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第百三十話  歴史は繰り返す

 投稿頻度を指摘されてしまった。

 センテル帝国  国防部



 此処では、主立った将官が一同に会していた。

「暁帝国より情報が入った。西部地域へ向けて東進中の艦隊を確認したとの事だ。」

 開口一番、アーノルドが特大の爆弾を叩き込んだ。

 全員がどよめくが、意に介さず続ける。

「編成は、暁帝国へ攻め入った艦隊と同じ様だ。これを我が軍が迎え撃たねばならない。」

 メイジャーが、明らかに格上な相手である事は全員が認識している。

 よりにもよって自分達が矢面に立たなければならない事実に、絶望的な空気が蔓延する。

「フラムセントの第二艦隊、ペルヒの第四艦隊に出撃命令を出す。予備として第一地方艦隊も待機させる。敵の出方次第だが、アウステルト大陸沖かガリスレーン大陸沖でぶつかるだろう。」

「待って下さい、敵には有力な潜水艦戦力があります。ノコノコ出て行けば一方的に狩られてしまいます。」

 参謀の一人が、慌てて反対する。

 センテル艦の対潜能力は、投下型の爆雷を駆逐艦と軽巡洋艦へ装備し、捜索は暁帝国から輸入したパッシブソナーを軽巡洋艦へ装備しているのみである。

 捜索だけならばソナーの性能上苦労は無いが、戦闘は対潜戦術が途上にある上に攻撃手段が限られている為、返り討ちに遭う危険が高い。

 ただでさえ格上の敵と相対しなければならない中、その前段階で被害を受ける余裕は無い。

 しかし、その被害を防ぐ手段を持たないのである。

 であるならば、態々遠方へ出張るなど悪手でしか無い。

「そんな事をしてみろ、西部地域諸国は見捨てられたと考えて我が国を敵視するぞ。」

 暁帝国を中心に纏まっている東部地域と違い、西部地域は全体を纏め上げる勢力が存在しておらず、情報共有の発想が同盟国間でしか存在しない事から、未だにメイジャーの存在そのものを認識していない国も存在する。

 この為、已む無くセンテル帝国が音頭を取る形でメイジャーへ対抗する態勢を整えているが、それはセンテル帝国が西部地域の安全に大きな責任を負う事を意味する。

 冷戦時代の米ソがそうであった様に、自身の主張する体制へと他国を巻き込む行為は、それを維持する為の負担を抱え込む事となる。

 西部地域を本格的に動かしたのはセンテル帝国であり、格上が相手であろうとも見捨てる事は許されない。

「しかし、これでは万に一つも勝ち目は・・・」

 尚も言い募ろうとする参謀を手で制し、口を開く。

「実はな、昨日暁帝国の武官と話をしたのだが、彼等が援護してくれるのだそうだ。」

 またも全員がどよめく。

「そんな馬鹿な!暁帝国は、全艦艇が海獣対策で手一杯な筈では無かったのですか!?」

「此処からは、暁帝国の機密に抵触する内容だ。心して聞け。」

 アーノルドの口調が変わり、一同は姿勢を正す。

「諸君の指摘通り、今の暁帝国は海獣対策で手一杯の状況だ。ただしそれは、目に見える範囲での話だ。」

 言っている意味が解らず、首を傾げる一同。

「目に見えない範囲、つまり海中は話が異なると言う事だ。」

「で、では、潜水艦を!?」

「その通りだ。武官の話では、数隻が常時西部地域海域で活動しているらしい。」

 暁帝国に関しては驚き疲れている一同も、流石に驚愕を禁じ得なかった。

 東部地域の東端から遥々西部地域まで誰にも悟られずに展開するなど、想像する方が無理な話である。

 どれ程技術が進歩しようとも、補給や整備が必要と言う大前提は覆らない。

 今回の話は、その大前提を覆しているとしか思えなかった。

「信じられない気持ちはよく分かるが、事実として聞いてくれ。詳細な配置や数は公開されなかったが、西部地域へやって来たついでに海獣を6体撃破したそうだ。」

 彼等の軍人としてのプライドが疼く。

「そして現在も潜伏中との事だが、この海域を通る様にして欲しいとの事だ。」

 地図を出し、ガリスレーン大陸南西の海域をマークする。

「この海域を通れば、向こうから連絡を寄越してくれるらしい。」

「・・・で、では、艦隊へその旨を伝えます。」

「それは良いとしても、全てを防ぎ切れる保障はありません。上陸された場合を想定して戦力を配置すべきかと・・・」



 西海岸  軍港 ペルヒ



 センテル帝国の中でも西海岸に於ける最大の軍港。

 主力艦隊、地方艦隊各一個が配備されている他、多数の揚陸艦、輸送艦、練習艦、試験艦等々、あらゆる艦艇が集まる一大策源地となっている。

 旧日本海軍で言えば、ハークは呉、フラムセントは横須賀、ペルヒはトラックとなる。

「国防部より命令です。直ちに出撃準備を整え第二艦隊と合流、そのまま西進せよとの事です。」

 海軍司令部の一室で、第四艦隊司令官である ビル は部下から上層部の命令を何も言わず耳に入れた。

(西進・・・と言う事は)

 敵の正体を察し、音も無く青ざめる。

 メイターと対称的に寡黙と評判のビルだが、その実艦隊司令官としては若手であり、余計な言動をしない様にしているだけである。

 その様な姿勢から戦況判断は悪くないものの、決断力に劣る。

「第四艦隊全艦に出撃準備を発令、補給艦も随伴させる。」

「了解しました。」

 部下が出て行ったのを確認すると、頭を抱えて深く溜め息を吐いた。

「どうしてこうなった・・・」

 ビルの心中など関係無く、時間は無情に過ぎて行く。


 


 ・・・ ・・・ ・・・




 エイグロス帝国  ペイルスケープ



 出撃した鎮定海軍第十二艦隊は、補給と休養の為に近代化の進むエイグロス帝国へ立ち寄っていた。

 中でも、元は小さな漁村に過ぎなかったペイルスケープは港湾として最適な地形をしており、最優先で開発が進められた。

 絶え間無く大量の物資が揚陸される光景は、政府関係者を驚愕させると同時に村民を恐怖させた。

 刺激の多い都市部の人間はともかく、代わり映えのしない暮らしをしている者からすれば、前例の無い巨大船を目撃しただけで恐怖にひれ伏す騒ぎにまで発展しても不思議では無い。

 結局、旧来の施設は取り壊され、住民は立ち退く事となった。

 多少の不満はあれど、恐怖心からとは言え順調に立ち退きが進んだ事に政府は安堵し、開発は一気に進んだ。

 細かな補修や建設は未だに続いているものの、艦隊の停泊は問題無く行えた。

「大分形になってるな。」

 旗艦の艦橋から湾岸を眺める男が呟く。

 彼は、艦隊司令官となっている コート である。

 彼もメイジャーの一人だがややせっかちな一面がある為、主要メンバーの慎重を重ねるやり方に不満を持っている点で他と大きく異なる。

(東進するのにこの地を開発する必要があるのは解るが、いくら何でもチンタラし過ぎだ!)

 流石に補給の問題を疎かにはしないが、出撃に漕ぎ着くまでの時間が長過ぎだと内心苛立っており、此処で停泊する事で生じるタイムロスを考えると頭痛がした。

「失礼します!乗員の半舷上陸を開始しました!」

 部下の報告で下を見ると、多数の内火艇が乗員を乗せて桟橋へ向かう様子が確認出来た。

「補給だけで96時間も掛かったか・・・上陸時間は24時間だ。もう半数と合わせて48時間、それから火を点けて航行可能になるまで約12時間、出港まで後60時間だ。」

 補給作業が終了し、残りが乗員の休養となった事で出撃までの時間を計算し直す。

 一時間単位で全て計算している所が彼の性格を表している。

「156時間・・・!」

 十分許容範囲と言える数字だが、コートにとっては不満しか無かった。

「あの大陸に押し込められてから長い時間が経った。やっと外に出れたと思えば、こんな所で立ち止まる羽目に・・・もう十分待った。アイツは・・・」

 そこで口を閉ざす。

 それは、私怨に過ぎない。

 この戦いには、メイジャーとハルーラの行く末が懸かっている。

 コートは、個人的な理由で全てを御破算にする様な愚か者では無い。

「・・・・・・後僅かだ・・・ほんの僅かだ。」

 何度も言い聞かせる、「後僅かだ」と。

 時間はゆっくりと、だが確実に進んで行く。




 ・・・ ・・・ ・・・




 遠くに煙が見える。

 どす黒いその煙は、焚き火や自然の火災では無い事が解ってしまう。

 直接その災禍を目にせずとも、それを理解出来てしまう程に積み上げられた実戦経験が、今だけは煩わしく思う。

「どうしてこうなった・・・?」

 問い掛けた先には、倒れ伏している三人の人間が見える。

 だが、誰一人として返事を寄越さない。

「スノウ・・・シルフィー・・・カレン・・・」

 そこまで言って、漸く自分も倒れている事に気付く。

 ふと気配を感じて視線を移すと、二人の人影が見えた。

 一人は憤怒の表情で、もう一人は瀕死の傷で向かい合っている。

 二人は駆け出す。

 互いが互いを打ち倒す為に。

「ああ・・・」

 分かってしまった。

 分かってしまったからこそ思わず声が漏れた。

 勝つ方法は何通りもあった。

 だが、全て失敗した。

 今更、決死の覚悟で突っ込んでも決して勝てない。

 一瞬後、鮮血が飛び散った。


 「レオン!」


 その叫びに対する返事は返って来ない。

 感傷に浸る間も無く、勝ち抜いたもう一人は最後の一人へと近付く。

 立ち上がろうとするも、既に身体は砕かれ身じろぎすらも困難極まる有り様であった。

 直後、振り下ろされた拳によって視界は閉ざされ、


 汗だくになったフェイは目を覚ました。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ピルシー帝国



「フゥ・・・フゥ・・・」

 起き上がったフェイは、額に手を当てつつ呼吸を整える。

「今度はフェイですか・・・」

 目を擦りつつスノウが起き上がる。

「悪い、起こしたか。」

「気にしなくていいわよ。あたし達もやっちゃったしね。」

 カレンの言う通り、此処数日に渡って五人の誰かが悪夢にうなされて目を覚ます事態が繰り返されていた。

「それで、どんな夢を・・・?」

「同じだ。」

 全員が沈黙する。

 見る悪夢は揃いも揃って同じ内容ばかり。

 強大な誰かに皆殺しにされる夢ばかりである。

「何かの予兆でしょうか?」

「近い将来に俺達は全滅するってか?」

「ハァ、縁起でも無い・・・」

 何とも言えない感覚に覆われるも、何となくやらなければならない事がある様な気もする。

「相談してみましょう。」

 沈黙と嫌な気配に耐え兼ね、スノウが提案する。

「誰に何を相談するって?」

「暁帝国へ向かいます。彼の国の技術なら、何か分かるかも知れません。」

「なら、さっさとアルーシ連邦へ行くわよ。こんな気持ち悪い感覚が続くのは耐えられないわ。」

「それがいい・・・。どうせ、この大陸にいても殆ど暇だし・・・。」

 ハレル教徒の活動は現在までに極めて低調となっており、現地警察の警戒の度合いも下がり続けている。

 既に、死者を出す程の事件は無くなっており(ハレル教徒関係のみ)、囮作戦を展開する必要性を疑問視する声も上がり始めている。

「・・・よし、なら行こう!」

 レオンが努めて元気良く声を上げる。

「深夜に大きな声を出さないで下さい!」

「そのせいで追い出されたらどうすんだよ!?」

「あたし達も文句を言われるのよ!」

「時と場を考えて・・・!」

 今一つ絞まらないものの、当面の方針は決まった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ボルゴノドルフ大陸  メイジアVlll



「コートさんを行かせたのは、些か早計だったのでは?」

 サハタインの私室で、ルードは言う。

「奴の性格が艦隊指揮官に向かない事は百も承知だ。だが、そうなった原因を考えれば、奴を抜いて話を進める訳には行かん。」

 サハタインは答えるが、ルードの持ち込んだ報告書の山に埋もれて顔が見えない。

「ですが、そのせいで要らない損害が生じる公算が大き過ぎます。」

 その意見には答えず、サハタインは報告書を読み漁る。

「今の所は確認されていない様だが、被支配層を煽動した実験体はどうなっていると思う?」

 ルードは、驚きと呆れが入り交じった表情をする。

「あの実験体は人間族です。今も生きているなど有り得ません。」

「その子孫はどうだ?」

「あの血を引き継ぐ者がいたとしても、相当薄まって他の有象無象と見分けを付けるのは難しいかと。」

「世代を超えた力の継承に関して研究は行ったか?」

「い、いえ・・・」

「つまり、100%の保障は出来ないと言う事だ。」

 ルードは、今度こそ何も言えなかった。

「失敗は許されんと言っただろう。あらゆる事態を想定するとはこう言う事だ。コートはあの災厄を誰よりもよく知っている。誰よりもな。」

 ルードは頷く。

「今度は、遅れる事は無いでしょう。」



 メイジャーの設定を事前にもっと練っておくべきでした。

 お陰で一話を描き上げるのにかなりの時間が掛かる。

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