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第百六話  東部地域波高し

 最近、勇者一行の動向を描くのに慣れて来たかも?

 セイキュリー大陸西部沖



『此方海鳥、海岸沿いに危険生物は確認出来ず。』

『了解。そのまま、奥地の偵察に当たれ。』

 セイキュリー大陸へと到着した第零艦隊は、SH-60を飛ばして事前調査を上空から行っていた。

 海岸には何もおらず、早速森の調査へ入る

「司令、海岸沿いは安全な様です。」

「分かった。揚陸艦へ、上陸を開始するよう伝えてくれ。」

 阿部の指示を受け、強襲揚陸艦からLCACと輸送ヘリが飛び立つ。

 艦橋から、海岸へと向かう部隊が見える。

「万が一に備え、戦闘機を待機させろ。」

 第零艦隊に空母はいないが、強襲揚陸艦にはF-35が搭載されている。

 指示を出し終えると、阿部は上陸準備を始める。


 浜辺へ到着したLCACには、レスティ以下亡命希望者が同乗していた。

 戦車を含む部隊が展開した後に、浜辺へと降りる。

「私は、夢でも見ているのか・・・?」

 暁帝国の冗談の様な力に、歩きながら身震いする。

「うーん・・・車両を持って来たのは失敗だったか?」

 浜辺のすぐ先にはかなり急な斜面が続いており、車両で登り切るのは困難であった。

 その斜面によって、浜辺の先にあるケミの大森林は海抜5メートルを超える場所にある。

『此方海鳥、そこから南下しろ。斜面が緩やかな地点を見付けた。』

「海鳥へ、感謝する。総員、南へ行くぞ!」

 車両が一斉に南下する中、輸送ヘリは斜面の先へと着陸する。

「デカい森だな・・・」

 ヘリから降りた兵士達は、目の前に広がる巨大な自然に圧倒される。

『此方海鳥、その付近に熱源を探知した。魔力反応もある。そちらに気付いているぞ。』

「総員、警戒!」

 森を眺めていた者達は、慌てて我に返る。




 ・・・ ・・・ ・・・




 その少年は、いつも通り狩りをしていた。

 無論、一人ででは無い。

 彼を含む狩人は、狩りをしつつ見回りもこなす。

 特定の範囲内を、複数人が見回るのである。

 尤も、その範囲は極めて広く、傍目には単独行動している様にしか見えない。

 彼等は、ケミの大森林の奥地を住処とする隠れた種族である。

 その身体的特徴から、エルフ族である事が分かる。

 彼等が世界から身を隠しているのは、代々守り続けねばならない禁忌を持つからである。

 その為に、侵入者は駆逐するか排除しなければならない。

 かつては外部との関係を持つ事もあったが、ハレル教が台頭した今となってはその様な行為は自殺行為に過ぎない。

 その為、元々存在感の極めて薄かった彼等は、姿を見せなくなると同時に忘れ去られた存在となった。

 更に、極めて危険な場所として知られるケミの大森林である。

 好き好んで近付く者は殆ど存在しない。

 好奇心旺盛な者が現れても、入り口で諦めて逃げ帰る。

 だからなのだろう。

 少年は、油断し切っていた。

 増して、人の住む東部では無く、誰も住む者のいない海岸沿いの西部である。

 見回りなどするだけ無駄であり、見回りの時間を狩りの時間に使った方が有意義である。



 バタタタタタタタタタタ



 その様な事を考えながら罠の確認へ向かおうとすると、奇妙な音が聞こえて来た。

「・・・何だ?」

 狩りの最中に不用意に声を出すなど致命的ではあるが、今までに無い事態に声を出さずにはいられなかった。

「まさか・・・海岸から?」

 音の聞こえる方向から、有り得ない結論が出て来る。

 急いで海岸へと向かうが、森の切れ目で慌てて身を隠す。

「な、何だ・・・これは・・・?」

 少年は、目の前の光景に唖然とした。

 上空には、正体不明の金属製の飛行物体が凄まじい音を立てながら乱舞し、浜辺には金属の塊が低い音を立てながら前進する。

 そして海へ目を向けると、巨大な金属製の船が複数目に入る。

「これは、ヤバい・・・!」

 少年は、顔面蒼白となった。

 何処から来たかは知らないが、こんな連中に攻め込まれてしまえば、あっという間に蹴散らされてしまう。

 少年は、この事を報告すべく、大急ぎで集落へと戻った。

 だが、この動きは上空から監視されており、結果として彼が外部勢力を集落へと案内する事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ポラトエル公国



 この国は、ケミの大森林と最も隣接している国である。

 被征服国であり、その待遇はあまり良くは無い。

 しかし、ケミの大森林と隣接したくない各国の思惑により、壁としての役割を全う出来る程度の戦力を持つ事が許されている。

 その結果、ハレル教圏では有数の武勲を立ち上げる事に成功しており、被征服国としてはかなりマシな待遇を受けている。

 尤も、そのまま強大化する事を支配階級は恐れており、御目付け役として聖騎士団が常駐している。

 実際、セイキュリー大陸に於いて最悪と言える敵を相手にし続けているだけあり、ポラトエル公国軍の実力は聖騎士団を唸らせるに十分であった。

 一応、立場的には聖騎士団の方が上ではあるが、危険度が高い地域である事から定期的に勇者一行が訪れており、高飛車な態度は殆ど取れずにいる。

 その為、聖騎士団と公国は悪くは無いと言える程度の関係を保っている。

 とは言え、聖騎士団は監視が任務である事から、時折出現する危険生物の討伐に動く事は滅多に無く、その事に関して意見の食い違いが度々発生している。

 そんな微妙な立ち位置にいるこの国に、いつもの如く勇者一行がやって来た。



 西部都市  バレグ



 バレグは、ハレル教台頭以降に建設された都市であり、ハレル教圏では珍しい城塞都市となっている。

 この事実を見ても、ケミの大森林を警戒する為の一大拠点である事が分かる。

 実際、バレグ以西に大規模な都市は存在せず、一帯の司令部としての機能を併せ持っており、常時連絡員が馬を走らせているだけでは無く、豊富な予備兵力が常駐している。

 そこへ商機を見出す者が非常に多く、立ち並ぶ商店の内装や看板が頻繁に変わる激戦区でもある。

 その分質も高く、一等地で長らく経営を続けているとある高級飲食店では、気の抜けた顔で食事を楽しむフェイの姿があった。

「いつ来ても美味いわー。此処の飯を食うと、帰って来たって感じがするんだよなー・・・」

「フェイ様にその様な評価を頂けるとは、光栄の至りで御座います。」

 勇者メンバーをもてなすだけあり、店長が自ら接客を買って出ていた。

 長期間一等地に居座り続けているだけあり、味も接客も一流である。

 だが、その様な事情とは関係無く、店長には聞きたくて仕方が無い疑問が存在した。

「時にフェイ様、本日はお一人の様ですが、御珍しいですな?」

「うん?ああ、今丁度別行動をしててな。此処で待ち合わせをしようと思ってるんだ。」

「別行動で御座いますか?勇者様方がそこまでなさるとは、中々急を要する事件だった様で御座いますね。」

「いや、そんなに大した問題でも無かったんだがな。けど、随分広範囲にバラけてたもんだから、こっちもバラけた方が効率が良かったんだ。悪いな、勝手に待ち合わせ場所にして。」

「とんでも御座いません。むしろ、勇者様方に待ち合わせ場所としての価値を見出して戴けるなど、光栄の至りで御座います。」

 実際、有名人の訪れた店ともなれば、それだけでその店の価値は上がる。

 店としての質が高い事は間違い無いが、勇者一行が訪れたと言う評判によって、この激戦区で生き永らえられているのも間違い無かった。

 そこへ、別の店員がやって来る。

「失礼致します。カレン様が御来店されました。」

「分かった。フェイ様、早速お通ししても宜しいでしょうか?」

「ああ、頼む。」

 少しすると、カレンがやって来た。

「よ、遅かったな。」

 フェイは、片手を上げる。

「あたしが遅いんじゃ無くて、フェイが早過ぎるのよ。」

 そう言いつつ、席に着く。

 この店の料理はカレンもお気に入りであり、見る見る内に顔が綻ぶ。

「んー、最 高 !」

 舌鼓を打ちつつ三人を待つが、結局この日は誰も来なかった。


 それから同じ店へ通い続ける事五日間、


「美味しいけど、お腹が出て来た様な気がする・・・」

「うー、もっと食いたい。食いたいけど、これ以上食い続けたら・・・」

「失礼致します。スノウ様がお着きになりました。」

 二人が女子によくある悩みに翻弄されている所へ、漸く三人目がやって来た。

「スノウとフェイですか。思った通りの顔ぶれですね。」

 対する二人は、かなり不満気な顔をする。

「遅過ぎるわよ!もう少しで、この店のメニューを制覇する所だったわよ!」

「そうだそうだ!あたし達を太らせる気かー!?」

 男勝りなフェイは、一般的な女子であるカレンのデリケートな部分にまで気が回らなかった。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 そんな効果音が聞こえて来そうな空気を纏ったカレンは、ゆっくりとフェイの方を向く。

「フェ~イ~・・・!」

「ヒッ!いやぁそのぉあのな・・・カレン、取り敢えず落ち着いて話し」



 ヒュッ



 目の前で風切り音がしたかと思うと、フェイの頬から血が垂れる。

 カレンが剣を抜いたと理解するまでに、近接戦が得意なフェイでさえ数瞬を要した。

「か、カレンさん・・・?」

 とうとうさん付けまで始めたフェイに出来る事は、最早一つしか残されていなかった。

「御免なさいでしたー!」

 見事な DOGEZA を敢行し、ひとまずこの場は収まった。


 暫く後、


「全く、私まで巻き添えを喰らう所でしたよ。」

「ごめんね」

 カレンは、全く悪びれずに口先だけの謝罪をする。

 その後も、(フェイの奢りで)食事を楽しみつつ残り二人を待つが、その日はどちらも来なかった。


 それから三日後、


「シルフィー様が到着されました。」

「三人とも、久しぶり・・・。」

 重役出勤のシルフィーに、今度はスノウまでもが不満の目を向ける。

「シルフィー、もう少し早く来ても良かったのですよ?」

「大丈夫、此処の料理は美味しいから、いくらいても困らない・・・。」

 正論ではあるのだが、遅れて来た相手から言われるのは釈然としない。

 微妙な空気の中、フェイはある事に気付く。

「シルフィー、お前まさか、わざと遅れてあたし達を太らせるつもりだったんじゃぁ・・・」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 スノウとカレンは、ゆっくりとフェイの方を向く。

「「フェ~イ~・・・!」」

「ヒィィッ!何であたしに!?」

 シルフィーの思惑が何であれ、此処では一番先に口に出した者が負けなのである。

 以下略、

 その後、(フェイの奢りで)レオンを待つ四人であったが、結局この日は来なかった。


 更に三日後、


「勇者様がお見えになりました。」

「皆、待たせたな。」

 待ちに待った人物の登場の筈が、感動の再開とはならなかった。

「遅過ぎるわよ!一体、どれだけ待たせるのよ!?」

「そうだそうだ!責任取って全額払えー!」

「レオン様、女性をこんなに待たせるのは許されませんよ!」

「本当に信じられない・・・!レオンじゃ無かったら、燃やしてるかも知れない・・・!」

 一部に邪な思惑が見えるが、一番遅れているのだから強くも言えない。

「わ、悪かったって。俺だって急いで来たんだけど、途中で貴族につかまったりしてて」


 「「「「言い訳無用!!」」」」


 その後もキャイキャイ騒ぐ四人の話を何とか逸らそうと試みるレオンは、ある事に気付く。

「あれ?皆、前より腹が出て無いか?」

 四人の動きがピタリと止まる。

「あ、そうか。俺を待ってる間、ずっと此処にいたから食い過ぎちゃったんだな。」

 四人のハートに傷が入る。

「無理も無いよなー、此処の飯は美味いからなー。俺も早速何か食おっと。」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



「ん?・・・ど、どうしたんだ四人とも!?」

 不穏な空気を感じ取ったレオンは、四人の背後に般若を見た。


 暫く後、


「それでは、行きましょうか。」

 四人は頷くと、ボロ雑巾の様に倒れ伏しているレオンを引き摺り、バレグから更に西を目指す。

 尚、代金は全額レオン持ちとなった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  情報部



「総監、諜報員より報告が上がりました。」

 シモンの元へ、職員が報告書を持って駆け付ける。

 すぐに報告書へ目を通すと、予想通りの報告内容に肩を竦める。

「暁帝国の圧勝か・・・これで、ハレル教圏は動き辛くなったな。」

「だと良いのですが・・・」

 職員の表情は、あまり良く無い。

「どう言う事だ?」

「外交部から入って来た情報ですが、各国が資産や人員を西部地域へ移動させる動きが活発化しているそうです。その為に、我が軍に対して護衛を依頼する所もあるとか。」

 何とか事態を沈静化させようと動き続ける東部地域諸国であったが、既に手遅れとなりつつあった。

 当然の事だが、経済活動は情勢が安定してこそ可能となる。

 その為、資本は例外無く世界情勢に敏感であり、危険度の高い地域からは迅速に手を引いて行く。

 更に最悪な事に、ノーバリシアル制裁の影響による緊張状態が抜け切れていないのである。

 セイルモン諸島情勢の不安定化に資本家は、異常な速度で反応する事となってしまっていた。

「それは拙いな。東部地域での経済活動が縮小すれば、我が国も大きな影響を受けるぞ。」

「その通りです。ですが迂回ルートがありますから、そこまで大きな影響は無いかと。」

 迂回ルートとは、インシエント大陸-イウリシア大陸-ウォルデ大陸 と、セイルモン諸島を介さないルートである。

 尤も、手間の掛かる回り道を強いられる為、輸送コストが嵩む事となる。

「全く、ハレル教圏の奴等はいきなりどうしたんだ?対応するこっちの身にもなって貰いたいものだ。」

 何処か他人事の様に語るシモンだが、すぐにその余裕は崩れた。

「総監、緊急事態です!」

 別の職員が、大声でシモンの元へやって来る。

「先程、セイルモン諸島付近を航行していた我が国の船舶が、ハレル教圏の戦列艦に襲撃されたとの情報が入りました!」




 ・・・ ・・・ ・・・




 セイルモン諸島沖



 ハレル教圏の戦列艦は、相変わらずこの海域を荒らしまわっていた。

 通商破壊と言う事もあり、機動力に優れた三等級以下の艦を充てているのだが、その中に一隻だけ一等級戦列艦が紛れ込んでいた。

 通商破壊艦隊の名目上の旗艦となっているこの艦には、軽装な乗員の中に豪華な服装を身に纏っている男がいた。

「神官様、戦果は上々の様です。」

「当然です。ハルーラ様の御加護を受けし我々が敗北するなど、有り得ない事態なのですから。」

 神官と呼ばれた男は、丁寧な口調で答える。

 彼は、教皇庁から監督役として派遣された フリクス である。

 まだ若手ではあるが、教皇庁へ抜擢されただけであり、(ハレル教圏としては)優秀なエリートである。

 また、若いお陰でエネルギーに溢れている所があり、長期に渡る通商破壊を請け負える人材として見られた事から、監督役としてリウジネインへ推薦を受けた。

 教皇代理に覚え目出度き立場となった事から、フリクスはその若さ溢れるエネルギーを全開にしており、何らかの大きな功績を上げようとまで企む程であった。

「神官様、そろそろ食事の時間になります。艦内へお戻り下さい。」

 艦長が呼び掛ける。

「ああ、もうそんな時間ですか。」

 フリクスにとって、最近は食事が楽しみとなっていた。

 何も無い海の上で他にやる事が殆ど無い事も理由だが、それ以上に襲撃した船から奪った食材を使えるからである。

 冷蔵や冷凍技術の存在しないセイキュリー大陸では、食料の長期保存には塩を使用するしか無い。

 毎日塩辛い物ばかりが出ては飽きる以前に苦痛ですらあるが、その苦痛を味合わなくても良くなり、尚且つ非常に美味なのである。

「うーむ、船に載せていながらこれ程の味を保てるとは、どの様な魔術を使えばこの様な芸当が出来るのでしょうか・・・?」

「残念ながら、これまで捕えた者達の中にその事を知っている者はおりませんでした。」

 戦列艦に襲われた船舶の乗員は、無事な者は労働奴隷としてセイキュリー大陸へ連れ去られていた。

 そして、その様な者達はただの商人と船乗りである為、取り扱っている商品の製法などは何も知らない。

「それは残念ですね。技術者が乗っている船でも見つかれば良いのですが・・・」

 雑談をしつつ食事を終え、甲板へ出る。

 船内は薄暗く蒸し暑い為、船乗りですら無いフリクスにはかなり堪えていたのである。

「神官様ー!西進する商船を発見しましたー!」

 マストの見張り台にいる乗員が、大声でフリクスへ報告する。

 報告を聞いたフリクスは、望遠鏡を取り出して確認する。

「あれは、かなりの大物ですね。」

「やりますか?」

 艦長の問いに、フリクスは頷く。

「全速前進、砲撃準備!」

 艦長の命令に合わせて乗員が動く。

 慌ただしく乗員が動く中、艦長も望遠鏡を取り出す。

「本当に巨大ですが、妙ですね。帆を張っておりません。」

「帆を張らない船を保有しているのは、暁帝国です。」

「何と!それは、何としてでも捕えるか沈めるかしなければなりませんな!」

 艦長は、俄然やる気を出す。

「取り舵5度・・・ちょい戻せ。・・・!?」

 攻撃位置に付く為に指示を出していると、艦長はとんでも無い事に気付く。

「神官様!あれは、センテル帝国の船です!」

 乗員がざわつく。

 ハレル教圏の海軍関係者は、核攻撃直前の仲介によってセンテル艦を直に目撃した者がかなりいたのである。

 その威容を見せ付けられた関係者は、大半が恐れを抱いた。

 また、核攻撃後も秘密裏に貿易を継続する一派も存在している為、センテル帝国を積極的に敵に回したいと考える者はそこまで多くは無い。

「艦長、どうしたのですか?早く攻撃位置に付きなさい。」

 だが、フリクスは違った。

 大きな功績を上げたい彼にとっては、センテル帝国は絶好の獲物である。

「神官様、御再考を!相手が悪過ぎます!」

「何を言っているのですか?あれ程の巨艦とは言え、軍艦ですら無いのですよ?恐れる事はありません。」

「どうか御再考を!センテル帝国が相手では、身を守り切れる保証はありません!」

「情けない、貴方はそれでもハレル教徒ですか?これでは、皆さんを背教者として教皇庁へ報告しなければいけませんね。」

 艦長は、遂に黙る。

 自分だけで無く、全乗員を背教心理にかけられてしまうのである。

 責任ある立場として、これ以上の口答えは許されなかった。

「さぁ、攻撃しましょう。大丈夫です。ハルーラ様の御加護がある我々に、失敗など起こり得ませんよ。」

 そのまま、センテル船と並走する。

「警告する!直ちに停船せよ!警告に従わない場合、攻撃する!」

 警告を発するも応答は無く、停船する様子も無い。

「無視するとは生意気な・・・!やってしまいなさい。」

 フリクスの指示に従い、艦長が命令を発する。

「撃てーー!」



 ドドドドドドドドォォォォォーーーン



 複数発が命中し、舷側が大きく抉れた。

 だがそれでも停船はせず、今度はジグザグに進路を取り始める。

「この期に及んで無駄な抵抗を・・・」

 そう呟くフリクスの顔は、弱者をいたぶって楽しんでいるかの様な、嗜虐的な表情をしていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 ???



「第二次調査結果です。」

「御苦労。早速見せて貰おう。」

「海軍戦力に関しましては、おおまかですが全体の戦力が分かりました。」

「それで?」

「まず、大半の勢力は相変わらず帆船を使用しています。」

「大半?」

「はい。帆船以外を使用している勢力が二つ確認されました。」

「具体的には?」

「片方は、前回の調査で判明した装甲空母を保有している勢力です。もう片方は中央大陸に位置しており、多数の戦艦を保有している事が判明しました。」

「この写真の艦か。侮れんな・・・」

「はい。我々の保有する戦艦よりも小型ですが、決して油断出来ない脅威です。更に、この勢力も最近になって空母が確認されました。尤も、建造に着手したばかりらしく、ごく初歩的な物に過ぎませんが。」

「装甲空母を持っている勢力に関しての続報は?」

「調査した所、戦艦の保有は確認されておりません。空母以外は駆逐艦や巡洋艦ばかりなのですが、奇妙な事に砲が一門しか搭載されていないのです。」

「この写真の艦か。こんなモノを空母の護衛に付けているのか?これは、空母以外は大した脅威では無いな。」

「同感です。ですが、もう片方の勢力は補助艦もそれなりに強力ですので、この二勢力が協力すれば我が方も相応の被害を受ける可能性があります。」

「確かに否定出来んな・・・航空戦力についてはどうだ?」

「今の所、飛竜以外では複葉機しか確認出来ていません。ですが、あくまで空母艦載機を確認したのみですので、制約の少ない陸上機でしたらもっと高性能な機体が存在する可能性があります。」

「いずれにせよ、時間を与えればそれだけ此方が不利になるか・・・急がねばならんな。」



 特定の人物を描写していると、中々時間が進まなくなりますね。

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