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第百三十一話  戦場へ

 リアルの情勢も大分きな臭くなっています。

 割と本気で滅亡を考えてしまいますね。

 暁帝国  帝国航空宇宙開発機構 近宇宙危機管理局



 文字通り、惑星に近い範囲の脅威をメインに担当する局であるが、現在は衛星関連を除く全てのリソースを惑星そのものへ向けている。

 その原因が、新たな管轄として加わったボルゴノドルフ大陸より吹き出した魔力の監視である。

「東部地域は、インシエント大陸の三分の二が覆われた。西部地域もアウステルト大陸が覆われ始めてる・・・濃度はどうだ?」

「8100から9700の間です。とうとう五桁を割り込みました。」

 相変わらず想定を大きく超える濃度により画面は真っ赤だが、数値上の濃度は下がり続けていた。

「上下差も大きくなってるな・・・だが、当初想定してた上限値は2000だ。このまま星全体を覆い尽くして更に濃度が下がっても、倍の4000を切るかも怪しい。」

 局員は、揃って溜め息を吐く。

 佐藤が予想した通り、魔力観測による敵情偵察は事実上不可能との結論が下された。

 ただし、観測不可能なのは魔力関係のみであり、光学衛星は別である。

「西亜大陸の地形は完全に把握出来た。他はどうだ?」

「大陸は八割方完了。東亜大陸はあまり進んでない。」

「まぁ、仕方無いか。」

「兵器らしい構造物も大量に見える。大丈夫だと思いたいが・・・」

「それは軍の仕事だ。こっちはこっちで残りを片付けるぞ。」



 国防省



 近宇宙危機管理局が順調に職務を遂行する傍ら、国防省は重苦しい空気に包まれていた。

「どうする?」

「私に聞かれましても・・・」

「戦力を派遣しようにも、どうやっても間に合わない。」

 メイジャーの西部地域での動きを確認した事で、暁帝国は潜水艦を援軍として投入する事となった。

 しかし、その数は僅か4隻に過ぎない。

 性能面では圧倒しているものの物量面では比べるまでも無く、これでは弾薬不足で攻撃不十分とならざるを得ない。

 大型の原潜と言えども遠方へ出ている関係もあり、搭載弾数は16発(トマホークミサイル含む)に過ぎない。

 これだけでも大打撃ではあるが、既に一度躓いている敵が素直に諦める可能性は低いと分析されている。

 残存艦隊だけであればセンテル帝国艦隊でもどうにかなるが、最大の問題は後方に控えている上陸部隊である。

 海戦を行っている隙に何処かへ上陸されてしまえば、その大陸は遠からず制圧されてしまう。

 通商破壊で対抗しようにも、遠隔地な上に海獣対策も疎かには出来ない為、撤退ないし降伏を決断させる程に追い詰める事が可能か断言出来ない。

 陸上部隊の派遣は、東への対応の為に再編と再配置が行われている最中であり、大幅な遅れが見込まれている。

 派遣準備が整った頃には、手遅れとなっているのは間違い無い。

 センテル帝国が部隊を派遣する事を決定しているが(ガリスレーン大陸の邦人保護を名目としている)、たったの4個師団に過ぎない。

 戦時体制へ入ってから間も無く、本土の防衛を優先しなければならず、4個師団だけでもかなり無理をした数字である。

 しかし、これだけではただの時間稼ぎに過ぎない上に、暁帝国軍の救援が間に合う可能性は低い。

「敵の規模は?」

「輸送艦の数を見るに、少なくとも12個師団、予想される増援を含めれば20個師団を超えると見た方が良い。内、5個師団程度が機甲師団と思われる。」

 機甲師団と聞き、空気が更に重くなる。

「・・・念の為、敵の装甲戦力の確認をしようか。」

 ボルゴノドルフ大陸を覆っていた光はほぼ消え去り、一部を除いて航空機を飛ばせるレベルとなっている。

 そこで高高度偵察を行った結果、陸空で使用されている兵器の多くが判明した。

 中でも装甲車輌は恐るべき物であり、戦車、装甲兵員輸送車、戦車駆逐車、自走砲、対空戦車が確認されており、その系譜は明らかにソ連と共通した物が多い。


 戦車 = T-80 T-34/76 KV-85

 装甲兵員輸送車 = M-3

 戦車駆逐車 = SU-85 SU-100 SU-152

 自走砲 = ISU-122 ISU-152

 対空戦車 = ヴィルヴェルヴィント(車体はSU-152と共通)


 総数は、それぞれ数千~数万輌にもなる。

 上陸部隊だけでも推定1500輌が配備されていると見積もられている。

「纏めると、技術的には米ソの良いトコ取りをした上で、物量も当時の米ソ並みと言う事だな。」

「この物量で波状攻撃でもされれば、弾薬不足と稼働率の大幅低下を招く。航空阻止で進軍を遅延させる必要がある。」

「しかし、それでは此方も同じ苦労を背負い込む事になります。」

「どちらにしても、西部地域諸国にそれだけの能力は無い。何か、他にも有力な戦力があれば・・・」

「今すぐに送り出せる、連中に対抗可能な戦力ね・・・」

「そんな都合の良い存在がいれば、是非とも紹介して戴きたいですね。」

 だれも心当たりなどある筈も無く、沈黙が流れる。

「・・・・・・アッ!」

 不意に一人が声を上げ、全員の視線が集中する。

「いますよ、すぐに動ける戦力が!」




 ・・・ ・・・ ・・・




 アルーシ連邦  ラングラード



「俺達、何かしたか?」

「呑気に言ってる場合?」

「そうは言いますが、交戦の意思は無さそうですよ?」

「けど、逃がしてくれそうにも無いな。」

「鬱陶しい・・・。」

 暁帝国へ向かう為にピルシー帝国から戻って来た勇者一行だが、ラングラードへ入った途端に何者かの包囲を受けていた。

 建造物の陰 裏路地 人混み 屋上・・・

 無駄に厳重な包囲網が瞬く間に形成されたものの、暗殺や拘束を行おうとする様な気配は全く感じられない。

 白昼堂々交戦する訳にも行かずそのまま港へ向かうと、明らかに意匠の異なる服装をした一団が待ち構えていた。

「お久しぶりです。」

「何処かで会ったかしら?」

「あたしとスノウが前に会った。」

 それはノーバリシアル制裁の時の事、強襲揚陸艦対馬の副長であった。

 沖には、その対馬が停泊している。

「・・・随分と乱暴なお出迎えですね。」

「それは御詫びします。緊急事態でして、これより西部地域へ向かって頂きたいのです。」

「それだけで素直に行くと思う・・・?」

 包囲網を形成する事で露骨に拒否権を奪ってから接触するやり口には、正義云々と言わなくなった今の一行にも受け容れ難いものであった。

「必要なら協力する事には既に同意されている筈では?」

「それとこれとは話が別だろ。不快極まり無い真似しやがって・・・!」

「現在進行している事態を放置すれば、不快などと言っていられなくなりますよ?」

 そのまま口を挟ませず、メイジャーの動きを説明する。

「いつに無く動きが鈍いですね。」

 スノウの言葉に、四人は頷く。

 彼等の知る暁帝国軍とは、常識を投げ出したとしか思えない迅速さを持った組織である。

「準備段階ではかなりの時間が必要になります。十分な準備を行って最適な編成を整えてこそ、最大限能力を発揮し得ます。」

「それで間に合わないんじゃぁ世話無いわ。準備出来た部隊からさっさと送れば良いと思うけど?」

「準備段階の無理な出撃は、大きな混乱を引き起こします。第一、戦力の逐次投入は最悪です。」

 戦術的な知識は勿論あるが、それを無視して勇み足になりがちなのが、一行のセイキュリー大陸時代からの悪い癖である。

 戦力の分散と逐次投入は、古来から絶対にやってはならない愚行である。

「しかし、間に合いませんでしたで済ます訳にも行きません。」

「それで、俺達に声を掛けたと。」

「その通りです。」

(タダの便利屋扱いか・・・)

「いーんじゃ無いか?」

 気楽に言ったのは、フェイである。

「フェイ、言ってる意味が分かってる・・・?」

 シルフィーが噛み付かんばかりの視線を向けるが、フェイは意に介さない。

「こんな事で今更駄々捏ねてもしょうが無いだろ。別に、あたし等だけに命懸けて来いって言ってるワケじゃ無いし、タダで扱き使おうってワケでも無いだろ?」

 副長へ向き直る。

「勿論、相応の報酬は用意してあります。」

「前金は?」

「・・・現在までに判明しているメイジャーの情報では?」

「そんなモンが報酬になるとか本気で思ってんのか?」

「い、いえ・・・」

 四人は、フェイの今までに無いやり取りに驚愕していた。

 ガサツな面が目立ちつつも、さり気無い細かな配慮が出来るのがフェイであり、報酬云々の様な生臭い話はむしろ嫌ってすらいた。

(フェイ・・・)

 スノウは、フェイの心境の変化を察した。

 開き直ったと言ってしまえばそれまでだが、苦悩を経たのはフェイも他四人と同じである。

 亡命までに本来なら有り得ない失言をしてしまい、普段の配慮が陰を潜めて黙り込んだ事もあった。

 その僅かな変化に、気付くべき者が気付けなかった。

「では、対馬へ御案内します。」

(・・・負けた)

「さっさと行くぞ。」

 だが、物思いに耽っている暇さえ無い。

 速やかに話を纏め、西部地域へ向かう事が決定した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 エイグロス帝国  ペイルスケープ



 乗員の休養を終えて出撃が迫る中、コートは幕僚と共に最終確認を行っていた。

「現在、エイグロス帝国はアウステルト大陸より大量の食料を輸入していると言う。今後進出して来る我が軍の維持の為だそうだ。そこで、現状ではアウステルト大陸は無視する方針が決められた。北側を迂回し、まずはガリスレーン大陸を手中に治める。」

 海図を使い、進路を指し示す。

「この際、敵艦隊と遭遇する可能性がある。索敵を怠るな。」

 幕僚の一人が手を挙げる。

「予想される敵の所属と規模は?」

「所属はセンテル帝国で間違い無いだろう。場合によっては他の艦隊も現れるかも知れんが、この近辺には帆船しか確認されていない。」

 別の幕僚が手を挙げる。

「第十一艦隊を撃滅したと言う暁帝国艦隊が出て来る可能性は?」

「可能性は低いが、小規模の援軍を出して来る事は考えられる。そうなれば、損害は避けられんだろう。だが、暁帝国はガリスレーン大陸から遠過ぎる。迅速に行動すれば各個撃破が可能だ。」

「暁帝国が援軍を出したと仮定して、その規模は?」

「少なくとも駆逐艦クラスを数隻、多くとも巡洋艦クラスを旗艦とする10隻弱の艦隊と思われる。」

「その場合、我が方の損害は?」

「半壊する恐れがある。」

「そんな・・・」

「その後の作戦に支障が出るぞ!」

「作戦の見直しを行った方が」



 ドンッ



 場がざわつくも、コートが拳をテーブルへ叩き付ける事で治まる。

「これ以上の遅延は許されん。このまま続行する。第十一艦隊が敗れ、我々には後が無い事を忘れるな。」

 彼等は既に、最初の一歩目で躓いている。

 此処で更に躓けば、全てが破綻しかねない。

 後が無い以上、多少の無理を圧して進まねばならない。

「失敗してはならない場面での遅れは、取り返しの憑かない過ちへと繋がる。」

「「「・・・?」」」

 幕僚は揃って首を傾げる。

 コートの視線は、誰にも向いていない。

 誰に話している訳でも無いが、口は動いている。

 そんな違和感を感じるも、すぐに戻る。

「作戦は予定通りに進める。どれ程の損害を重ねようともだ。」

 その瞳は、執念とも言える鈍い輝きを放っていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ウォルデ大陸西方海域



『第四艦隊を目視、間も無く合流します!』

「予定通りだな。」

 メイターは、難易度の高い洋上での合流が問題無く行えた事に安堵する。

『旗艦シンウォルトンより発光信号[我、第四艦隊 コレヨリ貴艦隊ト合流ス]以上です!』

「返信しろ[合流ヲ歓迎スル]以上だ。」

 合流した艦隊の陣容は以下の通りである。


 戦艦:5隻

 空母:2隻

 重巡洋艦:10隻

 軽巡洋艦:17隻

 駆逐艦:42隻


 いずれも最新鋭艦で固められており、動員出来るギリギリの数を動員している。

 その代償として、他の主力艦隊が致命的な戦力不足に陥っており、残っている旧式艦で間に合わせている状態にある。

 尚、主力艦隊は6個艦隊が編成されており、


 ウォルデ大陸東方 = 第一、第三艦隊

 ウォルデ大陸西方 = 第二、第四艦隊

 ウォルデ大陸北方 = 第五艦隊

 ウォルデ大陸南方 = 第六艦隊


 となっている。

 この内、特に割を喰っているのが第一艦隊であり、戦艦までもが1隻取り上げられてしまっている。

「寄り合い所帯同然とは言え、今望める最高の戦力には違い無い。」

 メイターの言う通り、現在の艦隊は寄せ集め同然である。

 だが、それでも立ち向かわなければならない。

『間も無く、西部地域に入ります!』

「全艦へ通達、これより輪形陣へ移行する!」


「メイター司令の第二艦隊と共同か・・・」

 ビルは、メイターの事はよく知っている。

 戦闘となれば攻撃精神旺盛で、荒々しいとの評判である。

「あまり、無茶な命令はしないで欲しいね・・・」

 覚悟を決めたメイターとは対称的に、ビルは及び腰のままであった。


 正反対の指揮官に率いられ、センテル艦隊は勇ましく進んで行く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ガリスレーン大陸南西海域



『定時連絡 異常無し』

『定時連絡 先程、海獣を一体発見 航路から外れている為、放置した』

『定時連絡 異常無し』

『定時連絡 センテル艦隊の西進を確認した 各艦、所定の位置へ移動せよ』



 戦車駆逐車と自走砲がほぼ同じ物になっていますが、それぞれで使い分けています。

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