第百九話 亡命3
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ケミの大森林 ハイエルフの集落
暁帝国関係者、ハイエルフの亡命者、勇者一行が一堂に会し、ライトウの案内に従い集落へと入る。
集落は厳戒態勢を保っており、周囲からは奇異の目で見られる。
「ライトウ、これはどう言う事だい?」
杖を突いた老婆が、近付いて尋ねる。
足腰は見るからに弱そうだが、眼光は鋭く背筋は伸びており、只者では無い空気を感じさせる。
「長老、申し訳ありません。ですが、長老にもお分かりになられている筈です。」
長老と呼ばれた老婆は、勇者一行と亡命者を順繰りに見る。
その鋭い眼光に、勇者一行でさえ怯む。
「フン、こいつは驚いたね。いいだろう、案内しな。」
それだけ言うと、一足先にその場を去る。
「い、今の方は?」
レスティがライトウへ問うが、そのライトウの顔にも緊張の色が見られる。
「長老の ヨウヒ 様だ。我が集落は年長者を長老とし、その長老によって動いている。ヨウヒ様は、歴代最高と名高い方だ。」
目に入る中で最も小柄で頼り無い見た目をしていたにも関わらず、誰よりも強い存在感を放ち、同時に強い威圧感も放っていた。
誰よりも長い年を重ねた年季を感じると同時に、未だに衰えを知らないヨウヒの強い生気に恐怖する。
「とにかく、ヨウヒ様の元へ案内しよう。」
誰もが不安を感じる中、一行は集落の中心へと向かう。
「あ・・・た、隊長!?」
途中、ライトウへ声を掛ける少年がいた。
「カロルか、どうした?」
「どうしたも何も、そこにいる連中が報告した侵入者ですよ!」
(最初に我が艦隊を目撃していたのは彼か。)
部隊の全員が、事情を察する。
カロルは武器を構えるが、ライトウが止める。
「そんな事より、ユウがお冠だぞ。お前、見回りの集合を忘れてたろう。」
カロルは青ざめたが、時既に遅し。
一行の後方にいたユウが前へ出ると、カロルを引き摺って何処かへと消えて行った。
暫く後、
「此処で待っていてくれ。」
案内によって木造の大きな屋敷へ入ると、控え室と思われる部屋へと案内された。
部屋は靴を脱いで入る方式となっており、何処か日本家屋を思わせる造りとなっている。
「フゥ・・・」
一息ついた一行だが、その空気は何となく重苦しい。
全員が、またヨウヒと対面しなければならない事に暗い展望を見出していた。
・・・ ・・・ ・・・
神聖ジェイスティス教皇国 教皇庁
「そんな馬鹿な事があるかァ!!」
教皇庁で突然響き渡った声の主は、リウジネインである。
その原因は、レック諸島沖海戦である。
艦隊が全滅した事で詳細を掴めずにいたが、いつまで経っても連絡が回復しない事で全滅したと判断するに至ったのである。
「海獣部隊はどうしたのだ!?あれを捕獲するのに、どれだけ苦労したと思っておるのだ!?」
海獣の使役は、ハレル教圏の総力を挙げても生半可な道のりでは無かった。
複数の小国の年間予算に匹敵する多額の予算を投入し、数十隻の戦列艦を沈められつつ達成した、正に虎の子である。
更に、完全に使役出来ている訳では無く、何重にも使役の為の儀式魔術を掛ける事でどうにか統制出来ている状態にある。
外征する場合は、使役の為の魔術陣を仕込んだ特別仕様の艦を複数同行させる。
暁帝国が探知した巨大な魔力は海獣そのものだけでは無く、この魔術陣の魔力も含まれていた。
一見非効率極まり無い行為に見えるが、この世界ではまともな海中戦力は存在していない為、海中からの攻撃は極めて有効と見做された結果であった。
尚、センテル帝国の潜水艦戦力は、未だに実用レベルには達していない。
「艦隊が全滅したとすれば、海獣も殲滅されているか、此方の統制を離れて逃亡していると思われます。」
連絡員は、リウジネインの爆発を恐れつつ言い切る。
「五体だぞ・・・一度に使役出来るギリギリの数を同行させたのだぞ?」
信じ難い内容に、リウジネインは最早茫然自失であった。
今回派遣した艦隊は、核攻撃の影響を引き摺ったハレル教圏には重過ぎる負担である。
これが失敗したと言う事は、無駄に自身の首を絞めただけでは無く、防衛の観点から見ても非常に拙い損害を出した事にもなる。
「失礼致します、代理人の方がお見えになっております!教皇代理をすぐに呼べと・・・!」
新たな連絡員が、慌てて飛び込んで来る。
代理人と聞き、リウジネインは機嫌が悪くなる。
「・・・気に食わんが、無視も出来んな。」
代理人とは、センテル帝国に存在するセイキュリー大陸との貿易を継続している一派から派遣されている交渉人である。
かなりがめつい連中であり、高値の取引を強要されていた。
多少の値引きは実現していたが(元々計算されていた値段に過ぎない)、それでも法外と言える高値である。
本音を言えば今すぐにでも取引を止めたい所ではあるが、現状では自給自足などはとても出来ず、正規の貿易をしようにも何処も相手にはしてくれない。
その為、搾取されているとは自覚しつつも、生命線の一部と化している為に関係を継続せざるを得なかった。
だが、この様な赤字貿易などどうやっても長くは続かない為、無茶な通商破壊の実行に対する追い風となると言う側面が存在している。
実は、この通商破壊には慎重論もそれなりに存在したのだが、大陸の富を恐るべき勢いで吸い上げられていると言う事実が、慎重論を封殺する絶好の口実となっていた。
応接室へ移動すると、一足先に到着していたシェイティンと、如何にも金勘定が好きそうな丸眼鏡を掛けた男がいた。
「お待たせした。急な訪問だが、突然どうされた?」
「やってしまいましたなぁ!今回は、致命的に過ぎますよ!?」
食い気味に、絡み付く様な嫌らしい口調で言う。
「何の話でしょうか?」
嫌悪感で眉間に皺を寄せつつ、シェイティンが訪ねる。
「とぼけても無駄ですよ!我が帝国政府は、今回の事件に酷くお怒りです!」
「待って戴きたい。いつ、我々と貴国の間で事件が起きたと言われるので?」
二人は驚くが、その二人の反応に代理人も驚く。
「まさか、本当に何も知らないので?」
代理人は、説明を始める。
それは、セイルモン諸島近海を遊弋させていた艦隊の戦列艦が、センテル帝国籍の輸送船を襲撃したと言う話であった。
二人は、全くの想定外の話に青ざめる。
通商破壊は、「イウリシア大陸と暁勢力圏からやって来る船舶を襲撃せよ」と言う命令の下に実行させていた。
生命線となっているセンテル帝国との貿易を切り離す訳には行かず、センテル帝国に関しては一切言及していなかった。
「記録によりますと、襲撃を行った艦は一等級戦列艦であった様ですね。ちなみに、その艦の指揮官らしき人物を軍は拘束しています。」
(あのバカが・・・!)
セイルモン諸島海域を遊弋させていた一等級戦列艦は一隻しかいない。
その艦の指揮を執っていた人物との面識のあるリウジネインは、内心で悪態を吐く。
「代理人殿、此度の襲撃はその艦の独断行為であると断言する。」
「口先だけなら何とでも言えるでしょう。あんな事をされて、どうやってその証言を信じれば良いのですかな?」
「尤もだが、我々が貴国船舶の攻撃を命令した事実は無い。」
何としても信じて貰わなければ二人の息の根が止まりかねない為、必死の説得が始まった。
「ですから、どうやってその言葉を信じれば良いのですか?」
「分かった、今からその命令書を持参しよう。」
「そんな物、いくらでも改竄出来るでしょう。見せられても何の証拠にもなりません。」
代理人は、遂に立ち上がる。
「ま、待ってくれ!此度は、我等も把握し切れていなかったのだ!今後、二度とこの様な事が無いように徹底する!」
「天下の教皇庁も落ちたものですねぇ・・・まともに艦隊の統率も取れないとは、危なっかしくてこれ以上の取引など出来ませんよ。」
「頼む!馬鹿な事をしでかした者共は、そちらで処刑しても構わん!だから」
「アレレ?お二人は、信徒を正しく導く為にこの様な立場にあるのでは無かったのですかな?」
「その導きから外れた真似をしている者など、背教者として断罪する以外に無い。」
「絶対的に正しい導きから外れる人がいるなんておかしな話ですが、お二人の能力不足を自ら認めるんですね?」
何を言っても墓穴を掘るばかりであった。
「これはダメですね。我々との取引は、もう期待しないで下さい。」
遂に二の句が継げなくなった二人を見た代理人は、応接間から出る。
その直前に、足を止めて口を開く。
「そうそう。言い忘れてましたけど、帝国は本格的な武力制裁を視野に入れて動いていますよ。滅びないようにしっかり準備をしておいた方がいいでしょうね。」
呆然とする二人を放置して、代理人は今度こそ立ち去った。
・・・ ・・・ ・・・
ケミの大森林 ヨウヒ邸
暫く待っていた一行は、ライトウの案内でヨウヒの元へと向かう。
横開きの戸を開けると、良い匂いが漂って来た。
見ると、座敷の中心は囲炉裏となっており、そこには底の深い鍋の様な器具が複数吊り下げられていた。
「いつまで突っ立ってる気だい!?さっさと上がんな!」
ヨウヒに急かされ、一行は慌てて座敷へ上がる。
「来客なんぞ久しぶりなもんだから、随分待たせちまったね!此処じゃぁ、客を持て成す時はこいつを出すのが伝統なんだよ!」
それは、スキヤキに近いものであった。
(生卵が無いのが悔やまれるな・・・)
「何だい!ウチのメシに文句でもあるのかい!?」
考えが顔に出ていた阿部は、すぐに察知されて怒鳴られる。
「いえ・・・文句など何も」
「だったら、大人しく待ってな!その辺のガキの方が行儀がなってんだよ!」
ヨウヒの剣幕に、誰も何も言えなくなっていた。
黙ったまま数分待っていると、用意された器へ盛り付けを始める。
すぐ近くにいる者へ、器を無造作に渡した。
「・・・さっさと奥の奴へ器を回しな!それ位言われんでも分からなきゃぁ軍人なぞ務まらんだろう!?」
慌てて器を回し始めるも、多くの者が今の言葉に驚愕する。
「何、ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔してんだい!あんた等が何やってるかなんざ、一目見りゃぁ分かるんだよ!」
見た目がキャンプ施設な森の集落の長老と言う事で少し甘く見ていたが、決して侮ってはならない人物である事を認識する。
「フン、今更分かったのかい!少し小賢しい国と付き合えば、あんた等はいいように利用されてただろうね!」
盛り付けを中断し、全員をジロリと一瞥する。
「手遅れっぽいのが5人いるね・・・ま、その程度で気付けたんなら上出来じゃ無いかね!」
指名された勇者一行は、生きた心地がしなかった。
「それにしても、因果は味なものとはよく言ったもんだね。此処にこんな連中が集まるなんて、普通はあり得ないよ。」
盛り付けが終わり、緊迫した空気が少し弛緩する。
「それは、どう言う意味で?」
「ボーっとしてないでさっさと食いな!」
スノウが尋ねるも、それ以上の勢いで怒鳴るヨウヒには敵わなかった。
全員が慌てて食べ始め、質問をするどころでは無くなってしまう。
(生卵・・・)
阿部は、この期に及んで生卵が無い事を悔やんでいた。
食事が中盤を過ぎると、緊張感が大分和らいでいた。
「フン、見ず知らずの相手と話すなら、やっぱりまずはメシだね。そう思うだろ!?」
「え?あ、ハイ!」
指名されたレスティは、危うく零しそうになる。
「それで、そろそろ説明して貰っても・・・?」
シルフィーが、若干の威圧を込めて尋ねる。
「フン、いい度胸だね。」
そんなシルフィーに対し、ヨウヒは言う程気分を害していなかった。
「いいさ、話してやるよ。と言うより、あんた等は聞かなきゃならない。」
全員が、生唾を飲み込む。
「ユウから大体は聞いてるみたいだね?そうさ、あたし等ハイエルフは創られた存在だ。」
改めて明言され、レスティ達は気が沈む。
「だが、この話には続きがあるのさ。」
「続き?」
全員が、首を傾げる。
「創られた存在ってのは、あたし等だけじゃ無いのさ。人間 ドワーフ 獣人 妖人 竜人 あらゆる種族の上位種が創られたそうだ。だが、成功したのはエルフだけだったと伝えられている。」
「何故、そんな事に?」
「知るもんかい!あたしが産まれるずっと前の話だ!その頃には、あちこちで無理矢理魔力を扱える量を増やす実験をやってたって言うから、その延長じゃ無いのかね!」
実際、魔力受容量を無理矢理拡大する人体実験を行っていた記録は、各地に存在する。
「どっちにしても、胸糞悪い人体実験だよ!」
ヨウヒはそう言うと、器の残りを一気に掻き込んだ。
「だが、言い伝えの一部は間違ってた様だね・・・」
そう言うと、勇者一行を見る。
「さっきから何の話を?」
五人は、事の詳細をまだ知らない。
一から説明した上で、ヨウヒが続ける。
「あんた等は、あたし等ハイエルフより莫大な魔力を抱えてる。あんた等は人間族だろ?何でこんな事になってんのか知らないけど、普通に考えれば人体実験された連中の子孫じゃ無いのかね?」
突然の告白に、五人揃って激しく狼狽する。
「少々宜しいでしょうか?」
阿部が口を開く。
「何だい?」
「その話ですが、全てが言い伝えを根拠にしています。言い伝えそのものを否定するつもりはありませんが、あまりにも不可解です。」
「あたしに言わせりゃぁ、あんた等の方が不可解だけどね。魔力を一切持たないなんて、どうなってんだい?」
当然の疑問であるが、何の準備もしていない為に口頭での説明しか出来ない。
内容が内容だけに説明に難儀するも、どうにか説明を終える。
「・・・と言う訳です。」
「そ、そんな事が有り得るのかい!?」
流石のヨウヒも顔色が変わる。
「この世界の生物が魔力を持たない事は、有り得るのでしょうか?」
こう言われては、黙るしか無い。
「・・・分かったよ、あんた等の言う事は信じようじゃないか。にしても、久々にぶったまげたね。」
ヨウヒは、大きく息を吐く。
「それで話の続きですが、貴方の言葉には何か明確な根拠がある様に聞こえます。」
「フン、こりゃ参ったね。思ったよりよく見てるじゃ無いか。」
そう言うと、おもむろに立ち上がる。
「ついて来な、特別に見せてやる。」
ヨウヒは、返事も聞かずにさっさと外へ出る。
他の者達が慌てて追い掛けるが、特に勇者一行の足取りが重い。
何処かへ向かう途中、ユウが仁王立ちしていた。
ユウの正面には、涙目のカロルが正座している。
「何してんだい?」
「あ、ヨウヒ様。この馬鹿者が、見回り後の集合を忘れていたのです。」
ユウの視線は、誰かの絶対零度の視線を思い起こさせる。
「こいつがライトウに報告したガキかい・・・二人とも、一緒に来な。」
「どちらへ?」
「あそこに行くよ。」
「あそこ?・・・え、あそこですか!?外部の者に!?」
「気持ちは分かるけど、今回は必要だよ。早く来な。」
顔色を変えるユウに対し、カロルは何の話をしているのか分からない様子であった。
暫く進んで行くと、厳重な警備がされている施設へと着く。
「これは・・・」
亡命者以外は、その施設の外観に見覚えがあった。
「その様子だと、同じモノがあちこちにある様だね。」
ヨウヒのその言葉にユウは驚愕するが、当のヨウヒは想定内とでも言う様な表情であった。
「貴方は、この施設について何処まで御存知で?」
「恐らく、言い伝えに関するモノだろうって事位かね。」
阿部の問いに対し、ヨウヒは曖昧な返事しか出来ない。
そのまま内部へ入ると、経年劣化によってボロボロではあるが、近代的な医療施設らしい造りとなっている事はハッキリと分かった。
「何だコレ?」
「見た事の無いタイプですね・・・」
セイキュリー大陸各地に点在する遺跡を見た事のある勇者一行は、揃って首を傾げる。
「これが、言い伝えの根拠ですか。確かに、人体実験を行っていそうな見た目をしていますね。」
「見ただけで分かるのかい!?」
暁帝国関係者は揃って納得しているが、それ以外は驚愕で目を見開く。
「文字資料は残っていますか?」
「あ、ああ、残ってるが、どうするつもりだい?あたし等の使ってる言葉とは全然違うし、多分あんた等のとも違うだろうよ。」
「我が国では古代遺跡と呼んでいますが、各地に点在する遺跡を精力的に研究しています。既に、残されている文字の解読も完了しています。」
「それは本当なのですか!?此方では、何世代にも渡って未だに実現出来ていないのに・・・!」
スノウは、五人の中でも特に古代遺跡に興味を持っており、度々研究に参加していた。
だが、施設に使用されている材料の解析を行うのが精一杯であり、その解析も不完全そのものである。
最も解析出来ているのはセンテル帝国だが、材料の解析と言うよりは材料の解析を切っ掛けとして技術の根幹を成している原理を解明したと言った方が良い。
「私は研究に関わっていませんが、そちらの許可があれば研究を行っている者を派遣するか、これから撮影を行って本国で解析して貰えます。」
さらりと言う阿部だが、謎の多い古代遺跡を解明するなど驚天動地の事実なのである。
ヨウヒでさえ唖然とした。
「あの、それでは、この遺跡が誰によって建造されたのか御存じなので?」
「ええ、既に分かっています。」
遠慮がちに尋ねるレスティに対し、即答する。
「それは一体!?」
「いやちょっと、落ち着いて!」
スノウが目にも止まらぬ速さで阿部に詰め寄り、阿部を困らせる。
「出たよ、スノウの発作が・・・」
他四人は、全力で関わり合いを避ける姿勢であった。
「順番に説明します。」
阿部は、全員を並ばせて分かっている事を教示する。
古代遺跡について現時点で分かっている事は、神話に登場するメイジャーが遺跡に深く関わっている事がほぼ確実と見られている事である。
メイジャーは、‘自称‘神の証言を抜きにしても、人類の祖先で無い事は確実視されている。
技術は、地球で言う1930年代後半と見られており、ハーベスト全域を勢力圏としていた事はほぼ間違い無い。
散見される資料の差から、インシエント大陸がメイジャーの発祥らしいと推測されている。
畜産に非常に力を入れていたらしい事が各地の資料から分かっており、これに関しては誰もが首を傾げている。
更に、被征服民が相当数いた事も間違い無く、その被征服民こそが現在の人類の祖先と思われる。
被征服民が軍へ相当数徴兵されていた事も分かっており、その扱いの差によって階級が存在していた様である。
資料の中には、その被征服民の物と思われる記録もかなり残っており、<英雄>と言う単語が散見されていた。
その英雄に関して詳細な記録は残っていないが、これまで解析された資料から英雄はセイキュリー大陸と深い関わりがあるらしい事が分かっており、今回の顛末は結果的に渡りに船となっていた。
「・・・・・・」
説明が終わると、一同は唖然としていた。
これまで解明したくとも出来なかった遺跡の正体がかなりの所まで明らかとなっており、しかも世界中で語られて来たよく知られているメイジャーの逸話が全否定されてしまったのである。
言わば、これまで(話半分に)信じられて来た人類のルーツが否定されているのである
それで不都合が生じるのはハレル教圏だけであるが、ある種の通説を覆す大発見である。
そんな中、他と違う反応をしていたのがスノウである。
「す・・・」
「す?」
「素・晴・ら・し・い・!!」
「うおお!?」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
何かを早口でまくし立てているのだが、解読不能であった。
「ああ・・・」
四人は、かつて無い暴走ぶりに諦めの表情であった。
(見てないでさっさと止めてくれ!)
だが、阿部のその様な胸中とは裏腹に、四人どころか誰も近付こうとはしない。
マニアめいているスノウのエネルギーには、誰も手に負えないと行動を起こす前から匙を投げていたのである。
「ですが、メイジャーの目的が見えて来ません。単に全世界を征服するにしては、不可解な点が多過ぎます。」
「へ?・・・ええ、そうですね。」
それまでのハイな状態からいきなり冷静になり、突然の変化に困惑する。
「そこまでにして貰えるかね?」
そこへ、ヨウヒが割って入る。
「中々刺激的な話だったよ。年甲斐も無く興奮しちまったね。だが、聞いた話が本当だとすれば、いよいよ言い伝えの信憑性にも疑問符が付くね。」
阿部は、暗に「遺跡の正体を解明しろ!」と言っている事に気付く。
「宜しいので?」
「あたし等の悲願が何なのか、もう分かってるだろう?」
勇者一行の表情が曇る。
ハイエルフのルーツの解明
結果次第では残酷な事になるが、今まで明確な答えが出なかった為に無駄に苦しみ続ける羽目になっていたのである。
どの様な結果になろうとも、真実が明かされない限り半永久的に苦しみ続ける事となる。
「分かりました。では、日を改めて再度上陸を行います。」
「ああ、皆にはあたしから言っとく。さて・・・」
ヨウヒは、カロルの方を向く。
実は、カロルは言い伝えも何も知らなかったのである。
突然明かされた事実に、呆然としていた。
と言うよりは、突飛過ぎる話に全く付いて行けず、フリーズしていた。
更に悪いのは、勇者一行である。
遺跡マニアぶりを発揮しているスノウはともかく、自身のルーツに関わりかねない現実に直面しているのである。
正直に言えば、これ以上受け止め切れない状態であった。
それぞれの反応を確認したヨウヒは、再び口を開く。
「それじゃぁ、本題に入ろうかね?あんた等が此処に来た目的を聞かせて貰うよ。」
「我々の目的は、亡命者を送り届ける事と、我が国への亡命希望者との合流です。」
「ウチに亡命したい連中がいるって事かい?」
ヨウヒは、レスティ達を見る。
ヨウヒと目の合ったレスティは、黙って頷く。
「フン、まぁ、あたし等と同じ境遇のモンが来た時は受け入れる方針だから構わんさ。」
「!・・・有難う御座います!」
「ただし、ハイエルフの根幹を知ったんだ。覚悟して貰うよ!」
「ハイ・・・!」
想像以上にあっさりと話が着き、一同は拍子抜けする。
「それともう一つの亡命だけど、此処を勝手に待ち合わせ場所にされるのはいただけないね!」
「それはお詫びします。」
「口先だけの謝罪なんていらないよ!」
「では」
「分かってるだろう!?遺跡の解析をやって貰うよ!」
「分かりました。帰還してから再度訪問するには、一月から二月ほど掛かります。」
「そうかい、思ったより早く動けるんだね。次ン時も、今回と同じ海岸から入りな!今度は、無駄に待たせる様な真似はしないさ!」
それだけ言うと、一行に背を向ける。
レスティ達は、阿部の方を向く。
「大変お世話になりました。この恩は、いずれ必ずお返しします。」
「折角送り届けたのです。早死にはしないで下さいよ?」
「ははは、そう簡単に死んでやるつもりはありません。」
「早く来な!覚えて貰う事が山ほどあるんだよ!」
ヨウヒに怒鳴られ、慌てて付いて行く。
「さて・・・」
阿部は一声上げると、勇者一行を見る。
その顔色は、あまり良くない。
「君達のルーツについては、また今度考えよう。暁帝国は、君達を歓迎する。」
それだけ言うと、来た道を戻り始めた。
第零艦隊は上陸部隊を収容すると、速やかにセイキュリー大陸から離れる。
活発な通商破壊が行われている事を把握していた艦隊は、いつ敵艦と遭遇するか神経を尖らせていたが、奇しくも時を同じくしてフリクスの行為を発端にセンテル帝国の動きが活発化していた為、レーダー上にすらハレル教圏の艦が現れる事は殆ど無かった。
亡命問題は、此処に終結した。
内容が少し、おかしくなっているような?




