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第百十九話  動き出すメイジャー

 オリジナル兵器のデザインを考える人って凄いですね。

 暁帝国  東側海域 巡視船しきしま



『レーダーに感あり!東より、複数の船舶の接近を探知!数、19 速力、18ノット!300メートル級の大型船舶を含む模様!』

「衛星で捉えた艦隊だろうな。」

 船長は、眉間に皺を寄せる。

「でしょうねー。戦艦クラスもいるんでしたっけ?」

 副長は、いつも通りの間の抜けた空気に戻っていた。

 レック諸島で活動していたしきしまを含む巡視船はハレル教圏崩壊による緊張状態の解除により、喫緊の課題である新大陸方面へ対処する為、本国へとんぼ返りしていた。

 尚、地方隊一個戦隊と大陸統合軍艦隊は、小規模ながら海賊が出没している事から現地に留まっている。

 そして、しきしまその他が本国へと帰還した頃、新大陸方面で動きが確認された。

 新大陸から、衛星の探知不能範囲外へと出て行く艦隊を補足したのである。

 それは、明らかに第二次世界大戦レベルの戦闘艦であり、同時代の地球で言う列強国レベルと言っても差し支え無い規模の艦隊が二つ確認された。

「新大陸に、未知の巨大勢力がいる証拠だな。艦隊を寄越して来たと言う事は、侵攻か服従でも要求するつもりか?」

「いやですねー、物騒ですねー。」

「少しは気を引き締めろ。」

「だって、戦艦ですよ?間近で見る機会なんか、滅多に無いじゃないですか。やりあったってどうせ勝てっこ無いんですから、せめて楽しみましょうよー。」

 副長は、見た目の呑気さに反して半ばヤケクソ気味であった。

 実際、巡視船の役割は交信規定に合意している勢力以外には、目視圏内まで接近するしか無い。

 戦艦クラスを相手に目視圏内まで接近するなど自殺行為以外の何物でも無く、ヤケクソ気味になっているのは副長だけでは無かった。

『不明船団より、電波らしき波長を探知!本船も探知されたと思われる!距離、67キロ!』

「電波だと!?魔導船では無かったのか!?」

『いえ、電波によく似た形の魔力が照射されています。出力や周波数から推察するに、索敵用と思われます。』

「・・・そうか。」

 敵対行動では無いと分かり、ひとまず胸を撫で下ろす。

「でも、どうします?見付かった以上、逃げる訳にも行かなくなりましたよ?」

 副長の進言に、気を引き締め直す。

「そうだな。とにかく、付近の艦船に応援を要請しよう。いずれにしろ、本船だけで臨検出来る規模では無いからな。それと、本国へもこの事を大至急伝えなくては。」

 艦隊へ接近しつつ忙しなく報告を済ませると、無線機にこれまでとは違う異常が起こり始めた。

『ザザー・・・ガッ・・・ザッ、ガガッ・・・』

「?」

「無線機が・・・これは、通信魔道具からの交信ですね。」

 軍で装備更新が始まったのと時を同じく、暁勢力圏全体で通信装備の更新が行われていた。

 従来の無線機と通信魔道具を一体化した物であり、ボタン一つで機能変更が可能となっている。

 これは、長期に渡って双方の使用を続けて来た結果、その作業の煩雑さと通信関係の運搬の手間が単純計算で倍増した事に対する不満が爆発した結果であった。

 特に、航空機の様な計器類の積載に限界がある分野では深刻な問題となっており、完成直後の更新の為に計上された予算は莫大なものとなって財務省を卒倒させた。

 副長が、無線機の設定を通信魔道具へ切り替えると、早速クリアな音声が聞こえて来る。

『此方は、ボルゴノドルフ大陸より派遣された使節艦隊だ。交戦の意思は無い、応答してくれ。』

「「ボルゴノドルフ大陸?」」

 船長と副長は首を傾げるが、すぐに該当する大陸が一つしか無い事に思い至る。

「どうします?応答しますか?」

「・・・応援はいつ着く?」

「ついさっき要請したばかりですよ?一番近い船でも、後30分は必要です。」

 船長は、悩みに悩む。

『繰り返す、此方はボルゴノドルフ大陸より派遣された使節艦隊だ。交戦の意思は無い。』

「仕方無い、応答する。レーダーを装備している可能性がある以上、此方を補足したからこそ通信を寄越して来たと考えるのが自然だ。無視は、あからさまな敵対行為と捉えられる危険がある。」

 無視して増援を待とうにも、その規模はたかが知れている。

 こんな所で波風を立てた上で接近を許す様な事があれば、いきなり戦端を開く事も有り得る。

 技術的に圧倒的な差があろうとも、火力は現代軍に決して劣らず、物量は現代軍を圧倒するものがある。

「此方は、暁帝国海上保安庁所属、巡視船しきしま。貴艦隊の航行目的を伝えよ。」

『今後の立場について、話をしに来た。そちらの首脳と会わせて貰いたい。」

「了解した、その件は政府に報告する。回答があるまで待機を願う。その間に、本船他数隻による臨検を実施する。此方の指示に従って貰いたい。」

『・・・承知した。』

 通信は、此処で一旦切れた。

「大丈夫ですかね?」

 副長は、最後の返答に含みがある様に感じていた。

「不満気だったが、馬鹿な真似はしないだろうな。何があったかは知らないが、少々追い詰められてる雰囲気があった。失敗の許されない環境にいると見える。」

 不安が完全に解消された訳では無いが、しきしまは艦隊へと接近を開始する。

「・・・あれは!?」

 艦隊を目視した船長は声を上げた。

 それも無理は無かった。

 艦隊にいる戦艦は、大改装後のコロラド級にそっくりであり、空母はヨークタウン級と瓜二つであった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 エイグロス帝国沖



 暁帝国とは反対方向へと航行を続ける艦隊は、遥か遠くにエイグロス帝国を認めていた。

「丁度良い所に、丁度良い島があるでは無いか!」

 戦艦の艦橋から、艦長らしき男が上機嫌に語る。

「見張り員、あの島の詳しい様子は見えるか?」

「ハッ。見た所、帆船ばかりの様です。数隻の戦列艦が遊弋している模様。」

 それを聞き、艦橋要員はにやける。

「それは良い知らせだ。交渉などと気に食わん任務を押し付けられて腐る所だったが、あの島は以前の様に支配下に置けそうだな。」

「その前に、きちんと任務を果たしませんと。」

「ンな事ァ分かってる!帰り掛けの駄賃に、少し寄り道するだけだ。連中が賢ければ、労せず拠点が手に入るぞ。」

 そんな会話がされつつ、艦隊は東へと急ぐ。

 この艦隊はエイグロス帝国側も確認しており、準戦時体制へと移行する切っ掛けとなった。

 また、その後も各地で商船や哨戒艇等と接触し、未知の艦隊の噂が西部地域一帯で流布されて行く事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  暁帝国大使館



 原から緊急の呼び出しを受けたスマウグは、ひたすらに訝しんでいた。

 何故なら、国防部総長であるアーノルドも同席しているからである。

 この異例の対応は、スマウグも理解出来ずにいた。

「突然お呼び立てして申し訳ありません。」

「それは構わぬが、何用でアーノルド総長まで呼び寄せたのか、真意を伺いたい。」

 若干棘のある言い方だが、軍人まで同席させるとなると開戦へ向けた動きと捉えても仕方無がい。

「新大陸に関してなのですが、動きが確認されました。」

「何ですと!?」

 二人は、身を乗り出す。

「落ち着いて下さい、順番に説明します。」

 二人を落ち着けると、衛星写真を取り出す。

「御覧の通り、大陸そのものは未だに調査が不可能な段階にあります。ですが、この部分を見て下さい。」

 虹色の光によって、大陸そのものの見通しは極端に悪くなっているが、周辺海域に目を移すと複数の白い線が走っている地点が二ヶ所ある事に気付く。

「これは・・・航跡ですか?」

 アーノルドは、すぐに線の正体を言い当てる。

「その通りです。そして、此方が拡大した画像になります。」

 そう言いつつ、もう一枚の写真を広げる。

 画質は粗く、映っている船も豆粒の様に小さいが、それぞれの特徴がハッキリと捉えられていた。

「どう見ても軍艦だな。しかも、我が軍よりも立派な空母を従えていると来た。」

「空母だけでは無く、戦艦もシンウォルトン級よりも強力な艦であろうとの分析結果が出ています。」

「ハハハ・・・やっとの思いで建造に着手したシンウォルトンが、まともに運用する前から旧式化か・・・」

 シンウォルトン級は、現状では3隻が完熟訓練を実施している最中である。

 苦労に苦労を重ねて改革を実現して来た立場としては、泣き言の一つも言いたくなる程度には絶望的な話であった。

「それにしても、これ程の艦隊を従えて何をするつもりなのだ?」

 黄昏れ始めたアーノルドを放置し、スマウグは疑問を呈する。

「不明ですが、何らかの要求を行って来るのでは無いかと・・・」

「それは、何処の誰に対してなのだ?」

「恐らく、我が国と貴国です。」

「貴国はともかく、距離のある我が国に対してもか?根拠は?」

「この艦隊は継続的に監視を行っているのですが、進路からしても貴国へ向かっている可能性が高いと結論付けています。アウステルト大陸を完全に無視し、ガリスレーン大陸とエイハリーク大陸の間を通ろうとする進路を取っていますから。」

 その先には、ウォルデ大陸しか無い。

 そして、これ程の艦隊を有する勢力が目を向ける国など、センテル帝国以外に有り得ない。

「それが事実だとしてもだ、どの様にして我が国や貴国の位置を知ったのだ?最初から狙って向かっているのだとしたら、相手は我が国や貴国の内情を把握している事にはならんか?」

「直接問い質さない事には、何とも言えません。」

「仕事を押し付ける様で申し訳無いが、あらゆる面で協力を要請したい。」

 技術的、戦力的に劣っている事が判明している以上、センテル帝国では圧力に抗し切れない事は明白である。

 恥も外聞も無く、スマウグは原へ願い入れる。

「元よりそのつもりですが、何処まで動けるか分かりません。警戒は怠らない様に願います。」

 対抗出来るかどうかはともかく、脅威が迫っている以上は備えなければならない。

 不安をどうにか押し殺し、アーノルドは国防部へと戻る。

 スマウグも、外交部で想定される事態への準備を始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  東部諸島 伊豆大島



 臨検を終えた艦隊は、東部諸島最大のこの島へ寄港していた。

 人口約1万人の島へ突如出現した近代艦隊は、島民の話題を一気に掻っ攫った。

 連日、野次馬が海岸へ押し寄せる騒ぎの中、乗員の上陸は未だに許されておらず、甲板から押し寄せる野次馬を眺める日々が続いていた。

「今日で4日目だ。いつまで待たせれば気が済むのだ!?」

「乗員に疲れが見えて始めています。上陸許可を要請した方が宜しいかと。」

「要請だと!?命令で良かろう!」

「だから、今回の目的は味方に引き入れる事だって。」

 幕僚が言い争う中、その騒ぎの外れで窓から島を眺める女がいた。

「気配が無い・・・」

 その一言で、幕僚は口を閉ざす。

「気付かぬか?奴等から、あるべき筈の気配が感じられぬ事に。」

「と、申しますと?」

 問われている意味が、誰一人として理解出来ない。

「我等を監視している軍艦からも、あの町からも、そして住人からも、魔力の気配が一切感じられぬ。」

 そう言われて、一斉に意識を集中させる。

「・・・本当だ。」

「単に、魔力を隠蔽する術に長けているだけでは?」

「だとしても、僅かながら感知は出来る筈だ。膨大な魔力を必要とする軍艦までもが完全な隠蔽が可能と言うのは、どう考えても出来過ぎた話だと思うが。」

 再度、沈黙が場を支配する。

「どうやら、我等の常識の通用しない相手の様だ。豆鉄砲を少数搭載しているのみと甘く見ていたが、予想外の隠し玉を有しているかも知れん。」

 島から目を離し、今度は周囲を囲む形で停泊する巡視船を眺めながら、艦隊司令官 セレン は鋭い目付きを更に鋭くする。


「今の所は大人しくしてるが・・・」

 船長は、停泊する艦隊を眺めながら呟く。

「あの武骨な感じがたまらん・・・!大砲を沢山積んでこそ、船は映える!」

 副長は、軍艦らしい軍艦を穴が開く程見詰めていた。

「気を抜くなと何回言ったら分かるんだ。外務省から職員が派遣されるまでは、全ての責任は此方にあるんだぞ。」

 長年、副長の調子に振り回されて来た船長は、効果が無いと悟った諦めを含んだ勢いの無い声で言う。

「何度見ても、信じられん・・・」

 戦艦、空母以外の艦を見ると、重巡洋艦はノーザンプトン級と瓜二つであり、軽巡洋艦はアトランタ級そのままであり、駆逐艦はフレッチャー級そのものであった。

 ミサイル戦ならばともかく、近距離戦ではまず勝てない陣容である。

「撮影はしてあるだろうな?」

「とっくに、本国に送ってありますよ。」

「上は、どう判断を下すのか・・・」


 翌日、


 外務省より派遣された職員が到着し、幕僚とその護衛のみ上陸が許可された。

 内火艇へと乗り込む幕僚を、乗員が登舷礼で以て見送る。

 一糸乱れぬその所作から、相当な練度の高さが窺えた。



 タンタンタンタンタンタン



 今では、ポンポン船とも呼ばれる古き良き時代の機関音を響かせながら、内火艇は接岸した。

「ようこそお出で下さいました。私は、外務省より派遣されました 松岡 一洋 と申します。」

 松岡は、白洲と並ぶ吉田の片腕である。

 やたらとエネルギッシュに動き回る事が多く、制御が幾分難しい人物でもある。

「当艦隊司令官のセレンだ。早速だが、訪問した目的に関して話したい。」

「分かりました。それでは、此方へどうぞ。」

(この女は分別がついていそうだが、他は大した事は無さそうだな。問題は、途中で暴発しないかだが・・・)

 セレンの後ろでは、あからさまに見下しの表情を向ける者が何人もいた。

 中には、毅然とした表情をする者もいるが、松岡の目には(外交目線で)大した事は無いと映る。


 島に設置されている町役場へと移った一同は、その中の会議室で顔を突き合わせる。

 見下していた者達も、屋内の清潔さに関心の目を向けていた。

「それでは、あなた方の目的をお伺いしましょう。」

 松岡に促され、セレンは口を開く。

「まず聞きたいのだが、この地上が球体であると言われたら、どう反応する?」

「地上が球体である事は、我々もよく存じています。我が国に限らず、世界中で常識となっています。」

 セレン以外の多くは、この返答に驚愕する。

「そうか、話が早くて助かる。我等は、この星の裏側にある大陸、ボルゴノドルフ大陸より派遣された。」

「ボルゴノドルフ大陸・・・聞いた事の無い大陸ですね。」

 松岡は、敢えて何も知らない風を装う。

「無理も無い。我等は、長きに渡りその姿を隠していたのだからな。」

「一つお聞きしますが、少し前に観測された強い光は、その大陸によるものでしょうか?」

「その通りだ。姿を隠す時も現す時も、発動すると強く発光する。」

(発動とは、儀式魔術の事か?)

 この世界では、大掛かりな現象は自然災害を除けば魔術しか有り得ない為、発動と言えば魔術を指す。

「大陸一つを好きに出来るとは、我が国には到底真似出来そうにありませんな。」

「いや、我等と言えどもそう頻繁に出来る事では無い。必要な魔力が膨大過ぎるし、魔術陣が破損する恐れもあるからな。」

「魔術陣が破損するなど、聞いた事がありませんが。」

「あまりにも膨大な魔力に、陣の土台が耐え切れないのだ。」

 さり気無い魔術談議である筈が、穏やかな会話に似合わないピリピリとした空気が流れる。

「聞いただけでも恐ろしい話ですが、それ程のリスクを背負ってまで一体何をなさりたいのでしょうか?」

 松岡が切り込むと、緊張が一気に増幅された。

 セレンは、少しだけ沈黙してから口を開く。

「君達に、降伏を促しに来た。」

「降伏?我が国は、そちらと交戦状態になった事はありませんよ?」

 それ以前に国家として認識していない為、法的に降伏など出来ない。

「言い方が悪かったな。我等の傘下に入るよう勧告しに来たのだ。君達には、その資格がある。」

 何とも上から目線な言い方だが、松岡は動じないどころか嫌な予感から更に探りを入れる。

「我等とは?」

「見ての通り、我等だが?」

「そう言う意味では無く、どなたの指示でこの様な勧告を?」

「我等の総意によってだ。」

「よく分かりませんが、直接民主制でも取り入れているのでしょうか?」

「直接民主制とは?」

(何て事だ・・・!これだけの技術力を持ちながら、民主主義を知らないとは。)

 松岡の警戒レベルが、一気に跳ね上がる。

 民主主義の説明をすると、失笑が漏れた。

「その様な、非効率的な政治形態があるとは驚きだ。君達は、それを採用しているのか?」

「いえ、我が国は独裁制を採用しています。」

「そうか、君達は賢明な様だな。」

 この新勢力が、一般国民へ主権を持たせる事を好まない事がハッキリしてしまい、松岡の警戒レベルは最高潮となる。

「数ある政治形態の一つを採用したに過ぎません。何が適しているかは、時代や国によって異なります。」

「ならば、これからの時代に適した形態を提示しよう。」

「・・・それは?」


 「全人類は、これより我等メイジャーの管理下に置かれる事を許容するのだ。」


「メ・・・メイジャー!?」

 各地で発見された記録から、新大陸出現はメイジャーが動き始めたとする声は多数上がっていた。

 だが、向こう側からメイジャーを名乗るとは完全に予想外であった。

「その様子、一応我等の存在を知っている様だな。」

「まさか、貴方も?」

「この中では、私だけだがな。かつて、人類の反逆によって数を減らしてしまったのだ。」

 同じ頃、魔力観測衛星にはセレンの持つ異常に大きな魔力が観測されていた。

「そこから、我等は一つ学んだ事がある。例え、管理されなければならない存在であろうとも、優れた能力や才能を持つ者はいる。そうした者は、積極的に優遇して我等の仲間として迎え入れるべきだと言う事を。」

「では、先程の資格とは」

「そうだ。君達は、独自に極めて優れた技術を花開かせている。これ程の才能を持つ者達を、これ程の技術を捨てるのは愚かな事だ。その愚かな事が起こらぬよう、我等は事前に入念な調査を行い、今日この日を迎えた。」

(いつの間に探りを入れられていたんだ!?)

「此処より遥か西に、もう一つ君達よりも高い評価を下した勢力があるが、まぁそれはいい。君達の持つ技術は、間違い無く我等の力となる。豆鉄砲ばかりの艦しか建造していない事は気にはなるが、正しい使い方を指導して行こう。」

 松岡は、セレンが重大な思い違いをしている事に気付く。

 自らの内情をこうも簡単に話してしまうのも、その思い違いから圧倒的優位にいると判断している事も理解した。

 それは一切表には出さず、一つ質問をする。

「先程から管理と仰っていますが、何故そこまでして人類を管理しようとしているのでしょう?何か、重大な意味でも?」

 この質問に、セレンは表情を変えた。

「君は、本当に優秀だな。だが、これ以上は話す事は出来ん。」

「だとすれば、我が国の返答はNOですね。」

「・・・何?」

 セレンは顔色を変え、他は殺気を纏う。

「目的も分からない事に、協力など出来ません。お引き取り頂きたい。」

「我等に協力しないのなら、君達は攻め滅ぼした上で生存者を全員狩り出す事になるぞ。優秀な君達にその様な事をするなど、とても口惜しく思っている。今の返答を聞かなかった事にも出来るが?」

「でしたら、目的を明かして頂きたい。話はそれからです。」

 鋭い目付きで睨むセレンだが、松岡は動じずに言い返す。

「それは出来ない。返答だけを聞きたい。」

「でしたら、やはりNOですね。国民を、無用な危険に晒す訳には行きません。」

「そうか、残念だ・・・」

 セレンは、心底残念そうに言う。


 会談は終了し、幕僚は艦へと戻った。

 用が無くなった艦隊は、速やかに島を離れる。

『五時方向、駆逐艦2隻確認。七時方向にも、同じく2隻。』

 暁帝国側が、大人しく帰るか警戒して差し向けた海防艦である。

 会談の最中は大人しくしていた幕僚は、この見張りの報告に怒りを爆発させた。

「奴等、何処まで生意気なんだ!?」

「これだけコケにされて、何もせずに引き下がるんですか!?」

「落ち着け、何もしない訳が無い。今の内に、力の差を知らしめておく必要がある。主砲を島へ向けて一発撃ち込め。」

 内心、甘過ぎると考える幕僚であったが、セレンは暁帝国を傘下に入れる事を未だに諦めてはいなかった。

 この一撃で力の差を理解した暁帝国が、最終的に傘下に入る事を期待しているのである。

『主砲、緒元入力!距離、12キロ!』

 コロラド級と同じ40.6センチ砲が、伊豆大島へ照準を合わせる。

『照準完了』



 ジリリリリリリリリリ



 砲撃開始を報せるベルが鳴り、甲板へ出ていた乗員が慌てて艦内へ退避する。

 ベルが止まり、二度目のベルが鳴る。

「撃てーーー!」



 ズドォォォォォォォォン・・・・・・



 凄まじい砲撃音が大気を震わせ、巨大な砲炎が吹き上がる。

「その身に愚かさを焼き付けろ!」

 幕僚の一人が、怒りを込めて叫ぶ。

『駆逐艦から、砲煙らしき煙を確認!』

「何!?」

 幕僚は、一斉に双眼鏡を手にする。

「砲煙?誘爆した様にしか見えんぞ。」

 目を凝らすと、主砲よりも後方の甲板から煙が上がっていた。

「手に余る技術を持った結果だな。」

「見栄を張らずに大人しく従えば良かったものを・・・」

 口々に侮りの言葉を吐くが、すぐに違和感に気付く。

「ちょっと待て、空中に煙が伸びてるぞ。」

「え?」

 見ると、確かに飛行機雲の様な煙が、一直線に上空へ向かって伸びていた。

 その直後、

『正体不明の飛翔体が、高速で飛んでいます!』

「正確に報告しろ!何が飛んでいるのだ!?」

 セレンが怒鳴るが、見張りが答える暇は無かった。



 ドッォォォォォォン…



 遥か遠くに巨大な火球が出現し、その衝撃が数泊遅れて届く。

「今のは・・・?」

 誰かが呟くが、誰も答えない。

「見張り員、今の爆発は何だ!?」

『本艦の主砲弾と思われます!ですが、島への着弾は認められず!明らかに空中で爆発しています!』

「空中だと!?」

「信管異常か?雷か?まさか、偶然飛んでいた航空機にぶつかったのではあるまいな?」

 信管異常はまだしも、快晴で雷はあり得ず、目視で確認出来る範囲に島はあり、航空機は確認出来ない。

 パニックに陥っている事が一目で分かるが、誰もが同じ心境であった。

「見張り員、先程の飛翔体はどうなった?」

 セレンは、努めて冷静に情報を収集する。

『確認出来ず』

「確認出来た時の状況を報告せよ。」

『恐らくですが、飛翔体は主砲弾へ向かっていたと思われます。』

 全員が、一つの結論へと辿り着く。

「迎撃したのか?今の砲撃を?」

「そんな馬鹿な!ある訳が無い!」

「しかし、それ以外に結論の出しようが・・・!」

「何をどうしたらそんな事が出来る!?第一、奴等で脅威になりそうなのは航空戦力だけだって話だったろうが!」

 収拾が付かなくなり掛けた時、セレンが手を挙げる。

 幕僚は、すぐに言い争いを止めた。

「迎撃されたと言うのは、やはり考えにくい。信管異常の可能性が高いだろう。だが、此処に来て我等が把握していなかった兵器を保有している可能性が浮上した事も確かだ。」

 セレンは、飛翔体の正体を対空兵器の類と予想した。

 だが、砲弾を狙って迎撃出来る能力があるとは考えておらず、極小の可能性で成功していたと仮定しても、あくまで偶然に過ぎないと判断した。

「脅威となる航空戦力を保有しているのならば、同レベルの航空戦力を持つ敵と相対する事を想定して、迎撃手段を開発していてもおかしくあるまい。彼等の対空能力は、当初の予想よりも高いと想定するべきだろうな。」

 これが結論となり、議論は終了した。

(しかし、本当に狙って砲弾を迎撃出来る能力があったとしたら・・・)

 論理的な結論を出そうとも、魔力が無いと言う不覚定要素がある事を忘れてはいない。

 一抹の不安を残しつつ、艦隊は帰投する。



 補足

 反撃しなかった理由ですが、新型対艦ミサイルの性能に不安があったのと、僅かでもミサイル関連の情報を持ち帰られないようにする為です。

 それと、捕虜の受け入れをしたくなかったのもあります。

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