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第十一話  交渉3

 やっと会談に入ります。

 城塞都市  ルージュ



 何とか出迎えの準備を間に合わせたイリスは、迎賓館の入り口にいた。

「今の内に少し休みましょう。」

 周りにそう言って館内へ入ろうとすると、街のある場所から騒ぎが聞こえて来た。

「!・・・あの方向は!」

 メイハレンの方向である。

「今、暁帝国の使節団が、街に到着したそうで御座います!」

 慌てた様子の警備兵が、イリスに伝える。

「ッ!」

 イリスは、警備兵の様子から最悪のシナリオを思い浮かべた。

「つきましては、野次馬が物凄く身動きが取れなくなってしまっている為、人員の派遣をお願いしたいとの事で御座います。」

「えぇ、あんなに警備に人員を割いたのに、まだ足りないの!?」

 ルージュは常備兵力が豊富な為、十分な警備体制が取れていた筈である。

「はい。予想以上に多くの野次馬が集まってしまい、対応し切れていないそうで御座います。」

 イリスは、頭を抱えた。

「全く、急いで派遣して。これ以上醜態を晒す訳にはいかないわ。」

「ハッ!」

(取り敢えず、最悪の想定は外れた様ね。)

 イリスは首脳陣を呼び集め、このまま玄関で待つ事にした。


 暫く後、


「さて、蛮族共がどんな格好でやって来るか見物ですな。」

 ニヤついた顔でイサダが言う。

 暫くすると、暁帝国の車列が迎賓館前にやって来た。

「な・・・何なのアレ・・・?」

 鉄で出来た巨大な馬車の様な物が多数やって来た。 

 だが、馬車はひとりでに動き、馬も御者もいない。

「・・・・・・」

 イサダも、唖然として固まっていた。

 何台かが通り過ぎると、他とは明らかに違う黒塗りの鉄馬車が目の前に止まる。

 そこから、暁帝国の首脳陣と思われる者達が降りて来た。

 全員、黒を基調とした服装で身を固めている。

(もっと派手に着飾っているのかと思ったけど・・・)

 想像とは正反対の服装をしている事に、イリスは内心困惑した。

 そうこうしていると、先頭の若い男が話し掛けて来た。

「お出迎えありがとうございます。自分は、暁帝国総帥の東郷と申します。」

「ようこそいらっしゃいました。私は、ビンルギー公国公王のイリスと申します。」

 まずは、社交辞令から入る。

(若いわね)

 こんな事で隙を見せる程、イリスはヤワではない。

「失礼ですが、総帥とはどの様な肩書なのでしょうか?」

「ああ、これは国家元首の肩書です。」

「つまり・・・国王ですか!?」

「その様なものです。」

 これには、公国側の全員が驚いた。

(こんな若い男に国王をやらせて大丈夫なの?)

 当然の心配である。

(想像以上に事は重大みたいね)

 国家元首が自ら出向くなど、相当に重要度が高くなければやる事は無い。

 イリスは、気を引き締め直す。

「ところで、あの乗り物についてお伺いしたいのですが。」

 少しでも有利な情報を得る為、話を振る。

「ああ、アレは自動車ですよ。」

「じどうしゃ?」

「はい。エンジンと言う動力を載せた車両の事です。馬よりも速く走れますよ。」

(エンジン・・・魔道具の一種かしら?でも、本当に魔力が感じられないわね。それにしても、あんなに大きな物体を動かせるなんて・・・)

 科学と言う概念が存在しないこの世界では魔力が基準となる為、エンジンを魔力起源の道具と考たが、全く魔力が感じられずに疑問を持った。

 同時に、暁帝国が辺境の蛮国ではなく、列強に匹敵し得る国であると確信した。

「軍務大臣のイサダと申します。以後、お見知りおきを。」

 突然、イサダが割り込んで尊大な態度で挨拶した。

(フン、蛮族如きが分不相応なモノを持ちおって・・・しかし、報告通り本当に魔力を持たんとはな・・・)

「・・・此方こそ。」

 東郷も、素っ気なく応じる。

「そ、それでは立ち話も何ですから、中に御案内します。」

 焦ったイリスは、強引に話を切り上げた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 会議室へ移った一行は、早速会談を始めた。

「まずは、急な訪問にも関わらず、この様な場を用意して戴いた事に感謝します。」

 最初に、東郷が礼を述べる。

「いえ、礼には及びません。話し合いを求める相手を拒む理由などありませんから。」

 イリスが返す。

「素晴らしい心掛けと考えます。さて、早速本題に入らせて戴きます。我々が貴国を訪問した目的は、国交の締結と国境の確定と遭難者の引き渡しです。」

「国交の締結に異存はありませんが、国境とはどう言う事ですか?」

 公国側は、領土要求をされるのではと不安になる。

「その前に、一つ申し上げたい事があります。」

「何でしょう?」

「実は、我々は異世界からやって来ました。」

「「「「!!?」」」」

 公国側は、驚きのあまり固まってしまった。

「は、ははは・・・、そんな事がある訳・・・・」

「何故この世界へ飛ばされてしまったのかは、全く分かっておりません。信じられないかと思いますが、そう言う前提で話を進めて行きます。」

「・・・・・・」

 公国側は、言葉が出なかった。

「それともう一点。我が国は、この大陸の他の三ヵ国にも既に使節団を派遣しています。」

「「なっ・・・!」」

 再度、公国側は固まった。

「そ、それで、会談の結果はどうなったのでしょうか?」

「いえ、まだ会談は始まっていない様です。」

「そ、そうですか・・・」

(四ヶ国に同時に使節を派遣するなんて、信じられないわね。それに多分他の使節にも、報告にあった艦隊やあのじどうしゃを連れているんでしょうね。)

 イリスは、想像を超え過ぎて見当も付かなくなってしまった暁帝国の国力に恐怖する。

「しかし、何故その様な事を?この大陸の情勢を御存知無いのですか?」

「勿論知っています。しかし、我が国は最も近いこの大陸が、今の不安定な情勢のままでいる事を良しとしません。」

「何故此処までするのですか?」

「我々が望むのは、平和だからです。」

 黒船外交をやっている者とは思えないセリフである。

「平和ですか・・・」

(フンッ、随分と軟弱な連中だな。)

 イサダは、暁帝国の評価を一段下げた。

 対するイリスは東郷の言葉を吟味し、結論を出す。

「分かりました。我が国は貴国と同盟を組み、国交を締結する事を宣言します。」

「ご理解戴けて光栄です。それでは次ですが・・・」

「国境についてですね?」

「はい」

 公国側にとって、最大の不安要素の話が始まった。

「まず最初に申し上げておきますが、これは貴国への領土要求ではありません。」

「え、では一体・・・?」

「まず、海の境界線についてです。」

「海?」

「はい。我が国には領海の概念があります。領海とは、海の領土です。」

「!!」

 公国側は、また驚いた。

 海に領土の概念を持ち込むなど、考えた事も無かったからである。

 帝国側は、領海 接続水域 EEZ について説明した。

「なるほど、分かりました。我が国でも法整備を進めます。」

「お願いします。次に、無主の土地についてです。」

「そんな所があるのですか?」

「はい。入念に調査した結果誰も住んでおらず、何処の国にも所属していない事が分かりました。」

 スマレースト大陸から真南へ数百キロの地点に、台湾程の大きさの島が発見されていた。

 無人島とは言え何処かの領土であると考えていたものの、海流の関係から帆船では到達出来ない事が判明し、無主の土地である事が確実視されていた。

 念の為にアイナへ尋ねた結果、その様な場所に島があるとは聞いた事が無いと証言した。

「そんな所に、その様な場所が・・・」

「はい。我々としましては、この島を我が国の領土として編入したいと思っています。その為に、貴国を含むこの大陸の各国の承認を頂きたいのです。」

「・・・分かりました。承認する方向で国内を纏めます。」

「有り難う御座います。」

 一番揉める可能性のあった領土問題が上手く行き、帝国側は安堵する。

「では最後に、遭難者についてです。先日、我が国に二人の遭難者が漂着しました。」

「一体何が?」

「二人の話によると、乗り込んだ商船が嵐に遭遇して沈没した様です。残念ながら、他の生存者は発見出来ませんでした。」

「そうですか・・・」

 イリスは、目を閉じて犠牲者へ祈りを捧げた。

「そしてその生存者ですが、今回連れて来ましたので引き渡したいと思います。」

「そうですか、見返りは如何しましょうか?」

「結構です。」

「はい?」

「貴国を訪問するついでに連れて来ただけですので、見返りは結構です。」

 イリスは耳を疑った。

 タダで縁もゆかりも無い他国の人間を助け、更に返すと言うのである。

「・・・分かりました。貴国の厚意に感謝します。」

 戸惑いを隠し切れないまま、イリスは礼を述べる。


 こうして、会談は思ったよりもスムーズに終了した。

 だが、この流れをイサダは忌々しそうに眺めていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




「これはこれはイサダ様、この様な所にようこそお出で下さいました。」

 出迎えたのは、イコセである。

 イサダの傍らには、アクーラもいた。

「世辞はいい。それよりもイコセ、事態は思ったよりも深刻だぞ。」

「一体何が?」

 イサダは、暁帝国が異世界から来た事、四ヶ国同時会談、同盟締結、新領土の事を話した。

「何と言う事だ・・・!」

 イコセは、絶望的な表情をする。

「予定を大幅に見直さねばならん。だが、これは好機だ。」

「好機ですか?」

「そうだ。新たに発見したと言う領土、ここを我々が奪取する。」

「「!!」」

 イコセもアクーラも驚愕した

「し、しかし、我々にはそれ程の戦力は」

「安心しろ、ハーレンス王国とジンマニー王国の者達を引き込んだ。」

「何と!?」

「共同経営と言う形を取ろうと言っておいた。だが、勿論我々が全てを独占する。」

 イサダは、力強く宣言した。

「お待ち下さい!」

 アクーラが声を上げる。

「既に陛下が決定された事に逆らわれるのですか!?」

「何だぁ?アクーラ貴様ァ、イサダ様の決定に逆らうつもりか!?」

 イコセは、あからさまにアクーラを恫喝する。

「しかし、このままでは反逆罪となる危険性があります!」

「その心配は要らん。」

 そう言ったのは、イサダであった。

「私は、これまであの小娘に押さえ込まれ続けて来た。何故だと思う?」

「?」

「実績が無いからだ!私は軍務大臣だ!それ故、戦わなければ実績を作る事が出来ん!にも関わらず、あの小娘は開戦を避け、私の行いを邪魔し続けて来たのだ!」

 イサダは、拳を握り締めて大声で語り続ける。

「だが、それも今日までだ!新領土を手中に収めて実績を作り、あの小娘を追い落としてやる!」

「しかし」

「あまり父上達を困らせるなよ。」

 尚も食い下がろうとしたアクーラへ、別の声が語り掛ける。

 声の主は、イコセの息子である イスコ である。

「お前は、僕達に従うしか無いんだ。分かってるだろう?娘が大事ならさぁ。」

「・・・・・・分かりました。」

 アクーラは、悔し気な表情をしつつも首肯するしか無かった。

「何、心配は要らんよ。異世界から来たなどと世迷言を言う蛮族共だ。しかも、奴等には魔力が無い。魔術も使えん様な雑魚なんぞあっという間に蹴散らして、新領土を獲得してやる。そしたら、協力してくれた見返りに私の元で働かせてやるぞ?」

「イサダ様、それはご勘弁を。此奴には、まだまだツケを支払って貰わねばならんのです。」

「安心しろ、ただの冗談だ。」

「イサダ様もお人が悪い。」

「「ハッハッハッハッハッハ」」

 小悪党共の笑い声が響き渡った。



 次回、遂に無双が始まります。

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