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第十話  交渉2

 現代の利器を見た異世界人がどんな反応をするか、実際に見てみたいですね。

 ビンルギー公国  首都 ブランスルー



「無視すべきです!さっさと追い返してしまいましょう!」

「そんな事をしたら、どんな目に合うか分からんぞ!」

「辺境の蛮族如きに、そんな力がある訳が無いだろう!」

「貴様は、あの報告を見なかったのか!?」

「嘘に決まってるだろう、あんな報告!」

「本当だったらどうするつもりだ!?」


 王城では、貴族達が侃々諤々の議論を繰り広げていた。


 スマレースト大陸は、北東から南西へ向かって伸びる太い蛇の様な形をしている。

 その南東部にあるのが、ビンルギー公国である。

 北西にハーレンス王国、北東にジンマニー王国があり、国境を接している。

 ハーレンス王国との同盟関係は、同王国の国防事情が密接に関わっている。

 長らくジンマニー王国と争って来たハーレンス王国だが、軍事的にはジンマニー王国の方が上手であり、侵攻などは望むべくも無かった。

 そこで、国境沿いに強固な防衛線を構築する事で対抗する方針を取っている。

 その為、ジンマニー王国はハーレンス王国を攻めたくても防衛線を突破出来るだけの戦力が無い為に膠着状態となっていたのである。

 だが、裏口があった。

 それが、ビンルギー公国である。

 国土の殆どが平地のビンルギー公国は、機動戦を得意とするジンマニー王国の絶好の攻勢発起点となり得る条件が整っているのである。

 此処から攻め立てれば、ハーレンス王国の側面を攻撃可能となる。

 とは言え、敵は少ないに越した事は無い為、ビンルギー公国を味方へ引き入れようとした事もあった。

 だが、露骨な軍事的圧力で服従を迫ってしまい、対等な関係を提示したハーレンス王国に外交戦で敗北してしまう。

 そして、ビンルギー公国はジンマニー王国との対決姿勢を明確にしたが、正面切ってジンマニー王国へ攻め入る力は無い為、開戦しない様に上手く立ち回る方針でやって来ていた。

 だが、国内には<強硬派>が存在し、「ジンマニー王国へ攻め入れ!」と主張している。

 強硬派と対立しているのが<公王派>であり、現状維持か和解を望んでいる。

 現在、暁帝国についての議論を行っているが、強硬派は「辺境の蛮族なんぞ追い返せ!」と主張し、公王派は「暁帝国は脅威であり、敵対するべきではない。」と主張している。


 議論は平行線を辿り、両派閥とも長引く議論に疲れが見え始める。

「私は、彼の国との会談に応じようと思います。」

 議論が止まった頃合いを見計らい、公王 イリス が発言した。

 彼女は、この世界では珍しい女性元首であり、その確かな手腕から女傑とまで呼ばれている。

「お待ち下さい!あの様な礼儀知らずの蛮族共に、陛下御自身が出向かれる事は御座いません!」

 早速、強硬派がこぞって反対する。

 黒船外交は、確かに礼儀知らずの所業と言えるだろう。

「いえ、彼等とは直接会って話をすべきです。それに、報告が本当かどうか直接目で見て確認します。」

「しかし・・・」

 尚も食い下がろうとするが、

「貴様等、陛下の御言葉が聞こえなかったのか!」

「・・・・・・」

 公王派のゴリ押しにより、会談を行う方針が決定した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 港湾都市 メイハレン



「先程、首都から連絡がありました。公王陛下は、貴国との会談を行う事を決断されたそうです。つきましては、ルージュと言う街を会談場所にするとの事ですので、移動の御用意をお願い出来ますでしょうか?」

 アクーラから使節団に対し、公王の出した結論が伝えられた。

「分かりました。ところで、そのルージュと言う街は此処からどの程度の距離がありますか?」

「そうですね・・・早馬で、丸二日程掛かります。」

「かなり掛かりますね・・・アクーラ殿、少し海岸をお貸し願えますか?」

「海岸を?」

 アクーラは、東郷の言っている意味が理解出来なかった。

「はい。我々は、馬よりも速く移動出来る手段を持参しています。」

 船団の編成に強襲揚陸艦が入っていたのはこの為であった。

 技術レベルから現代の船舶の入港は不可能であると判断し、LCACを搭載している強襲揚陸艦に白羽の矢が立ったのである。

「そ、そうでしたか・・・でしたら、街の南側の海岸がいいでしょう。」

 常識が全く通用しない暁帝国の実力に、アクーラは頷く事しか出来なくなっていた。


 暫く後、


 LCACに載せられた各種車両が、次々と海岸へ上陸して来た。

「ふ、船が陸地を走ってるぞ!」

「何て大きさだ・・・」

「何か降りて来たぞ。」

「鉄で出来た馬車?」

「馬もいないのに動いてる。」

「あいつ等は兵士か?」

「何とも地味な連中だな・・・」

 メイハレンの住民は、次々と上陸して来る暁帝国軍を興味津々で眺めていた。

 当初は得体の知れない者達の来航にパニックを起こしたが、攻撃の意思が無い事を理解すると落ち着いた。

 落ち着くと、彼等が何者なのかが気になりこうして集まっているのである。

 一式装輪装甲車 一式装甲偵察車 CBRNe戦闘車 HMMWV が揚陸されて行く。

「・・・・・・」

 あまりの光景に、アクーラは言葉も出ない。

(これ程とは・・・スマレースト大陸の総力を挙げても勝てないかも知れんな。)

「・・・殿、アクーラ殿?」

「ハッ、ハイ、なんでしょう!?」

 恐怖に支配されている所へ声を掛けられ、声が裏返ってしまった。

「間も無く準備が完了します。順調に行けば、明日の昼頃には着くでしょう。」

「そ、そうですか・・・では、私も同行させて戴きます。」

「お願いします。」

 少しして、彼等は出発した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 城塞都市 ルージュ



 交通の要衝に築かれたこの街は、ジンマニー王国の侵攻に備えて造られた。

 国の存亡を賭けていると言っても過言ではないこの街には、首都であるブランスルーよりも常備兵力が多く、防衛を目的としている事から警護がし易い為、要人同士が会談を行う場としてよく利用される。


「さて、どんな人達が来るのでしょうか・・・」

 イリスが呟く。

 既に、ビンルギー側の首脳陣はルージュに到着して暁帝国首脳陣の到着を待っていた。


 彼女が、ルージュを会談場所に選んだ狙いは二つある。

 一つ目は、立派な城塞都市を見せる事で、此方がどれ程の力を持っているかを見せる為である。

 二つ目は、相手の機動力を図る為である。

 ブランスルーとルージュは隣同士の為にすぐに着くが、メイハレンからは遠い。

 どれ程の時間で到着するかを見る事で、相手の機動力を見極めようとしているのである。


(それにしても、魔力を持たないなんて信じられないわね。)

 アクーラからの報告で、暁帝国人は魔力を持たない為、魔術を使えない可能性がある事も併せて報告されていた。

 ハーベストでは、魔術は一種のステータスである。

 まともに魔術を扱えない国は、蔑視の対象とまでなってしまう。

 それでも、全く魔術を扱えない国は存在しない。

「陛下、やはり我が方の提案を受け入れては戴けませんか?」

 隣にいる男がイリスヘ進言する。

 彼は、強硬派筆頭の イサダ である。

「相手が愚かな要求をして来れば、毅然と対応します。しかし、そうで無い限りは友好的に接します。」

 イサダの提案とは、服従要求である。

 アクーラの暁帝国に関する報告を殆ど信じていないイサダは、帝国が吹けば飛ぶ様な軍事力しか持たないと思い込んでいた。

 その根拠となっているのは、やはり魔力を持たないと言う報告である。

 流石に、一切の魔力を持たない事は有り得ないと結論付けてはいるが、その様な勘違いをしてしまう程に貧弱な魔力しか持たないと考えていた。

「しかし、辺境の蛮族共にその様な事など」

「辺境の蛮族かどうかは、これから分かります。」

 イサダは納得しなかったが、ひとまず引き下がる。

 入れ替わりで、連絡員がやって来る。

「失礼致します。陛下、先程アクーラ殿から連絡があり、本日の昼前に到着するとの事で御座います。」

「えっ、もう着くの!?確か、メイハレンを出発したのは昨日の夕方近くだった筈でしょう?」

 普段、ポーカーフェイスを崩さないイリスだが、今回ばかりは驚きの表情を隠せない。

「はい。何度も確認致しましたが、間違い無く昼前に到着するとの一点張りで御座います。」

「・・・・・・いけない、すぐに出迎えの準備をしないと。皆に伝えて頂戴。」

「畏まりました。」

 連絡員は、一礼して出て行った。

「思ったよりも厳しくなりそうね・・・」

 イリスはそう呟くと、出迎えの準備の為に駆け回った。




 ・・・ ・・・ ・・・




 明らかに場違いな車列が、ビンルギー公国の街道を走っていた。

 暁帝国使節団の車列である。

 無骨な軍用車両の中に、一台だけ立派なリムジンが混ざっていた。

 首脳陣が乗った車である。

「は、速いですなー」

 同乗しているアクーラが話す。

「その気になればもっと速く走れますよ。揺れが酷くなるのでやりませんけど。」

(もっと速く走れるのか・・・)

 次々と明かされる衝撃の事実に、アクーラはいい加減疲れて来る。

(これは魔道具ではないのか?だとしたら、どうやって動かしてる?)

 疑問は尽きないが、今考えるべき事では無い。

 目まぐるしく変わる外の景色に目を回しそうになりながらも、現在地を確認する。

 尚、アイラとアイナも同乗しているが、既に慣れているのか楽しくお喋りしていた。

「もう間も無く到着します。」

 そう言うと、アクーラは通信魔道具を使い、連絡を始めた。


 暫く後、


「フゥーー・・・」

 何度も同じ事を聞いて来る連絡員のせいで余計な疲れが溜まったアクーラだが、見えて来る外の景色に気付いてひとまず安堵した。

「おー」

 東郷が声を上げる。

 見ると、立派な城壁が佇んでいた。

「さて、此処からだな。」

 そう呟いて気を引き締め直すと、降車準備を始めた。




 ・・・ ・・・ ・・・




「そうか、ルージュか・・・」

「父上、いくら何でもあそこでは手が出せませんよ?」

「まだその時ではない。奴等の目的が分からん内は、手が出せない。」

「しかし、その会談で目的が分かりますかね?」

「あの小娘なら何とかするだろう。気に食わんが、そう言う事は奴の得意分野だからな。せいぜい頑張って貰うとしよう。」

「しかし、その会談で国交が結ばれる様な事になったら・・・」

「心配は要らん。我が方の首脳部には、イサダ様がいる。きっと愚かな選択を止めて下さるだろう。」



 次回から会談が始まります。

 

 陰謀も加速します。

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