第八話 外洋へ
やっと帝国以外の人間の視点で描けた。
暁帝国 西部諸島 多良間島
アイラの居眠りに気付いたアイナは、般若の様な顔をしてアイラに迫った。
その様子を見て恐れ慄いた東郷達は、慌てて病室を後にした。
その直後から、アイラの必死に謝罪する声が聞こえて来た。
「フゥ、色々聞けて良かったなぁ・・・」
心の中でアイラの冥福を祈りながら、遠い目をした東郷が呟く。
「そうですね。これだけ分かれば心置き無く外洋へ進出出来ます。」
そう答えたのは、山口 多喜 元帥 である。
彼は海軍のトップであり、部下からは闘将と呼ばれている。
山口自身は艦隊司令官になりたがったが、山口以外に海軍全体を纏め切れる手腕を持つ者がいなかった為、渋々ながら元帥の地位に就いた。
「山口がそんなに外に出たがってるなんて思わなかったな。」
軽口を叩いた東郷に対し、山口は渋い顔をする。
「井上中将が煩くて敵わんのですよ。」
外洋進出を主張し続けていた、あの井上中将である。
「あー・・・」
東郷相手にも強硬に主張して来た井上である。
同じ海軍に所属する山口に対する突き上げは相当なものだったのだろう。
察した東郷は、哀れみの表情を向ける。
「しかし、何処の国と接触するかが問題です。」
田中大将は、そう言って話に加わる。
「私も同意見です。」
藍原中将も続く。
「それなら既に考えてある。」
東郷が答える。
「スマレースト大陸の四ヶ国だ。」
「!!」
この答えに全員が驚く。
スマレースト大陸は、暁帝国の西にある最も近い大陸である。
これは、アイナにビンルギー公国の国旗を教えて貰った結果判明した事であった。
既に偵察機を飛ばしてスマレースト大陸の偵察を行っていたが、アイナに教えて貰った国旗と同じ物を確認していた。
「いきなり四ヶ国同時に接触するのですか!?」
「そうだ。スマレースト大陸は二つに分かれて争ってるらしいが、最寄りの大陸が政情不安なのは宜しくない。それなら四ヶ国同時に接触して、可能なら両陣営の間を取り持とうと言うワケだ。」
「しかし、そう上手くいくとは・・・」
当然の懸念ではあるが、東郷は次善の策を用意していた。
アイナには、他の三ヵ国の国旗も教えて貰っていた。
その結果分かったのは、
一 ジンマニー王国は、大陸の北東側にある。
二 ビンルギー公国とハーレンス王国は、大陸の南西側にある。
三 サイズ共和国は、ジンマニー王国とハーレンス王国の間にある内陸国である。
この情報を元に、四ヶ国との同時同盟に失敗した場合は、
一 ビンルギー公国出身者であるアイラとアイナを公国へ送り届けて仲介をして貰う。
二 ビンルギー公国を通して、ハーレンス王国とも同盟を結ぶ。
三 同盟した二ヶ国と共同し、ジンマニー王国を東西から挟み撃ちにする。
と言う策を考えていた。
勿論、東郷は積極的に他国を滅ぼすつもりは無い。
あくまでも情勢を安定させたいだけであり、同時同盟が成功するならばそれに越した事は無かった。
「・・・と言う感じだ。」
一通りの説明を終えた東郷は、部下達の反応を待つ。
「なるほど、それなら可能性はありそうですね。」
「なら」
「はい、やりましょう。」
部下達の賛同を得て、安堵した東郷であった。
・・・ ・・・ ・・・
アイラ視点
何とかアイナの許しを得たあたしは、今日起きた事を振り返っていた。
あたし達姉妹は、ギルドからの依頼を受けて護衛として商船に乗り込んだ。
でも、航海の途中で今まで経験した事が無い大きな嵐に巻き込まれた。
必死に乗り切ろうとしたけど、最後にとんでも無く大きな波に襲われて船は沈んだ。
次に気が付くと、真っ白な天井が見えた。
一瞬、あの世かと思った。
でも、その直後に体に痛みが走ったから、死んでない事は分かった。
なら、此処は何処?
混乱してると、白衣の男が部屋に入って来た。
その男は一瞬驚いた顔をすると、こっちに近付いて来た。
「あんたがあたしを助けてくれたの?」
「ん?ああ、私は運ばれて来た君達を治療しただけだよ。」
「あたし<達>?」
男は、隣に顔を向けた。
見ると、アイナが眠っていた。
「生きてるの?」
思わず聞いた。
「生きてるよ」
嬉しかった。
絶対に助からないと思ってたから。
「・・・他の人達は?」
「すまないが、私は知らないんだ。此処に運ばれて来たのは君達だけで、詳細は聞かされていないんだ。」
「そう・・・」
無事でいて欲しいけど・・・
そんな話をしていると、アイナが目を覚ました。
気を利かせてくれたのか、男は部屋から出て行った。
アイナも痛そうにしてたけど、命に係わる事は無さそうで安心した。
それから暫くすると、大勢の人間が部屋に入って来た。
地味な服装だけど、随分と素材が良さそうに見える。
雰囲気からして貴族とその護衛だろう。
多分、あたし達を引き取りに来たんだろう。
その後は奴隷として売りに出されるかも知れない。
でも、もしそうなったとしてもアイナだけは守らないと。
「思ったよりも元気そうで安心したよ。」
・・・今、何て言った?
あたし達を気遣ったの?
「まずは自己紹介をしよう。俺は、東郷 武尊だ。あんた達の名前を聞いてもいいか?」
先頭の男がそう言った。
取り敢えず、連れて行かれる事は無いみたい。
自己紹介を終えた後、彼等の話を聞いた。
彼等が言うには、異世界から国ごと飛ばされて来たと言う。
信じられない。
証拠を求めると、窓のカーテンを開けた。
窓の外からは海が見えた。
そこには、信じられないモノが浮いてた。
巨大な鋼鉄の船だ。
一瞬、島かと思うに程大きかった。
あたしの知る限り、あんなに大きな船を造れる国は存在しない。
取り敢えず、異世界の話を信じる事にした。
彼等は、この世界についての事を色々聞いてきた。
必死にメモを取る人もいた。
一通り説明すると、今度は神話について聞いて来た。
アイナが説明してたけど、あまりに退屈で居眠りしてしまった。
目が覚めたら、目の前にアイナの顔をした何かがいた。
・・・・・・・・・怖かった。
「それにしてもあたし達以外は・・・」
それ以上は言えなかった。
彼等の話を聞く限りは、つまりはそう言う事だから。
アイナも同じ事を考えたのか、悲しそうな顔をする。
「でも私達、これからどうなるんだろう?」
今一番の問題はそれだ。
一体何処まで流されてしまったのか、スマレースト大陸からどの位離れてるのか、何も分からない。
けど、転機は意外に早く訪れた。
「あなた方の怪我が治り次第、ビンルギー公国へお送りします。」
結局、他国と接触しませんでしたね。(テヘペロ
次回は、今度こそ他国と接触します。




