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第百十一話  新たな動き

 前回は世界情勢のまとめでしたが、今回からその続きです。

 アルーシ連邦  サクルトブルク



 フレンチェフの元には、白洲が訪れていた。

「臨時世界会議に派遣されていた艦隊から、ハレル教圏の亡命者と合流したとの報告が入りました。」

「察知されてはいませんな?」

「勿論です。これで、ハレル教徒の暴走にも一定の歯止めが掛かるでしょう。」

「だといいのですが・・・」

 あまりにもしつこいハレル教徒の活動に、イウリシア大陸各国は疲れを見せ始めていた。

 順調に中東の米軍の様相を見せている事で、勇者と言う小勢によって状況が一変するとは到底信じられない。

「確かに、目に見える形で成果が出るにはそれなりの時間が必要でしょう。ですが、他に方法はありません。」

 白洲の言う通り、他に抜本的な解決法は存在しない。

 物量差から考えれば勝利は間違い無いが、昨今の情勢は早急な解決を望んでいる。

「期待して宜しいのですね?」

「勿論です。」

 フレンチェフは、勇者一行の出迎えの準備を始める。




 ・・・ ・・・ ・・・




 第零艦隊が西部地域から東進している頃、



 暁帝国東側海域



「うーみーはーひろいーなーおーきーなー・・・」

 東へと向かう大規模船団の甲板上で、暇を持て余した乗員が肩を組みながら音痴ぶりを披露していた。

「やかましい!少しは落ち着けんのか!?」

 船内からスーツを着た男がやって来て怒鳴り付ける。

「そう言われましても、暇で暇でしょうがないんですよ。」

「だったら、機材のチェックでもしてればいいだろうが。現場に着いてから故障していますじゃぁ話にならんのだぞ?」

 彼等は、星の裏側の調査を目的としている。

 民間を含むあらゆる部署が絡んだ事で、総数20隻を超える大船団となっていた。

 だが、衛星で確認した通り見えるのは海ばかりであり、船旅に慣れていない職員はやる事が何も無い状況が続いていた。

「明日には、魔力の塊の西端に着く予定だ。僅かな変化も見逃す事は許されん。」 




 ・・・ ・・・ ・・・




 神聖ジェイスティス教皇国  教皇庁



 教皇庁の会議室には、枢機卿が勢揃いしていた。

 此処最近の情勢悪化は、個別に対応してもどうにもならない程に深刻なものとなっていた。

 あらゆる分野から意見を出し合う為に集まった訳だが、議論は紛糾に紛糾を重ねていた。

「レック諸島へ送った艦隊がやられた事は、もう間違い無いと見るべきだ。早急にこの損失の穴を埋めないと拙いぞ。」

「そんな事をしてみろ!財政破綻を起こす国がいくつも出てしまうぞ!」

「いや、艦隊の再建を経済の起爆剤に出来るのでは無いか?やってみる価値はあるだろう。」

「その為の財源や資材は、何処から持って来るんだ!?やるにしても、先立つ物が無ければ意味が無いぞ!」

「それに今は、外部に目を向けている場合では無い。我等の事を堂々と糾弾する背教者が、そこかしこに表れているとの報告が上がっている。艦隊の再建よりも、内部の安定化を優先するべきだ。」

「だが、今回の損害は大き過ぎる。このまま邪教徒共の侵攻が起こる様な事があれば、現有戦力では防ぎ切れない可能性すらある。」

「ならば、セイルモン諸島へ派遣している艦を連れ戻せば良い。」

「無理に決まっている!そんな事をしてしまったら、大陸経済が立ち行かなくなってしまう!」

 会議は踊れど、進む気配は一向に無かった。

 レック諸島沖海戦の敗北による艦隊の消失は、全くの想定外の事態であった。

 勝利を前提とした無定見な行動によってハレル教圏の艦隊戦力は大きく目減りし、まともな防衛どころか沿岸警備すら事欠く有様となっている。

 早急な再建が必要だが、ハレル教圏の経済状況はその様な動きを許さない。

 まともに残っている戦力はセイルモン諸島海域の艦隊のみであるが、それを大陸へ戻そうものなら今度は首の皮一枚で繋がっている大陸経済へトドメの一撃を刺しかねない。

 更に、大陸内の不安定化に拍車が掛かり始めている事で、尚更艦隊再建を行う為のリソースが削られている。

 まずは内部の安定化を優先するべきではあるが、既に外部へ喧嘩を売っている現状では、その様な事をやっている場合では無い。

 最早、何をしても大きな綻びが出来てしまう為、どの様な案を出しても実行は不可能であった。

「クッ・・・最早、独自に問題を解決する事は不可能な様だ。こうなれば、外部の力を借りるしか無い。」

「な、邪教徒の力を借りると言われるのか!?」

 枢機卿の一人が出した案に対し、一斉に非難が集中する。

「他に何か方法があるのか?今を乗り越えねば、その様な事も言えなくなるのだぞ!ハレル教圏の復興を実現する為ならば、私は進んで背教者の汚名を被ろう。」

 想像以上の覚悟の大きさに、揃って口を閉ざす。

「しかし、具体的に何処を頼るので?」

 問題はそれである。

 ハレル教圏が八方塞がりとなっているのは、外部との関係がほぼ断絶状態となっている事が大きい。

「センテル帝国以外に無い。彼の国の、我等と関わりを継続している一派に協力を要請するのだ。」

 全員が、渋い顔をする。

 何しろ生命線の一つとは言え、相当に搾り取られて来たのである。

 現状を解決する為の協力となると、どれ程の対価を要求されるのか想像も付かない。

「不満があるのは分かるが、奴等は金には忠実だ。かなりの対価を要求されるのは間違い無いが、払えさえすれば仕事はこなしてくれるだろう。」

 背に腹は代えられない。

 そう考えて無理矢理納得するが、リウジネインとシェイティンは顔を青ざめさせていた。

「教皇代理、どうされた?」

「実は・・・」

 シェイティンは、代理人との一幕を明かす。

「何ですと!?」

「そんな・・・そんな・・・!」

「何故、その様な事を許したのですか!?」

 重要な生命線が断たれた事に、枢機卿は揃って半狂乱となる。

「全員、落ち着いて話を聞いてくれ!」

「落ち着ける訳が無いでしょう!」

 リウジネインが諫めるが、当然ながら聞く耳を持つ者はいない。

「対案があるのだ!落ち着いて聞いてくれ!」

 対案と言われ、何とか静まる。

「こうなれば、勇者殿に先頭に立って貰おうと思う。」

「勇者殿に?」

「そうだ。先の聖教軍の暴走でも、勇者殿の活躍によって止められたそうだ。やはり、内部の安定化が急務だと思うが、それには勇者殿を充てるのが良いだろう。そして勇者殿の活躍があれば、信徒の自発的な寄付を期待する事も出来る。」

 何とも他人任せな方法だが、ハレル教圏一のカリスマである勇者一行は、内部の安定化に関して最も際立った実績を残しているのである。

 勇者一行によって安心感が漂えば、教皇庁に対する求心力も元に戻り、勇者一行を心の拠り所として多くの寄付が集まる事が大いに期待出来る。

 それは同時に財源の確保にも直結し、戦力のある程度の立て直しにも寄与出来るのである。

「ただ、問題は成果が出るまでに時間が必要な事だ。一瞬で大陸全土の安定化が実現出来る訳では無いからな・・・」

「それは仕方が無いでしょう。しかし、何もせずに傍観しているよりは遥かに建設的です。やるべきでしょう。」

「その通りです。私も賛成します。」

「私も同じく。」

 全会一致で賛成を得た事で、リウジネインは早速指示を出す。

「では、当面は内部の安定化に努めよう。遺憾だが、派遣している艦隊は一旦帰還させる。やはり、大陸をがら空きにする訳には行かん。それとセンテル帝国については、この場にいる者のみの極秘事項とする。」

「畏まりました。」

 指示を受け、枢機卿はそれぞれの仕事に取り掛かる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 暁帝国  佐世保



 ハレル教圏で皮算用が行われている頃、渦中の勇者一行は遂に暁帝国のコンクリートを踏み締めた。

「こんな事を言うのも何だけど、落ち着かないわ。」

 佐世保の光景に驚く暇も無く、彼等の目の前では忙しなく動き回る作業員がいた。

「戦場か、此処は?」

 現代国家は、時間の経ち方が早い。

 それこそ、セイキュリー大陸で言う戦場の様に。

 のんびりとした時間の中で過ごして来た五人は、早くも暁帝国の目まぐるしい変化に目を回しそうになっていた。

「何してるんだ?早く着いて来てくれ。」

 阿部の呼び掛けに応じ、用意されていた車へと乗り込む。

「・・・」

 乗っている車の乗り心地、速度、窓から見える町並み、立体的な道、すれ違う車、歩き回る見慣れない服装をした人々・・・

 見た事の無い驚きの光景ばかりが飛び込み、何に驚けば良いのかも分からなくなっていた。

「改めて、とんでも無い相手に喧嘩を売っていたのですね・・・」

 どの施設が何の役割を果たすのかは全く理解出来ないが、小ウォルデ島すらも圧倒的に上回る技術力を持つ事は容易に察せられた。

 此処に至り、暁帝国が掛け値無しに世界一の列強国である事を正確に理解したのであった。



 東京



「さて、とうとう御対面か・・・」

 第零艦隊が帰還した事で、勇者一行はまず東郷と面会する事となっている。

 相手は、東郷の展開して来た技術チートでは無く、生まれ持ったリアルチートで生き抜いて来た面々である。

 少なからずファンタジー物に目を通して来た立場としては、楽しみであった。

「総帥、はしゃいでる暇があったらさっさと例の依頼の準備を進めてくれませんかね?」

 東郷の楽しみに水を差したのは、佐藤である。

「あー、森のハイエルフの遺跡の調査の事か?」

「それ以外に何があるんですか?」

「いやまぁ、星の裏の調査とか・・・ってか、本当に何で同行しなかったんだ?」

「もっと面白そうな調査対象が急に飛び込んで来る予感がしたからです。実際、大当たりでしたよ!」

 いつの間にか佐藤は、自身の欲望を満たす存在を察知する超人的な予知能力を得てしまった様である。

「そうかい、それは良かったな。」

 これ以上付き合っていては気疲れする為、東郷は感情の起伏の無い平坦な返事しかしない。

 この半月後には、早くもケミの大森林へ佐藤を含む調査船団が向かう事となる。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  セントレル



 ハレル教圏艦隊による民間船舶の襲撃を受け、センテル帝国の動きは活発化していた。

 連日、事態の鎮静化の為に艦隊がセイルモン諸島周辺を遊弋しており、ハレル教圏所属艦と分かり次第無警告で撃沈を繰り返していた。

 本来ならば国是からも世論的にも有り得ない対応だが、今回ばかりは事情が違う。

 ノーバリシアル神聖国の見境の無い行動による犠牲者がどの様な末路を辿ったのかは、各国が周知する所となっている。

 そして、ノーバリシアル神聖国よりも多少はマシとは言え、ハレル教圏もかなり容赦が無い。

 いきなり民間船舶を襲った事実を鑑みても、警告や協調的な態度が通用するとはとても思えなかった。

 その様は、無制限潜水艦作戦によってアメリカの参戦を招いてしまったドイツの様である。

 そして、ロズウェルドの元では定期的に戦果報告がされていた。

「先日、再編が完了した第一地方艦隊をセイルモン諸島海域へ投入致しました。早速、三等級戦列艦一隻を撃沈したとの報告が入っております。」

 センテル帝国海軍は、主力艦隊 地方艦隊 護衛艦隊 警備隊 からなっている。

 主力艦隊は一線級の戦力から成り立っており、有事であっても動かす事は滅多に無い。

 地方艦隊は二等戦艦を中心とする旧式兵器から成り立っており、規模も主力艦隊よりも劣る。

 護衛艦隊は防護巡洋艦を中心に成り立っており、航路防衛や商船護衛に多用されている。

 警備隊は沿岸警備を目的としており、現在はフリゲート艦を充てている。

 最近の大規模更新により、艦隊そのものの再編も大規模に行われており、地方艦隊もその煽りを受けていた。

 尚、情勢悪化の影響から、セイルモン諸島海域の当初からの主力は装甲巡洋艦である。

 輸送船の救出を行ったのも、装甲巡洋艦である。

「しかし、この動きに関してアルーシ連邦から抗議の声が寄せられております。事前通告も無くいきなり大きく動き過ぎた事から、以前より警備を行っていた各国艦艇に混乱を齎しているとの事であります。」

 実際、センテル帝国の動きはいきなり過ぎであった。

 まだ活動が限定的であった頃に艦隊を遊弋させる事は伝えていたが、その頃はあくまでも事態がウォルデ大陸へ及ばない事を目的とした限定的な物であった為、センテル帝国のこの突然の活動の活発化には何処もかしこも慌てていた。

 センテル帝国は、未だに大きな影響力を保持している事の証左でもある。

 だが問題は、各国艦艇が国籍も分からない遠方にいる時点で、しかしハッキリと見える地点で、センテル艦が発砲している場面を目撃する事態が急増している事である。

 何の通達も無いままその様な光景を目にしてしまえば、あらぬ誤解を招いてしまう。

 アルーシ連邦の抗議は、この様な事態を憂慮してのものであった。

「暁帝国からも説明を求められていると、外交部から報告が上がっております。」

「どうやら、最近は衝動的に動き過ぎた様だな。」

 報告を聞き終えたロズウェルドは、これまでの行動を恥じ入る。

「事態をこれ以上悪化させぬ為にも、各国との連絡を密に取る必要がある。セイキュリー大陸に関して何か新しい情報が入った場合は、東部地域各国へ速やかに報せる様に心掛けよ。」

 センテル帝国は、その影響力の大きさから若干の窮屈さを感じているものの、持ち得る強大な力を存分に発揮する。



 ドレイグ王国大使館



 先日完成したばかりの大使館では、大使に任命されたウムガルが原と面会していた。

「ふむぅ、中々に難儀な状況に放り込まれていたのだな。」

「それ程でもありません。」

 ウムガルが聞いていたのは、暁帝国の経緯(例の設定)である。

 ドレイグ王国にとっての目下一番の関心事は、やはり暁帝国関連であった。

 魔力を一切持たず、にも関わらずセンテル帝国と張り合う強国。

 気にならない筈が無かった。

「その後ですが・・・」

 原は、転移後の経緯を説明する。

(やはり、無知でいる事は危険極まりない。気付かない内に、とんでも無い強敵に挑まされる可能性もあるからな。)

 ウムガルは、相手をよく知らずに無謀な戦いへ身を投じた前例を聞かされ、自身の判断が間違っていない事を確信した。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アウトリア王国  聖教軍司令部



 勇者一行の働きによって戻って来た聖教軍は、指揮官が全員粛清された事で指揮系統の問題を抱えていた。

 そこで、粛清された指揮官の元にいた副官が集まり、今後の方針を話し合っていた。

「悔しいが、やはり我等では力不足の様だな。勇者様に任せるしか無さそうだ。」

「遺憾だが、それしか無かろう。」

 独断行動を許してしまった事から、副官は揃いも揃って自信喪失しているのである。

「決まりだな。誰か、勇者様をお呼びしてくれ。」

「え、勇者様でありますか?」

「そうだ。なるべく急いでくれ。」

 衛兵へ命じるが、誰一人動こうとしない。

「何をしている、事は急を要するのだぞ?」

「勇者様の所在が不明であります。」

「・・・何?」

 場が騒めく。

「帰還後の点呼の際に確認しております。」

「間違い無いのか?」

「間違いありません。」

 衛兵も衛兵で、戸惑いの表情を見せる。

「どうなっている?フェイ様は我が隊の指揮官を処分した後、他の隊の対応へ向かった筈だが・・・」

「何を言っている?此方には、カレン様がお見えになられたぞ。我が隊の指揮官を処断した後、別動隊へと向かわれたが?」

「いや、カレン様もフェイ様もこっちには来ていない。こっちには、レオン様が駆け付けられた。」

「・・・どう言う事だ?」

 此処で、全員が重大な思い違いをしている事を理解した。

 話を擦り合わせて行くと、各隊へ勇者メンバーが一人ずつ駆け付けた事が分かり、その後の行方は誰も把握していない事が分かった。

「だとしたら、勇者様方は何処へ?」

 全員が、同じ疑問へと辿り着く。



 コンコン



「失礼致します、聖騎士団の方々がお見えになっております。」

 予想もしない突然の来客により、全員の目が点になる。


「我々が此処まで出向いたのは他でも無い。勇者様をお連れしに来た。早速だが、案内して貰おう。」



 センテル帝国の艦隊編成ですが、もう暫く後に公開します。

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