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第百二十七話  容赦無い障害

 お待たせしました。

 評価ポイントが、1000を突破しました。

 ありがとうございます


 お知らせ

 活動報告で行っている感想への返信ですが、大幅な手直しを行いました。

 暁帝国  東京



 第一艦隊が横須賀へ帰投し、東京では定例化したボルゴノドルフ大陸に関する報告会が開かれた。

「それでは、現在までに判明している敵情について説明します。」

 帝国航空宇宙開発機構より出向して来た 糸井 秀吉 が立ち上がる。

「偵察衛星による調査により、最初に接触した巡視船の報告と合わせ、メイジャーの技術レベルは概ね1944年から1945年である事が分かりました。」

「ジェット機やミサイルは実用化してるのか?」

「ジェット機は確認されていませんが、ロケットの発射施設と思われる大掛かりな設備が大陸各地で発見されています。具体的な軍事力に関する説明は後程行います。」

(V-2の様な兵器があるかも知れないな・・・迎撃手段を整備しておいて正解だった。)

 V-2は、宇宙を飛んだ世界初の人工物である。

 後の弾道ミサイルの走りとも言える兵器であり、通常の対空装備では迎撃は難しい。

「次に都市の分布ですが、大きな偏りが見られます。」

 そう言うと、スクリーンにボルゴノドルフ大陸の夜景が映る。

 何も無い場所は真っ黒だが、人口密集地には光が集中している。

「御覧の様に、海岸沿いや河川沿いに主要都市が集中しています。特に、海岸沿いはメガロポリスが形成されており、巨大な生産力を誇ります。」

 防衛上の事情なのか、人口が足りないだけなのか、大陸の多くは真っ黒であり、ロシアの様に都市が各地に点在している。

 そして、海岸沿いは帯の様に光が伸びている。

「大陸の東西の島も同様の傾向が見られます。具体的な数値ですが、敵の国力は同時代のアメリカの2倍以上、総人口は4億前後と推定されます。私からは以上です。」

 次いで、山口が立ち上がる。

「それでは、現在までに確認されている戦力について報告します。」

 そう言うと画像が切り替わる。

「秘密裏に偵察機を大陸西側の島へ飛ばし、高高度偵察を行いました。以降、東西の島を<西亜大陸><東亜大陸>と呼称します。」

 画像は、西亜大陸近海を拡大する。

「此方を見て下さい。敵主力艦隊の一部を捉えました。」

 そこには、100隻を優に超える大艦隊の姿があった。

「詳細に分析した所、先の海戦で投入されていたよりも高性能な艦で構成されています。」


 戦艦 = アイオワ級

 空母 = エセックス級

 重巡洋艦 = バルティモア級

 軽巡洋艦 = クリーブランド級

 駆逐艦 = ギアリング級

 潜水艦 = ガトー級


「だとすると、今回の艦隊はただの先遣隊か。」

「或いは、威力偵察と思われます。」

 この世界の水準を大きく上回る大艦隊を、威力偵察に使える贅沢な実情に嫉妬を覚える。

「この他に、後方の維持を担うと思われる護衛戦力も確認されています。画像に表示している規模の艦隊が複数遊弋していると思われるので、攻勢に出る場合は弾薬の消耗に細心の注意が必要になります。それと、旧式艦で構成される艦隊ですが、西部地域制圧用に温存されている艦隊があると推測されます。」

 沖縄戦や、最悪ノルマンディー戦に匹敵する規模で、それも当時の最新鋭戦力で固めた艦隊でやって来る可能性があると言う事である。

「これ、大丈夫か?」

 現代軍は、これ程の規模の敵を相手にする事は想定しておらず、圧倒的な数の優位を確保した敵軍との戦闘を想定している暁帝国軍と言えども、苦戦は必至である。

「夕張級を実戦配備します。海上戦力、航空戦力共に、一網打尽に出来ます。」

 それまでの戦闘効率の悪さから、一撃で多数の敵戦力の撃破を目的に開発されたのがレールガンであり、そのレールガンを搭載しているのが夕張級である。

 レールガンには三種類の弾種があり、対空 対艦 対地に使用出来る。


 通常弾

 マッハ8で撃ち出され、200キロの射程を持つ。

 あらゆる艦種を一撃で粉砕可能であり、装甲目標も複数隻を同時に貫通出来る。

 対地攻撃も可能であり、莫大な運動エネルギーによって地下十数メートルの陣地を破壊し、着弾の余波で周囲を大きく損壊させる威力を持つ。

 反面、弾道が直線である事から間接射撃が行えず、山等の障害物の先にある目標は攻撃出来ない。


 対空弾

 意図的に刻まれた溝により、広範囲に凄まじい衝撃波を撒き散らす。

 射撃直後は味方へ被害を与えない為に弾頭に覆いがされているが、摩擦熱によって約1秒後に蒸発し、接近する航空機を衝撃波によってバラバラに吹き飛ばす範囲兵器である。

 効果は大きいが、刻まれた溝によって耐久性に劣り、射程は50キロ程度となっている。


 特殊貫通弾

 貫通性を極限まで追求した実験弾。

 その貫通力は、複数の戦艦を縦に貫き通しても尚余裕のある程である。

 あまりにもオーバースペックであると同時にコストも莫大である為、実験用に8発が保管されているのみとなっている。


「もう使えるのか?」

 これまでの試験で、レールガンはトラブルの宝庫となっていた。

 爆発事故 コンデンサーの融解 反動による津波の発生 電力のショートによる漂流・・・・

 実戦となれば即致命傷となるトラブルが目白押しであり、あまり積極的に使おうとは思えない。

「既に、実戦に耐え得るレベルになっています。二番艦 黒部 は調整に暫く時間を要しますが、夕張は出撃可能です。」

「すぐに第二波が来ても大丈夫みたいだな。そっちはそれでいいとして、海獣は?」

「そちらが問題です。」

 怪獣の出現数は増加の一途を辿っており、暁勢力圏も例外では無い。各地の情報を集計した結果、確認されている数は350~400体、現在までに駆除した数は90体となっている。

 駆除がまるで追い付いていない事で、撃沈された船舶は確認出来る範囲で100隻を超えている。

 この状況に暁帝国は、海軍の約半数をセイルモン諸島海域からウォルデ大陸南方航路の防衛に充てており、残りを暁勢力圏及びボルゴノドルフ大陸方面へ向けている。

 この内、主力艦隊は全て海獣駆除に駆り出されており、大陸方面の戦力は少ない。

 また、潜水艦は西部地域を含む全域の哨戒を担っており、主に敵艦の通商破壊を警戒している。

 海上保安庁は、海軍と共同で海獣駆除を行っているものの、巡視船に対潜能力が無い事から無理な事はせず、治安が不安定な海域にある程度の戦力を集中させている以外は、大陸方面へ注力している。

「この様に、深刻な戦力不足に陥っています。各国も成果は挙げていますが、影響は微々たる物です。この為、やむを得ずミサイル艇の投入が決定しました。大した事は出来ませんが、牽制にはなる筈です。」

 技術的に余裕がある筈が、海獣の存在がその余裕を完全に消し去っていた。

「夕張がいても、この状況で攻め込まれたらマズくないか?」

「空軍との連携で解決出来ます。それと、潜水艦も潜伏していますから、そう簡単には行きません。」

「分かった。とにかく、早急に海獣を駆除しないと防戦一方だし、経済にも悪影響が出る。」

 メイジャーと対峙する前に、まずは海獣の殲滅を行わなければスタートラインにも立てない。

 全世界が、これまで以上に駆除を急ぐ。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ピルシー帝国



 何も無い荒涼とした平原に雄叫びが響き渡り、地響きが一帯を揺らす。

「カレン、そっちに行ったぞ!」

 世界を荒らし回っている脅威は、海獣だけでは無い。

「シルフィー、今だ!」

 多数を駆除出来ている海獣と異なり、絶対数は少ないながら多大な被害を与えている存在。

「フェイ、大丈夫か!?」

 海獣と時を同じく動き出した存在。

「スノウ、頼む!」

 龍も無視出来ない脅威である。

「レオン、やれ!」

「うおらぁぁ!」

 レオンは体を一回転させ、そのエネルギーを剣に乗せて背中を斬り付ける。



 ガイイィィィィィィィン



 鱗は貫けなかったが、あまりの力に踏ん張りが利かず、龍はよろける。

「チャーンス!」

「隙あり!」

 瞬時にフェイとカレンが距離を詰め、龍の足を払う。



 ズズウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン



 堪らずうつ伏せに倒れ、衝撃で地面を揺らし、砂塵が舞う。

「焼き尽くす・・・!」

「死になさい!」

 シルフィーは特大の火球を放ち、スノウは突風の刃をぶつける。



 ガ・・・・・・カ・・・・・・



 突風に体を切り裂かれ、風で勢いを増した火球に焼かれ、龍は暫く悶えた後に息絶えた。

「フゥ・・・」

 龍の死を確認したレオンは息を吐く。

「大した事無かったな。」

 フェイは、気楽に口を開く。

「一発喰らってたフェイの言う事・・・?」

 シルフィーは、フェイへ冷めた視線を向ける。

「体格の割に機敏に動きますね。接近戦を挑むのなら、今以上に気を付けましょう。」

 スノウは、早速分析に入る。

「それはそうと、また龍ね・・・」

 カレンの言葉に全員が黙る。

 彼等が龍を倒したのは、これで二度目である。

 一度目は、足止めを喰らったラングラードに於いて。

 そして、そこから鉄道でピルシー帝国領へ入った途端にこの騒ぎである。

 この影響で、彼等の乗っていた車輌は緊急停車を余儀無くされている。

「レオンが寝惚けるから・・・。」

「オイオイ、あの後何にもしてない筈だろ!?」

 黒歴史を掘り返されてしまったレオンは、赤面しながら慌てて弁解する。

「おーい、お前さん達、発車するから戻ってくれー!」

 そこへ、車掌が五人へ呼び掛ける。

「いっけね!モタモタしてる場合じゃねえわ!」

「早く戻りますよ!」

 五人が再度乗車すると、汽笛を鳴らして発進した。

「いやー、若いのに大したモンだぜ!」

「全くだ。正直、龍が視界に入った時は死んだと思ったね。」

「どうやったらそんなに強くなれるの?」

「お願いします!弟子にして下さい!」

 その後の車内は、五人を囲んでてんやわんやの大騒ぎであった。

 この五人が勇者一行である事を知る者がいなかった事も大きいが、命の恩人である彼等はイウリシア大陸に於いても英雄となりつつあった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ボルゴノドルフ大陸  メイジアVIII



「こ、これは・・・!」

「何と言う・・・」

 東部地域から艦隊が帰還し、どうにか生還したルードの報告を聞いた面々は開いた口が塞がらなかった。

 一応、撤退が必要な程の損害を負う事は想定されていたが、これはそれどころでは無い。

「型落ちの旧式ばかりだったとは言え、これはいくら何でも・・・」

 ファレスは、殊更に衝撃を受けていた。

「残存艦は、駆逐艦が10隻のみ・・・後方部隊がやられなかったのは幸いだが、尋常では無い。」

 サハタインも、動揺を隠せない。

「・・・・・・」

 ゼルベートは、驚愕を通り越して放心状態となっていた。

「詳しい戦況を教えて下さい。」

 ファレスが逸早く立ち直り、ルードへ促す。

「何と言えばいいのか、一方的でした。」

 ルードは、大きく三つに分けて話す。

 まずは、潜水艦との連絡があっという間に途絶えた事、

「そんな短時間で全滅したと!?」

「何をどうすればその様な事が・・・」

 次に、次善の策として一番島に対する航空攻撃を行った事、

「一切の入電が無かったと言う事は、全滅したとしか考えられない。」

「何か、被害を与えられていれば良いが、希望的観測は危険だ。」

 最後に、艦隊が全滅状態へ追い込まれた事を話した。

「ルードさん、その細長い物体の正体は何だと思いますか?」

 ファレスは、艦隊を攻撃したと言う物体について尋ねる。

「あの物体は、明らかに標的を追い掛ける動きをしてました。要するに、それぞれが割り振られた目標に狙って撃ち込まれてたと言う事です。形状やサイズからして、有人飛行は有り得ないと思いますね。」

 その言葉に、アドルカモフが反応する。

「待ち給え!話を聞く限りでは無人機を操作して突っ込ませているとしか思えんが、どうやって防空網をかわしたのだ?それに、目視圏外の目標に狙って当てるなど、現実的では無い!」

 鎮定軍の装備は、魔導管理局によって根幹技術が開発されて来たのである。

 その責任者として、ルードの報告は見過ごせる話では無かった。

「無人機でも、時速900キロを超えるのは現実的では無いと思いますよ?」

「じそくきゅうひゃく・・・?」

 アドルカモフは、思考が停止する。

「それに、プロペラが見当たりませんでした。」

 それを聞き、ファレスがハッとする。

「もしかすると、渡洋ロケットに類似した兵器では!?」

 全員が目を見開くが、同時に疑問符も浮かぶ。

「それならば確かに目視圏外からの攻撃が可能であり防空網も役に立たんが、動目標に対する攻撃は不可能では無かったか?」

「その通りです。また、精度もそれ程高くはありませんので、効果的なのは地上の固定目標のみとなります。」

 代表してサハタインが尋ねると、アドルカモフが答える。

 渡洋ロケットとは、V-2ロケットと同じ物である。

 弾道ミサイルと同じく上から落とす方式であり、誘導は容易だが精密に特定の目標を狙う事は出来ない。

 着弾すれば実害は出るが、どちらかと言えばハラスメント効果の方が大きい兵器である。

「それに、弾道も渡洋ロケットとはまるで違いますよ。」

 ルードが、更に注釈する。

 撃ち込まれた物体は超低空飛行でやって来た挙げ句、着弾直前に急上昇をやってのけたのである。

 大雑把な渡洋ロケットとは、対極に当たる精密さである。

「ルードさんの目がおかしくなったと思いたいですが・・・」

 ファレスが思わず零すが、今回ばかりはサハタインも何も言わなかった。

「戦略を根本的に見直さねばならんかも知れんな・・・」

 サハタインの重々しい呟きに、全員の目が曇る。

「クク・・・ク、ク・・・!」

 そんな中、ゼルベートが肩を震わせ始める。


「最高じゃ無ェか!」


 直後、立ち上がって叫んだ。

「ゼルベート、狂ったか?我等の長年の準備が水泡に帰そうとしているのだぞ。」

「そうじゃ無ェよ!」

 サハタインの非難の言葉を一蹴し、語り始める。

「俺はな、嬉しいンだよ!手応えのある強敵が見付かってな!雑魚狩りしか出来ねェと思って腐ってたが、こうしちゃいられねェ!早速対応策を考えるゼ!」

 そう言うや否や、早速駆け出す。

「ゼルベート、西にばかり気を取られるな。エイグロス帝国の拠点化が完了次第、東でも動くのだぞ。」

「わーかってるわ、ンな事ァ!」

「・・・大丈夫でしょうか?」

 ゼルベートの足音が聞こえなくなったのを確認してから、ファレスが口を出す。

「言いたい事は分かるが、この状況ではあの方が良いだろう。それより、セレンを呼んでくれ。暁帝国の情報分析をやり直さねばならん。」

「これ以上の時間を掛けるのは悪手では?」

「幸い、置き土産が想定以上の成果を上げている。もう暫くは時間を稼げるだろう。」

「それにも限度があります。急ぎませんと・・・」

 メイジャーの計画はその第一歩から大きな躓きを見せてしまった。

 しかし、彼等は歩みを止める事は無い。

 世界が海獣に翻弄される中、その隙を突いて態勢を立て直す。



 リアルのレールガンがどんな運用をされるのか気になります。

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― 新着の感想 ―
[一言]  リアルレールガンは発電装置と砲身と砲弾のコストと性能の戦いだったような?  古い知識だが、原子力発電所使って電気を確保しても砲身の磨耗と砲弾のコストがヤバイはず。  砲身を交換前提のコスト…
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