第百十二話 正義と悪
勇者一行と東郷が直接顔を合わせます。
暁帝国 東京
新幹線へ乗って一気に東京までやって来た勇者一行は、一路東郷の元を目指す。
尚、あまりの速度で目を回していたのは別の話である。
「此処が、暁帝国の首都か。」
「首都って言うか、これだけでも並の列強より強力よね。」
「人口はどの程度なのでしょう?」
「これで一都市とか、もう狂ってるな。」
「目がチカチカする・・・。」
用意された車へと乗り込み、流れて行く東京の街並みに呆れ果てる。
間も無く、他とは明らかに違う厳重な施設の前へと到着する。
「此処に、総帥がおられる。」
一行は下車すると、その建造物を見上げる。
「何の飾り気も無いな。」
「総帥って、この国の元首の事だよな?本当にこんな所に?」
確かに、全面鉄筋コンクリートの外見では、頑丈ではあるが見栄えは極めて悪い。
通常、どの世界の何処の国であろうとも、元首の住まう施設はその威厳を感じさせる佇まいをしている。
国内を治める為にも必要でな事はあるが、外部からの賓客を出迎えるに当たっての礼儀でもある。
故に、暁帝国のこの姿勢は極めて異質なものである。
内部へ入ると何重にも防御策が講じられており、実戦経験のある五人はその厳重さに身震いする。
だが、見た目が極めて地味である事は変わらない。
「何も知らない奴がこれを見たら、間違い無く舐められるぞ。」
「うん、軍人なら脅威に映るかも知れないけど、何も知らない文官が見たら野蛮な劣等民族とか言いそう・・・。」
ハーベストでは既に暁帝国を甘く見る国は皆無だが、どちらにしても異常である事に変わりは無い。
疑問を口にしつつ屋内へ入ると、関所の様になっている入口へと差し掛かる。
そこを抜けると、一気に景色が変わった。
これまでの地味さは何処へやら、居心地の良さを前面に出したエリアとなっていた。
豪華さは控えめだが、明るい解放感と厳かな空気が感じられる。
これまでに経験した事の無い類の威厳が感じられ、五人は揃って息を呑む。
「此方に来てくれ。」
案内に従って進むと、広めの客間らしき場所へと通された。
「此処で待っていて欲しい。総帥がお越しになられる。」
(いよいよか・・・)
短期間で列強国へとのし上がった暁帝国のトップと言う事もあり、緊張は否応無しに高まる。
暫く後、
「お待たせした。」
出された紅茶を黙って飲んでいると入り口が開き、一斉に立ち上がる。
護衛と吉田が先に入り、その後を東郷が続く。
(随分若いな、総帥の子供か?)
「初めまして、総帥の東郷だ。お会い出来て光栄だよ。」
「「「「「!!!?」」」」」
その若さから総帥本人だと思っていなかった五人は、思わぬ不意打ちを喰らう。
(こいつが総帥って、マジで言ってんのか!?)
当然の感想である。
「お、お目に掛かれて光栄であります!」
レオンが率先して答えるが、動揺は隠せない。
「そんなに畏まらなくてもいいぞ。ゆっくり話そう。」
そう言うと、早速腰掛ける。
それに従い、全員が着席する。
「余程、驚いたみたいだな。俺みたいな若い奴が、列強国のトップだとは思わんわな。」
「い、いえ、決してその様な事は・・・」
「気にしなくていい。いつもの事だから慣れてる。」
外洋進出して以降、東郷は会う人会う人全員に奇異の目を向けられて来た過去がある。
世襲を重視する王政国家ならまだしも、突如として出現した列強国の元首がこれ程若いとは誰も思わない。
「それに、こっちも驚いたね。勇者って言うから、もっとゴツい連中を想像してたんだが・・・」
(畜生、ハーレム系主人公かよ・・・!)
穏やかな外見とは裏腹に、美少女を四人も連れ歩いているレオンへ嫉妬の炎を燃やしていた。
「確かに見た目は華奢ですが、皆一騎当千です。」
東郷の言い方に棘を感じたレオンも、負けじと言い返す。
「挨拶はその辺で良いでしょう。本題へ入りましょう。」
吉田が割って入る。
「そ、そうだな。」
吉田によって我に返った東郷は、表情を正す。
「もう聞いてると思うが、君達にはイウリシア大陸へ向かって貰いたい。」
「その事については、小ウォルデ島で聞き及んでいます。早速ですが、イウリシア大陸の詳しい現状をお聞かせ願えますか?」
イウリシア大陸に於けるハレル教徒の活動は、遂に死傷者を出す域にまで及んでいた。
度々発生していた一個人の暴発が、公共施設から人へとシフトし始めていたのである。
破壊していた公共施設は看板や消火栓等がせいぜいであり、短期間で修理可能な物ばかりだったのである。
微々たるものとは言え、当初こそは「敵にダメージを負わせる事が出来た!」と喜んでいた彼等も、すぐに復旧する様を目にしては呑気に喜んではいられなかった。
そして、彼等はより取り返しの付かない手段を選択した。
特に、夜間の都市部に被害が集中しており、悲鳴に安眠妨害されたり、朝になって外へ出た直後に血まみれの死体を発見すると言った状況が出来上がっていた。
他にも、輸送中の各種商品の盗難被害が増加傾向にある。
盗難被害は、数度に渡り増加と減少を繰り返している。
地元警察の必死の努力も空しく、検挙数が増加する毎に新たな手口を使うと言うイタチごっことなっている事が、この様な構図を作っていた。
そして、被害が増加する毎にハレル教徒の割合も増加しており、今回は五割近くがハレル教徒となっている。
ハレル教徒が絡んでいる盗難被害は他とは明らかに違う凄惨さが見て取れる為、未解決の分も含めた正確な被害数が把握出来ていた。
尚、ハレル教徒とは無関係の検挙された盗賊は、揃ってハレル教徒の手口を批判している。
この様な事態に対し、センテル帝国を中心とする他大陸が治安維持を名目とする人員派遣を申し出ている状態にある。
しかし同時に、関税の引き下げや撤廃を条件に盛り込んでおり、あまり積極的に受け入れる気にはならない。
とは言え、いつまでもこの状況を解決出来ず各国にもそれなりの被害が出ている現状では、いずれは押し切られてしまう。
暁帝国からの勇者一行の受け入れが無ければ、既に押し切られていた可能性すらあり、もしこれが失敗すればフレンチェフの目指し続けている独自の地位が霧散してしまう可能性すらあった。
「それで、私達は具体的に何をすれば宜しいのでしょう?」
揃って怒りに震えている四人に先立ち、スノウが更に問う。
「まずは、君達の事をイウリシア大陸で派手に公開する。その後は、現地の治安維持機関と共に鎮圧に当たって貰う。」
五人は驚愕した後、大きな不安に駆られる。
「そんな事をしたら、ハレル教徒は怒り狂ってしまう!今よりも更に酷い事になるのは目に見えている!それに・・・」
(・・・大したモンだな。)
東郷は、中断した先の言葉を理解した。
要するに、自身が受け入れられるかどうかが恐ろしくて堪らないのである。
最も長く敵対して来た勢力下で、最も巨大な影響力を持つ者の受け入れを大々的に発表すれば、大きな争いの元となる事は素人でも予想が着く。
誰でも、争いの渦中に放り込まれる事には大きく反発する。
それでも受け入れるならば、敵対勢力の動向など忘れて受け入れた政府と受け入れられた者を苛烈に糾弾する事は目に見えている。
それでも、現状が酷くなる事が先に出て来た事に、東郷は感心した。
「それが狙いだ。連中が下手に動けば、奴等の潜伏先も動向も簡単に把握出来る。現地には、話を通して準備をして貰っている。嫌な視線を浴びるかも知れないが、勘違いで襲われる心配は無い。」
「ま、待て!そんな事をしたら、どれだけ犠牲が出るか分からないぞ!犠牲を前提にしているとしか思えない作戦は、承服しかねる!」
「勿論、犠牲を出さない為に最善を尽くす。」
「そんなのは当たり前・・・!市民の犠牲を前提にするなんて、信じられない・・・!」
「ハレル教徒の行いは悪事だけど、こっちのやってる事も悪事じゃない。戦だからって何でもかんでも正当化する人は多いけど、行いが伴っていないと正義を名乗る資格は無いわ。」
「正義を騙りたければ、まずは勝つ事だ。」
大して大きな声でも無いが、五人の耳には殊の外大きく聞こえた。
途端に動きが止まり、目付きも鋭くなる。
「今、何て・・・?」
静かに問う五人は、殺気すら纏い始めた。
「正義かどうかについては、勝ってから考えようと言ってるんだが?」
「ふ・・・」
震え始めた五人に対し、護衛が身構える。
「ふざけるなァァァァァァーー!!」
耳をつんざくレオンの怒鳴り声が、外にまで響き渡る。
「お前等は、そう言う奴だったのか!?勝つ為には何でもする奴だったのか!?しかも、それで正義を唱えるつもりか!?散々虐殺を正当化して来た教皇庁と同じ様に!?」
レオンは、止まる気配が無い。
「心外だな。連中と同類に見られるのは聞き捨てならんな。」
「そうとしか言えないだろうが!一般市民の犠牲を許容する戦い方で、正義を唱える事は絶対に出来ない!」
「正義の戦争などある訳が無いだろう。」
東郷の言葉に、再度止まる。
「戦争にあるのは、必要悪と絶対悪だけだ。戦争そのものに、正義などあってはならない。」
「な・・・な・・・」
五人は、想像もしていなかった言葉に何も言えなくなる。
「君達は、何を目的に戦っているんだ?いや、戦争に何を求めているんだ?」
現代国家がそうである様に、東郷にとっても戦争とは外交の一手段に過ぎず、目的では無い。
質問に答えられずに固まっている五人を見て、東郷は更に続ける。
「戦争とは、どう取り繕っても他者を滅ぼす行為に外ならない。君達も、戦場には何度も出ただろう?そこで、どれだけの死を見て来た?敵味方を問わず、どれだけの死に関わって来た?」
勇者一行と言えども、日常的に殺戮に関わって来た事もあり、その様な非日常的行為に麻痺していた。
既に、五人揃って殺戮に罪悪感を覚える段階をとうに通過していたのである。
その結果が、戦場の只中で声高に正義を叫ぶ光景へと繋がっていた。
「なら、正義は何処にある?正義とは何だ?」
レオンの問いは、自身に対しても向けられていた。
沈黙するかと思われたが、すぐに答えが返って来た。
「正義とは、結果論だ。勝てば官軍、敗ければ賊軍だ。」
「どう言う意味だ?」
「勝った方が正義と言う事だ。どんな卑怯な手段でも、勝てば作戦になる。勝てば、どんな事でも正当化出来る。」
それこそ、核攻撃でさえも。
勝者こそが、その後の世界の主導権を握れる。
敗者の処遇も、情報操作も、国民への宣伝も、何もかもが思いのままとなる。
「そんな乱暴な・・・!」
「その乱暴な事をやって、ハレル教圏は自己の正義を貫き通して来た。だからこそ、散々迫害や虐殺を繰り返して来ても、神聖ジェイスティス教皇国は列強国の地位を得た。」
ハレル教圏に限らず、何処の国も辿って来た道である。
だからこそ、警戒しつつも誰も何も言わなかった。
しかし、敗者となれば話は変わる。
「今、ハレル教圏が世界から敵として認識されているのは、敗けているからだ。ゾンビ騒動以降、何処もやった事の無い残虐行為に手を染め続けて来たとは言え、それだけで此処まで糾弾されるのは敗けたからに他ならない。」
世界大戦でモアガル帝国が締め上げられていたのも、都合の良い敗者であったからこそである。
「正義を騙れるかどうかは、結果次第と言う訳だ。だから、結果論なんだよ。」
信じたくは無いが、否定出来るだけのものを持ち合わせてもいなかった。
「戦争そのものに正義は無く、結果次第で正義を騙れる。」
有史以前から、全世界で繰り返されて来た事である。
一民族の絶滅でさえ、勝利の名の元に正当化されて来た。
「・・・・・・」
大して長くも無い説明に、五人は圧倒されていた。
「君達も、勝ち続けて来たからこそ、勇者と呼ばれた。勝ち続けて来たからこそ、自らの正義を疑わなかった。」
直接刃を交えた訳では無いが、彼等は暁帝国を相手に敗北を経験した。
自らの正義を疑ったのは、敗北してこそである。
「イウリシア大陸は、未だに正義が定まっていない。此方が勝利する過程で発生する犠牲は、必要悪だ。そして、敵の行いは絶対悪だ。残念だが、悪には悪で対抗するしか無い。」
五人は、揃って沈黙したままであった。
「少し、気分転換した方が良さそうだな。折角の機会だ、観光でもして行くといい。」
東郷との会談は、此処で終了した。
外へと出た五人は、用意された車へ乗り込む。
「・・・・・・」
しかし、相変わらず沈黙したままであった。
彼等が勇者としての力を振るって来た原動力は、その根幹に正義があると信じて来たが故である。
「・・・もう、疲れた。」
レオンは、自身の人生を振り返る。
思えば、冒険者を志して以降、気の休まる暇など殆ど無かった。
勇者として名を馳せた後は、何処へ行こうともあらゆる人間が付き纏って来た。
自身に希望を見出す者が群がって来たのであるが、その自身に希望を与える存在は何処にもいない。
街中であろうとも戦場であろうとも、希望を与える存在として常に振舞い続けなければならなかった。
長い間その様な事を続けて来れたのは、唯一安らげる仲間の存在があった事と、正義と言う名の大義名分があったからこそである。
仲間の存在が疲れを忘れさせてくれ、大義名分が堂々たる振る舞いを可能とした。
そのバランスが崩れた今、レオンに勇者としての振る舞いは出来なくなっていた。
「・・・そうか。」
そうして、漸く気付く。
自分は、勇者などでは無い事に。
何処にでもいる、英雄物語に憧れていた一般人に過ぎない事に。
「レオン様?」
スノウが、レオンの様子がおかしい事に気付く。
「スノウ、様付けはもうやめてくれ。」
「急にどうしたの?」
今度は、カレンが問う。
「俺は、どうやら勇者じゃぁ無かったみたいだ。」
「いきなりおかしな事を言いだすなぁ。」
フェイの口調は軽いが、動揺で声が震えていた。
「あいつの言う事は、どうやら本当みたいだ。勝って来たからこそ、俺は勇者を名乗れたんだ。」
「そんな事は無い・・・!勝っても負けても、勇者はレオンだけ・・・!」
シルフィーが、力強く否定する。
「振り返ってみると、俺のやって来た事が正義とは思えなくなってな。もう、何人殺したかも覚えてない。今更ながら、俺の手は随分汚れてるみたいだ。」
そう言われて、四人は今までの事を振り返る。
直近の過去を振り返っても、五人揃って一人ずつ手を掛けていた。
殺戮が悪とは、ハレル教でも言われている事である。
今更ながら、その悪とされている殺戮に手を染め続けていた事に気付く。
「私達も、悪だったのですね・・・」
五人の誰も、自身を勇者と名乗る事は出来なくなった。
正義と言う名の道標を失った彼等は、この世界が混沌とした別世界に見え始めていた。
「必要悪って、何なの?」
次に彼等の指標となるのは、東郷の提示した必要悪である。
「悪を必要とするなんて、有り得るのか?」
「そうは思えない・・・。悪は、何を言っても悪でしか無い・・・。言葉を借りるなら、絶対悪しか無い・・・。」
正義を失おうとも、悪を肯定する気にはならない。
必要となる悪が存在するなど、信じたく無い事実である。
「皆さん、間も無く到着します。」
運転手の声により、思考が中断される。
降りると、そこには大規模な宿泊施設が聳え立っていた。
都心で営業している、高級ホテルである。
道へ目を向けると、何百何千と言う人々が往来している。
「少し、外を見に行っても?」
「では、案内をつけましょう。何処か希望はありますか?」
(監視を兼ねてるんだろうな。)
少しうんざりするが、元々が敵対者同士なので口には出さない。
「それなら、この近くの飲食店に連れて行ってくれないか?一般人が利用するタイプの奴な。」
「分かりました。」
歩ける距離にある事から、徒歩移動となった。
道路では大量の車がひっきりなしに行き交うと同時に、歩道でも大勢の歩行者が行き交っている。
「新作ソフトが出るまで何日だっけ?」
「ちょっと、だから食べ過ぎだって言ったじゃん!」
「締め切りが、締め切りが・・・!」
忙しなく動き回る人々ばかりだが、戦乱とは無縁の中で生きている事が分かる。
焦りに焦っている者もいるが、誰もが平和を謳歌していた。
「此処です。」
到着した店は、何処にでもあるファストフード店である。
店内へ入ると、ピークでは無い事から少し閑散としているが、それなりに人がいた。
見るからに一般人が利用しそうな少しやかましそうな印象を受けるが、極めて清潔な内装であった。
その内装の質の高さも、五人を大いに驚愕させた。
「何にしますか?」
「ええっと、何をどうすれば?」
案内人が、丁寧にメニューの説明をする。
「見た事の無い料理ばかりだぞ・・・」
(侮っていた・・・)
慣れない店に、慣れない注文方式に、慣れない料理ばかりが並び、
「適当にお願いします。」
投げた。
注文を終えて待つ間、店内で駄弁る客の様子を観察する。
誰もが、明るい顔で食事を楽しんでいた。
権力者に、理不尽な仕打ちを受ける者もいない。
暴動も発生していない。
暫くすると、注文品がやって来た。
「こ、これでいいのか?」
食べ方に苦労しつつも、口に入れる。
「!!」
(こ、これが、一般人の食ってる物なのか!?)
セイキュリー大陸であれば、余程の高級料理店でも無ければ出せない味であった。
「これは、何処から購入した物なのですか?」
「はい?これは、国産品を使用していますよ。時間を掛けて品種改良を繰り返して、此処までの味になったのです。」
五人は、暁帝国民の明るい表情の理由が分かった様な気がした。
食材の品種改良は、ハレル教圏でも長らく行われて来た事である。
だが、一部の裕福な貴族でも無ければ手を出せない事業であり、口に出来るのもほんの一部である。
生の根幹を成す食でこれ程の質を持ち、しかも一般人にまで広く普及させるなど、余程の善政を敷くだけでは不可能である。
落ち着いて研究を行う為に平和である事は勿論の事、巨大な国力無くしては成り立たない。
そして、権力による抑圧があれば成り立たない。
「最近では、我が国と関係を持つ多くの国でも親しまれています。しかし、イウリシア大陸では陰りが見られます。」
どれ程人々を幸福に出来る物があろうとも、それが届かなければ意味が無い。
また、届いても使う人がいなければ意味が無い。
イウリシア大陸は、その様な状況に陥りつつあった。
その事に思い至った五人は、顔を突き合わせる。
「俺達は、これからイウリシア大陸に行く事になってる。そこで必要な事は何だろうな?」
「平和かしら?でも、大人しくしてるだけなのが平和と言えるのかしら?」
「悪党が大勢いる・・・。話が通じない・・・。なら、戦うしか無い・・・。」
「けれど、戦ってもそれは正義では無いとの事です。住民を守る事は正しいのでしょうけど、正義では無い。」
「つまり、あたし達のやる事は悪と言うワケだな。今までとは違うな。」
悪に対抗する為に悪を行使する。
未知の行為に、全員が足踏みする。
「でも、何もしなかったら大勢の人が苦しむのも確かね。何もしなくても、結局犠牲が出るわ。」
「それこそ、絶対悪だな。「戦う事は悪い事だから、大人しく殺されましょう。」って言ってる様なモンだしな。」
「理不尽な死を受け入れる事が、正しい事では無いのは確かですね。そんな事を許してしまったら、セイキュリー大陸の様にいつまでも同じ事が続いてしまいます。」
「それを止める為にも、戦うしか無い・・・。やりたくなくても、やるしか無い・・・。」
「なるほどな、これが必要悪か。」
五人は、遂に納得した。
そして、決断する。
「やるか。」
レオンの言葉に、四人が頷いた。
・・・ ・・・ ・・・
神聖ジェイスティス教皇国
「勇者殿が行方不明だと!?」
アウトリア王国から帰還した聖騎士団は、顔面蒼白のまま枢機卿へと報告した。
「有り得んぞ!ハルーラ様の祝福を受けし勇者殿が、行方を眩ますなどあってはならん事だ!」
「聖教軍の連中が何か隠しているに違い無い!もう一度アウトリア王国へ向かい、徹底的に問い質せ!」
「既に実行致しました!王国中を徹底的に捜索し、住民への尋問も行いました!しかし、それでも見付からなかったのです!」
誰も彼もが、半狂乱となった。
勇者がいなくなってしまえば、ハレル教圏が瓦解しかねない事はよく考えなくても理解出来る事である。
自身の勢力の滅亡に立ち会いたい権力者など、誰もいない。
「大陸中へ捜索の手を広げろ!何としても、勇者殿を見つけ出すのだ!ただし、誰にも悟られてはならん!」
だが、既に手遅れであった。
アウトリア王国での尋問は一般の信徒に対して行われた事もあり、すぐに噂が広まって行ったのである。
更に、非常に苛烈な尋問であった事から、聖騎士団、ひいては教皇庁に対する不信感が急激に増す事となった。
そして、噂は尾ヒレを付けて瞬く間に広まって行き、
「勇者様が戦死した!」
「聖騎士団が、勇者様を殺害した!」
「聖騎士団と聖教軍が睨み合っている!」
「教皇庁が、アウトリア王国を滅ぼした!」
などと、手が付けられない程の騒ぎとなってしまっていた。
そして、本格的に団結が乱れたと判断した被征服国は、徐々に活動を開始し始めた。
ハレル教圏は、内戦の様相を呈し始める。
正義が大好きなどこかの国のおかげで、こんな結論に至りました。
※注意
核攻撃を正当化する意図はありません。




