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第百二十話  ハーベスト(収穫物)

 タイトルが、物凄く不穏になっちゃいました。

 暁帝国  東京



 メイジャーの艦隊が伊豆大島から出港した後、東郷の元では緊急会議が開かれた。

「それでは、説明します。」

 東部諸島から戻って来た松岡が、事の経緯を話す。

「見覚えのある艦ばかりだな・・・」

 寄港した艦の画像を眺めつつ、東郷は呟く。

「それで、砲撃までやらかしたと。」

「その通りです。」

「迎撃しただけで、反撃はしなかったとの事だが?」

 相手側の主張は自分勝手そのものであり、更には自分勝手な攻撃まで行った以上、何もせずに帰すのは良い対応とは言えない。

「反撃はしたかったのですが、撃沈してしまうとあの面々を捕虜として受け入れなければなりません。それに、直接会った面々の事を考えますと、一発や二発の反撃だけで済むとは思えません。雪達磨式に戦火が広がり、全艦撃沈となってしまうかと。それと、これを。」

「これは?」

 松岡が提示した資料は、上陸した幕僚の魔力反応である。

「この通り、常人の十数倍になります。」

 通常、十数倍の魔力受容量を持つ者は、上級以上の魔術師となる。

 現代の歩兵戦基準で中距離戦に限定すれば(個人戦ならば)、現代軍を凌駕し得る実力を持つ。

「そして、セレンと名乗った代表者なのですが・・・」

「・・・何だコレ?」

 常人の約200倍の魔力が表示されているが、反応が奇妙であった。

「詳しく調べた所、全属性の魔力を万遍無く内包している事が分かりました。恐らく、全属性に適性を持つと思われます。この事から、彼女は自称では無く、本物のメイジャーである可能性が高まりました。」

 適性の有無は、体内に内包している魔力の属性によって決まる。

 空気中に魔力が存在する関係上、全属性の魔力を体内へ取り込みはするが、内包出来る魔力量は属性毎に大きな個人差が存在する。

 この内包している量の多い属性の魔力が、適性のある属性となる。

 そして、初期の頃に判明した様に、適性は最大三属性までとなる。

「それ以外に関しましても、十分な戦闘力を持っている事は確実です。撃沈して救助した場合、味方艦を強奪、ないしは撃沈される恐れすらあります。救助を実行しなかったとしても、メイジャーの能力は未知数です。そのまま泳いで帰還したり、或いは海中からの破壊工作すら実行する恐れがあります。」

 普通の人間であっても、訓練次第で可能な芸当である。

 その気になれば、潜水艦ですら大損害を負わせる事も出来るが、これを能力の高いメイジャーにやられた場合、大損害どころでは済まない恐れすらある。

 一個人である為に捕捉自体が困難極まるものであり、補足したとしても止められる保証は無い。

「考え過ぎだと思いたいが・・・」

「実情が分かっていない以上は、今は静観が最善と判断します。」

「・・・分かった。こんな所で引っ掻き回されたら目も当てられない。だが、攻撃された以上は戦時体制へ移行するしか無いな。それはそうと、センテル帝国はどうしてる?」

「慌てて警戒態勢を強化しています。もうそろそろ、向こう側の艦隊が到着する筈です。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  フラムセント



 この町は、西海岸の港湾都市であり、ハ―クと並ぶ有力な海軍工廠が設置されている。

 最近の軍備更新の煽りからこの町は活況を呈しているが、現在の騒ぎは緊張を伴っていた。

「主力艦隊が全艦出撃とか、観艦式以外で起こるとは思わなかったな・・・」

「いや、分からんぞ。暁帝国艦隊がやって来たなら、主力艦隊を出さないとむしろ失礼だろうからな。」

「暁帝国は東部地域の国だぞ。西海岸に来ると思うか?」

 フラムセントは、主力艦隊の一つである第二艦隊の根拠地となっている。

 同時に、第一地方艦隊の根拠地でもある。

 主力艦隊はその戦力の大きさから、観艦式以外では全艦を一度に出撃させる事は戦時以外にあり得ない。

 その有り得ない行動を起こしている事が、市民に対する不安を煽り立てていた。



 第二艦隊  旗艦 ベルホープ



 センテル級の一隻であるこの艦には、艦隊司令官となったメイターが座乗していた。


 編成は、以下の通りである


 戦艦 2隻

 重巡洋艦 1隻

 軽巡洋艦 5隻

 駆逐艦 16隻


 戦艦は、2隻ともがセンテル級となっている。

 巡洋艦は、建造期間がどうしても長引いてしまう上に戦艦の建造が優先された為、配備数が中途半端となっている。

 駆逐艦は、現状では最適な配備数を模索している段階にあり、定数は決まっていない。

 

「全艦、出航完了。これより、輪形陣へ移行します。速力、16ノットへ。」

 一連のやり取りを聞いたメイターは、窓際で艦隊運動を眺める。

「軽巡洋艦ブルックリン、本艦の左舷300を通過中。」

「重巡洋艦ペンサコラ、所定の位置に着きました。」

「駆逐艦ポーターへ、その位置より100前方へ移動せよ。」

「戦艦ハ―ク、本艦の右2000に着きました。」

 見る見る内に輪形陣が形成されて行くが、メイターは不満気であった。

「フラついている艦が多過ぎやしないかね?」

 メイターの指摘通り、特に駆逐艦に陣形を乱しかねない不安定な動きをする艦が多かった。

「更新されてから大して時間が経っていませんからね。いくら大型化したとは言え、駆逐艦は波の影響を受け易いですし。」

「帰ったら、猛訓練だな。」

 メイターは、早速帰還後の訓練メニューを思案し始める。

「間も無く、領海外へと出ます。」

「進路を誤るな、本国との連絡を密に」

『12時の方向、国籍不明艦隊を目視!本艦よりも巨大な艦を複数確認!』

「何、もうこんな所まで!?」

 これから気を引き締めようとした矢先の事であった。

「何て事だ・・・」

 双眼鏡で見えて来た艦隊を確認し、思わず零す。

 編成は、暁帝国へやって来た艦隊と同様である。

『此方は、ボルゴノドルフ大陸より派遣された使節艦隊だ。前方の艦隊へ告ぐ、応答せよ。』

「司令、どうします?」

 通信魔道具を通して接触が図られるも、応答すべきかどうか逡巡する。

『此方に交戦の意思は無い。前方の艦隊へ、応答せよ。』

 意を決したメイターは、応答する。

「此方は、センテル帝国海軍第二艦隊だ。貴艦隊の目的を報せよ。」

『当艦隊の目的は、我が方の意思を伝える事にある。外務関係者の同席を要求する。』

(使節とは思えん態度だな・・・!)

「本国へ問い合わせる。暫し、待機されたし。」

 横柄な態度に腹を立てるが、それを表には出さない。

「至急、本国へ報告せよ。」

 指示を出したメイターは、接近する艦隊を凝視する。

(とんでも無く強力な艦だ。センテル級どころか、シンウォルトン級でも役不足だな・・・)

 内心、圧倒的な戦力差に絶望するが、万が一の場合にはそれでも立ち向かわねばならない。

 現有戦力で如何に立ち向かうのか、本国から連絡が入るまで考え続ける。



 セントレル  外交部



 此処数日、原とスマウグは接近中の艦隊の対応の為に連日面会をしていた。

「・・・とすると、我が方でも同様の要求をされると言う事か。」

「そうなります。ただ、戦力的には貴国の方が高く評価されている様でして、我が方よりもマシな条件を提示される可能性はあります。」

「どちらにしても、服従を迫って来る事に変わりは無いだろう。それに、そのセレンとか言う者以外は、あからさまに見下していたそうだな?」

「報告では、そうなっています。」

「であるならば、対応にも個人差があるだろう。此方の代表者が、そちらの様に丁寧な対応を心掛ける保証はあるまい。」

 暁帝国での会談の情報は迅速に原の元へと届けられ、その情報を元にスマウグは対応策を練る。

「代表者があからさまに見下して来る人種だとすれば、厄介極まり無いですね。」

「いや、むしろ好機だ。」

「は?」

「考えても見ろ。そちらの代表者は、管理の目的は決して明かさなかったと言ったな?それは、目的を知られた際に、貴国が大きな障害になり得ると判断しての事では無いか?」

「確かに、彼女は此方を高く評価していましたが・・・」

「評価が高いと言う事は、敵に回った場合を想定すれば下手な事は明かせなくなる。だが、あからさまに見下してくれるならば、その様な警戒をされる事も無く、そちらでは明かされなかった部分まで明かしてくれるかも知れぬ。」

 希望的観測に過ぎないが、スマウグの指摘は的を得ていた。

 センテル帝国にやって来る代表者がどの様な人種なのか、一種の賭けである。

「国防部より、第二艦隊がフラムセントの領海付近で、件の艦隊と接触したとの報告です!」

 そこへ、官僚が駆け込んで来た。

「早速、来ましたね。」

「それで、向こうはどの様な要求を?」

「はい。伝えたい事があるから、外交関係者を同席させろと。国防部は、その艦隊をフラムセントへと案内したそうです。」

「ならば、此方も担当者を選出してフラムセントへと派遣せねばならん。準備を急げ。」

 スマウグの指示により、官僚は駆け出す。

「さて、どう転ぶでしょうか?」

「さてな。」


 数日後、



 フラムセント



 担当者として選出された マイケル は、緊張の面持ちでこの町の海軍司令部へと入る。

 彼は、スマウグの前任者と同名だが、中身は誠実な好青年である。

 ただし、その誠実さが仇となり、損な役回りが回って来る事が多い。

 名前に関しても損をしていると言えるが、普段が普段だけに周囲から哀れまれているのは幸いと言える。

「大変お待たせしました。」

 艦隊の幕僚が待っている一室に入ると、早速丁寧に対応する。

「フン、多少技術が際立ってはいるが、所詮はこの程度か。まぁ、分かってはいたから怒りはしないが。」

 登場早々、マイケルの胃にダメージが入る。

「外交部より派遣されましたマイケルと申します。差し障りが無ければ、貴方のお名前をお聞かせ頂きたいのですが?」

「俺は、ルード だ。メイジャーの生き残りの一人だ。」

 暁帝国からの情報を受け取っていたマイケルだが、直接名乗られるとやはり驚嘆を禁じ得ない。

「驚くのも無理は無いな。かつての小賢しい人類によって、長い間姿を隠していたからな。」

「メイジャーの存在は、現在では神話の類になっていました。まさか、直接お目に掛かれる機会に恵まれるとは思ってもいませんでした。」

 精一杯持ち上げるマイケルの世事に対し、ルードは微塵も表情を変えない。

「俺に興味を示すのは結構だが、今日は世間話をしに来た訳じゃ無いんだ。用件だけを伝える。」

「それは?」

「お前達はセンテル帝国とか名乗ってるそうだが、喜べ。センテル帝国は、俺達メイジャーに選ばれたんだ。」

「選ばれた?」

 既にこの先の展開を把握しているマイケルだが、違う回答が出て来る事を願う。

「そうだ。お前達は、俺達の傘下に入る資格を得たんだ。」

 無駄な願いは、一瞬で破綻した。

 その後は、暁帝国と同じ説明が続く。

 そして、

「一つ気になる事があるのですが、何故あなた方はそこまでして人類を管理しようとするのでしょう?」

「知りたがりだな。まぁ、俺達と行動を共にするんだ。知っておいて損は無い。」

 まだ返事はしていないのだが、ルーグは断られるとは考えておらず、そのまま続ける。

 この瞬間、スマウグの賭けは成功した。

「そもそも、メイジャーがどうやって生まれたか知ってるか?」

「神話によれば、ハルーラが星を創り上げた後、最後に残った魔力でメイジャーを創ったとあります。」

「正解だ。ハルーラとは、俺達メイジャーの創造主だ。そして、人類の創造主でもある。」

「え!?」

「何だ、知らないのか?創造主ハルーラは、このハーベストを管理する存在として、強力な力を持ったメイジャーを創り上げた。そして、高い繁殖力を持つ家畜として、人類を創り上げた。」

 突然の告白に、マイケルは呆然とする。

「創造主ハルーラは、俺達には及びも付かない力をお持ちだった。だが、俺達を創り上げた時点で、酷く疲弊されていた。だからこそ、このハーベストを創り上げたのだと言っていた。そして、今も星の内側で眠っておられる。言ってみれば、この星そのものが創造主ハルーラの領地だ。そして、俺達がその領地の管理と整備を担ってる。だから、管理者なんだ。」

「し、しかし、ならば何故人類が生み出されたので?」

「家畜だと言ったろ?創造主ハルーラは、いずれお目覚めになる。疲弊されたのは、御自身を構成する魔力を酷く消耗されたからだ。永い眠りに就かれる事である程度は回復出来るが、全快は無理だ。そこで、人類が必要になる。」

 早い話が、人類はハルーラの糧として生み出され、その為に高い繁殖力を持たされたと言う事である。

「そ、そんな・・・しかし、どうやって人類を?」

「さぁてな、そこまでは俺も知らん。」

「こんな事が・・・」

「何を今更・・・この世界が何て名前か知ってるだろ?」


 ハーベスト(収穫物)


 ハルーラの糧を育て、増やし、収穫する為の世界。

 つまりはそう言う事である。

「だがさっきも言った通り、有能な奴まで食われちまうのは勿体無い。だから、こうして話をしに来たって訳だ。悪い話じゃ無いだろ?」

 気楽に言うルードだが、マイケルは気楽になどなれない。

「お引き取りを・・・」

「何だって?」

「お引き取りを!この要求、断固拒否します!」

 マイケルの剣幕に、ルードは多少たじろぐ。

「そんな事言うと、お前達も家畜確定だぞ?それでいいのか?」

「そんな事に協力する位なら、最後まで抵抗する道を選びます!」

「あ、そう。なら今度は、此処に攻め込まないとだな。今回連れて来た艦隊がチャチに見える位の大艦隊でな。」

 嫌らしい笑みを浮かべつつ、睨み付けて来るマイケルを見る。

 そのまま立ち上がり、幕僚と共に艦へと戻った。

「至急、外交部へ連絡を!」

 マイケルは、部下へ指示を出す。


 使節艦隊は、幕僚が戻ってすぐに出航した。

「精一杯の虚勢でしたが、無駄な抵抗ですね。」

「その方が面白いだろ。健気に向かって来る連中を蹴散らす方が、逃げ惑う連中を蹴散らすよりも面白い。」

 艦へと戻ったルードは、幕僚と雑談を繰り広げる。

「それにしても生意気でしたね。一発撃ち込みますか?」

「楽しみは後に取っとけ。全力の艦隊で、全力の奴等を相手にしたい。」

 既に勝った気でいる為、全員がお気楽ムードであった。

 そして、帰り掛けに彼等は寄り道をする事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 エイグロス帝国



「首相、例の艦隊が接近しています!」

「遂に来たか・・・」

 チェインレスは、部下の報告に腹を括る。

 先日、東へと通過した鋼鉄の大艦隊が、今度は此方へと接近しているとの事である。

 どう足掻いたところで勝てないと悟った政府は、亡国となる覚悟を決めていた。

「首相、外務省より緊急連絡です。」

 表へ出ようと移動しているチェインレスの元へ、連絡員がやって来る。

「例の艦隊から、使節団が上陸して来るとの事です。恐らく、何らかの交渉を行うつもりでは無いかと。」

「何だと?」

 圧倒的戦力を持つ勢力にしては不可解な動きではあるが、僅かでも生存の可能性が浮上した事に、チェインレスは己の政治生命を掛ける覚悟を決めた。



 補足

 今回出した海軍司令部は、日本海軍で言う鎮守府と同じものです。

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