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第百三十二話  着火

 戦闘が中々始まらず申し訳無いです。

 ガリスレーン大陸南西海域



「邂逅予定海域に到達しました。」

「・・・んむ、そうか。」

 航海長の声を聞き、うたた寝していたメイターは立ち上がる。

 艦橋要員の多くが双眼鏡で辺りを見回すが、目を引く構造物は何も見当たらない。

「通信士官、向こうから連絡は来てないか?」

「未だ何もありません!」

「聴音、何か聴こえるか?」

『遠方にて、クジラらしき鳴き声が聞こえます。』

(思った以上に凄いな。これが無かったら・・・)

 落胆するも、同時にソナーの有効性を認識し、身震いする。

「司令、どうしますか?」

「・・・半日待とう。」

 海獣が怖いが、このまま進んでも潜水艦に狩られるだけである。


『音紋符号 先日出撃したセンテル艦隊です』

『潜望鏡上げろ』



 ガコォン



『・・・対象を目視、センテル艦隊で間違い無い 潜望鏡下ろせー 通信ブイにて交信後、浮上する』


「司令、受信しました![此方、暁帝国海軍潜水艦 伊-202 コレヨリ貴艦隊ト合流ス]以上です!」

「聴音、何をしてる!?すぐ近くにいるじゃ無いか!」

『微かにブロー音が聞こえますが、それ以外は未だ何も聞こえません!』

 幕僚達は愕然とするしか無かった。

 輸出されているソナーは当然ながらモンキーモデルであり、おおよそ1960年代の性能となっている。

 原潜と言えども現代に於いては静粛性の向上も著しく、旧世代の性能では補足は困難を極める。

 その様な事情など露知らず、一同は聴音手の練度向上を含む対潜能力向上を決意した。

『九時の方向、潜水艦の浮上を確認!』

 一斉に双眼鏡を向ける一同。

「デカい・・・!」

「アレが潜水艦だと言うのか・・・?」

 最早、言葉も無い。

 現在のセンテル帝国の潜水艦はホランド艇を一回り大きくした物であり、第一次世界大戦当時のUボートにも及ばない。

 外洋航行はほぼ不可能である。

『此方は、伊-202艦長 本名は機密の為に明かせないが了承されたし センテル艦隊へ、応答せよ』

「司令、潜水艦より交信要請が来ました。」

 呆然としていると、通信士官がそう言って現実へ引き戻す。

「此方、センテル帝国海軍西方艦隊司令官メイター。貴艦を歓迎します。」

『司令官直々の応答、感謝します』

「挨拶はこの辺で。早速ですが、現在把握出来ている状況をお教え願いたい。」

 驚愕と若干の混乱から立ち直り、万が一にも失態の無い様細心の注意を払いつつ情報交換(殆ど一方的な受け渡し)が行われた。

 敵艦隊はアウステルト大陸を完全に無視し、北へ迂回しつつ東進を続けている。

 戦力は以前と変わらないが、潜水艦が先行している事が併せて確認された。

 現在、アウステルト大陸を北から迂回するルートを取っており、このまま進めば会敵する事となる。

「アウステルト大陸は無視ですか。どう言った意図があるのか・・・」

『不明です。目標がガリスレーン大陸なのか、ウォルデ大陸なのかも。』

「では今後、我々はどの様に動けば?」

『輪形陣を維持したまま西進して下さい 決して艦を分散させない様に 此方は先行して敵の漸減に掛かります』

「了解しました。」

(我々は、実質予備だな・・・)

 自国最新鋭の艦隊を率いていながら、露払いをして貰わなければ戦力に数える事も出来ない。

 艦橋に、何とも言えない虚しさが満ちた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アウステルト大陸北方海域



「報告、潜水艦からの定時連絡が入りました!全艦異常無しとの事!」

「御苦労」

(先行させてから24時間を過ぎた。西方で潜水艦を相手に猛威を奮ったと言う脅威は何処に・・・)

「報告、索敵機より入電![一切ノ動キ無シ]以上です!」

(今回は、アウステルト大陸方面の心配はいらんと見て良いな。)

 コートは、艦橋にて刻々と上げられて来る報告に耳を傾ける。

 彼が今現在恐れているのは、第十一艦隊の潜水艦が一方的に排除されてしまった謎の攻撃と、アウステルト大陸方面からの攻撃による二正面状態である。

 部下からの報告により、二正面の心配は無くなった。

 しかし、もう一つの問題と比較すれば大した問題では無い。

 もう一つの問題は、その正体が一切不明なのである。

 正体が判らないと言う意味では、第十一艦隊をほぼ全滅させた攻撃も同様である。

 だが、それでも目撃証言は存在している為、対応策を検討出来る。

 そんな中、唯一潜水艦だけは何も解っていない。

 対潜能力自体はメイジャー側も保有しているが、それだけではどうにもならない程にあまりにも素早く、痕跡を残さない。

(予想接触海域まで、残り10時間も無い・・・!)

 コートの苛立ちは募る。

 はっきり言ってしまえば、今回の侵攻は不確定要素があるとは言え、失敗する事は無いと考えている(サハタイン以下、トップの大半はそこまで楽観していない)。

 何故なら、不確定要素の殆どが暁帝国に由来するからである。

 いくら頑張ろうとも、距離の問題は最初から世界中に展開していない限りは解決しようが無い。

 だからこそ、正体の判らない潜水艦関係の不確定要素を除けばどうとでもなると踏んでいるのである。

 だが、彼だからこそその様な損害すらも許容出来ないのも確かである。

(潜水艦がやられてしまえば、予想される敵艦隊の撃滅が最低でも12時間は遅れる。部隊の上陸もそれだけ・・・!)

 コートの苛立ちは更に募る。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国  ウレブノテイル



 この日、ノーバリシアル制裁以来となる大陸外の大型軍艦が入港した。

「間も無く時間になります。下船準備をして下さい。」

 入港した軍艦、強襲揚陸艦対馬の動きが慌ただしくなる。

 その中で、異なる動きをする者が五人。

「うし、行くか。」

 準備の整ったレオンは歩き出す。

「ちょっとレオン、何で一人でサッサと行こうとするの!?」

 カレンの声に振り向くと、四人がそれぞれボストンバッグサイズの鞄を複数抱えていた。

「何をどうすればそんな大荷物になるんだよ・・・」

 戦闘目的の遠征である為、普通であれば荷物は減らすべきである。

 技術レベルが他国よりも高い分多くの荷物が持ち込めるとは言え、レオンの荷物は肩掛け式の大型バッグと通常サイズのリュック(軍用)だけである。

「女の子には色々あるの・・・。」

「そうですよ。むしろ、男性の方が持ち込む物に気を遣わな過ぎです。」

「こんなに持ち込んだ事、今まで無かったじゃん。」

 レオンの指摘に、シルフィーとスノウは言葉に詰まる。

 実際、セイキュリー大陸にいた時は武器以外は食料と寝具と金銭しか持たず、服は着の身着のままである事が多かった。

 付き添いがいる場合は別だがその実力故に単独行動が多く、特定の拠点を持たなかった事から私物はほぼ皆無であった。

 それが亡命後はそれぞれドハマリしたジャンルを買い漁り、女子は更に服まで買い漁っていた。

 その結果、用意されていた宿泊施設は五人の私物で溢れ返る羽目となり、それを全て持ち込んだ惨状がこれである。

「こんな所で何やってるんですか!早く移動して下さい!」

 そこへ、艦長が駆け込んで来る。

「いーから手伝ってくれ!荷物がスゴいんだから!」

「引っ越しでもするつもりなんですかね?」

 明らかに余計な荷物だが頼み事をしている立場では強くも言えず、荷物運びに人員を割く事となった。


 暫く後、


「遠出と言うモノは荷物を減らす事から始めるものですよ?次からは気を付けて下さい。」

 桟橋まで運ぶと現地の官僚と交代し、ついでに乗せて来た陸軍部隊を下ろす。


 暁帝国陸軍ガリスレーン大陸派遣先遣隊

 人員:600名

 戦車:4輌

 歩兵戦闘車:4輌

 装甲車:22輌

 戦闘ヘリ:6機

 輸送トラック:20輌


 敵勢力の脅威度が高い為、可能な限りの重火器を持ち込んでおり、規模の割に凶悪な火力を持つ部隊となっている。

 その代償として、運搬の手間が大きくなってしまっている。

「アイツ、散々愚痴っといて自前の荷物の方が凄いじゃねぇか・・・!」

「私物と生存装備を同一視されては困ります。」

 フェイの文句に答えたのは、藍原中将である。

 彼女は先遣隊指揮官であると同時に、後に派遣される予定の本隊の司令官も担当する。

「それで、俺達はこの後何処に行けばいいんだ?」

「イズラン公国へ向かって戴きます。」

 イズラン公国とは、再編された国の一つであり、大陸南西部に位置している。

 大陸有数の巨大な鉱山が存在する為、鉄道の敷設計画が精力的に進められている事から、将来的な発展が期待されている。

 だが、その発展は迫り来る敵を排除出来ればの話である。

 今回に限って言えば、大陸南西と言う位置は非常に危険性が高いと予想されている。

 ガリスレーン大陸が攻撃を受ける場合、真っ先に艦砲射撃及び上陸を受けるとの予想である。

 独自に迎撃準備は行っているものの、センテル帝国でさえ勝利の展望を見出だせない相手である以上、強力な援軍がいなければ秒殺されるだけである。

 かと言って、そのセンテル帝国は援軍を送っている最中である事から戦闘可能となるまでにはまだ時間が必要となっている。

 暁帝国も、先遣隊だけではゲリラ戦か遅滞戦闘が精一杯である。

 この為、即時対応可能な戦力は勇者一行のみとなる。

 一個人としては恐らく最強の戦闘力を保有し、身一つで動く五人組である事から即応性も高い。。

 ただし、今回に限ってはやや身重となっている。

「ですが、すぐに向かうには最低でも馬車を用意して頂かないとなりません。」

 藍原の説明を聞き終え、スノウが早速問題点を指摘する。

「本当に、何を持って来たので?」

「生娘の秘密・・・。」

 シルフィーの一言に若干口元をヒクつかせた藍原は、移動に輸送トラックを充てた。




  ・・・ ・・・ ・・・




 アウステルト大陸東部海域



 モフルート王国所属の警備船が遊弋している。

 海獣の出現の影響で頻繁は下げているものの、中止にする訳には行かない。

 そんな貧乏クジを引いてしまった乗員は、緊張でひきつった顔で職務をこなしているのであった。

「うーむ・・・」



 ザパッ



「ヒッ!」

 海中から迫る海獣の恐怖と隣り合わせの為、ちょっとした波の変化でビクついていた。

「落ち着け。動揺し過ぎると敵を寄せ付ける。」

 そこへ船長がやって来る。

「ハッ、も、申し訳ありません!」

「深呼吸しろ。そんな状態だと、見落としてはならない物を見落としかねん。」

 そう言われ、深呼吸する。

「スゥーー・・・ フゥーー・・・ 」

 悪くなっていた顔色はもとに戻り、職務を再開する。

「船長、この船は大丈夫でしょうか?」

 その様子から、一瞬気を抜いてしまった船長の背中に冷や汗が流れる。

「職務を真面目にこなしていればすぐに帰れる。」

 これが精一杯の答えであったが、直後に緊張感が増幅された。

「三時の方向、正体不明の構造物を確認!」

 別の見張りが叫ぶ。

「何だ?黒い棒の様なモノが生えている・・・?」

 おかしな表現だが、これ以上に適した表現も無い。

「あ、沈んで行くぞ!」

 謎の構造物は、垂直に海中へ姿を隠した。

「まさか、海獣の出現の前兆か・・・?」

 全員が固まる。

 船長も恐怖でどうにかなりそうだったが、気力を振り絞って口を開く。

「総員、退避こう」



 ズゴンッ



 突如、腹の底に響く轟音に船が揺れた。

「先程の地点に異常!」

 謎の構造物の地点を見ると、大量の気泡によって海面が白く染まり、直後に大きく隆起した。

「あ・・・あ・・・」

 恐るべき現象を前に腰を抜かす者も現れるが、誰も目を向ける事すら無い。

 暫く呆然としていると、大量の浮遊物が目に入った。

「た、退避だ!急いでこの場から離れるんだ!」

 浮遊物が人工物であると気付き船長が叫ぶ。

(早く逃げなければ、次は我々が・・・!)

 死の恐怖が全員を動かす。

 その後、無事に母港へ帰還した。


『目標に命中 艦体破壊音を確認 撃沈と判定』

『通信ブイを上げろ』

『水切り音を探知 付近に帆船がいると思われる』

『接近は禁止されている 存在を悟られてはならん』



 感想でクラスターの話を頂きました ありがとうございます!

 ただ、違和感が拭えないので採用は見送ります。

 昔の単語を今に反映させるのは難易度高いです。

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