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第百二十五話  前哨戦2

 失踪中に評価者数が100人を突破していました。

 更新していない時にも見て下さる人がいて、嬉しい限りです。

 第一艦隊  旗艦 鳳翔



「潜水艦 伊-103より入電。[我、敵潜水艦ヲ撃沈セリ]以上です。」

「これで、撃沈数は20隻か。」

 艦隊司令官である井上は、落ち着いた様子で呟く。

 そして、脇に控える幕僚を見る。

「現在までに、新たに発見された敵艦はありません。潜水艦は、残り2隻で間違い無いかと。」

 井上の視線の意味を察した幕僚は、淡々と答える。

「なら、次はどう動く?」

 幕僚の意見を聞いて頷いた井上は、更に聞く。

「このまま敵艦隊へ接近しつつ、対艦装備の航空隊を発艦させます。目標は、戦艦と空母です。」

「理由は?」

「今必要なのは、間髪入れない追撃です。恐らく、潜水艦を多数撃沈している事は敵の通信体制から考えて、既に把握し始めていると判断すべきです。であるならば、我が方の次の動きが遅れれば遅れる程、敵に対応の隙を与える事へ繋がります。そうなる前に、敵艦隊を戦闘不能状態へ追い込むべきです。空母がやられてしまえば、制空権が完全に此方の物になります。戦艦がやられてしまえば、艦隊全体の抗堪性が大幅に下がります。」

 少しの沈黙の後、決断する。

「よし、その案で行くぞ。すぐに発艦準備を進めろ。」

「了解しました」




 ・・・ ・・・ ・・・




 鎮定海軍  第十一艦隊


「先程、新たに3隻との交信が途絶したとの報告が入りました!」

「これで20隻・・・どうなってやがる・・・どうなってやがるんだ!?」

 ルードは、立て続けに入って来る味方艦との交信途絶の報告に荒れ狂っていた。

 潜水艦の動向は隠密行動である以上、味方と言えども定時連絡以外に把握する術を殆ど持たない。

 それ故、現時点で判明している事は20隻が撃沈された<らしい>と言う事だけである。

 情報が酷く限られている事もそうだが、1隻目が交信を絶ってからまだ5時間も経っていない。

 これ程の短時間で発生した恐るべき損害は、ルードの余裕を崩すには十分過ぎるものであった。

「敵を発見した艦は無ェのか!?」

「現在に至るまで、敵艦隊発見の報は入っておりません!」

 厳密に言えば、撃沈された=敵と接触した と言う事となる。

 とは言え、それを報せる事が出来なければ、発見出来なかったも同然である。

(いくら何でも異常過ぎる・・・!だが現状から考えれば、敵を見付けた艦は片っ端からヤられてるって事だ!そんな真似、俺達が最新鋭艦隊を使っても無理だぞ!?)

 そう考えた時、ふと脳裏にある情報が浮かぶ。

「・・・航空参謀」

「此処に」

 ルードの呼び掛けに、後方に控える幕僚の一人が応える。

「スクランブルに就いてる艦以外の艦載機を発進させろ。目標は、東側諸島一番島だ。」

 一番島とは、伊豆大島の事である。

「理由をお伺いしても?」

 現在、航空隊は対艦装備で出撃待機中である。

 今更、作戦を此処まで大きく変更しては、余計な混乱に見舞われる事間違い無しである。

「連中の対潜能力について少し考えてみたんだが、航空機を使ってるかも知れねェ。」

「航空機で此処までの被害が出たと仰るのですか?」

 場が騒付く。

 彼等にとっての航空機による対潜作戦とは、やってはいるものの無いよりマシ程度でしか無い。

 常識的に考えれば、空からの爆雷投下で海中目標へ当てるなど、榴弾砲を特定の目標へ直撃させる様なものである。

 当てられずとも嫌がらせにはなる為、この方法を否定する者こそいないが、ルードの予測を真に受ける者もいない。

「お前等も敵の情報には目を通しただろ?」

「それは勿論。ですが・・・」

「その中にあった空中静止が出来る航空機だ。」

 幕僚は、揃って目を見開く。

 彼等の思い描く航空機とは、空力的に一定以上の速度で動き続ける事しか出来ないものである。

 だからこそ、攻撃以前に投弾可能な位置に着く事自体が困難となる。

 しかし、空中静止が可能となれば話は変わる。

 事前情報から速度は極めて遅い事は判明しているが、船と比較すれば圧倒的に優速である事は間違い無い。

 そして、通常の航空機とは異なる極めて自由度の高い機動により、素早く攻撃位置に着ける。

 しかも、潜水艦から航空機の補足は不可能である。

 事の重大性を理解した幕僚は一斉に青ざめた。

「ったく・・・セレンの予想通り、まんまと先手を打たれちまったってワケだ・・・!」

 ルードは、悔しげに吐き捨てる。

「としますと、敵艦隊にも同様の機体が搭載されているのでは?」

「ま、そうだろうな。それで、敵艦隊は何処にいる?」

 口を開いた幕僚は、ルードの問い掛けに口を閉ざす。

「しかし、それでは雷撃機が出せません。攻撃不十分になる恐れがあります。」

「航空参謀、言いたい事は分かるが距離を考えろ。」

 現在、第十一艦隊から伊豆大島まで約800キロある。

「雷撃機の航続距離だと限界ギリギリだ。余計なリスクは避けたい。」

「では、装備換装を行いつつ安全な距離まで接近すれば」

「先手を打たれてる今の状況が安全だと思うか?」

 誰も反論出来ない。

「万全を期すやり方は間違いじゃ無い。だがそれは、万全を期す余裕があればの話だ。今は、時間が無い。」

 方針は決まった。

「ヤクト アルトイズ ハンテロ ウェイク へ攻撃隊発進を下令します。」


 指揮下の空母6隻中4隻が、発艦態勢へと入る。

「雷撃機を下げろ!急げー!」

「エレベーターが降りるぞ!注意しろ!」

「ブリーフィングは終了だ。」

『総飛行機発動』

 整備員が慌ただしく作業をしていると、艦橋から新たな指示が入る。



 ガラッ… カラカラカラカラ…ヴウウウウウウ・・・・



 次々とエンジンに火が入り、プロペラが勢い良く回り始める。

 主脚を抑えている要員は、その時を今か今かと待つ。

「とーりかーじ!」

「とーりかーじ・・・」

 全艦が、舵を左へ切る。

 見ると、甲板の先から吹き出ている水蒸気が、徐々に甲板と一直線となって行くのが確認出来た。

「もどーせー」

 遂に一直線となり、艦隊は直進する。

 すると、発艦士官が主脚を抑えている要員へ合図を送り、退避させる。

『発艦始めー 発艦始めー 』

 全ての準備が整い、艦載機の発艦が始まった。


 艦載機が発艦している様子は艦橋からも確認出来、ルードを含む艦橋要員はその様子を眺める。

(策源地を破壊すれば、敵の行動可能範囲を制限出来る。)

 これが、今の彼等に出来る精一杯の策である。

 先手を打たれた影響と動揺は大きく、まずは奪われた主導権を取り戻さなければならなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 伊豆大島  レーダーサイト



「東方向より、多数の国籍不明機が接近中!」

 画面を見ていたオペレーターは絶叫する。

「距離は!?」

「およそ700キロ、数は136、対地速度320キロで接近中!現在に至るまで、IFFに応答無し!」

「警報を出せ!」

 この情報は、直ちに実働部隊へと回された。



 大島空港



 この島の空軍の常駐戦力はレーダーサイトのみだが、現在は空港へ居候する形で戦闘機が駐留している。

 その為、民間機の立ち入りが制限されている状況にある。

 島民の立ち入りも禁止され、空港の職員以外は軍関係者のみが出入りするばかりであり、敵の接近に備えて忙しく動き回る喧騒も、空港の規模の割に少ない人員故に若干の物寂しさが漂っていた。



 ジリリリリリリリリリリリリリ



 そんな中、突如として警報が空気を揺らした。

「行くぞ!」


 「「「「応!!!」」」」


 控え室で待機していた搭乗員は瞬時に立ち上がり、愛機の待つ駐機場へと急ぐ。



 ヒイィィィィィィィィ・・・・



 愛機へ乗るとすぐにエンジンを始動し、機体は甲高い咆哮を上げ始める。

『管制塔より海鷲へ、滑走路へ移動せよ』

『海鷲、了解 滑走路へ移動する』

 始動した機体は順次誘導路へと侵入し、一列になって滑走路へと向かう。

『海鷲1へ、滑走路侵入を許可する』

 管制塔からの指示を受け、一機目が滑走路へと入る。

『海鷲1へ、離陸を許可する』



 ゴオォォォォォォォォォ・・・・



 後方へ派手に炎を上げながら、一機目の離陸が完了した。

『海鷲2へ、滑走路侵入を許可する』

 その後、全機が離陸を完了し、一路東へ向かう。

『管制塔より全機の離陸を確認した 以降は空中管制機の指示を受けろ これは演習では無い 繰り返す、これは演習では無い』




 ・・・ ・・・ ・・・




 一番島攻撃隊



『発艦より30分、順調に行程を消化中 周囲に異常は認められず』

 艦戦と艦爆で構成された136機の攻撃隊は、阻む者のいない空の上を飛行する。

 その見た目は、艦戦はF4Fと瓜二つであり、艦爆はSBDとなっている。

 現在の行程は順調そのものであり、敵地へ接近している事が信じられない程に静かである。

 正確には、攻撃隊の発するエンジン音が鳴り響いているが、それだけである。

 不自然な程に敵の気配が無く、鳥の一羽も見当たらない。

『隊長機より旗艦へ、レーダーに機影はあるか?』

『此方では、貴隊以外の機影は認められず』

 不気味な静けさに不安を募らせた隊長が尋ねるも、レーダーを以てしても異常は認められない。

『隊長機より全機へ、間も無く電波管制を開始する 警戒を怠るな』

 暁帝国の技術レベルから電波(正確には、電波に似た魔力)を探知される可能性が指摘されており、鎮定軍としては初となる電波管制が実施された。

(嵐の前の静けさで無ければ良いがな・・・)

 隊長は、更に静けさを増した空気を見て思う。




 ・・・ ・・・ ・・・




 防空隊



『此方空中管制機ホークアイ、防空任務に上がった各機に告ぐ 現在敵編隊は、伊豆大島へ依然接近を続けている 全機の集合を待つ余裕は無い そこで、これより臨時に再編を実施する』

 今回上がった部隊は、大島以外に本土からの増援もいる。

『大島の諸君は、第一飛行隊、コールサインをサンダーとする 本土から上がった諸君は、第二飛行隊、コールサインをレインとする』

『サンダー隊、了解』

『レイン隊、了解した』

 その後の指示により、サンダー隊はミサイルで可能な限り敵を減らし、残りはレイン隊が機関砲にて排除する事となった。

 尚、レイン隊は敵の具体的性能及び見た目の調査が含まれている。


 暫く後、


『サンダー1よりホークアイ、敵編隊をミサイルの射程に捉えた』

『サンダー隊、交戦を許可する 目標は前方の敵性航空機』

『了解 全機に告ぐ、これより攻撃を開始する 速やかに準備を完了せよ』

 隊長機の指示に従い、全機が機内へ格納されているミサイルを外へ出す。

『攻撃準備完了』

『・・・発射』



 シュパパパパパパパアァァァァァーーーーーー・・・・・



 一斉に撃ち出されたミサイルは、眼下を飛行する敵編隊へ向けて一直線に進む。

『・・・ 3 2 1 着弾』

 編隊内で多数の爆炎が上がり、136機の攻撃隊は一瞬で16機にまで数を減らした。

 残存機は、何が起きたかも分からず右往左往し始める。

『サンダー1よりホークアイ、任務完了 これより帰投する』

『此方ホークアイ、敵機の撃墜を此方でも確認した 御苦労だった、帰投せよ 次いでレイン隊へ、貴隊の出番だ 油断するな』

『レイン隊、了解 これよりドッグファイトに突入する』

 敵編隊上空へ到達したレイン隊は、一斉に急降下を開始した。



 攻撃隊



『どうなってやがる!?いきなり味方が消えたぞ!』

『残存している機体は集まれ!個別に飛んでいると、各個撃破されるぞ!』

『後部の乗員が破片で負傷した、エンジンの調子もおかしい!離脱許可を!』

 電波管制を敷いていた筈の攻撃隊は、無線でのやり取りを再開していた。

 それは、突然起きた。

 上方から何かが接近していると気付いた時には、全てが遅かった。

 その何かは、雷の様に一瞬で編隊の大半を喰い破った。

 堂々たる航空隊は、今や16機を残すのみである。

『上空より、敵接近!』

 無線から聞こえた声が、極度の混乱状態にある全員を正気に戻した。



 ヴウーーーーーーーーーーー



『クソがッ、何てスピードしてやがる!』

『初撃で8機も!?』

 彼等の想像を大きく超える速度で接近したそれは、機関砲の雨で残存機の半数を撃墜した。

 対応する暇さえ無く、残された8機はひたすら翻弄され続ける。



 防空隊



『ホークアイへ、確認出来る機体は二機種 F4FとSBDにそれぞれ酷似している 性能も、史実とほぼ変わらない模様』

『此方ホークアイ、了解した 残存機を殲滅せよ』

『レイン隊、了解』

 最後まで残った8機も、無慈悲な指示によってジェット機の嵐に消えた。

 伊豆大島空爆は完全に頓挫し、戦闘は最終局面を迎える。


『ホークアイより第一艦隊へ、敵編隊を殲滅した』

『第一艦隊了解 よくやった 後は、此方が引き継ぐ』



 次回、対艦戦

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