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第百十五話  嵐の前の静けさ

 一万文字の突破は、無くなりました。

 イウリシア大陸



 治安に問題を抱えているこの大陸では、新たな風が吹き込んでいた。

「いただきッ!」

「あー、最後の一個だったのに!」

「これの次の巻は何処・・・?」

「いろんな術がありますね、参考になります・・・」

「畜生、このボス強過ぎだろ!?」

 暁帝国へ協力する事を決めた勇者一行は、早速イウリシア大陸へと赴いた。

 そして、勇者一行の亡命受け入れが広く世界へ公表されると、潜伏していたハレル教徒は目論見通り一斉に動き出した。

 ある者は脅迫されたと考えて救出に、ある者は重大な裏切り者と判断して暗殺に。

 慎重に潜伏していた彼等は、我を忘れてその姿を白日の元へ曝け出して行った。

 その行動は杜撰そのものであり、検挙数は右肩上がりとなっていた。

 その結果、勇者一行はその実力を持て余す事となり、存分に平和を謳歌していた。

 フェイとカレンはお菓子巡りを楽しみ、シルフィーは漫画にのめり込み、スノウは映画にハマり、レオンはゲームに夢中になっていた。

 暁帝国から発信されているサブカルチャーは、多感な五人のハートを直撃していた。

 無論、遊んでいるばかりでは無い       ・・・筈である。

 ハレル教徒を誘き出す為の囮として、五人は定期的に各地へ顔を出さなければならなかった。

 しかし、やはり杜撰なハレル教徒の行動は現地警察だけで簡単に抑え込む事が出来、五人の出番はまるで無かった。

 結果的に、何処へ行っても観光気分で楽しむばかりとなっていた。

 しかし、幸いにもその姿勢が不信感を抱いていた現地住民の疑惑の視線を和らげていた。

 ハレル教圏からの来客など誰も歓迎しなかったが、純粋に楽しみ抜いている五人の姿に興を削がれ、更には現地の子供が群がる騒ぎにまで発展する事もしばしばであった。

 それに付き合わされる現地警察は堪ったモノでは無かったが、五人の受け入れによって招いた大きな反発を自分で解決しているのだから文句も言えない。

 囮役と言う仕事で外に出ている筈が、本気で遊んでいる事には苦言を呈するも、「騒いで目立った方が見付かり易くていいじゃん。」と反論される始末であった。

 現地住民に被害の出る危険と戦っている立場として言いたい事は山程あるが、何か来ても彼等の実力ならばどうとでも出来る事もあり、やはり閉口せざるを得なかった。

 そして今日も今日とて、囮作戦が開始された。



 アラン王国



「なにいィィィィィィィィ!?あのシリーズの第一作がこんな所に!」

 レオンは、絶叫と共に拳を振り上げた。

「これは・・・どこも売り切れだった幻のあの巻・・・!いい仕事してる・・・!」

 シルフィーは、店長へ向けて親指を立てる。

「あの感動の名作がこんなにたくさん・・・!涙無くしては語れません!」

 スノウは、口を手で覆い隠して膝をついた。

「キャー、キャー、これって、話題になってたアレじゃない!?」

 カレンは、流行の最先端をひた走る。

「待て待て待て、それはあたしが先に見付けたんだぞ!」

 フェイは、カレンと取っ組み合いを始めた。

 彼等が騒いでいる場所は、アラン王国のとある個人経営の雑貨店である。

 鋭い嗅覚の持ち主である店長の手腕により、マニア向けの商品が数多く取り揃えられている。

 お陰で売れ行きは好調だが、色々と濃い人物が頻繁にやって来る事から、地元民からは敬遠されている。

 その様な喧騒を日常的に目にしている地元民にさえ、五人の騒ぎは目に余る物であった。

 付近で待機している私服警官達は、この酷い悪目立ちに頭を抱えていた。

「あんな連中が、俺達の最大の敵だったなんて思いたくない・・・」

「言うな、空しくなる。」

「あんなに騒がれると、ガラの悪い連中にも絡まれそうだな。全く、これ以上仕事を増やさないで欲しいものだ。」

 その様な事を言っていると、視界の端で怪しい影を捉えた。

「二時方向、いるぞ・・・!」

 無線機で各所へ指示を飛ばし、ごく自然な挙動で包囲網を形成する。

 そうこうしている内に、標的は雑貨店のある表通りへと出て来た。

『鼠が袋へ入った。繰り返す、鼠が袋へ入った。』

 周囲の警官が身構えると同時に、標的は懐から刃物を取り出して駆け出す。

「邪教に染まりし勇者に救済を!」

「確保ォ!」

 標的の刃が届く事は無く、数人がかりで取り押さえられた。

「離せェー!我等が崇高なる行いを邪魔立てするとは何事だ!?」

(我等?)



 ドガッ



「ぐわっ!」

 一人が標的の言い回しに違和感を覚えた瞬間、店内からそんな音が聞こえて来た。

「ちょっと、しっかりしてよね!こっちは忙しいんだから!」

「何を根拠に忙しいなどと言っているのか、小一時間問い詰めたいところだな。」

 そう言いつつ、見落としていたもう一人を拘束する。



 ピー



「ん?」

 騒動が終盤に差し掛かった頃、無線機の一つが反応する。

「・・・分かった、御苦労。」

 交信を終えた警官は、呆れ顔であった。

「何があったので?」

「郊外にあるパイプラインにちょっかいを出してるハレル教徒がいたそうだ・・・」

 資源が豊富なこの大陸では、運搬の為のインフラ整備が非常に重要となっている。

 石油が発見されて以降、パイプラインの整備も積極的に行われて来た。

 しかし、その長大なパイプライン全域へ常時目を光らせる事は不可能であった。

 ドローンを積極的に活用する事である程度解決されているが、それでも根本的な解決には程遠い。

 今回、偶然にもその隙を突いたハレル教徒が現れたのである。

 しかし、パイプラインの役割など最初から理解しておらず、取り敢えず目立つからちょっかいを掛けただけと言うお粗末な物であった。

 更に、刃物や棍棒で支柱の一本を倒してやろうと言ういい加減極まる企みであった為、表面に傷を付けるのが精一杯であった。

 それでも意地になって張り付いていた結果、遂に見付かって拘束されてしまったと言うのがこの騒ぎの顛末であった。

「何だかなー・・・」

 ハレル教徒による各種妨害行為は、日に日にその行動の精度が荒くなる一方であった。

 やり易くなるのは良い事ではあるが、これ程の幼稚な行動に付き合わされ続けている事で、精神的疲労が蓄積していた。

 誰も彼もが、溜息を禁じ得ない。

「皆、暗過ぎ・・・。辛い時こそ明るくしないと、人生そのものが疲れる・・・。もっと明るくなるべき、私達みたいに・・・!」

 シルフィーなりに気を遣っての言葉であったが、若干のドヤ顔交じりでで言われてしまってはイラつくだけであった。

「そのストレスフリーな環境が羨ましい・・・」

 揃いも揃って、更に気分が沈んで行くのであった。


 暫く後、


 この日の囮役を終え、用意されている宿泊施設へ帰ると、入り口にスーツを着た男が立っていた。

「お待ちしておりました。」

 そう言うと、五人へ近付く。

「どなたですか?」

「私は、アルーシ連邦の暁帝国大使館から派遣されました外交官です。本国より、皆様宛に緊急の案件が届きましたので、お持ちしました。」

 そう言うと、大きめの封筒を差し出す。

「中身は、部屋へ戻ってから確認して下さい。後、内容に関しましては、決して他言しない様にとの事です。」

「随分な念の入れようだな。」

「私も、内容は知らされていません。それと、必要ならば本国まで送り出す用意があるとの事です。その時は、大使館へお越し下さい。」

 不可解な通達に、揃って首を傾げる。

 しかし、それ以上は言わずにさっさと引き上げて行った。

「よく分からんが、とにかく中身を確認しよう。」

 自室へと戻った五人は、早速中身の確認を始めた。

「・・・・・・そんな!」

「こんな事って・・・」

「何かの間違いじゃ無いのか・・・?」

「これは、流石に・・・」

「信じられない・・・。」

 その内容は、遺跡の書き置きを中心とする情報であった。




 ・・・ ・・・ ・・・





 モアガル帝国  キヨウ



「被害はどうなっておる?」

「一部は、国境線より疎開を始めております。復興したくとも、かなりしつこく攻撃を受けているとの事でありますので、止むを得ないかと。」

 ガレベオは、暁帝国との国交樹立に失敗した各国との小競り合いに頭を悩ませていた。

 大した被害は出ていないのだが確実に犠牲者は増え続けており、一部では同じ集落が繰り返し襲撃されると言う事態も発生していた。

 その様な集落は、悩みに悩んだ末に疎開を決断し、国や領主に対する支援要請が届き始めていた。

 その他にも友好国に対する攻撃まで実行されており、そちらに対する支援も行っていた。

 モアガル帝国の国力からすれば大した負担では無いのだが、嫌がらせとしては絶大な効果を発揮していた。

「それにしても、奴等はこれ程叩かれて何故諦めんのだ?武器も兵力もそう簡単に補充出来んだろうし、此処まで頑迷になっている理由が分からん。」

 エイグロス帝国の支援がある事をガレベオは知らないが、人的損害は支援だけではどうにもならない事は確かである。

「陛下、こうなっては致し方ありませぬ。此方から大規模攻勢を掛ける事で、強制的に黙らせるしかありませぬ。」

 家臣の発言に、ガレベオは渋い顔をする。

 確かに国力的には可能ではあるが、ノーバリシアル神聖国による襲撃の被害は、思いの外モアガル帝国の財政を圧迫しているのである。

 その不健全な財政状態の中で攻勢を行い、更に占領統治まで行うとなれば、後々まで大きな災いの種を残しかねない。

 それを理解しているからこそ防衛に徹し続けて来た訳だが、疎開まで始めている国民へこれ以上の我慢を強いる事も難しい。

「陛下、我が国の友好国に対し、協力を要請するのは如何でしょう?」

 家臣の一人が提案する。

「元よりそのつもりだが、影響は微々たるものだぞ。」

「いえ、制圧した敵領の多くを分け与えるのです。それならば、我が国独自の負担は大幅に減じます。」

「そ、そんな事をしたら、今度は友好国同士で領土の奪い合いが発生してしまうぞ!」

 別の家臣から反論の声が上がるが、ガレベオも同意見であった。

「分かっております。そこで、暁帝国に協力を要請するのです。」

「暁帝国に?」

「敵国を占領した後に、友好国を巻き込んで国家再編を実施するのです。暁帝国は、この国家再編をインシエント大陸で実行し、多大な成果を上げております。」

「う、うーむ・・・」

 実現出来れば、モアガル帝国にとっても良い事ではあるが、問題はそれを承諾されるかである。

 これ程巨大な事業となれば、相応の反発を抱え込む事は想像に難くない。

「事をスムーズに進める為にも、センテル帝国にも根回しを行っておけば完璧でしょう。センテル帝国は、世界の不安定化を望みません。芽は十分にあるかと。」

 暫く悩んだ末に、ガレベオはゴーサインを出す。

(我が国が攻勢を行うなど、もう有り得ないと思っていたが・・・)

 ガレベオは、自国の変化を笑みを以って受け止める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  南部諸島 帝国航空宇宙開発機構



 帝国航空宇宙開発機構の部署の一つに、宇宙由来の災害の監視、予測、防止や、ケスラーシンドローム等の宇宙開発に重大な支障を引き起こしかねない事態に対処する部署が存在する。

 それが、<近宇宙危機管理局>である。

 この部署の最大の特徴は、衛星軌道上の物体を探知する<対デブリレーダー>を保有する点である。

 宇宙空間の探知に特化したレーダーである為、その気になれば弾道ミサイルの探知すらも可能である事から、万が一の場合には政府に対して直接緊急事態を進言する権限を持つ。

 また、放置しては宇宙開発に重大な影響を及ぼすと判断される事態が発生した場合、強制的に保有する全衛星の軌道を変更する権限を併せ持っている。

 更に、想定される脅威が宇宙からやって来るとは限らないと言う判断の元、軍と共同で地上の監視にも努めている。

 これにより、データリンクを行っている訳では無いが、データの相互利用を考慮した作りとなっている。

 他にも、最悪中の最悪の事態が発生した場合に備えての迎撃装備の開発も、極秘に共同で行っている。

 現在、近宇宙危機管理局の活動で最も知られているのは、地球でも行われていたPHAs(潜在的危険小惑星)と呼ばれる中生代末期クラスの衝突の危険のある小惑星の観測である。

 ハーベストでも100個以上のPHAsが発見されているが、現在当事者達が最も注目しているのはそこでは無かった。


「やはり、妙な動きを見せているな・・・」

「どう見ても、自然現象とは思えませんね。」

 映画で扱われそうなNASAを思わせる司令部では、正面の大型スクリーンに表示されているハーベストの全体図を見ながら局員が騒めいていた。

 此処一週間程、星の裏側の魔力が奇妙な動きを見せているのである。

 これまで、世界中の魔力の動きをつぶさに観測して来た彼等には、この新たな魔力の動きが自然現象とは思えなかった。

「このパターンから見るに、儀式魔術の類では無いかと。」

「確かに、渦巻き状にはなっているな。だが、見た事の無いパターンだ。第一、これ程の膨大な魔力を必要とする儀式魔術があるか?」

 これまでの観測により、儀式魔術を行うと魔力が渦巻き状に動く事が判明している。

 更に、行使する魔術による魔力の流れにもパターンがあり、行使されるであろうおよその魔術の予測を可能としている。

 しかし今回のパターンは、今までに観測されて来たどれとも合致しない未知のパターンであった。

 それ以前に、大陸一つを吹き飛ばしかねない膨大な魔力を制御出来るかどうかについても疑問符が残る。

 儀式魔術は、魔力の流れ、必要となる各属性の魔力量の制御が難しく、魔導士であっても事故が度々発生する程に難解なものとなっている。

「しかし、あの動きは明らかに人為的な物です。」

「そんな事は分かってる。だが、あれだけの魔力を制御出来る存在など・・・」

 口ではいくら否定しようとも、本音では誰もが一つの可能性を訴えていた。

「政府に上げるべき情報と判断します。」

「・・・・・・分かった、局長に進言しよう。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  外交部



 スマウグは、原とレズノフと面会していた。

「随分酷い状況だが、間違い無いのか?」

「間違いありません。現地に潜伏していた部隊から直接齎された情報です。」

 原は、セイキュリー大陸の現状を話す。

 ハレル教圏の崩壊は、現在は一部でしか知られていないが、例外無く大きな衝撃を齎していた。

 スマウグもレズノフも、まさかの列強国の転落を信じられない。

「ハレル教圏が崩壊しても、ハレル教徒の活動は相変わらずです。緊張状態は大幅に緩和されると予想されますが、治安に不安を与える状況は変わらないでしょう。」

 望ましい結末であったかどうかはともかく、緊張緩和は望ましい展開である。

 しかし、事後処理がまだ残っていた。

「そして、最大の問題はセイルモン諸島の処遇です。」

 現状、北セイルモン諸島が唯一まともなハレル教圏と呼べる地域である。

 その影響力は最早皆無の等しいが、貿易の中継地点として好都合なセイルモン諸島に居座られている現状は、目の上のたんこぶと呼ぶにふさわしい状況である。

 各地の資本家はハレル教圏の変化に気付き始めているが、相も変わらずセイルモン諸島を敬遠したままである。

 どうにか興味を持って貰いたいのは山々だが、それには根本的にこの地域の問題を解決する必要があった。

「なるほど、それで私まで呼んだのですか。」

 レズノフは、場違いと思われた自身が招かれた理由に納得する。

「はい。当事者である貴国を差し置いて話を進める訳には行きませんから。」

「御配慮、感謝します。」

「前置きはその辺で良いだろう。そろそろ本題に入ろう。」

 とは言うものの、非常に難しい問題である。

 貿易の中継拠点としての価値を持つ以上、軍事侵攻等による過度な破壊行為は憚られる。

 また、分断される以前の状態に戻そうとしても、既に価値観が根本的に異なる別人同士であり、余計な火種を投入する行為でしか無い。

 更に、セイルモン諸島自体は小国にもならない貧弱な地域ではあるが、非常にデリケートな地域でもある事から現状以上の他国軍の駐留も難しい。

 それを解決する為に何処かの国が併合を行おうとしても、必ずカドが立つ。

「これは、世界会議に持ち越した方が良いな。」

 妙案は思い浮かばず、スマウグはそう締め括る。



 皇城



 ロズウェルド以下最高幹部は、定例会議を行っていた。

「モアガル帝国は、友好国と共に近く大規模攻勢を行う予定であるとの事です。敵国を制圧した後は、インシエント大陸に倣って国家再編を実施する為、暁帝国の協力を要請したいとの事です。また、我が国に対してもこれ等一連の行動の承認を願い出ております。」

「暁帝国の回答は?」

「まだ何も。介入するかどうか、かなり活発な議論が交わされているとの事ですので、暫くは動けないと思われます。」

「ふむ。」

 ロズウェルドは、長考に入る。

「承認しても良いのでは無いでしょうか?此度の件は、モアガル帝国の敵対国による、極めて身勝手な行為なのです。長らく防衛に留めていたにも関わらず、それを良い事に更に被害を広げに掛かる始末なのです。」

「一理ありますな。平和主義を是とする我が国にとって、その平和を乱しに掛かった者を放置する訳にも参りますまい。私も、承認で良いと判断致します。」

 此処で、進行役が引き継ぐ。

「では、モアガル帝国の攻勢承認に対して、賛成の者は挙手を。」

 全員が、手を挙げる。

「では、全会一致で承認する方針となりました。陛下、承認をお願い致します。」

「うむ。朕は、此度の決定を承認するものである。」

 拍手が巻き起こる。

「では続きまして、セイキュリー大陸情勢につきまして外交部より報告が上がっております。」

 暁帝国より齎されたハレル教圏崩壊の資料が配布されるも、全員が驚愕で卒倒しそうになる。

「何かの間違いでは無いのか!?」

「あのハレル教圏が・・・今まで持ち堪えていたハレル教圏が・・・!」

「本当なのだな!?本当に本当なのだな!?」

 目に余る狂乱ぶりだが、ロズウェルドも文句は言わない。

「資料によりますと、どうやら自滅と言える醜態を晒してしまった様です。」

 容赦の無い言葉だが、自国民が攻撃を受けた事もあり、誰も咎めない。

「暁帝国によりますと、東部地域は大幅な緊張緩和が見られるとの事です。ただし、セイルモン諸島の処遇で我が外交部も含めて揉めており、結論は出ておりません。しかし、それ以外ではイウリシア大陸のハレル教徒の活動が、検挙数の大幅な増大から下火となり始めており、脅威度は大幅に低減しております。」

「東部地域も、安定化の一途を辿っていると言う事か。」

「資料に載っている状況から考えますに、ハレル教圏両国を世界会議へ招待する事は不可能でしょうな。」

「同感です。外交官を、無意味な危険に晒す訳にも行きません。」

「セイキュリー大陸は、今後は完全に立ち入りを禁止とする方針で行くべきでしょう。

「と、なりますと、シーペン帝国を準列強国から、神聖ジェイスティス教皇国を列強国から外すべきかと。」

「その通りですな。実際、それ程の力はもう無いと見るべきでしょう。」

 次々に賛意が示され、進行役が引き継ぐ。

「では、シーペン帝国から準列強国の地位を、神聖ジェイスティス教皇国から列強国の地位を剥奪する事に関しまして、賛成の者は挙手を。」

 全員が、手を挙げた。

「全会一致で賛成となりました。陛下、承認をお願い致します。」

「うむ。朕は、此度の決定を承認するものである。」

 まばらに拍手が巻き起こる。

「これで、後は世界会議で世界の意思を統一するだけですな。」

「ええ、大きな懸案の大半が解決されようとしているのです。これから先は、世界は安定へと向かうでしょう。」

 東部地域、西部地域共に、最も懸念されていた問題が解決し掛かっていると分かり、誰もが喜びを露わにする。

(長い歴史の中で、多くの者が犠牲となって来た。此度の事も、望まぬ犠牲を出している。だが、これを乗り越えれば世界平和は目前だろう。何としても、何としてでも・・・!)

 ロズウェルドの望み通り、世界から戦乱が消え去ろうとしていた。

 小さな争いが絶える事は無いが、国家間の紛争と比較すれば平和的な喧嘩と言える。

 一部では混沌の度合いを増しているが、そこへ首を突っ込む者はいない。

 各地で頻発して来た戦乱が収まりつつある事で、世界は奇妙な静寂へと向かいつつあった。

 悲劇を生み出す喧騒が収まりつつある事を誰もが喜ぼうとしていたが、その静寂を不気味に感じる者もまた多かった。

 平和とは、次の戦争への準備期間でもある。

 それを理解する者達は、次に起こると思われる新たな戦乱を予感し、身震いする。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ???



「全ての準備が完了しました。」

「遂にか・・・短かった様で長かったな。」

「全くです。苦杯を舐めた時の事を、昨日の事の様に思い出せます。」

「同じ失敗を繰り返す訳には行かん。目覚めの時まで時間が無い。」

「勿論です。その為に、念を入れた準備を行って来たのですから。」

「一応確認しておくが、例の二勢力は此方側へ引き入れるのだ。それと、拠点として使えそうな島も、可能ならば無血上陸を実現する為にまずは穏やかに接触するように。」

「心得ています。同じ失敗を繰り返さない為にも、余計な損害や消耗をしないよう気を遣う必要があります。」

「以前の我等は、あまりにも幼かった。管理と言う言葉の意味を理解していなかった。」

「屈辱的でしたが、そこから学びました。」

「そうだ。そして、今度こそこの世界の管理者としての責務を全うするのだ。それこそが、メイジャーとしての存在意義だ。メイジャーたる由来だ。」

「今度こそ、実現して見せます。」

「重ねて言う、失敗は許されん。」




 少し駆け足になってしまった印象があります。

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