表情で答える。
自艦を襲う標的が排除されたならば、海面に相応の変化が確認されなければおかしい。
往路ではその様な変化は確認されておらず、運が良かっただけで終わる。
護衛が何もしていないとは言わないが、こうも変化が無いと不安が募るのは当然であった。
「取り敢えず信じるしか無いか・・・これから一気に忙しくなる。今の内に少し休んでおこう。」
一方、先遣隊は町の郊外へ急いでいた。
現代の、特に軍用車輌は寸法が非常に大きい為、はっきり言ってしまえば邪魔なのである。
そんな中、藍原以下の指揮官の面々は勇者一行を連れて市庁舎へと向かう。
西部地域はハレル教圏の影響を殆ど受けていない為、暁帝国との確執や事件は積極的な根回しによって知られているとは言え、何処か他人事の様な空気があった。
勇者一行に関してもあまり知られておらず、迎え入れる事に抵抗は無い。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。」
「お出迎え有り難う御座います。申し訳ありませんが、あまり時間がありませんのですぐに本題に入りましょう。」
市長自らの出迎えを受け、歩きながら話を進める。
「軍からの情報を受け、本大陸の西部沿岸では避難の動きが活発化しています。半数程は親類縁者を頼って内陸の村落に身を寄せている様ですが、もう半数は難民と化しています。」
「難民の動向は把握出来ていますか?」
「私の元には噂話程度しか入っていませんが、比較的若い世代は安価な労働力として雇われるか、戦える者は街の警備や商隊の護衛として暫くは食い繋ぐ目処は立っているとの事です。ですが、身売りをしている者もかなりの数に上ると言う話もあります。それ以外は、充ても無く取り敢えず東を目指して放浪しているそうです。」
「難民の詳細な分布や正確な人数は?」
「すみません、何処も把握出来ておらず、効果的な対策が取れていません。」
難民の増大は、治安に大きな影響を与える。
雇用がそれなりに保たれている現状は、その点で言えばこの上無い幸運と言える。
だが、その状況がいつまでも続く事は有り得ない。
戦闘要員以外は、遠からず路頭に迷う事は確定していると言って良い。
「身勝手な話ですが、あなた方に対応をお願いは出来ませんでしょうか?」
「目に付いた集団は順次各国へ通達しますが、それが限界です。」
「確かに、少し拝見しましたが1000人にも満たない数では無理でしょう。ですが、本隊が後続しているのでは?」
「ええ、確かに我々は先遣隊に過ぎません。ただ、本隊の到着がいつになるのかハッキリした事は言えません。シーレーンの状態が悪過ぎますから。」
「ああ、なるほど・・・」
あっさりと納得した事に、藍原は若干驚いた。
(如何に強大であろうとも、我等と同じ基盤の上に立っているのだな。しかし困ったな・・・)
ガリスレーン大陸には、難民を保護出来るだけの社会制度や経済的余裕が無い。
技術的にも倫理的にもこれから近代化を進めようとしている段階であり、独力で出来るのは小規模な食料支援がせいぜいである。
「一つ案があるのですが、宜しいですか?」
声を上げたのはスノウである。
「その難民を此方で独自に雇い入れるのはどうでしょうか?」
「非戦闘員を連れ歩けと?」
藍原以下幕僚は、全員が不満の視線を向ける。
「後方支援をさせます。間違っても、戦闘に参加させたりはしません。先遣隊の規模を考えると、後方要の確保は必要でしょう。」
所謂、輜重輸卒である。
よく間違われるが、輸卒は雇われであり軍属では無い。
軍属は輜重兵と呼ばれる。
補給に必要な人員は、戦闘要員とほぼ同数である。
暁帝国では、あらゆる分野で無人化による省力化を推進しているが、産業分野以外は理論や研究段階に過ぎない。
先遣隊は、後続の到着が不透明である事から大量の装備、物資を持ち込む代わりに、後方要員は100人足らずとなっている。
持ち込んだ装備品はともかく、生活消耗品に関しては現地の協力が必要である。
「・・・その方が良いか。」
少し思案し、藍原は肯定する。
「市長、政府へ今の旨を伝えて各国へも通達するようお願いします。」
「分かりました。」
そうと決まれば、早速人員を捕まえなければならない。
「直ちに偵察隊を編成、付近の難民を捜索、保護せよ。その他は、適当な場所を探して野営地を設営する。」
強大な敵を前に、ガリスレーン大陸の動きは加速を始める。
・・・ ・・・ ・・・
アウステルト大陸東側海域 第十二艦隊随伴輸送艦隊
「報告!先程、新たに4隻との交信が途絶しました!」
ガシャーン
テーブルが倒され、置かれたコップが落ちて割れる。
幕僚は、刻々と機嫌が悪くなって行くコートに戦々恐々とする。
「たった2時間で16隻・・・!」
第十一艦隊を遥かに上回る勢いで潜水艦が磨り減らされている事実に猛りっていた。
(何をどうすればこんな事が出来る!?原因がまるで判らない!)
同時に、恐怖していた。
本来、恐怖とは無縁のメイジャーだが人間と同様の感情を持つ以上、正体不明の現象にはやはり恐怖してしまう。
だが、その恐怖を直ちに振り払う。
「誰か意見はあるか?」
硬直していた幕僚の動きが戻る。
「正直に申しまして、敵の正体が一切見えません。潜水艦が全滅するのは時間の問題と見るべきでしょう。」
「海中を可視化する装置を保有しているのでは?」
「まさか。アクティブソナーで探知した対象を画面に可視化していると言った方が現実的だ。」
「どちらも現実的とは言えないな・・・」
荒唐無稽な推測が次々に出て来るが、その都度否定されては振り出しに戻る。
(このまま潜水艦が全滅するとして、何時間遅れる?主力艦隊と上陸部隊の分離のタイミングも見直すべきか?)
侃々諤々の議論が繰り広げられるものの、あまりにも現実離れした内容にコートは対策を諦める事を内心決め、今後のスケジュールを組み直し始める。
ズズーン
「何事だ!?」
「何が起きた!?」
全員が窓際へ寄る。
「な・・・!」
誰もが目を疑った。
突然の轟音と振動は、輸送艦隊の前方を進んでいる第十二艦隊からのものであった。
距離があるが、遠目にも水柱が多数上がっている様子ははっきり確認出来る。
『右舷に被雷、大破口発生!ダメコン急げ!』
『浸水、急速に拡大中!艦傾斜、5度!』
『応急班との連絡が途絶えた!浸水、尚も拡大している!』
『電気系統がイカれた!排水不能 排水不能ー!』
『ダメだ、対応限界を超えている!生存者は甲板へ出ろ!』
『総員退艦!総員退艦!』
通信室では、艦隊からの阿鼻叫喚の声が届いていた。
彼等は艦隊の惨状を直接見ていないが、そんな気も起こらなくなる程の異常事態である事は容易に察せられた。
バンッ
一方的に入って来る艦隊からの声に呆然としていると、幕僚の一人が飛び込んで来た。
「状況はどうなってる!?」
「ハッ!酷い混線状態が続いており詳細な状況は判りませんが、少なくとも9隻の艦に於いて総員退艦命令が発令されております!」
「他は!?」
「深刻な被害を受けており、復旧は困難と思われます・・・」
最早、言葉も無い。
幕僚は、その場で膝をついた。
第十二艦隊
それは、あまりにも唐突に始まった。
艦の側面から水柱が立った事から、雷撃を受けた事は理解出来る。
退屈な洋上での生活を考えれば、第一射を見逃してしまうのは許せる事では無いが理解は出来る。
だが、その後の展開はまるで理解出来なかった。
雷撃は、ある意味砲撃よりも対処が容易の筈である。
撃ち出せば航跡が丸見えな上、速力などは砲弾と比べるまでも無い。
陣形が崩れてしまうが、目視で回避可能なのである。
また、回避せずともその速力が問題となり、命中率は極めて低い。
その筈が、航跡など影も無く、見る限り極めて高い命中率を叩き出している。
もしかしたら、百発百中かも知れない。
有り得ない予測
だが、この光景こそが有り得ない
これまでの常識では測れない何かが起こっている。
被害を受けた艦の多くで総員退艦命令が発令されている。
『正体不明の飛行物体が急速接近!』
不可視の魚雷の次は正体不明と来た。
『対空戦闘用意急げ!』
『もう間に合わない!総員、飛び込めー!』
それは、確かに飛行物体だった。
細長い何かとしか表現のしようが無いが、意思を持っているかの様に正確に空母へ突入した。
かと思えば、今まで狙われなかった戦艦が被雷した。
『艦首と艦尾に破口発生!』
『推進器と舵に不調あり!』
よりにもよって、防御不可能な箇所をやられた。
艦尾程深刻では無いが、重要防御区画から外れている艦首の被害も無視出来ない。
『新たな飛行物体が接近!本艦へ向かっています!』
見張りの報告に艦橋要員は右往左往するが、退避する時間すら無かった。
発見から着弾まで、約30秒
どうしようも無い。
直後、第十二艦隊の旗艦は艦橋を含む上部構造物の多くを吹き飛ばされ、半身不随の艦体はトドメを差された。
弾数と敵数の計算が何気に面倒です。




